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ペプチド合成とは、二つのアミノ酸により形成されるペプチド結合として特徴付けることができます。ペプチドは明確に定義されているわけでではありませんが、一般に柔軟な(小さな二次構造の)最大30~50個のアミノ酸で構成されるものを指します。
アミノ酸を同時に連結させるペプチド結合を形成する技法は、100年以上前に誕生しています。しかしオキシトシンやインスリンといったペプチド合成が最初に達成されたのは、その後50〜60年経ってからです。これは、アミノ酸鎖の化学的合成がいかに困難な課題であるかを物語っています(1)。タンパク質合成の化学と技法は過去50年間にわたり進化し続け、現在ペプチド合成はハイスループットな生物学的研究、そして製品や薬剤開発にまで一般的に応用されるようになりました(2)。
現在のペプチド合成戦略は、生体試料中に見られるペプチドを作製できるだけではなく、創意工夫を凝らしてユニークなペプチドを生成することによって目的の生物学的応答や実験結果を最適化できるといった利点があります。本ページではペプチド合成に関する重要点、合成と精製の主な技法、各戦略の長所と短所などをご紹介いたします。
1950年代から1960年代のペプチド合成の発明に触発されて、以下をはじめとした、様々なアプリケーション分野が開発されました:病原性タンパク質に対するエピトープ特異的抗体の開発;タンパク質機能の研究;タンパク質の同定と特性評価。さらに合成ペプチドは、細胞のシグナル伝達に重要な役割を果たすキナーゼやプロテアーゼといった、重要な酵素クラス内の酵素-基質間相互作用に関する研究に使用されています。
細胞生物学において新たに発見された酵素の受容体結合や基質認識の特異性については、相同の高い合成ペプチドを用いて研究が行われています。合成ペプチドは天然ペプチドに類似しており、癌やその他主要疾患の薬剤として作用します。さらに合成ペプチドは、質量分析(MS)ベースのアプリケーションで標準物質や試薬として利用されています。合成ペプチドは、タンパク質に関するMSベース検出・特性評価・定量化において重要な役割を果たし、特に疾患の早期バイオマーカーとしても機能します
一般にペプチド合成は、新たなアミノ酸のカルボキシル基がペプチド鎖のN末端へ結合することによって起こります。こうしたC末端からN末端への合成は、タンパク質にみられるアミノ酸のN末端がタンパク質鎖のC末端へ結合される(N末端からC末端)合成とは対照的です。In vitroタンパク質合成の性質は複雑であるため、正確に段階的かつ周期的にアミノ酸をペプチド鎖へ添加する必要があります。一般的な各ペプチド合成法にはいくつかの違いがありますが、段階的手法でアミノ酸を1つずつペプチド鎖へ添加するステップは全てにおいて共通です。
アミノ酸には多数の反応性基が含まれるため慎重にペプチド合成を行わないと、副反応の発生によりペプチド鎖長の減少やペプチド鎖の分岐に繋がる可能性があります。副反応を最小限に抑えつつペプチドを形成させるため、アミノ酸の反応性基に結合し、非特異的反応由来の官能基をブロックまたは保護する保護基が開発されました。
合成を始める前に、ペプチド合成用の各精製アミノ酸をこれらの保護基に反応させます。その後、次のアミノ酸がペプチド鎖へ特異的結合後、新たに追加したアミノ酸から特定保護基を除去します(脱保護と呼ばれる工程)。ペプチド合成が完了したら、残存した保護基を新生ペプチドから完全に除去します。ペプチド合成法に応じて一般に3種類の保護基を使い分けます。下項をご参照ください。
アミノ酸のN末端は、比較的除去されやすくペプチド結合が形成されやすくなるため、「一時的」保護基と呼ばれる基によって保護されています。主なN末端保護基としては、tert-ブトキシカルボニル基(<355>Boc</355>)および9-フルオレニルメトキシカルボニル基(<358>Fmoc</358>)の2つが挙げられます。これらの基はそれぞれ特性が異なるため、用途も異なります。新たに追加されたアミノ酸からBocを除去するには、トリフルオロ酢酸(TFA)などの強めの酸が必要になります。一方Fmocは塩基に不安定な保護基であり、ピペリジンなどの弱塩基で除去されます。
Boc化学(1950年代に初の論文発表)は酸性条件でないと脱保護されませんが、Fmoc化学(Boc化学の20年後に初報告)は穏やかな塩基性条件下で切断されます(3,4,5,6)。Fmoc化学は脱保護条件が穏やかであり品質や収量が高いため、主に大量生産に利用されています。一方Boc化学は、複雑なペプチド合成の用途や、塩基感受性の非天然ペプチド/類似体の合成に適しています。
適用するペプチド合成のタイプによって、使用するC末端保護基が異なります;例えば液相ペプチド合成では、最初のアミノ酸のC末端(C末端アミノ酸)を保護する必要がありますが、固相ペプチド合成では保護する必要はありません。これは、固体支持体(樹脂)がC末端アミノ酸に対してのみ保護基として機能するためです(タンパク質合成戦略をご参照ください)。
アミノ酸側鎖は多様な官能基をもつため、ペプチド合成中の大部分の側鎖反応部位がアミノ酸側鎖によって占められます。そのため多様な保護基が必要とされます。ただし通常保護基は、ベンジル基(Bzl)またはtert-ブチル基(tBu)が基本です。ペプチド配列やN末端保護基のタイプに応じて、目的のペプチド合成に用いる各保護基がそれぞれ異なります(次項を参照ください)。側鎖保護基は、合成期のサイクル中の化学処理に耐性があり、合成完了後に強酸で処理しない限り除去されないことから、永久的保護基として知られています。
一般にペプチド合成には多数の保護基が使用されるため、当然、個々の保護基を脱保護させると同時に他の保護基には干渉しない保護基が求められます。そのため保護基に適合した保護スキームが設定されており、ある保護基が脱保護されても他の保護基の結合には影響がありません。ペプチド合成中には、N末端の脱保護が持続的に発生します。その結果、脱保護の最適化のために多種多様な側鎖保護基(BzlはBocに適合;tBuはFmocに適合)に適合した保護スキームが確立されました。またこれらの保護スキームには、合成と切断の各工程が組み入れられています。下表および本ページ下項をご参照ください。
保護スキーム | 脱保護 | 結合 | 切断 | 洗浄 |
---|---|---|---|---|
Boc/Bzl | TFA | DMFにおける 結合剤 | HF, HBr, TFMSA | DMF |
Fmoc/tBut | ピペリジン | TFA |
特に酸性条件下などで保護基を除去すると、ペプチド鎖上の官能基をアルキル化させるカチオン種が産生されます。したがって脱保護工程で水、アニソールまたはチオール誘導体といったスカベンジャーを過剰に添加することによって、遊離型の反応種と反応させることが可能です。
合成ペプチドのカップリングには、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)またはジイソプロピルカルボジイミド(DIC)などのカルボジイミドを用いて、アミノ酸上のC末端カルボン酸を活性化させる必要があります。これらのカップリング試薬はカルボキシル基と反応して、高反応性のO-アシルイソウレア中間体を形成します。この中間体は、ペプチド鎖N末端上の脱保護された第一級アミノ基からの求核攻撃によってすみやかに置換されます。
カルボジイミドにより、アミノ酸のラセミ化が起こる反応性中間体が形成されます。そのため一般に1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt) といった、O-アシルイソウレア中間体と反応する試薬を添加します。この試薬により低反応性の中間体が形成され、ラセミ化の起きるリスクが低減されます。またカルボジイミドにより副反応が起こることから、次のようなカップリング試薬の使用も考えられます:ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOP);または、2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル) -1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)。上記のカップリング試薬には、アミノ酸結合を媒介する活性化塩基が必要です。
アミノ酸の脱保護と結合の連続サイクル後には、残存した保護基をペプチドから完全に除去する必要があります。これらの保護基は酸分解によって切断されます。また切断に使用する化学物質は、適用する保護スキームによって異なります:Boc基やBzl基の切断にはフッ化水素(HF)、臭化水素(HBr)またはトリフルオロメタンスルホン酸(TFMSA)などの強酸を使用します。またFmoc基やtBut基の切断には、TFAなどの比較的穏やかな酸を使用します。適切に切断を行えば、最後に追加したアミノ酸N末端保護基、第一アミノ酸由来のC末端保護基(化学物質または樹脂)が、最初のアミノ酸と全ての側鎖保護基から除去されます。切断工程では、脱保護工程と同様にスカベンジャーも使用して遊離保護基と反応させます。切断は適切なペプチド合成に重要であるため、酸触媒による副反応を回避するために最適化する必要があります。
液相ペプチド合成法はin vitroペプチド合成法が最初に発見された際に用いられた古典的手法であり、現在でも大規模合成に一般的に利用されています。しかしこの合成法は、各工程後に産物を反応液からマニュアルで除去しなければならないため、処理時間や手間がかかります。さらにこの手法では、第一アミノ酸C末端を保護するために別の保護基基を必要とします。とはいえ液相ペプチド合成法には、各工程後に生成物が精製されるため副反応を検出しやすいといった利点があります。また収束的合成法では、合成させた後の各ペプチドを互いに結合させることによって大型ペプチドを合成できます。
とはいえ現在では、固相ペプチド合成法がペプチド合成法として圧倒的に一般的です。C末端を化学基で保護する代わりに、ポリスチレンやポリアクリルアミドなどの活性化固体支持体へ第一アミノ酸C末端を結合させます。このタイプの手法は、次のように2倍の効果が得られます:樹脂がC末端保護基として作用する;合成中に種々反応混合物からペプチド生成物を素早く分離できる。様々な生物学的産生プロセスと同様に、オートメーションやハイスループットのペプチド産生に向けたペプチド合成機が開発されています。
ペプチド合成戦略は最適化されており大量生産に対応するものの不完全な要素もあります。脱保護が不完全であったり遊離保護基との反応が起こると、配列の切断や欠損または異性体、副生成物などが生じる可能性があります。こうした現象はペプチド合成におけるどの段階でも起こり得ます。したがってペプチド配列が長いほど、何らかの理由によって標的ペプチドの合成が妨害される確率が高まります。つまり、ペプチド収量はペプチドの長さに反比例します。
一般に精製戦略では、ペプチドのサイズ、電荷、疎水性といった物理化学的特性を利用した各分離法を組み合わせて実行します。各精製法は、以下のとおりです:
逆相クロマトグラフィー(RPC)は、ペプチド精製法として非常に汎用性が高く最も一般的です。従来のHPLC法では、固定相が極性をキャプチャーし、親水性分子は移動相中の極性溶媒の濃度上昇により差次的に溶出されていきます。RPC(逆相クロマトグラフィーという名称が示すように)は、疎水性のC4、C8またはC18のn-アルキル炭化水素リガンドを用いて、水溶液由来の疎水性分子が固定相へキャプチャーされます。またこれらの保持時間は、分子と移動相の疎水性に相関します。
ペプチドの精製において、RPCは合成工程由来の次のような不純物から標的ペプチドを分離させます:遊離型の結合基や保護基との副反応によるペプチド産物、側鎖反応を受けたペプチド産物、異性体、欠失配列。
ペプチドの純度は、ペプチド結合の吸収波長(210~220 nm)により、不純物に対する標的ペプチドの割合から測定します。下記のようにペプチドの使用用途に基づいて、各種純度レベルのペプチドが購入可能です:
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.