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現在、研究者たちはこれまで以上に広範な分野にわたり、新しい研究を切り開くための革新的なアプリケーションの開発、データ品質の改善、実験における限界の突破に取り組んでいます。こういった進歩は、特にフローサイトメトリーにおいては、高度に洗練された装置デザインおよびテクノロジーにより実現されています。研究者の要望はマーケットを通じて装置を進化させ、全てのラボにおけるニーズと予算を満たすようにデザインされた先進的なフローサイトメーターを生み出しました。
技術仕様の比較、システムの流路系および光学系の評価、キーとなる技術的議論の展開に関する客観的情報をご提供し、研究代表者、コア施設の管理者、研究者に、様々なブランドまたは1つの装置の購入決定をサポートするための留意点をお伝えします。
40ページのフローサイトメーター評価ガイドを読めば、さまざまなフローサイトメーターのコンポーネントや機能に関する理解を高め、数社の装置を客観的に比較することができます。
フローサイトメトリーは、液体中に懸濁した細胞または粒子の性質をマルチパラメーター解析により調べます。細胞や粒子のフローは、サンプル中の1つの細胞に関する情報を得ることができるという点で、イメージングや PCR のような他の方法にはない固有の利点を提供します。サンプルを装置内に導入し、光学系へと運ぶためには、洗練されたテクノロジーが必要です。
フローサイトメトリーの優れた点は、不均一な集団を構成している個々の細胞の物理的性質を定量できることです。このプロセスには、統計学的に有意なデータ量を得るために大量の細胞をフローサイトメーター内へと運ぶ流路系が必要です。正確なカウントおよび測定のためには、装置内を通過する細胞のフローに一貫性がなければなりません。
図 1.同時イベントの発生率。(A)レーザービームにより 1 個の細胞が励起されています。(B)レーザービームにより 2 個の細胞が励起され、二重のシグナルが検出されています。細胞が二重、三重と重なってしまった場合は、サンプルの本来の生物学的性質が結果に反映されません。
細胞は整列していない自由な状態で、フローサイトメーター内に入ります。個々に検出するためには、細胞が縦一列でインテロゲーションポイントを通過するのが理想的ですが、複数の細胞が一緒に通過してしまう場合があります(ポアソン分布によって定義されるように、または細胞塊を含むため)。レーザー光路内を同時に複数の細胞が通過してしまうことを、同時イベントと呼びます。
2個の細胞がレーザーを同時に通過した場合、それらを区別するのは難しくなります。1 つの細胞が陽性で他方が陰性の場合、それらが同時にレーザーを通過すると、装置は陽性だと判断します。このようなことが起きた時、得られたデータはダブルイベントとなり、使用できません。フォーカシングシステムにおけるテクノロジーは、光学系において1個の細胞だけを検出できるメカニズムを提供します。
図 2.サンプルをフローサイトメーター内へと注入するシステム。(A)圧力に基づく方法では、サンプル液の流れとその周囲のシース液との間の圧力差を利用します。(B)容量測定に基づく方法では、正確なサンプル量が測定できるため、濃度測定および細胞数計測が可能です。
圧力および容量測定に基づく2つの方法が、フローサイトメーター内に細胞を注入する一般的なメカニズムです。
サンプル量が多い場合は、圧力法によって迅速に装置内へ注入できます。圧力調整できるシステムには、装置内を密閉状態にする特殊なチューブが用いられています。密閉チューブは、サンプル液と装置内のシース液の圧力差を生み出し、細胞を光学系へと運びます。圧力に基づくシステムは、スムーズなサンプルデリバリーと量の多いサンプルの注入を可能にし、サンプル枯渇のリスクを減らします。このシステムでは背圧が問題となり、適切に維持できなければ目詰まりを起こす可能性があります。
容量測定に基づく方法では、より柔軟な細胞の運搬が可能となります。このシステムでは、正確に測定したサンプル量を装置内へ注入します。背圧による目詰まりを起こしにくいことから、細胞の絶対数の測定、粘着細胞や大きな細胞を含む難しいサンプルの注入が可能といった利点あります。またこのシステムは、どのようなタイプのチューブやプレートでもサンプルを保持でき、それをシステム内に注入できるという点でも有用です。
図 3.2種類のポンプ。(A)ペリスタルティックポンプは回転ヘッドシステムによって送液します。ヘッド部分のローラーがチューブを押し、液体を前方へと送ります。(B)シリンジポンプがサンプルを引き上げ、装置内の流路へ注入します。
圧力および容量測定に基づくシステムによるサンプルデリバリーでは、ペリスタルティックポンプかシリンジポンプのどちらかを使用します。
ペリスタルティックポンプは、低価格の装置において一般的かつ低コストな手段です。このポンプを備えた流路系では、複数の回転ローラーによってチューブを押す仕組みを採用しています。このタイプのシステムは、大量のサンプルを素早く送液できます。しかし、この方法ではポンプの回転により装置内に注入されるサンプル量が変動するため、正確な細胞数を得ることができません。
容量測定によるデリバリーシステムでは、サンプル量を正確にコントロールし測定するためシリンジポンプを使用します。シリンジポンプでは、細胞の絶対数を計測し、サンプルを回収することができます。回収したサンプルは PCR やイメージングなどの他の実験に使用するか、再分析のために保存することができます。容量測定によるサンプルデリバリーは、細胞を正確に装置へ注入するための高品質で精巧にデザインされた方法です。
図 4.細胞フォーカシングシステム
1個の細胞だけを光学系に通過させる方法は、装置の流路系によって異なります。
多くのフローサイトメーターが、ハイドロダイナミックフォーカシングのような従来のフォーカシング技術を使用しています。この方法では、細胞を前方へと送るために、シース液と細胞サンプル間の圧力および速度の差を利用します。
その他には、アコースティックアシストによるハイドロダイナミックフォーカシングを使用した流路系が挙げられます。このフォーカシング法は従来法を改良したものであり、音波を使用してフローセルの中心部分に細胞をフォーカシングし、従来のハイドロダイナミック法を用いて細胞を光学系へと送ります。アコースティックアシストによるハイドロダイナミックフォーカシングは、ハイドロダイナミックフォーカシングの利点を保ちつつ、シース液の使用量を減らします。アコースティックフォーカシングとシース液の組み合わせにより、細胞を一列に並べることができ、より高速かつ同時イベントの発生率を抑えた分析が可能です。シース液の使用量が少なければ、フローセルをクリーンに保つことができ、目詰まりが起こりにくくなるというメリットもあります。 また、希薄なサンプルも迅速に流すことができます。
圧力に基づくシステムではチューブを使用し、大抵は一度に1サンプルを処理します。このようなフローサイトメーターでは、ハイスループットなアプリケーションのためのマルチウェルサンプラーが別途装備可能です。サンプルをフローサイトメーターに注入する際の圧力差を作るために特殊なチューブを必要とするような装置モデルでは、マルチウェルプレートでのサンプリングは利用できない場合があります。
容量測定によるフローサイトメーターには、チューブとマルチウェルプレートの両方からサンプリングできる機能を持っているものがあります。ピペットのようなシリンジを使用して、サンプルの混合と装置への注入の両方を行います。
プレートサンプラーは、複数のマルチウェルプレートをハイスループットに処理するためのロボットシステムに装着可能です。このようなシステムでは、複数のプレートを連続して分析するための優れた流路サポートを備えているため、大量のサンプルを扱うことができます。
フローサイトメーターにおける光学系の能力は、どのように実験をデザインし実行するかに直接影響します。レーザーは、細胞の様々な成分や様相の検出に使用する抗体や試薬に結合させた蛍光色素を励起する光を供給します。 検出器は特定波長の光を捕捉し、増幅・分離する装置で、測定した蛍光色素に特異的な物性的情報を提供します。レーザーと検出器におけるテクノロジーは、実験に使用した蛍光色素の数や種類を決定します。このため、最適なデータを得るために、光学系を構成する数多くのコンポーネントの選択肢について理解することが重要なのです。
細胞の同定および物性解析は、レーザービームの出力と検出システムの感度に左右されます。ほとんどの実験では、細胞集団、細胞サイクル、集団倍加、アポトーシス、細胞生存率を分析するために、細胞表面や細胞内タンパク質を標識する複数の蛍光色素を必要とします。高品質なコンポーネントによる優れた光学系は、細胞の生物学的および生化学的特徴を幅広く捉えることができます。
図 5.蛍光色素のレーザー励起と蛍光波長(A)複数の蛍光色素によって標識された細胞。(B)PE と FITC は共に 488 nm の青色レーザーによって励起され、蛍光スペクトルが重なります。(C)PE は 561 nm の黄色レーザーによって励起されますが、FITC は励起されません。(D)Alexa Fluor 647 色素は 640 nm の赤色レーザーによって励起されます。
色素はそれぞれ励起エネルギー領域と、特異的な蛍光スペクトルを持っています。細胞は、複数の蛍光標識抗体、蛍光色素、蛍光タンパク質で標識できます。レーザーは、異なる量の励起エネルギーを供給するために、特定の波長においてその出力を放射します。
図 6.2つの最大励起波長。(A)PE は 488 nm のレーザーによって励起できます。(B)PE は 561 nm でも最大励起波長になります。このレーザーで励起した方がPEは効率よく蛍光を発します。
蛍光色素の中には、効率の異なる複数の励起波長を持つものがあります。例えば、PE は 488 nm の青色または 561 nm の黄色のどちらのレーザーによっても励起されます。488 nm の青色レーザーは、より低いエネルギーレベルでPEを励起します。561 nm の黄色レーザーは、蛍光色素をより強く励起し、より大量の光子を放出させます。561 nm の黄色レーザーによるより強い励起光は、そのレーザーがない装置では観察されないようなぼんやりとした小さな細胞集団を分離できる可能性があります。
図 7.一般的な蛍光タンパク質と選択色素のレーザー波長。
多くの市販のフローサイトメーターは、紫色(405 nm)、青色(488 nm)、緑色(532 nm)、黄色(561 nm)、赤色(640 nm)のレーザーを搭載できます。基本装置は通常 488 nm の青色レーザーを搭載しています。レーザーを追加すれば、1 つの実験に使用できる蛍光色素の数を増やすことができます。紫色、青色、黄色、緑色、赤色レーザーがあれば、複数の蛍光を使用する実験においてほとんどの蛍光色素を励起できます。350 nmのUVレーザーを搭載できるフローサイトメーターもあり、マルチカラー実験デザインにおいて、励起および蛍光波長の幅を押し広げることができます。
図 8.レーザーのアライメント。(A)適切にアライメントされたレーザーにより、細胞は完全にレーザー出力を受け取ります。これにより、蛍光色素の励起においてそれぞれの細胞が同様のエネルギーを持ち、データのばらつきが抑えられます。(B)アライメントが適切でないレーザーは、蛍光色素の励起においてエネルギーの分布が不均一となる場合があります。この場合、データがばらつきやすくなります。
実験において蛍光シグナルを細胞間で比較するためには、全ての細胞が同じレーザー励起エネルギーを受け取らなくてはなりません。正確なレーザーアライメントによる一貫したレーザービーム出力は、インテロゲーションポイントを通過した全ての細胞に最適なシグナルを送ります。正確にアライメントされたレーザービームにより、装置由来ではなく生物学的な変動のあるデータが得られます。
蛍光シグナルの弱い細胞を含むサンプルでは、最適でない励起エネルギーによって結果がネガティブとなる場合があります。レーザー出力が一定でない場合、細胞からの蛍光シグナル間にばらつきが生じ、統計誤差が大きくなります。レーザーアライメントにずれが生じると、ビームを通過した各細胞に弱い、または同等でない励起エネルギーを供給することになります。
図 9.レーザープロファイル。(A)ガウス分布の蛍光プロファイル。光子が密であり、中央が最も強い。(B)フラットトップのビーム強度プロファイルは、より大きくフラットな領域をカバーします。細胞はエネルギーがより均一なスポットを通過して蛍光を放出します。
ほとんどのフローサイトメーターのレーザービームはガウス分布です。最適な励起エネルギーを得るために、細胞はビームの中央を通過しなければなりません。
最近開発されたフラットトップレーザーのプロファイルは、蛍光色素を励起するためにより広い領域をカバーします。エネルギー分布が均一なため、サンプル中の細胞が均等にエネルギーを受け取ることができ、一貫した結果が得られます。
図 10.レーザーの配置。(A)レーザーを共線上に配置すると、単一のインテロゲーションポイントに複数のレーザーを当てることができます。(B)空間的に離してレーザーを配置した場合は、インテロゲーションポイントも離れます。
1 つの装置内に搭載された複数のレーザーは、2 種類の方式によって配置されているのが一般的です。配置の方式は、実験で使用する蛍光色素の数と、細胞からの蛍光の検出の両方に影響を及ぼします。
レーザーの共線上配置では、全てのレーザー光を 1 つの領域にフォーカスして同時に照射することで、複数の蛍光色素を同時に励起します。
この配置方式では、複数の蛍光シグナルが同時に励起され、大きな補正が必要となり、マルチカラーパネルの構築における柔軟性が低くなります。レーザーの共線上配置は、波長の異なるレーザーが、蛍光スペクトルの重なりが少ない、または重ならない蛍光色素を励起する場合に効果的です。低価格のフローサイトメーターは、コンポーネントのコストを抑えるためにこの配置方式を採用している場合があります。
空間的に離して配置する方式では、細胞のフローに対して段階的にレーザーを照射します。複数の蛍光色素で標識した細胞は1つずつそれぞれのレーザービームを通過し、異なるタイミングで励起または蛍光スペクトルの検出が行われます。この配置方式では、1 つの実験で使用する色素の数を柔軟に決定することができます。個別に励起された蛍光シグナルは、より高い感度を示し、補正の必要性も低下します。この配置方式では、類似の蛍光スペクトルのオーバーラップを劇的に減らすことができるため、大規模なマルチカラーパネルの構築に便利です。
図 11.蛍光の放出。(A)励起された蛍光色素は、限られた波長範囲において光を放出します。(B)蛍光色素の中には、蛍光スペクトルが重なるものもあります。
励起された蛍光色素は、特定の波長ではなく、限られたスペクトル範囲で光を放出します。放出された蛍光は、それを捉えて解析する前に光学フィルターを通過させる必要があります。フィルターによって蛍光を分離しない場合、複数の色素から放出された蛍光が重なり、解析が難しくなります。
図 12.蛍光分離のためのコンポーネント。(A)光学フィルターは、蛍光色素から放出されたシグナルを蛍光波長の範囲に基づき分割します。(B)プリズムモノクロメーターアレイは、光を異なる波長領域に分離し、それらの領域から異なる検出器にフォーカスします。
複数の蛍光色素標識抗体で標識した細胞が、光学フィルターの開発によって分析可能となりました。簡単に入手でき、ユーザーによって交換できるため、これらの光分離コンポーネントが、フローサイトメーターにおける蛍光分離に最も多く使用されています。異なるフィルターを組み合わせることで、小規模および大規模なマルチカラーパネルの作成における多様な色の組み合わせが可能となります。これは耐久性のあるコンポーネントによる信頼されたシステムです。簡単に交換できるフィルターを備えたシステムをお求めください。
スペクトル型のフローサイトメトリーは、従来のフローサイトメトリーとは異なります。このテクノロジーを備えた装置では、可視光スペクトルにおいて放出された蛍光をフォーカスするプリズムを使用しています。複数の蛍光色素から放出された蛍光は重なってしまうため、次なるステップとしてそれらを分離するために複雑なアルゴリズムが必要です。このテクノロジーの利点は、少ないレーザー数でもカラーチャンネルの総数を増やすことができることです。このテクノロジーはフローサイトメトリーではまだ発展途上であり、コンピューターによる蛍光分離が特定の蛍光色素では制限される可能性があります。
図 13.蛍光検出のためのコンポーネント。(A)蛍光色素によって放出されたシグナルの PMT による捕捉と増倍。(B)APD による半導体上での光子捕捉とシグナルの増倍。
1 つの細胞から放出される蛍光シグナルは微弱です。データを解析するためには、光を調整可能な形式に変換する必要があります。蛍光検出装置は蛍光を捕捉し、光波を電子シグナルへと変換します。これにより個々の電子シグナルが増幅でき、ユーザーによるデータ処理が可能となるため、このステップは重要です。
光電子増倍管(PMT)は、ほとんどのフローサイトメーターに使用されている検出装置です。光路の最後に複数の PMT が並び、フィルターを通過したそれぞれの蛍光シグナルを捕捉します。このタイプの検出装置は、UV から IR まで幅広いスペクトルにおいて、非常に弱いシグナルから非常に強いシグナルまで直線的に蛍光のダイナミックレンジを PMT により捕捉できるため、マルチカラーパネルの実験に有用です。
他の検出装置には、放出された蛍光からの電子を伝導し増幅するアバランシェフォトダイオード(APD)があります。遠赤外スペクトルの蛍光色素を主に使用する実験には APD が向いています。これらの検出器は、赤色および近赤外スペクトル領域において放出されたシグナルを効率よく捕捉します。
図 14.電圧設定。(A)PMT 電圧が高すぎると、蛍光標識された細胞から放出された陽性のシグナルは検出範囲から外れます。(B)電圧を下げると、陽性のシグナルが適切に検出されます。
フローサイトメーターでは、サンプルの細胞や他の成分に由来する自家蛍光としてのバックグラウンドが検出されることがあります。標識した細胞の物理的性質を完全に視覚化するには、陽性のシグナルはもちろん陰性の(弱い)シグナルまで幅広く捕捉する必要があります。言い換えれば、使用した蛍光色素のシグナルと細胞由来の検出され得る(または陰性の)自家蛍光を最大限に分離して観察するために、理想的な PMT 電圧を設定しなければなりません。
細胞サンプルを分析する前に、それぞれの PMT に最適な電圧を調べるため、蛍光スタンダードを使用してフローサイトメーターの PMT 電圧を最適化する必要があります。
必要であれば、特に陽性のシグナルが強すぎる場合には、PMT 電圧を調節した方がよいでしょう。染色していない細胞をバックグラウンドシグナルのためのネガティブコントロールとして使用し、電圧を調節できます。PMT 電圧を下げることで、陽性のシグナルの適切な測定が可能となり、また陰性集団のシグナル値を下げることができます。
フローサイトメーターによって検出された蛍光シグナルの量は、電圧設定によってコントロールできます。電圧の上げ下げにより、蛍光シグナルを適切に測定するための PMT 検出器のゲインを調節できます。
ロックされた電圧設定はシンプルなフローサイトメーターの機能の一部ですが、そのような装置の蛍光検出の範囲は限られたものになります。ユーザーがバックグラウンドと陽性の細胞集団を区別できなければならないため、電圧設定の調節は簡単ではありません。慣れていないユーザーは、電圧を適切に調節できないかもしれません。そのようなユーザーのために、小規模な蛍光色素パネルとその検出器用に電圧がロックされているのです。電圧設定がロックされた装置は、設定の変更を制限することでプロセスをシンプルにしています。
ロックされていない調節可能な電圧設定は、マルチカラーパネル実験を行うユーザーに好まれます。ロックされた電圧設定では、限られた蛍光色素パネルから放出された蛍光の検出のための設定がされています。調節可能な電圧設定では、蛍光色素パネルの設定に制限がありません。この特徴により、大規模なパネルの設計や、様々な色素タイプの選択が可能になります。調節可能な電圧設定では、PMT シグナルをスケール内に収めるため、シングル染色のポジティブコントロールをチェックすることもできます。また、マルチパラメーターによるフローサイトメトリー実験の一部として最適なシグナル補正を行うためにも、PMT 電圧を調節できます。
図 15.補正。(A)放出シグナルのオーバーラップは、偽陽性のデータポイントを与えます。(B)データの補正により、オーバーラップした蛍光が除かれます。補正したデータポイントから、より正確な結果が得られます。
複数の蛍光色素は、可視スペクトルにおいて幅広い蛍光を放出します。マルチカラーパネルによるデータ収集では、蛍光シグナルの重なりが発生します。この場合、陽性の単一標識細胞が二重陽性に見えてしまうといった問題が起きます。
図 16.補正のテクニック。(A)従来の補正では、重なった部分をシングルカラーへと処理するために、蛍光色素、ネガティブゲーティング、または非染色コントロールによるデータを、実績のあるアルゴリズムのセットによって解析します。(B)スペクトル非混合タイプでは、条件付きポアソン回帰や非負行列因数分解のようなアルゴリズムのセットを使用し、蛍光をシングルカラーへと処理します。
補正とは、アルゴリズムのセットを用いてそれぞれの蛍光色素のシグナルを分離することです。従来の補正では特定の波長を分離します。このプロセスでは、それぞれの蛍光色素を個別に測定し、アルゴリズムを使用して補正値のマトリクスを作成します。これらの補正がスペクトルの重なった部分に適用され、個々の値が得られます。このプロセスではシグナル補正を簡単に素早く計算します。
スペクトル非混合タイプは、従来の補正法とは異なり、1 つの波長に対して蛍光スペクトルを与えます。
図 17.チャンネル。(A)複数のチャンネルを持った 1 レーザーシステム。(B)蛍光が重なり、補正が必要です。(C)多くの検出器により沢山のチャンネルを持つことのできる 3 レーザーシステム。(D)チャンネル数が増えれば、蛍光色素をより多く、補正をより少なくすることができます。
PMT および APD において、蛍光を捕捉するためのコンポーネントはチャンネルと呼ばれます。フローサイトメーターによって検出される蛍光色素の数は、利用できるチャンネルの数によって決まります。
1レーザーシステムでは複数のチャンネルを持つことができます。 これは 1 つのレーザーが複数の蛍光色素を励起でき、検出器がサンプルの発する異なる波長の蛍光を捕捉できることを意味します。このタイプの実験では、全ての蛍光色素が重なった波長において蛍光を発するため、複雑な補正が必要です。
複数のレーザーがあれば、より多くのチャンネルを提供できるため有用な場合があります。チャンネルを追加すれば、蛍光色素の選択の幅が広がり、また補正を少なくできるため、パネルデザインが容易となります。これにより、細胞集団をより適切に分離した実験が可能になります。
フローサイトメーターは何年にもわたって使用できるよう設計された洗練された装置です。コンポーネントのほとんどが耐久性を備えています。定期的なメンテナンスと日常的なクリーニングは、パーツ交換の頻度を減らし、高品質なデータの提供をサポートします。
図 18.メンテナンス不備に起因する主な夾雑物(A)キャリーオーバーにより、前回使用したサンプルの細胞や粒子のコンタミネーションが起きます。(B)核酸に結合した色素は粘着性があり、バックグラウンドノイズの原因となります。(C)フローサイトメーターの溶液ボトルや他のパーツ内で微生物が繁殖します。
定期的な装置クリーニングが行われない場合に生じる問題の 1 つとして、前のサンプルに由来する夾雑物の蓄積が挙げられます。
前のサンプルからの細胞のキャリーオーバーは、希少細胞の測定のような繊細な実験において大きな問題となります。キャリーオーバーした細胞が存在すると、偽陽性率が上がります。サンプルごと、または実験後の洗浄により、残存した前の実験の細胞や粒子の数を減らすことができます。
定期的なクリーニングは、核酸染色試薬のような蓄積しやすい特定の蛍光色素の蓄積を防止します。粘着性の色素、細胞、クズなどがたまることで、チューブが詰まりやすくなります。 細胞培養液や組織サンプルなどを分析した装置は、微生物によるコンタミネーションが起きやすくなります。廃液ボトルの濁りやブランクサンプルにおけるイベント数の増加などが、コンタミネーションのサインになります。メーカーの指示に従い、システムをクリーニングまたは漂白することで、微生物の増殖を防ぐことができます。
図 19.日常のクリーニング。(A)漂白剤とイオン交換水によるサンプルごとの洗浄。自動的に洗浄を行う装置もあります。(B)スタートアップ時および日々のシャットダウン時におけるクリーニングは、色素の蓄積や細胞のキャリーオーバーを防ぎます。(C)ソフトウェアガイドの自動プロトコールによる追加の日常メンテナンスチェックも可能です。
サンプルごとにクリーニングを行い、コンタミネーションを抑えてください。ほとんどのメーカーが、各ユーザーの実験前に 10%漂白剤、そしてその後にイオン交換水によりシステムを洗浄することを推奨しています。サンプルの分析毎に自動でクリーニングを行う装置もあります。
フローサイトメーターのチューブおよびフローセルから細胞や色素を除去するために、ほとんどのシステムは使用前とその日の最後に蒸留水とクリーニング液で洗浄する必要があります。スタートアップおよびシャットダウン時のクリーニングプロトコールについては、ほとんどのユーザーマニュアルにその詳細が記されています。日々のメンテナンスは、流路やフローセルが微生物や前のサンプルによって汚染されるのを防ぎます。
フローサイトメーターによっては、溶液タンクの調製、フィルターの気泡チェック、廃液コンテナを空にする、といった追加的な日常メンテナンスを必要とするものもあります。ソフトウェアガイドの自動プロトコールを持ったフローサイトメーターもあります。自動システムは、気泡のチェックやシャットダウン時の手順などの特定の仕事を減らすことで、ユーザーの負担を減らします。このようなプロトコールにより、時間を節約でき、適切なクリーニングを実施できます。
図 20.流路のメンテナンス。(A–F)正常な装置性能を維持し、キャリーオーバー、バックグラウンドノイズ、微生物によるコンタミネーションを最小化するために、フローサイトメトリー装置のパーツを洗浄または交換してください。
流路の洗浄、シースフィルターの交換、徹底的な装置クリーニングを組み合わせることで、キャリーオーバー、蛍光色素、微生物を除去できます。ほとんどのフローサイトメーターは、シースチューブ、廃液チューブ、溶液コンテナ、フローセルの徹底的なクリーニングを、2 週間から 1 ヵ月おきに実施する必要があります。これにより、ゴミがたまるのを防ぎ、有害物質や微生物を除去できます。
流路系のタイプによっては、コンポーネントを取り外し、交換または洗浄する必要があるかもしれません。ペリスタルティックシステムでは、半年から 1 年ごとにチューブを取り外し交換する必要があります。さもなければ、イベント収集中に夾雑物やゴミが発生してしまいます。圧力システムでは、サンプルをフローサイトメーター内へ素早く導入するために、ノズルチップやその関連パーツの定期的メンテナンスが必要です。シリンジベースのシステムでも、細胞のコンタミネーションを防ぐためにシリンジのクリーニングが必要です。データの品質を維持するために、ユーザーマニュアルに従ってメンテナンスを記録してください。
フローサイトメーターのメーカーは、装置の主な性能特性を記した技術仕様シート(技術スペックまたはスペックシート)を提供しており、そのような文書には、フローサイトメーターの購入において重要となる情報が豊富に含まれています。しかし、それらは同じ専門用語を使用しているにもかかわらず、数値を異なる方法によって計算している場合もあり、さまざまな技術スペックの比較はそれほど単純ではありません。
その装置がお客様の研究に適しているかどうかを調べるために、性能、サイズ、環境、ソフトウェアなどのフローサイトメーターの設計特性をお客様に確認していただくことが、スペックシートの目的です。
技術仕様は比較する際の基準として利用でき、価格が異なる装置の価値を評価するのに役立ちます。スペックシートはまた、メーカーが保証する性能のガイドでもあります。そのため、記された数値についてや、その装置がどれだけ用途に適しているかといったことを理解する必要があります。スペックシートをプラットフォーム間の比較ガイドとして利用する際には、中身を徹底的に精査するのがよいでしょう。装置間で同等に見える性能値はたくさんありますが、実際には全く異なることがあります。仕様は特定の試験や計算法に由来しますが、それらは装置の開発者間において標準化されておらず、並べて比較した際に誤解を与える場合もあります。
同じ専門用語を使用しているにもかかわらず、数値を異なる方法によって計算している場合もあり、さまざまな技術スペックの比較はそれほど単純ではありません。このホワイトペーパーは、どのように差異を解釈するかについての役立つヒントを提供します。
技術仕様シートの各セクションはメーカーによって様々であり、これもばらつきの一因となっています。公表されている主な情報のカテゴリーを、Invitrogen Attune NxT フローサイトメーターのスペックシートを例として図 1 ~ 8 に示します。装置の違いを読み解く上で役立つヒントを含め、フローサイトメーターの評価において注意すべき主な仕様を紹介します。
図 1.流路系。フローサイトメーターの流路系は、サンプルチューブからフローセルへとサンプルを輸送します。フローセル(およびレーザーと検出器)を通過したサンプルは廃液タンクへ送られます。スペックシートにおける流路系のセクションには、サンプル、ボリューム、流速、フローセル、流路キャパシティに関する情報が記載されています。
図 2.光学系。解析プラットフォームとして、フローサイトメトリーはレーザー光を個々の細胞に照射し、その結果放出される蛍光と散乱光を収集します。光学系は、機器内においてレーザー光の照射と光の収集を行います。光学系のセクションには、レーザーの種類や出力、レーザープロファイル、アライメント、光電子増倍管(PMT)などの光学系仕様の概要が記載されています。
レーザー出力の仕様はほとんどの場合、メーカーによって開示されているレーザー出力として定義されます(図 2)。しかし、レーザーとフローセル間の光学コンポーネントにおける光の損失が大きいため、出力の仕様は必ずしもインテロゲーションポイントにおける実際の出力と一致したものが記されているわけではありません。この光の損失はシステムによって様々です。光の損失が大きいことは、その実験においてレーザーの出力を最大限に利用できていないことを意味し、損失が少ないことは、フローセルにおけるレーザー強度が高いことを意味し、蛍光色素の励起が高まることで感度が上昇します。このような違いがあるため、スペックシートに示されたレーザー出力の数値が高いほど感度が高いということにはなりません。
装置を比較する際、この仕様をどの程度参考にするかは注意が必要です。ほとんどのメーカーは、フローセルに到達する実際のレーザー出力を報告していませんが、これこそが比較すべき点です。
この仕様項目は、全てのメーカーが報告しているわけではありませんが、各レーザーによって発生した蛍光シグナルの検出器(PMT とも呼ばれる)における分離を決定するピンホールの数を示しています。システムのレーザーが内部ピンホールによって空間的に分離されているか、またはシステムが共線上に配置されているかを知っておく必要があります。ピンホールは、蛍光色素の励起を最大化し、レーザーライン間のクロストークを最小化します。いくつかのメーカーは、レーザーを共線上に配置しています。1 つのピンホールによってレーザーが共線上に配置されている場合、同じ光路内で複数のレーザーからシグナルが収集されます。この配置は、異なるレーザーによって励起された複数の色素のシグナルが同じ検出器によって測定されることを意味し、値の補正が必要となることから解析が難しくなります。この設計における他のリスクとしては、アライメントの問題(ビームが正確に共線上にない場合の同時イベント発生率の上昇)や、蛍光ラベルの弱い成分に対する感度の低下などが挙げられます。これに変わる配置設計が、空間的に分離されたシステムです(図 2)。この配置では、アライメントの問題を回避できること、複数のレーザーカラーを選択できること、マルチカラーパネルにおける補正が改善されることなどを含め、数々の利点が得られます。
各ピンホールに割り当てられたレーザーのタイプと量を明確に把握し、考慮中のシステムのレーザーが空間的に分離されているのか共線上にあるのかを調べてください。
図 3.性能。メーカーの間で幅広く公表されている典型的な仕様であるスペックシートの性能のセクションには、MESF 計算、データ取得率、前方散乱光(FSC)および側方散乱光(SSC)のパラメーターなどの一般的な特徴がいくつか記載されています。
イベントレートとは、細胞または粒子が装置のインテロゲーションポイントを通過する時の物理的なカウント数のことです。この値は一般的には同じように(イベント/秒として)表記されるにもかかわらず、基本的でありながら全く異なる 2 つの方法が値の決定に使用されています。イベントレートを算出するための2つの方法:
スペックシートに示されたその値をメーカーがどのようにして得たのかを理解することが重要です。
最初のメソッドは理論的であり、同時イベント発生率や流路系などの他の装置設計特徴を無視したものです。そのため、電子装置は 10,000 ~ 100,000 イベント/秒での処理が可能でも、このようなイベントレートはポアソン分布によって一般的に容認できる 10%という限界値を超えた同時イベント発生率に相当する場合があります。このようなイベントレートの表示方法は、より速い(しかし必ずしも高品質ではない)電子回路部品の出現によって、近年ではより一般的になってきました。しかし、この方法によって計算されたイベントレートでは、同時イベント発生率のことが考慮されていません。
装置のイベントレートを求めるための 2 つ目のメソッドは、10%の同時イベントレベルに基づいたものであり、研究者にとってより信頼できるものです(図 3)。同時イベント発生率の低さは、データ品質の高さを意味します。そのため、このメソッドを使えば、高品質なデータ取得に使用可能な実際のイベントレートにおける容認可能な同時イベント発生率が最も適切に示されます。メーカーがこのメソッドによって算出したイベントレートを仕様として報告している場合、ユーザーは、そのイベントレートにおける容認可能なレベルの同時イベント発生率のデータを取得できることを確信できます。
装置を決定する際、スペックシートに示されたイベントレートをメーカーがどのようにして得たのかに注意してください。値が最初のメソッド(電子装置の速度のみ)によって計算されている場合は、サンプルを分析する際の同時イベント発生率を慎重に検討してください。
キャリーオーバーは、持ち越されて次のサンプルを汚染する前回のサンプルの量のことを指し、データに不正確性をもたらす原因となります(図 3)。仕様におけるキャリーオーバーのパーセント表示は通常、特定量のサンプルを測定し、その後、リン酸緩衝食塩水(PBS)のような粒子を含まないバッファーのみの溶液を特定量測定して得られた値です。細胞のコンタミネーションを示すイベントは、バッファーのみの溶液の測定で観察されます。多くのメーカーは、一定の条件下でこのキャリーオーバー値を決定するために、特定の細胞株やビーズのセットを流しています。
この一定の条件がどのようなものか、そしてキャリーオーバー値の決定においてどのようなサンプルが分析されたのかを知ることが重要です。例えば、規格試験に使用した粒子や細胞のサイズまたは種類、洗浄の回数といった条件は、実際に研究者が使用する条件とは大幅に異なる可能性があります。メーカーがどのようにしてそのキャリーオーバー値を求めたのか調べてください。異なるメーカーがどのようにしてこの値を求めたのかを知っておけば、仕様を比較するだけでキャリーオーバーについて直接比較することができます。
図 4.ソフトウェア。スペックシートにおけるソフトウェアのセクションは、研究者がシステムに組み込まれた主な機能と特徴を確認するのに役立ちます。このセクションはまた、機能の範囲、ユーザー定義可能な機能、メンテナンスの特徴、ユーザーアカウント管理についても記しています。ソフトウェアの特徴はメーカーによって異なり、システムによってはユニークで独占的なオプションを含むものもあります。
図 6.データ管理。コンピューターのインストールおよびセットアップを成功させるための手順に関するセクションです。このセクションにおける仕様は、RAM、ハードドライブ、FCS フォーマットに関する詳細です。
この仕様はしばしば見逃されがちですが、光学アラインメントや流路系はこれらの値と関連が深く、装置の寿命において重要です(図 7)。
ラボ内の温度が比較的一定に保たれているかどうかや、装置を様々な場所で使用することがあるかどうかに注意してください。装置の性能は特定の温度範囲内でのみ試験され保証されているため、操作する際の条件を必ず確認してください。
目的のスペースまたはドラフト内での使用に装置が適当かどうかを考慮してください。オートサンプラーなどのアクセサリーも含めた必要スペースを確認し、流路系に必要なスペースを確保してください(図 7)。多くのフローサイトメーターには外部流路系が使用されており、装置の設置に必要なスペースが実質的に追加されます。装置を定期的に移動する場合、それがどれくらい難しいかを考えてください。全てのベンチトップ装置が同様のスペースで設置でき、また移動させやすいわけではないことに注意してください。
デモが行われる際に、全てのコンポーネントがセットアップされた完全なシステムを見られるように依頼すれば、各システムに必要なスペースを直接比較することができます。
プレート解析速度は通常、96 または 384 ウェルプレートの解析を完了するのに必要な時間として定義されます(図 8)。この定義には 2 つの側面があります。1 つはサンプルボリュームであり、もう 1 つはサンプル処理速度です。この仕様で報告されている時間値が、データ品質を犠牲にしたものである可能性があることに注意してください。また、その仕様値を決定するためにどれくらいの量のサンプルが分析されたのか、そしてどれくらいのサンプル処理速度が使用されたのかを明確にしてください。メーカーによっては、少量のサンプルを分析することで、仕様においてプレート解析時間を最小化して見せていることがあります。しかし、実際にそれを実行するためにはサンプルを高度に濃縮する必要があり、同時イベント発生率や中止率が高くなるといったようなデータの品質に関わる問題が引き起こされます。逆に言えば、もしサンプルが十分に濃縮されていなければ、少ない量のサンプルでは統計学的に有意となるイベント数を得られない可能性があります。
サンプル処理速度(サンプルが流路系に導入される速度)もまた、データの品質に影響を及ぼします。ハイドロダイナミックフォーカシングのみによるフローサイトメーターでは、流速が上がるとともに、より幅広いコアストリームにわたってサンプルが拡散されます。サンプル処理速度が高くなれば、ばらつきが大きくなるので、測定の精度が低下し、データの品質が損なわれます。アコースティックアシストによるハイドロダイナミックフォーカシングを利用した装置では、サンプル処理速度にかかわらず、細胞は流れの中心にタイトに整列し、シグナルのばらつきが抑えられるので、データの品質が改善されます。そのため、プレート解析時間を短くするためにサンプル注入速度を上げる場合は、データ品質の低下を避けるためにアコースティックフォーカシングを備えたシステムの使用をお勧めします。
プレート解析速度の算出に影響する他の要因は、サンプルごとにプローブを洗浄しているかどうかです。プローブを洗浄しない場合、キャリーオーバーの発生可能性が高くなります。仕様に記されたプレート解析時間での分析を決定する前に、このような代償について考慮してください。
この仕様においてメーカーの示した時間を達成する上で負うことになるデータ品質における代償について理解するようにしてください。
図 8.サンプラーの仕様。サンプリング装置はフローサイトメーターのアクセサリーです。この装置の仕様には、取得時間、キャリーオーバー、混合メソッドが含まれます。適合するプレートタイプと流路オプションに関する追加の情報も含まれている場合があります。
関連する仕様値に関する試験について常に確認するようにすれば、考慮中の装置の特徴を確信をもって正確に比較できるようになります。
お客様が機器を購入する際、その機器の背後のメーカーを購入しており、お客様に長期にわたって適切なアフターセールスサービスを提供するというメーカーの意思、基盤、および拡張性の能力を考慮する必要があります。これは取引ではなく、お客様とメーカーのチームとの関係性です。この関係性の範囲および動態は、お客様がチームから何を必要とし、得ようとしているかによって変わります。
フローサイトメーターの適切なケアの各側面や提供を各メーカーがどのようにして行うことができるかを慎重に考慮してください。
サービタイゼーションのためのメーカーの能力と専念を調べてください。フィードバックを求めて尊重し、製品やサービスの改善を積極的に取り入れていて、製品とサービスの両方に焦点を当てた組織を探してください。
能力のあるサイトメトリーメーカーは、カスタマーをサポートするために、多機能で働く多様なチームを有しています。お客様が取り引きしているサイトメトリーメーカーが以下のことを提供しているかを確認していください。
質問すべきこと:ポートフォリオはどのくらい包括的か?
なぜこの質問をすべきか:さまざまな利点は、以下のようなことに関してラボを管理するために、製品を注文する多様なブランドやメーカーを絞り込むことと関連しています。
故障、誤作動、および修復不可能な詰まりは修理が必要となり、稼動停止時間を生じさせ、アウトプットの失速、サンプルの喪失、無駄なサンプル調製時間、およびアッセイの繰り返しが発生します。質の高いエンジニアリング、職人技、およびハードウェア(ハイエンドポンプやレーザーなど)を備えたフローサイトメトリーを選択することは、必要な修理の頻度を低減し、機器のパフォーマンスおよび寿命を向上するのに役立ちます。さらに、コンポーネントサービスおよびサポートチームは、修理が必要な問題が発生した際に、回復および運営再開までの時間を短縮できます。
どのようなテクノロジーでも、その正しい使用方法を知る必要があります。フローサイトメトリーは最初は困難な場合もありますが、基本をすべてのプラットフォームで活用できます。新しいユーザーがパネルデザイン、補償、フルオロフォアの選択、その他の中核的なスキルを学ぶにつれ、実験の複雑さを増すことができます。機器を選択する際、どのような対面的トレーニング、オンラインの教育用資料、およびユーザーコミュニティがメーカーから提供されているかを確認してください。
有用性は相対的な用語で、フロー技術、機器のソフトウェア UX デザイン、技術的な習熟度、検出装置の限界とユーザーの生物学との関係、および実験の目的の理解と経験の度合いと相関します。 トレーニングプログラムはこのような意味合いに対応し、初心者に適用できるだけでなく、上級ユーザーとも完全に連携できなければなりません。
フローサイトメトリーは、液体中に懸濁した細胞または粒子の性質をマルチパラメーター解析により調べます。細胞や粒子のフローは、サンプル中の1つの細胞に関する情報を得ることができるという点で、イメージングや PCR のような他の方法にはない固有の利点を提供します。サンプルを装置内に導入し、光学系へと運ぶためには、洗練されたテクノロジーが必要です。
フローサイトメトリーの優れた点は、不均一な集団を構成している個々の細胞の物理的性質を定量できることです。このプロセスには、統計学的に有意なデータ量を得るために大量の細胞をフローサイトメーター内へと運ぶ流路系が必要です。正確なカウントおよび測定のためには、装置内を通過する細胞のフローに一貫性がなければなりません。
図 1.同時イベントの発生率。(A)レーザービームにより 1 個の細胞が励起されています。(B)レーザービームにより 2 個の細胞が励起され、二重のシグナルが検出されています。細胞が二重、三重と重なってしまった場合は、サンプルの本来の生物学的性質が結果に反映されません。
細胞は整列していない自由な状態で、フローサイトメーター内に入ります。個々に検出するためには、細胞が縦一列でインテロゲーションポイントを通過するのが理想的ですが、複数の細胞が一緒に通過してしまう場合があります(ポアソン分布によって定義されるように、または細胞塊を含むため)。レーザー光路内を同時に複数の細胞が通過してしまうことを、同時イベントと呼びます。
2個の細胞がレーザーを同時に通過した場合、それらを区別するのは難しくなります。1 つの細胞が陽性で他方が陰性の場合、それらが同時にレーザーを通過すると、装置は陽性だと判断します。このようなことが起きた時、得られたデータはダブルイベントとなり、使用できません。フォーカシングシステムにおけるテクノロジーは、光学系において1個の細胞だけを検出できるメカニズムを提供します。
図 2.サンプルをフローサイトメーター内へと注入するシステム。(A)圧力に基づく方法では、サンプル液の流れとその周囲のシース液との間の圧力差を利用します。(B)容量測定に基づく方法では、正確なサンプル量が測定できるため、濃度測定および細胞数計測が可能です。
圧力および容量測定に基づく2つの方法が、フローサイトメーター内に細胞を注入する一般的なメカニズムです。
サンプル量が多い場合は、圧力法によって迅速に装置内へ注入できます。圧力調整できるシステムには、装置内を密閉状態にする特殊なチューブが用いられています。密閉チューブは、サンプル液と装置内のシース液の圧力差を生み出し、細胞を光学系へと運びます。圧力に基づくシステムは、スムーズなサンプルデリバリーと量の多いサンプルの注入を可能にし、サンプル枯渇のリスクを減らします。このシステムでは背圧が問題となり、適切に維持できなければ目詰まりを起こす可能性があります。
容量測定に基づく方法では、より柔軟な細胞の運搬が可能となります。このシステムでは、正確に測定したサンプル量を装置内へ注入します。背圧による目詰まりを起こしにくいことから、細胞の絶対数の測定、粘着細胞や大きな細胞を含む難しいサンプルの注入が可能といった利点あります。またこのシステムは、どのようなタイプのチューブやプレートでもサンプルを保持でき、それをシステム内に注入できるという点でも有用です。
図 3.2種類のポンプ。(A)ペリスタルティックポンプは回転ヘッドシステムによって送液します。ヘッド部分のローラーがチューブを押し、液体を前方へと送ります。(B)シリンジポンプがサンプルを引き上げ、装置内の流路へ注入します。
圧力および容量測定に基づくシステムによるサンプルデリバリーでは、ペリスタルティックポンプかシリンジポンプのどちらかを使用します。
ペリスタルティックポンプは、低価格の装置において一般的かつ低コストな手段です。このポンプを備えた流路系では、複数の回転ローラーによってチューブを押す仕組みを採用しています。このタイプのシステムは、大量のサンプルを素早く送液できます。しかし、この方法ではポンプの回転により装置内に注入されるサンプル量が変動するため、正確な細胞数を得ることができません。
容量測定によるデリバリーシステムでは、サンプル量を正確にコントロールし測定するためシリンジポンプを使用します。シリンジポンプでは、細胞の絶対数を計測し、サンプルを回収することができます。回収したサンプルは PCR やイメージングなどの他の実験に使用するか、再分析のために保存することができます。容量測定によるサンプルデリバリーは、細胞を正確に装置へ注入するための高品質で精巧にデザインされた方法です。
図 4.細胞フォーカシングシステム
1個の細胞だけを光学系に通過させる方法は、装置の流路系によって異なります。
多くのフローサイトメーターが、ハイドロダイナミックフォーカシングのような従来のフォーカシング技術を使用しています。この方法では、細胞を前方へと送るために、シース液と細胞サンプル間の圧力および速度の差を利用します。
その他には、アコースティックアシストによるハイドロダイナミックフォーカシングを使用した流路系が挙げられます。このフォーカシング法は従来法を改良したものであり、音波を使用してフローセルの中心部分に細胞をフォーカシングし、従来のハイドロダイナミック法を用いて細胞を光学系へと送ります。アコースティックアシストによるハイドロダイナミックフォーカシングは、ハイドロダイナミックフォーカシングの利点を保ちつつ、シース液の使用量を減らします。アコースティックフォーカシングとシース液の組み合わせにより、細胞を一列に並べることができ、より高速かつ同時イベントの発生率を抑えた分析が可能です。シース液の使用量が少なければ、フローセルをクリーンに保つことができ、目詰まりが起こりにくくなるというメリットもあります。 また、希薄なサンプルも迅速に流すことができます。
圧力に基づくシステムではチューブを使用し、大抵は一度に1サンプルを処理します。このようなフローサイトメーターでは、ハイスループットなアプリケーションのためのマルチウェルサンプラーが別途装備可能です。サンプルをフローサイトメーターに注入する際の圧力差を作るために特殊なチューブを必要とするような装置モデルでは、マルチウェルプレートでのサンプリングは利用できない場合があります。
容量測定によるフローサイトメーターには、チューブとマルチウェルプレートの両方からサンプリングできる機能を持っているものがあります。ピペットのようなシリンジを使用して、サンプルの混合と装置への注入の両方を行います。
プレートサンプラーは、複数のマルチウェルプレートをハイスループットに処理するためのロボットシステムに装着可能です。このようなシステムでは、複数のプレートを連続して分析するための優れた流路サポートを備えているため、大量のサンプルを扱うことができます。
フローサイトメーターにおける光学系の能力は、どのように実験をデザインし実行するかに直接影響します。レーザーは、細胞の様々な成分や様相の検出に使用する抗体や試薬に結合させた蛍光色素を励起する光を供給します。 検出器は特定波長の光を捕捉し、増幅・分離する装置で、測定した蛍光色素に特異的な物性的情報を提供します。レーザーと検出器におけるテクノロジーは、実験に使用した蛍光色素の数や種類を決定します。このため、最適なデータを得るために、光学系を構成する数多くのコンポーネントの選択肢について理解することが重要なのです。
細胞の同定および物性解析は、レーザービームの出力と検出システムの感度に左右されます。ほとんどの実験では、細胞集団、細胞サイクル、集団倍加、アポトーシス、細胞生存率を分析するために、細胞表面や細胞内タンパク質を標識する複数の蛍光色素を必要とします。高品質なコンポーネントによる優れた光学系は、細胞の生物学的および生化学的特徴を幅広く捉えることができます。
図 5.蛍光色素のレーザー励起と蛍光波長(A)複数の蛍光色素によって標識された細胞。(B)PE と FITC は共に 488 nm の青色レーザーによって励起され、蛍光スペクトルが重なります。(C)PE は 561 nm の黄色レーザーによって励起されますが、FITC は励起されません。(D)Alexa Fluor 647 色素は 640 nm の赤色レーザーによって励起されます。
色素はそれぞれ励起エネルギー領域と、特異的な蛍光スペクトルを持っています。細胞は、複数の蛍光標識抗体、蛍光色素、蛍光タンパク質で標識できます。レーザーは、異なる量の励起エネルギーを供給するために、特定の波長においてその出力を放射します。
図 6.2つの最大励起波長。(A)PE は 488 nm のレーザーによって励起できます。(B)PE は 561 nm でも最大励起波長になります。このレーザーで励起した方がPEは効率よく蛍光を発します。
蛍光色素の中には、効率の異なる複数の励起波長を持つものがあります。例えば、PE は 488 nm の青色または 561 nm の黄色のどちらのレーザーによっても励起されます。488 nm の青色レーザーは、より低いエネルギーレベルでPEを励起します。561 nm の黄色レーザーは、蛍光色素をより強く励起し、より大量の光子を放出させます。561 nm の黄色レーザーによるより強い励起光は、そのレーザーがない装置では観察されないようなぼんやりとした小さな細胞集団を分離できる可能性があります。
図 7.一般的な蛍光タンパク質と選択色素のレーザー波長。
多くの市販のフローサイトメーターは、紫色(405 nm)、青色(488 nm)、緑色(532 nm)、黄色(561 nm)、赤色(640 nm)のレーザーを搭載できます。基本装置は通常 488 nm の青色レーザーを搭載しています。レーザーを追加すれば、1 つの実験に使用できる蛍光色素の数を増やすことができます。紫色、青色、黄色、緑色、赤色レーザーがあれば、複数の蛍光を使用する実験においてほとんどの蛍光色素を励起できます。350 nmのUVレーザーを搭載できるフローサイトメーターもあり、マルチカラー実験デザインにおいて、励起および蛍光波長の幅を押し広げることができます。
図 8.レーザーのアライメント。(A)適切にアライメントされたレーザーにより、細胞は完全にレーザー出力を受け取ります。これにより、蛍光色素の励起においてそれぞれの細胞が同様のエネルギーを持ち、データのばらつきが抑えられます。(B)アライメントが適切でないレーザーは、蛍光色素の励起においてエネルギーの分布が不均一となる場合があります。この場合、データがばらつきやすくなります。
実験において蛍光シグナルを細胞間で比較するためには、全ての細胞が同じレーザー励起エネルギーを受け取らなくてはなりません。正確なレーザーアライメントによる一貫したレーザービーム出力は、インテロゲーションポイントを通過した全ての細胞に最適なシグナルを送ります。正確にアライメントされたレーザービームにより、装置由来ではなく生物学的な変動のあるデータが得られます。
蛍光シグナルの弱い細胞を含むサンプルでは、最適でない励起エネルギーによって結果がネガティブとなる場合があります。レーザー出力が一定でない場合、細胞からの蛍光シグナル間にばらつきが生じ、統計誤差が大きくなります。レーザーアライメントにずれが生じると、ビームを通過した各細胞に弱い、または同等でない励起エネルギーを供給することになります。
図 9.レーザープロファイル。(A)ガウス分布の蛍光プロファイル。光子が密であり、中央が最も強い。(B)フラットトップのビーム強度プロファイルは、より大きくフラットな領域をカバーします。細胞はエネルギーがより均一なスポットを通過して蛍光を放出します。
ほとんどのフローサイトメーターのレーザービームはガウス分布です。最適な励起エネルギーを得るために、細胞はビームの中央を通過しなければなりません。
最近開発されたフラットトップレーザーのプロファイルは、蛍光色素を励起するためにより広い領域をカバーします。エネルギー分布が均一なため、サンプル中の細胞が均等にエネルギーを受け取ることができ、一貫した結果が得られます。
図 10.レーザーの配置。(A)レーザーを共線上に配置すると、単一のインテロゲーションポイントに複数のレーザーを当てることができます。(B)空間的に離してレーザーを配置した場合は、インテロゲーションポイントも離れます。
1 つの装置内に搭載された複数のレーザーは、2 種類の方式によって配置されているのが一般的です。配置の方式は、実験で使用する蛍光色素の数と、細胞からの蛍光の検出の両方に影響を及ぼします。
レーザーの共線上配置では、全てのレーザー光を 1 つの領域にフォーカスして同時に照射することで、複数の蛍光色素を同時に励起します。
この配置方式では、複数の蛍光シグナルが同時に励起され、大きな補正が必要となり、マルチカラーパネルの構築における柔軟性が低くなります。レーザーの共線上配置は、波長の異なるレーザーが、蛍光スペクトルの重なりが少ない、または重ならない蛍光色素を励起する場合に効果的です。低価格のフローサイトメーターは、コンポーネントのコストを抑えるためにこの配置方式を採用している場合があります。
空間的に離して配置する方式では、細胞のフローに対して段階的にレーザーを照射します。複数の蛍光色素で標識した細胞は1つずつそれぞれのレーザービームを通過し、異なるタイミングで励起または蛍光スペクトルの検出が行われます。この配置方式では、1 つの実験で使用する色素の数を柔軟に決定することができます。個別に励起された蛍光シグナルは、より高い感度を示し、補正の必要性も低下します。この配置方式では、類似の蛍光スペクトルのオーバーラップを劇的に減らすことができるため、大規模なマルチカラーパネルの構築に便利です。
図 11.蛍光の放出。(A)励起された蛍光色素は、限られた波長範囲において光を放出します。(B)蛍光色素の中には、蛍光スペクトルが重なるものもあります。
励起された蛍光色素は、特定の波長ではなく、限られたスペクトル範囲で光を放出します。放出された蛍光は、それを捉えて解析する前に光学フィルターを通過させる必要があります。フィルターによって蛍光を分離しない場合、複数の色素から放出された蛍光が重なり、解析が難しくなります。
図 12.蛍光分離のためのコンポーネント。(A)光学フィルターは、蛍光色素から放出されたシグナルを蛍光波長の範囲に基づき分割します。(B)プリズムモノクロメーターアレイは、光を異なる波長領域に分離し、それらの領域から異なる検出器にフォーカスします。
複数の蛍光色素標識抗体で標識した細胞が、光学フィルターの開発によって分析可能となりました。簡単に入手でき、ユーザーによって交換できるため、これらの光分離コンポーネントが、フローサイトメーターにおける蛍光分離に最も多く使用されています。異なるフィルターを組み合わせることで、小規模および大規模なマルチカラーパネルの作成における多様な色の組み合わせが可能となります。これは耐久性のあるコンポーネントによる信頼されたシステムです。簡単に交換できるフィルターを備えたシステムをお求めください。
スペクトル型のフローサイトメトリーは、従来のフローサイトメトリーとは異なります。このテクノロジーを備えた装置では、可視光スペクトルにおいて放出された蛍光をフォーカスするプリズムを使用しています。複数の蛍光色素から放出された蛍光は重なってしまうため、次なるステップとしてそれらを分離するために複雑なアルゴリズムが必要です。このテクノロジーの利点は、少ないレーザー数でもカラーチャンネルの総数を増やすことができることです。このテクノロジーはフローサイトメトリーではまだ発展途上であり、コンピューターによる蛍光分離が特定の蛍光色素では制限される可能性があります。
図 13.蛍光検出のためのコンポーネント。(A)蛍光色素によって放出されたシグナルの PMT による捕捉と増倍。(B)APD による半導体上での光子捕捉とシグナルの増倍。
1 つの細胞から放出される蛍光シグナルは微弱です。データを解析するためには、光を調整可能な形式に変換する必要があります。蛍光検出装置は蛍光を捕捉し、光波を電子シグナルへと変換します。これにより個々の電子シグナルが増幅でき、ユーザーによるデータ処理が可能となるため、このステップは重要です。
光電子増倍管(PMT)は、ほとんどのフローサイトメーターに使用されている検出装置です。光路の最後に複数の PMT が並び、フィルターを通過したそれぞれの蛍光シグナルを捕捉します。このタイプの検出装置は、UV から IR まで幅広いスペクトルにおいて、非常に弱いシグナルから非常に強いシグナルまで直線的に蛍光のダイナミックレンジを PMT により捕捉できるため、マルチカラーパネルの実験に有用です。
他の検出装置には、放出された蛍光からの電子を伝導し増幅するアバランシェフォトダイオード(APD)があります。遠赤外スペクトルの蛍光色素を主に使用する実験には APD が向いています。これらの検出器は、赤色および近赤外スペクトル領域において放出されたシグナルを効率よく捕捉します。
図 14.電圧設定。(A)PMT 電圧が高すぎると、蛍光標識された細胞から放出された陽性のシグナルは検出範囲から外れます。(B)電圧を下げると、陽性のシグナルが適切に検出されます。
フローサイトメーターでは、サンプルの細胞や他の成分に由来する自家蛍光としてのバックグラウンドが検出されることがあります。標識した細胞の物理的性質を完全に視覚化するには、陽性のシグナルはもちろん陰性の(弱い)シグナルまで幅広く捕捉する必要があります。言い換えれば、使用した蛍光色素のシグナルと細胞由来の検出され得る(または陰性の)自家蛍光を最大限に分離して観察するために、理想的な PMT 電圧を設定しなければなりません。
細胞サンプルを分析する前に、それぞれの PMT に最適な電圧を調べるため、蛍光スタンダードを使用してフローサイトメーターの PMT 電圧を最適化する必要があります。
必要であれば、特に陽性のシグナルが強すぎる場合には、PMT 電圧を調節した方がよいでしょう。染色していない細胞をバックグラウンドシグナルのためのネガティブコントロールとして使用し、電圧を調節できます。PMT 電圧を下げることで、陽性のシグナルの適切な測定が可能となり、また陰性集団のシグナル値を下げることができます。
フローサイトメーターによって検出された蛍光シグナルの量は、電圧設定によってコントロールできます。電圧の上げ下げにより、蛍光シグナルを適切に測定するための PMT 検出器のゲインを調節できます。
ロックされた電圧設定はシンプルなフローサイトメーターの機能の一部ですが、そのような装置の蛍光検出の範囲は限られたものになります。ユーザーがバックグラウンドと陽性の細胞集団を区別できなければならないため、電圧設定の調節は簡単ではありません。慣れていないユーザーは、電圧を適切に調節できないかもしれません。そのようなユーザーのために、小規模な蛍光色素パネルとその検出器用に電圧がロックされているのです。電圧設定がロックされた装置は、設定の変更を制限することでプロセスをシンプルにしています。
ロックされていない調節可能な電圧設定は、マルチカラーパネル実験を行うユーザーに好まれます。ロックされた電圧設定では、限られた蛍光色素パネルから放出された蛍光の検出のための設定がされています。調節可能な電圧設定では、蛍光色素パネルの設定に制限がありません。この特徴により、大規模なパネルの設計や、様々な色素タイプの選択が可能になります。調節可能な電圧設定では、PMT シグナルをスケール内に収めるため、シングル染色のポジティブコントロールをチェックすることもできます。また、マルチパラメーターによるフローサイトメトリー実験の一部として最適なシグナル補正を行うためにも、PMT 電圧を調節できます。
図 15.補正。(A)放出シグナルのオーバーラップは、偽陽性のデータポイントを与えます。(B)データの補正により、オーバーラップした蛍光が除かれます。補正したデータポイントから、より正確な結果が得られます。
複数の蛍光色素は、可視スペクトルにおいて幅広い蛍光を放出します。マルチカラーパネルによるデータ収集では、蛍光シグナルの重なりが発生します。この場合、陽性の単一標識細胞が二重陽性に見えてしまうといった問題が起きます。
図 16.補正のテクニック。(A)従来の補正では、重なった部分をシングルカラーへと処理するために、蛍光色素、ネガティブゲーティング、または非染色コントロールによるデータを、実績のあるアルゴリズムのセットによって解析します。(B)スペクトル非混合タイプでは、条件付きポアソン回帰や非負行列因数分解のようなアルゴリズムのセットを使用し、蛍光をシングルカラーへと処理します。
補正とは、アルゴリズムのセットを用いてそれぞれの蛍光色素のシグナルを分離することです。従来の補正では特定の波長を分離します。このプロセスでは、それぞれの蛍光色素を個別に測定し、アルゴリズムを使用して補正値のマトリクスを作成します。これらの補正がスペクトルの重なった部分に適用され、個々の値が得られます。このプロセスではシグナル補正を簡単に素早く計算します。
スペクトル非混合タイプは、従来の補正法とは異なり、1 つの波長に対して蛍光スペクトルを与えます。
図 17.チャンネル。(A)複数のチャンネルを持った 1 レーザーシステム。(B)蛍光が重なり、補正が必要です。(C)多くの検出器により沢山のチャンネルを持つことのできる 3 レーザーシステム。(D)チャンネル数が増えれば、蛍光色素をより多く、補正をより少なくすることができます。
PMT および APD において、蛍光を捕捉するためのコンポーネントはチャンネルと呼ばれます。フローサイトメーターによって検出される蛍光色素の数は、利用できるチャンネルの数によって決まります。
1レーザーシステムでは複数のチャンネルを持つことができます。 これは 1 つのレーザーが複数の蛍光色素を励起でき、検出器がサンプルの発する異なる波長の蛍光を捕捉できることを意味します。このタイプの実験では、全ての蛍光色素が重なった波長において蛍光を発するため、複雑な補正が必要です。
複数のレーザーがあれば、より多くのチャンネルを提供できるため有用な場合があります。チャンネルを追加すれば、蛍光色素の選択の幅が広がり、また補正を少なくできるため、パネルデザインが容易となります。これにより、細胞集団をより適切に分離した実験が可能になります。
フローサイトメーターは何年にもわたって使用できるよう設計された洗練された装置です。コンポーネントのほとんどが耐久性を備えています。定期的なメンテナンスと日常的なクリーニングは、パーツ交換の頻度を減らし、高品質なデータの提供をサポートします。
図 18.メンテナンス不備に起因する主な夾雑物(A)キャリーオーバーにより、前回使用したサンプルの細胞や粒子のコンタミネーションが起きます。(B)核酸に結合した色素は粘着性があり、バックグラウンドノイズの原因となります。(C)フローサイトメーターの溶液ボトルや他のパーツ内で微生物が繁殖します。
定期的な装置クリーニングが行われない場合に生じる問題の 1 つとして、前のサンプルに由来する夾雑物の蓄積が挙げられます。
前のサンプルからの細胞のキャリーオーバーは、希少細胞の測定のような繊細な実験において大きな問題となります。キャリーオーバーした細胞が存在すると、偽陽性率が上がります。サンプルごと、または実験後の洗浄により、残存した前の実験の細胞や粒子の数を減らすことができます。
定期的なクリーニングは、核酸染色試薬のような蓄積しやすい特定の蛍光色素の蓄積を防止します。粘着性の色素、細胞、クズなどがたまることで、チューブが詰まりやすくなります。 細胞培養液や組織サンプルなどを分析した装置は、微生物によるコンタミネーションが起きやすくなります。廃液ボトルの濁りやブランクサンプルにおけるイベント数の増加などが、コンタミネーションのサインになります。メーカーの指示に従い、システムをクリーニングまたは漂白することで、微生物の増殖を防ぐことができます。
図 19.日常のクリーニング。(A)漂白剤とイオン交換水によるサンプルごとの洗浄。自動的に洗浄を行う装置もあります。(B)スタートアップ時および日々のシャットダウン時におけるクリーニングは、色素の蓄積や細胞のキャリーオーバーを防ぎます。(C)ソフトウェアガイドの自動プロトコールによる追加の日常メンテナンスチェックも可能です。
サンプルごとにクリーニングを行い、コンタミネーションを抑えてください。ほとんどのメーカーが、各ユーザーの実験前に 10%漂白剤、そしてその後にイオン交換水によりシステムを洗浄することを推奨しています。サンプルの分析毎に自動でクリーニングを行う装置もあります。
フローサイトメーターのチューブおよびフローセルから細胞や色素を除去するために、ほとんどのシステムは使用前とその日の最後に蒸留水とクリーニング液で洗浄する必要があります。スタートアップおよびシャットダウン時のクリーニングプロトコールについては、ほとんどのユーザーマニュアルにその詳細が記されています。日々のメンテナンスは、流路やフローセルが微生物や前のサンプルによって汚染されるのを防ぎます。
フローサイトメーターによっては、溶液タンクの調製、フィルターの気泡チェック、廃液コンテナを空にする、といった追加的な日常メンテナンスを必要とするものもあります。ソフトウェアガイドの自動プロトコールを持ったフローサイトメーターもあります。自動システムは、気泡のチェックやシャットダウン時の手順などの特定の仕事を減らすことで、ユーザーの負担を減らします。このようなプロトコールにより、時間を節約でき、適切なクリーニングを実施できます。
図 20.流路のメンテナンス。(A–F)正常な装置性能を維持し、キャリーオーバー、バックグラウンドノイズ、微生物によるコンタミネーションを最小化するために、フローサイトメトリー装置のパーツを洗浄または交換してください。
流路の洗浄、シースフィルターの交換、徹底的な装置クリーニングを組み合わせることで、キャリーオーバー、蛍光色素、微生物を除去できます。ほとんどのフローサイトメーターは、シースチューブ、廃液チューブ、溶液コンテナ、フローセルの徹底的なクリーニングを、2 週間から 1 ヵ月おきに実施する必要があります。これにより、ゴミがたまるのを防ぎ、有害物質や微生物を除去できます。
流路系のタイプによっては、コンポーネントを取り外し、交換または洗浄する必要があるかもしれません。ペリスタルティックシステムでは、半年から 1 年ごとにチューブを取り外し交換する必要があります。さもなければ、イベント収集中に夾雑物やゴミが発生してしまいます。圧力システムでは、サンプルをフローサイトメーター内へ素早く導入するために、ノズルチップやその関連パーツの定期的メンテナンスが必要です。シリンジベースのシステムでも、細胞のコンタミネーションを防ぐためにシリンジのクリーニングが必要です。データの品質を維持するために、ユーザーマニュアルに従ってメンテナンスを記録してください。
フローサイトメーターのメーカーは、装置の主な性能特性を記した技術仕様シート(技術スペックまたはスペックシート)を提供しており、そのような文書には、フローサイトメーターの購入において重要となる情報が豊富に含まれています。しかし、それらは同じ専門用語を使用しているにもかかわらず、数値を異なる方法によって計算している場合もあり、さまざまな技術スペックの比較はそれほど単純ではありません。
その装置がお客様の研究に適しているかどうかを調べるために、性能、サイズ、環境、ソフトウェアなどのフローサイトメーターの設計特性をお客様に確認していただくことが、スペックシートの目的です。
技術仕様は比較する際の基準として利用でき、価格が異なる装置の価値を評価するのに役立ちます。スペックシートはまた、メーカーが保証する性能のガイドでもあります。そのため、記された数値についてや、その装置がどれだけ用途に適しているかといったことを理解する必要があります。スペックシートをプラットフォーム間の比較ガイドとして利用する際には、中身を徹底的に精査するのがよいでしょう。装置間で同等に見える性能値はたくさんありますが、実際には全く異なることがあります。仕様は特定の試験や計算法に由来しますが、それらは装置の開発者間において標準化されておらず、並べて比較した際に誤解を与える場合もあります。
同じ専門用語を使用しているにもかかわらず、数値を異なる方法によって計算している場合もあり、さまざまな技術スペックの比較はそれほど単純ではありません。このホワイトペーパーは、どのように差異を解釈するかについての役立つヒントを提供します。
技術仕様シートの各セクションはメーカーによって様々であり、これもばらつきの一因となっています。公表されている主な情報のカテゴリーを、Invitrogen Attune NxT フローサイトメーターのスペックシートを例として図 1 ~ 8 に示します。装置の違いを読み解く上で役立つヒントを含め、フローサイトメーターの評価において注意すべき主な仕様を紹介します。
図 1.流路系。フローサイトメーターの流路系は、サンプルチューブからフローセルへとサンプルを輸送します。フローセル(およびレーザーと検出器)を通過したサンプルは廃液タンクへ送られます。スペックシートにおける流路系のセクションには、サンプル、ボリューム、流速、フローセル、流路キャパシティに関する情報が記載されています。
図 2.光学系。解析プラットフォームとして、フローサイトメトリーはレーザー光を個々の細胞に照射し、その結果放出される蛍光と散乱光を収集します。光学系は、機器内においてレーザー光の照射と光の収集を行います。光学系のセクションには、レーザーの種類や出力、レーザープロファイル、アライメント、光電子増倍管(PMT)などの光学系仕様の概要が記載されています。
レーザー出力の仕様はほとんどの場合、メーカーによって開示されているレーザー出力として定義されます(図 2)。しかし、レーザーとフローセル間の光学コンポーネントにおける光の損失が大きいため、出力の仕様は必ずしもインテロゲーションポイントにおける実際の出力と一致したものが記されているわけではありません。この光の損失はシステムによって様々です。光の損失が大きいことは、その実験においてレーザーの出力を最大限に利用できていないことを意味し、損失が少ないことは、フローセルにおけるレーザー強度が高いことを意味し、蛍光色素の励起が高まることで感度が上昇します。このような違いがあるため、スペックシートに示されたレーザー出力の数値が高いほど感度が高いということにはなりません。
装置を比較する際、この仕様をどの程度参考にするかは注意が必要です。ほとんどのメーカーは、フローセルに到達する実際のレーザー出力を報告していませんが、これこそが比較すべき点です。
この仕様項目は、全てのメーカーが報告しているわけではありませんが、各レーザーによって発生した蛍光シグナルの検出器(PMT とも呼ばれる)における分離を決定するピンホールの数を示しています。システムのレーザーが内部ピンホールによって空間的に分離されているか、またはシステムが共線上に配置されているかを知っておく必要があります。ピンホールは、蛍光色素の励起を最大化し、レーザーライン間のクロストークを最小化します。いくつかのメーカーは、レーザーを共線上に配置しています。1 つのピンホールによってレーザーが共線上に配置されている場合、同じ光路内で複数のレーザーからシグナルが収集されます。この配置は、異なるレーザーによって励起された複数の色素のシグナルが同じ検出器によって測定されることを意味し、値の補正が必要となることから解析が難しくなります。この設計における他のリスクとしては、アライメントの問題(ビームが正確に共線上にない場合の同時イベント発生率の上昇)や、蛍光ラベルの弱い成分に対する感度の低下などが挙げられます。これに変わる配置設計が、空間的に分離されたシステムです(図 2)。この配置では、アライメントの問題を回避できること、複数のレーザーカラーを選択できること、マルチカラーパネルにおける補正が改善されることなどを含め、数々の利点が得られます。
各ピンホールに割り当てられたレーザーのタイプと量を明確に把握し、考慮中のシステムのレーザーが空間的に分離されているのか共線上にあるのかを調べてください。
図 3.性能。メーカーの間で幅広く公表されている典型的な仕様であるスペックシートの性能のセクションには、MESF 計算、データ取得率、前方散乱光(FSC)および側方散乱光(SSC)のパラメーターなどの一般的な特徴がいくつか記載されています。
イベントレートとは、細胞または粒子が装置のインテロゲーションポイントを通過する時の物理的なカウント数のことです。この値は一般的には同じように(イベント/秒として)表記されるにもかかわらず、基本的でありながら全く異なる 2 つの方法が値の決定に使用されています。イベントレートを算出するための2つの方法:
スペックシートに示されたその値をメーカーがどのようにして得たのかを理解することが重要です。
最初のメソッドは理論的であり、同時イベント発生率や流路系などの他の装置設計特徴を無視したものです。そのため、電子装置は 10,000 ~ 100,000 イベント/秒での処理が可能でも、このようなイベントレートはポアソン分布によって一般的に容認できる 10%という限界値を超えた同時イベント発生率に相当する場合があります。このようなイベントレートの表示方法は、より速い(しかし必ずしも高品質ではない)電子回路部品の出現によって、近年ではより一般的になってきました。しかし、この方法によって計算されたイベントレートでは、同時イベント発生率のことが考慮されていません。
装置のイベントレートを求めるための 2 つ目のメソッドは、10%の同時イベントレベルに基づいたものであり、研究者にとってより信頼できるものです(図 3)。同時イベント発生率の低さは、データ品質の高さを意味します。そのため、このメソッドを使えば、高品質なデータ取得に使用可能な実際のイベントレートにおける容認可能な同時イベント発生率が最も適切に示されます。メーカーがこのメソッドによって算出したイベントレートを仕様として報告している場合、ユーザーは、そのイベントレートにおける容認可能なレベルの同時イベント発生率のデータを取得できることを確信できます。
装置を決定する際、スペックシートに示されたイベントレートをメーカーがどのようにして得たのかに注意してください。値が最初のメソッド(電子装置の速度のみ)によって計算されている場合は、サンプルを分析する際の同時イベント発生率を慎重に検討してください。
キャリーオーバーは、持ち越されて次のサンプルを汚染する前回のサンプルの量のことを指し、データに不正確性をもたらす原因となります(図 3)。仕様におけるキャリーオーバーのパーセント表示は通常、特定量のサンプルを測定し、その後、リン酸緩衝食塩水(PBS)のような粒子を含まないバッファーのみの溶液を特定量測定して得られた値です。細胞のコンタミネーションを示すイベントは、バッファーのみの溶液の測定で観察されます。多くのメーカーは、一定の条件下でこのキャリーオーバー値を決定するために、特定の細胞株やビーズのセットを流しています。
この一定の条件がどのようなものか、そしてキャリーオーバー値の決定においてどのようなサンプルが分析されたのかを知ることが重要です。例えば、規格試験に使用した粒子や細胞のサイズまたは種類、洗浄の回数といった条件は、実際に研究者が使用する条件とは大幅に異なる可能性があります。メーカーがどのようにしてそのキャリーオーバー値を求めたのか調べてください。異なるメーカーがどのようにしてこの値を求めたのかを知っておけば、仕様を比較するだけでキャリーオーバーについて直接比較することができます。
図 4.ソフトウェア。スペックシートにおけるソフトウェアのセクションは、研究者がシステムに組み込まれた主な機能と特徴を確認するのに役立ちます。このセクションはまた、機能の範囲、ユーザー定義可能な機能、メンテナンスの特徴、ユーザーアカウント管理についても記しています。ソフトウェアの特徴はメーカーによって異なり、システムによってはユニークで独占的なオプションを含むものもあります。
図 6.データ管理。コンピューターのインストールおよびセットアップを成功させるための手順に関するセクションです。このセクションにおける仕様は、RAM、ハードドライブ、FCS フォーマットに関する詳細です。
この仕様はしばしば見逃されがちですが、光学アラインメントや流路系はこれらの値と関連が深く、装置の寿命において重要です(図 7)。
ラボ内の温度が比較的一定に保たれているかどうかや、装置を様々な場所で使用することがあるかどうかに注意してください。装置の性能は特定の温度範囲内でのみ試験され保証されているため、操作する際の条件を必ず確認してください。
目的のスペースまたはドラフト内での使用に装置が適当かどうかを考慮してください。オートサンプラーなどのアクセサリーも含めた必要スペースを確認し、流路系に必要なスペースを確保してください(図 7)。多くのフローサイトメーターには外部流路系が使用されており、装置の設置に必要なスペースが実質的に追加されます。装置を定期的に移動する場合、それがどれくらい難しいかを考えてください。全てのベンチトップ装置が同様のスペースで設置でき、また移動させやすいわけではないことに注意してください。
デモが行われる際に、全てのコンポーネントがセットアップされた完全なシステムを見られるように依頼すれば、各システムに必要なスペースを直接比較することができます。
プレート解析速度は通常、96 または 384 ウェルプレートの解析を完了するのに必要な時間として定義されます(図 8)。この定義には 2 つの側面があります。1 つはサンプルボリュームであり、もう 1 つはサンプル処理速度です。この仕様で報告されている時間値が、データ品質を犠牲にしたものである可能性があることに注意してください。また、その仕様値を決定するためにどれくらいの量のサンプルが分析されたのか、そしてどれくらいのサンプル処理速度が使用されたのかを明確にしてください。メーカーによっては、少量のサンプルを分析することで、仕様においてプレート解析時間を最小化して見せていることがあります。しかし、実際にそれを実行するためにはサンプルを高度に濃縮する必要があり、同時イベント発生率や中止率が高くなるといったようなデータの品質に関わる問題が引き起こされます。逆に言えば、もしサンプルが十分に濃縮されていなければ、少ない量のサンプルでは統計学的に有意となるイベント数を得られない可能性があります。
サンプル処理速度(サンプルが流路系に導入される速度)もまた、データの品質に影響を及ぼします。ハイドロダイナミックフォーカシングのみによるフローサイトメーターでは、流速が上がるとともに、より幅広いコアストリームにわたってサンプルが拡散されます。サンプル処理速度が高くなれば、ばらつきが大きくなるので、測定の精度が低下し、データの品質が損なわれます。アコースティックアシストによるハイドロダイナミックフォーカシングを利用した装置では、サンプル処理速度にかかわらず、細胞は流れの中心にタイトに整列し、シグナルのばらつきが抑えられるので、データの品質が改善されます。そのため、プレート解析時間を短くするためにサンプル注入速度を上げる場合は、データ品質の低下を避けるためにアコースティックフォーカシングを備えたシステムの使用をお勧めします。
プレート解析速度の算出に影響する他の要因は、サンプルごとにプローブを洗浄しているかどうかです。プローブを洗浄しない場合、キャリーオーバーの発生可能性が高くなります。仕様に記されたプレート解析時間での分析を決定する前に、このような代償について考慮してください。
この仕様においてメーカーの示した時間を達成する上で負うことになるデータ品質における代償について理解するようにしてください。
図 8.サンプラーの仕様。サンプリング装置はフローサイトメーターのアクセサリーです。この装置の仕様には、取得時間、キャリーオーバー、混合メソッドが含まれます。適合するプレートタイプと流路オプションに関する追加の情報も含まれている場合があります。
関連する仕様値に関する試験について常に確認するようにすれば、考慮中の装置の特徴を確信をもって正確に比較できるようになります。
お客様が機器を購入する際、その機器の背後のメーカーを購入しており、お客様に長期にわたって適切なアフターセールスサービスを提供するというメーカーの意思、基盤、および拡張性の能力を考慮する必要があります。これは取引ではなく、お客様とメーカーのチームとの関係性です。この関係性の範囲および動態は、お客様がチームから何を必要とし、得ようとしているかによって変わります。
フローサイトメーターの適切なケアの各側面や提供を各メーカーがどのようにして行うことができるかを慎重に考慮してください。
サービタイゼーションのためのメーカーの能力と専念を調べてください。フィードバックを求めて尊重し、製品やサービスの改善を積極的に取り入れていて、製品とサービスの両方に焦点を当てた組織を探してください。
能力のあるサイトメトリーメーカーは、カスタマーをサポートするために、多機能で働く多様なチームを有しています。お客様が取り引きしているサイトメトリーメーカーが以下のことを提供しているかを確認していください。
質問すべきこと:ポートフォリオはどのくらい包括的か?
なぜこの質問をすべきか:さまざまな利点は、以下のようなことに関してラボを管理するために、製品を注文する多様なブランドやメーカーを絞り込むことと関連しています。
故障、誤作動、および修復不可能な詰まりは修理が必要となり、稼動停止時間を生じさせ、アウトプットの失速、サンプルの喪失、無駄なサンプル調製時間、およびアッセイの繰り返しが発生します。質の高いエンジニアリング、職人技、およびハードウェア(ハイエンドポンプやレーザーなど)を備えたフローサイトメトリーを選択することは、必要な修理の頻度を低減し、機器のパフォーマンスおよび寿命を向上するのに役立ちます。さらに、コンポーネントサービスおよびサポートチームは、修理が必要な問題が発生した際に、回復および運営再開までの時間を短縮できます。
どのようなテクノロジーでも、その正しい使用方法を知る必要があります。フローサイトメトリーは最初は困難な場合もありますが、基本をすべてのプラットフォームで活用できます。新しいユーザーがパネルデザイン、補償、フルオロフォアの選択、その他の中核的なスキルを学ぶにつれ、実験の複雑さを増すことができます。機器を選択する際、どのような対面的トレーニング、オンラインの教育用資料、およびユーザーコミュニティがメーカーから提供されているかを確認してください。
有用性は相対的な用語で、フロー技術、機器のソフトウェア UX デザイン、技術的な習熟度、検出装置の限界とユーザーの生物学との関係、および実験の目的の理解と経験の度合いと相関します。 トレーニングプログラムはこのような意味合いに対応し、初心者に適用できるだけでなく、上級ユーザーとも完全に連携できなければなりません。
フローサイトメトリーを熟知しましょう。これらのリソースは、フローサイトメトリーの基礎と科学的な原理に関する理解を向上させ、専門的なアプリケーションとテクニックのための能力を拡大させます。