チューブにピペッティングしている写真

電気泳動による制限酵素処理の結果を見ると、次のような酵素処理に関する問題が判明する場合があります。

考えられる原因とこうした問題を解決する際の推奨事項についてご紹介します。「制限酵素の主な注意点」も参照してください。

制限酵素処理の問題

考えられる原因推奨事項
酵素が不活性
  • 酵素の有効期限を確認してください。
  • 酵素が–20°Cで保存されていることを確認してください。この温度より下では、酵素が凍って活性を失うことがあります。
  • 何回も凍結融解を繰り返すことは避けてください(3回未満)。酵素の保存および運搬にはベンチトップクーラーを使用してください。
  • 霜取機能のある冷蔵庫や冷蔵庫のドアの棚に酵素を保存しないでください。
酵素処理プロトコルが最適ではない
  • メーカー推奨の制限酵素用および基質DNAのタイプに合わせたプロトコルに従ってください。
  • すべての添加物または補助因子(例:DTT、Mg2+、ATP、S-アデノシルメチオニン)が反応中に含まれていることを確認してください。制限酵素の中には、活性にこれらの補助因子が必要なものがあります(例:Esp3Iに対してのDTT)。
  • 酵素と合わせて提供される推奨の反応バッファーを使用してください。二重酵素処理では、バッファーの適合性および他の反応条件についてメーカーの推奨に従ってください。
  • メーカーが明記した最適温度で反応を行ってください。異なる温度を必要とする酵素を使用した二重酵素処理では、低い温度の酵素処理を最初に完了し、それから高い温度で2番目の酵素処理を行います。
  • インキュベーションの間、反応容量が蒸発で減少して、酵素活性を低下させる可能性がある塩濃度上昇が起こらないようにしてください。好熱性酵素については、加熱蓋の付いたサーマルサイクラーを使用してください。
酵素の希釈が不適切
  • 小容量(0.5 µLより少ない)のピペッティングは避けてください。ワーキングストックの量を増やし、各反応に加える酵素の量が正確であるようにします。
  • メーカー推奨の希釈バッファーを使用して、酵素のワーキングストックを作ります。
  • 制限酵素を水や10倍の反応バッファーで希釈しないでください。
反応アセンブリが不適切
  • 制限酵素は反応の最後に加えてください。酵素を加えた後は反応チューブを混合して、酵素がグリセロールの密度のせいで底に沈んだままにならないようにしてください。
反応混合物中のグリセロール量が過剰
  • 反応混合物中のグリセロール濃度を5%未満に保ってください。反応に加えられた制限酵素容量は、特に二重酵素処理では全反応容量の1/10を超えないでください。
  • 反応容量が蒸発による減少の結果、グリセロール濃度が上昇しないようにしてください。
DNA濃度が最適ではない
  • 酵素処理混合物中のDNA濃度を、最適範囲の20~100 ng/µLに保ってください。
DNA溶液の汚染物質
  • 残留SDS、EDTA、タンパク質、塩類、ヌクレアーゼをシリカのスピンカラム精製、フェノール:クロロホルム抽出、エタノール沈殿によって除去してください。DNAペレットを70%の氷冷エタノールで洗浄して、EDTAおよび塩類を除去してください。
  • 未精製のPCR産物を酵素処理するには、PCR混合物を最終反応容量の1/3未満にセットアップしてください(例:30 µLの全酵素処理反応の場合、PCR混合物が10 µLとなる)。
  • DNAをシリカまたはレジン懸濁液で精製した場合、10,000 x g以上で10分間遠心分離を行い、残りの粒子をすべて除去してください。DNA溶液を新しいチューブに移すときには、レジンをキャリーオーバーしないでください。
基質DNAにおける制限酵素認識シーケンスの欠落
  • DNAテンプレートを再チェックしてください。
  • 認識部位がPCRプライマーにより導入されたとすれば、認識部位および追加の4~8塩基が5’末端にあるかプライマー配列を確認してください。
  • 十分な活性を発揮するため、制限酵素がターゲット当たり1ヶ所以上の認識部位を持つかどうかチェックしてください。認識シーケンスを含むDNAオリゴヌクレオチドまたはスペルミジンを加えると、最低2部位を必要とする制限酵素の活性を改善し、最適な酵素処理が実現する場合があります(例:AarI、SfiI)。
メチル化の影響
  • 制限酵素のメチル化感度をチェックしてください。制限酵素が認識部位のメチル化により阻害されている場合、メチル化に影響されないネオシゾマーまたはイソシゾマー (例:EcoRIIに対するMvaI)を探してください。
  • DNAメチル化を回避するには、E. coli宿主中でdam/dcmでプラスミドを増殖させてください。
  • 制限酵素が活性のため制限配列においてメチル化を必要とする場合(例:DpnIまたはSgeI)、プラスミドをdcm+/dam+E. coli株で増殖させてください。または、非メチル化DNAを酵素処理する制限酵素のネオシゾマーまたはイソシゾマー(例:DpnIに対するMboI)を探してください。
基質DNAの構造
  • スーパーコイル型のプラスミドDNAでは、制限部位が埋もれていることがあるので、インタクトのプラスミドを酵素処理可能な酵素のみを使用してください。必要に応じてさらに制限酵素を加えてください(例:DNA 1µg当たり5~10ユニット)。
  • 末端近くに制限部位がある直鎖DNAでは、酵素処理を完全にするために酵素が必要とする追加の塩基を確認してください。
  • 二重酵素処理をベクターのマルチクローニングサイト(MCS)内で行う場合、100%の活性を発揮するため、ターゲット配列が近くにあること、および部位間の必要な塩基数を確認してください。1番目の酵素で処理すると、2番目の酵素の活性に悪影響を与えることがあります。
  • 十分な活性を発揮するため、制限酵素がターゲット当たり1ヶ所以上の認識部位を持つかどうかチェックしてください。認識シーケンスを含むDNAオリゴヌクレオチドまたはスペルミジンを加えると、最低2部位を必要とする制限酵素の活性を改善し、最適な酵素処理が実現する場合があります(例:AarI、SfiI)。
水の不純物
  • 約1 mLの水(10分、10,000 x g)を沈殿物が出るまで遠心分離し、存在する可能性がある汚染物質を可視化します。
  • 酵素ではなく水によるネガティブコントロール処理を行い、水中のヌクレアーゼまたは細菌性汚染物質の存在を測定してください。
  • 新鮮なヌクレアーゼフリー、分子生物学グレードの水を信頼できる販売元から入手して使用することを検討してください。

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考えられる原因推奨事項
制限酵素のスター活性
  • 推奨酵素量未満を使用してください(例:DNA 1µg当たり酵素10ユニット)。必要に応じて、反応液中の酵素の量を減らしてください。
  • 酵素処理反応のインキュベーション時間を長くしないでください。
  • 推奨反応バッファーを使用してください。低い塩濃度、最適ではないpH、Mg2+以外の二価陽イオンがスター活性を引き起こすことがあります。
  • 反応液中のグリセロールが5%未満であることを確認してください。
  • 反応容量が蒸発による減少の結果グリセロール濃度と塩濃度が上昇(5%を超える)しないようにしてください。
他の酵素による汚染
  • 新しい酵素とバッファー、またはその一方を使用してください。制限酵素または反応バッファーが、不適切な取り扱いのせいで他の制限酵素で汚染された可能性があります。
他の基質DNAによる汚染
  • 新しいDNAサンプルを用意します。
DNAマイグレーション(ゲルシフト)が遅い
  • 電気泳動の前に、酵素処理されたDNAを0.2% SDSを含むローディングバッファー存在下で10分間、65°Cで加熱します。これは基質DNAに結合したままの可能性があるあらゆる酵素を解離し、DNAの電気泳動移動度を変化させます。
基質DNA中の予期しない認識シーケンス
  • クローニング手法とライゲーション部位を再チェックしてください。DNAコンストラクトで新しく生成された制限部位は見落とされることがあります。
  • DNA配列をシーケンシングで確認してください。変異がテンプレートの制限部位を変えてしまった可能性があります。プラスミドを再増殖するか、元のターゲット配列をハイフィデリティDNAポリメラーゼで増幅してください。
  • メチル化は制限酵素切断(例:MboIはメチル化で阻害されますが、DpnIは活性化されます)で影響を受ける可能性があります。酵素処理が不完全または酵素処理が機能していない状況でのメチル化の効果について推奨事項を参照してください。

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DNAバンドが拡散している

考えられる原因推奨事項
DNAの品質が悪い
  • 酵素処理されていないDNAを電気泳動で試験します。スメア(分解)がゲルで観察された場合、DNAを再精製してください。
汚染された試薬
  • 必要に応じて新しい試薬を準備し、新しい酵素を使用するか、DNAを再精製してください。反応成分に対する不適切な取り扱いのためヌクレアーゼで汚染されていた可能性があります。
DNAマイグレーション(ゲルシフト)が遅い
  • 電気泳動の前に、酵素処理されたDNAを0.2% SDSを含むローディングバッファー存在下で10分間、65°Cで加熱します。これは基質DNAに結合したままの可能性があるあらゆる酵素を解離し、DNAの電気泳動移動度を変化させます。

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トラブルシューティング情報の詳細については、弊社制限酵素を用いたクローニングのサポートセンターをご確認いただくか、弊社テクニカルサポートチームまでお問い合わせください。

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.