タンパク質の構造や相互作用に関する研究技術、またアフィニティ精製やアフィニティ検出の手順におけるタンパク質操作技術は、タンパク質の化学的な架橋、修飾または標識の手法を基礎としています。

架橋とは、複数の分子を共有結合により化学結合させるプロセスを指します。修飾では、化学基を結合または切断させることによって、溶解度や最初の分子特性を変化させます。一般的に「標識」とは、検出を促進する化学基(例:蛍光分子)を結合させる目的で行う、あらゆる方式の架橋や修飾を指します(詳細については、タンパク質メソッドライブラリーの記事をご覧ください)。

生物学的研究でタンパク質と生体分子を活用した架橋法および修飾法は、総じて「バイオコンジュゲーション」または「バイオコンジュゲート」技術と呼ばれています。(また、バイオコンジュゲーションは、架橋とも呼称されます。)


タンパク質構造

共有結合的にタンパク質を修飾や架橋させるには、必ず、タンパク質中に存在する特定種の官能基と反応できる特定化学物質を使用します。また、タンパク質の機能性と構造性は、研究における直接的な焦点となります。あるいは、何らかの技法で修飾タンパク質が有用な場合には、これらのタンパク質を保存しておく必要があります。つまり、タンパク質の組成と構造、そしてタンパク質の構造と機能に影響し得る修飾試薬に関する考察が必要になります。

タンパク質構造には、4種類のレベルがあります。アミノ酸配列が一次構造となります。アミノ酸配列は、常にアミノ末端(N末端)からカルボキシル末端(C末端)へ書き出されます。タンパク質二次構造とは、タンパク質中の一般的な反復配列の存在物を指しています。二次構造を構成する主な配列には、 αヘリックスとβプリーツシートの2つがあります。αヘリックスは、単一のポリペプチド鎖で形成される構造体であり、堅いらせん状構造をしています。βプリーツシート構造では、 隣接基(–NH基と–Co基)どうしの水素結合により安定化したポリペプチド鎖が、平行または逆平行いずれかに配置されています。平行のβプリーツシート構造は、同一方向に延びる隣接ストランド(隣接し合うN末端)を有している一方、逆平行のβプリーツシート構造は、反対方向に延びる隣接ストランド(隣接鎖C末端に向かって配置された一本鎖N末端)を有しています。βプリーツシート構造には、2~5個の平行鎖または逆平行鎖が含まれることがあります。

三次構造は、ポリペプチド鎖の完全な三次元の折り畳み構造であり、アミノ酸側鎖の間における自発的な熱力学的安定性の一連の相互作用に依存します。イオン性および疎水性の相互作用と同様に、ジスルフィド結合パターンは三次構造へ大きく干渉します。四次構造とは、複数のポリペプチド鎖が会合した空間配置を指します。四次構造体には、モノマー、ダイマー、トリマーなどがあります。タンパク質の四次構造を構成する各ポリペプチド鎖は、お互い一致する場合(例:ホモダイマー)、あるいは異なる場合(例:ヘテロダイマー)があります。

ProStructureFig1上図は、4種類のタンパク質構造レベルを表しています。一次構造には、ペプチド結合で連結されたアミノ酸シーケンス(図中に青点で表示)が含まれます。タンパク質機能の必須構造がより高水準で自発的に形成されるには、細胞環境の状況における構成アミノ酸の特性が主に関係します。

Crosslinking Reagents Technical Handbook

This 45-page guide is of value to the novice as well as those who have previous experience with crosslinking reagents. It begins with a basic discussion on crosslinking and the reagents that are used. The guide also contains a discussion on various applications where crosslinking has been applied, including the powerful label transfer technique for identifying or confirming protein interactions. Crosslinking chemistry is addressed in an easy-to-follow format designed to convey the important information you need without getting lost in details. Each Thermo Scientific Pierce crosslinking reagent is shown along with its structure, molecular weight, spacer arm length and chemical reactivity. The handbook concludes with a list of excellent references on crosslinker use and a glossary of common crosslinking terms.

機能タンパク質の完全構造は、四次構造ポリペプチド鎖よりも多く関与します。通常、様々な共有結合修飾が、ポリペプチド鎖の構築中もしくは構築後に発生します。一般的なタンパク質は、共修飾や翻訳後修飾を起こします。(セリン、スレオニンまたはチロシン残基の)リン酸化、グリコシル化、およびユビキチン化が例として挙げられます。

こうした天然修飾によって、タンパク質の特性、折り畳み、高次構造分布、安定性、活性、ひいてはタンパク質機能までが物理的・化学的に変性し得ることから、天然修飾に関する知識が不可欠となります。翻訳後修飾の研究は(本ページ扱うタンパク質修飾とは別の目的で)、 重要な調査領域となります; このテーマの考察については、関連記事をご覧ください。

生物学的活性はタンパク質構造の影響を受けるため、タンパク質構造の特性評価は、常に重要な研究領域であり続けます。タンパク質は、比較的容易に操作できる分子であり、物理的、化学的、および生物学的なタンパク質特性において、各アミノ酸側鎖の役割を決定付けるには、通常タンパク質の架橋法および化学的修飾法が活用されます。さらに、生物学的特性の判明したタンパク質を用いて、イムノアッセイ用の抗体-酵素コンジュゲートを調整する用途におけるシステムの研究がなされています。


機能的標的と反応性基

20種類のアミノ酸組成物などを含むンパク質構造は複雑であるものの、タンパク質官能基の中でも、実用的バイオコンジュゲーション法用の各種標的を備えたものはごくわずかです。実際、わずか4種類のタンパク質の化学的標的によって、架橋法や化学的修飾法の大半が占められています:

  • 第一級アミン(–NH2): 各ポリペプチド鎖のN末端や リジン(Lys, K)残基の側鎖中に存在する基。
  • カルボキシル基(–COOH): 各ポリペプチド鎖のC末端上、アスパラギン酸(ASP、D)側鎖中およびグルタミン酸(Glu、E)側鎖中に存在する基。
  • スルフヒドリル基(–SH): システイン側鎖(Cys、C)中に存在する基。通常は、タンパク質の二次構造や三次構造の一部として、システインはジスルフィド結合(-S-S-)を介して、側鎖間に接合されています。
  • カルボニル基(–CHO): これらのアルデヒド基を生成するには、糖タンパク質中の炭水化物基を酸化させます。

これらの各タンパク質官能基の標的につき、それらを標的とした上で試薬の合成、架橋、修飾などのベースとして利用可能な反応性基が1種~複数種存在します。

詳細情報


タンパク質の架橋

架橋とは、共有結合によって複数の分子を化学的に結合させるプロセスです。架橋試薬(または架橋剤)は、複数の反応性末端を含有する分子であり、タンパク質上や分子上の特定官能基(第一級アミン、スルフヒドリルなど)へ化学的結合できます。

単一タンパク質上の2個の基がお互い結合すると、分子内架橋が起こり、タンパク質の三次構造または四次構造が安定化します。2種類のタンパク質上のそれぞれの基が結合すると、分子間架橋が起こり、各タンパク質どうしの相互作用が安定化します。また、サンプルが2種類の精製タンパク質(例:抗体と酵素)による混合物である場合、分子間架橋によって、検出手順用の特定コンジュゲートが生成されます。最後に、スライドガラスやビーズ樹脂などの固体素材上のタンパク質と化学基がお互い結合すると、タンパク質は表面へ固定化されます;各種アッセイやアフィニティ精製システムにおいて、タンパク質固定化は基本的な技法となります。

そのため、架橋は以下をはじめとした様々な目的に活用されています:

  • 解析のために、タンパク質の三次構造と四次構造を安定化させる
  • 未知のタンパク質相互作用や相互作用ドメインの捕獲と識別を行う
  • 抗体や精製タンパク質へ酵素やタグを結合させる
  • アッセイやアフィニティ精製のために、抗体やタンパク質を固定化させる
  • 取扱いや保管がしやすいように、大きめの「キャリア」タンパク質へペプチドを結合させる

架橋剤を選択するには、以下のように、各化学的反応性(特定官能基に対する特異性)や、化学的性質(各種の特定用途で使いやすくなるように)をご考慮ください:

  • 化学的特異性:試薬の有する各末端の反応性基が、同一または異質のいずれか(ホモ二官能性構造またはヘテロ構造のどちらを有しているか?)
  • スペーサーアーム長:アームが切断可能であるか(必要に応じて、リンケージを裏返したり破壊できるか?)
  • 水溶解性と細胞膜透過性:(試薬が細胞内に浸透し、かつ膜内で疎水性タンパク質を架橋できる見込みがあるか?もしくは、そのいずれかが可能であるか?)
  • 自然反応性基または光反応性基:(試薬は、サンプルへ添加され次第即座に反応するか?もしくは、特定時点で反応を活性化できるか?)

タンパク質の化学的修飾

タンパク質の解析法と検出法に必要なのは、通常二官能性架橋剤や活性化標識試薬への直接結合だけではありません。例えば、分子量を追加させる、貯蔵用に溶解度を上げる、または後続の反応工程で標的可能な官能基を新たに作製するには、一般的に特殊なタンパク質修飾法を実行する必要があります。

つまり、タンパク質修飾試薬は、官能基の分子範囲のブロック、追加、変更または拡張を行う化学薬品と言えます。(より一般的には、タンパク質修飾は、 ポリペプチド切断のためにプロテアーゼや還元剤も組み込みます。これらは全く別種のテーマであるため、別の記事で扱うのがよいかもしれません。)修飾試薬の種類と目的は、以下の3例で端的に表されます:

  • PEG化:タンパク質へ化学結合したポリエチレングリコール(PEG)基(単一または分枝鎖状)は、標識法や修飾法の方式です。主にタンパク質へ水溶性や不活性分子量を追加するために用いられます。反応性化学基を含むよう合成されたPEG化方式は、PEG化用の既製の活性試薬です。
  • スルフヒドリル基のブロック:タンパク質スルフヒドリル基(システイン側鎖)は、タンパク質の構造と機能における重要な調節因子です。また、恒久的にスルフヒドリル基と反応できる試薬(例:NEM)、または可逆的に反応できる試薬(例:MMTS)もあります。これらの試薬は、ネイティブのスルフヒドリル基上に微細な「キャップ」を取り付けるため、特異的アッセイ用に特定酵素の活性を制御することができます。
  • アミンをスルフヒドリル基へ変換:SATAや関連試薬には、アミン反応性基および被保護スルフヒドリル基が含有されています。化合物を精製タンパク質へ反応させることにより、リジン残基側鎖を修飾して、スルフヒドリル特異的な架橋剤または固定化化学物質を標的とする、スルフヒドリル基を含有させることができます。この手法では、アミンはスルフヒドリル基へ変換されず、第一級アミンにスルフヒドリル含有基を結合させます。また、この影響により側鎖長が数オングストローム拡張します。

対象製品

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.