このウェスタンブロッティングトラブルシューティングでは、視覚的に確認できる良くある問題(バックグラウンドが高い、シグナルが弱い/検出されない、非特異バンドが複数検出される、画像にムラがあるなど)について、それぞれ考えられる原因と解決策を紹介しています。
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タンパク質ゲル電気泳動のトラブルシューティング
バンドの解像度が悪い、レーンに筋が入る、まっすぐ流れない
考えられる原因 | 対策 |
レーンあたりのタンパク質ロード量が多すぎる。 | フィルムへの露光時間を短くする。適当なサンプルロード量は、10 ~ 17 ウェルのミニゲルの場合、バンドあたり0.5 µg、レーンあたりライセート 10 ~ 15 μg 程度の量です。 |
粘性サンプル、複数のレーンの端で筋が入る、バンドがダンベル状になる、レーン幅が広くなる
タンパク質の凝集でレーン幅が狭くなりバンドが判別できない
考えられる原因 | 対策 |
DNA のコンタミネーション(細胞ライセート中のゲノム DNA によって粘性が生じタンパク質の凝集が起こることで、電気泳動時のタンパク質の移動が妨げられ解像度が悪くなる。) | ゲノム DNA を分解してサンプルの粘性を下げる。 |
考えられる原因 | 対策 |
サンプル中の塩濃度が高い。塩濃度が高いと導電率が高くなり、塩濃度の低い隣接するレーンに対してバンドが広がるようにタンパク質が移動してしまう。 | 透析や脱塩カラムにより塩濃度を下げる。おすすめの透析デバイスは、Slide-A-Lyzer MINI Dialysis Device, 0.5 mL です。 |
限外ろ過によりタンパク質を濃縮しつつ塩濃度の低いバッファーに置換する。おすすめの限外ろ過カラムは、Pierce Protein Concentrators PES, 0.5 mL です。 |
塩濃度が 100 mM を超えないようにする。 |
ゲル電気泳動中の界面活性剤(例:SDS, Triton X-100)の濃度が高い。 界面活性剤がゲル内で SDS とミセルを形成することで、SDS とタンパク質との結合が崩れる。 | 非イオン性界面活性剤である Triton X-100、NP-40、Tween 20 は、SDS ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)を阻害する。この影響を抑えるため、非イオン性界面活性剤は、SDS の 1/10 以下になるように注意する。 |
Detergent Removal Columns や Thermo Scientific Pierce SDS-PAGE Sample Prep Kit を利用して過剰な界面活性剤を除去する。 |
RIPAバッファーの持ち込み量が多いとレーン幅が広がったり筋が入ったりする。 | 細胞溶解に使用したバッファーが泳動に影響を与える場合は、ライセートを希釈してから泳動する。 |
考えられる原因 | 対策 |
ライセートやサンプルバッファー中の還元剤使用量が過剰 | SDS-PAGE における還元剤の推奨量は、DTT(dithiothreitol)と TCEP(tris(2-carboxyethyl) phosphine)が 50 mM 以下、β-ME(β-mercaptoethanol)が 2.5%以下となります。 |
標準的なウェスタンブロッティングのトラブルシューティング
考えられる原因 | 対策 |
抗体の濃度が高すぎる。 | 抗体の濃度を下げる(特に一次抗体)。 |
タンパク質ロード量が多すぎる。 | ゲルにロードするサンプルの量を下げる。 |
化学発光シグナルが強すぎる。 | フィルムへの露光時間を短くする。 |
検出試薬の濃度を下げる。 |
検出試薬の反応時間を短くする。 |
検出試薬を、反応後に出来るだけ除去する。 |
抗体(特に HRP や AP が標識されている抗体)の濃度を下げる。 |
考えられる原因 | 対策 |
抗体の濃度が高すぎる。 | 一次抗体や二次抗体の濃度を下げる。 |
ブロッキングバッファーが合っていない。 | アビジン-ビオチンシステムの場合、ミルクの利用を避ける。ミルクに含まれるビオチンが原因でバックグラウンドが高くなる。 |
リン酸化タンパク質の検出を行う場合、PBS のようなリン酸バッファーやミルクのようなリン酸化タンパク質を含むブロッキングバッファーの使用は避ける。ブロッキングバッファーとして、BSA(in TBS バッファー)を代わりに使用する |
転写していない新しいきれいなメンブレンをブロッキング処理した後、抗体を反応し洗浄後に検出試薬を反応させることで、ブロッキングバッファーへの抗体の交差反応が起こるかどうかをテストする。 |
アルカリフォスファターゼ(AP)を標識した抗体を利用する場合、PBS は AP 活性を阻害するため TBS ベースのブロッキングバッファーを使用する。 |
別のブロッキングバッファーを検討する。目的に合ったブロッキングバッファー選択には、blocking buffer selection guide をご参照ください。 |
非特異サイトへの結合を十分にブロッキングできていない。 | ブロッキングバッファー中のタンパク質濃度を上げる。 |
ブロッキング時間や温度を最適化する。少なくとも室温で 1 時間、または 4 ℃で一晩ブロッキングする。 |
ブロッキングバッファーに Tween 20 界面活性剤を添加することでバックグラウンドを抑える効果が期待できる。しかし、界面活性剤を過剰量使用すると、抗体の結合が阻害される。一般的に終濃度が0.05%でワークする。0.05% Tween 20 を含む市販のブロッキングバッファーが便利です。例えば、 Thermo Scientific StartingBlock T20 Blocking Buffer(TBS)または(PBS)や、SuperBlock T20 Blocking Buffer(TBS)や(PBS)がおすすめです。 |
0.05% Tween 20 を含むブロッキングバッファーで抗体を希釈する。 |
Thermo Scientific SuperSignal Western Blot Enhancer を使用してバックグラウンドを下げつつ検出シグナルを増強する。 |
洗浄が不十分 | 洗浄バッファーの量と洗浄回数を増やす。 |
洗浄バッファーに Tween 20 界面活性剤を終濃度 0.05%になるように添加する。Tween 20 の濃度が高すぎると、メンブレンからタンパク質が剝れる場合がある。 |
メンブレンの取り扱いが不適切 | メンブレンのメーカー取扱説明に従い、必要な前処理を行う。 |
きれいなグローブやピンセットでメンブレンを取り扱う。 |
メンブレンの乾燥を避けるため、適切な溶液でメンブレン全体を覆うようにする。 |
インキュベーションの際に振盪する。 |
メンブレンの取り扱いに注意する。メンブレンにダメージを与えると非特異結合が生じる可能性がある。 |
利用する器具や消耗品にコンタミネーションがある。 | フレッシュなバッファーを準備し、使用前にフィルターにかける。 |
コンタミネーションがない泳動槽、転写装置、トレイを使用する。 |
化学発光シグナルが強すぎる。 | フィルムへの露光時間を短くする。 |
検出試薬の濃度を下げる。 |
検出試薬の反応時間を短くする。 |
検出試薬を、反応後に出来るだけ除去する。 |
抗体(特に HRP や AP が標識されている抗体)の濃度を下げる。 |
考えられる原因 | 対策 |
転写されない、または転写効率が悪い。 | 転写後、ゲルを染色して残存タンパク質を検出することで、転写効率を確認する。 |
転写後、Thermo Scientific Pierce Reversible Protein Stain Kit(PVDF)や(Nitrocellulose membranes)のメンブレン染色試薬で転写効率を確認する。 |
ゲルとメンブレンの間に隙間ができないよう、空気を除くためにローラーをかける。 |
転写スタック(ゲル、メンブレン、ろ紙のサンドイッチ)は、転写方向に注意して正しい向きにセットする。 |
メンブレンのメーカー取扱説明に従い、必要な前処理を行う。 |
着色済みマーカー(プレステインマーカー)をポジティブコントロールとして利用して転写効率を確認する。 |
Invitrogen iBright Prestained Protein Ladder や Invitrogen MagicMark XP Western Protein Standard などの抗体結合サイトを持つ分子量マーカーをポジティブコントロールとして利用する。 |
転写時間を長くする/電圧を高くする。 |
サンプル調製の際に目的タンパク質の抗原性が損なわれないように注意する。(タンパク質によっては還元条件で泳動しない方が良い場合がある)。 |
メンブレンへの結合が不十分 | 低分子量の抗原の場合、転写バッファーにメタノールを終濃度 20%程度添加することでメンブレンへの結合が促進されメンブレンを通過するのを抑えることができる。 |
転写時間を短くする。低分子量の抗原はメンブレン上に留まらず通過することがある。 |
高分子量タンパク質の転写の場合、転写バッファーに SDS を終濃度 0.01 ~ 0.05%になるように添加することでゲルからメンブレンへの移動効率が改善されることがある。 |
メンブレンのタイプを変更する(ニトロセルロースと PVDF との変更)。 |
ポアサイズの小さなメンブレンに変更する。 |
抗体の濃度が低すぎる。 | 抗体の濃度を上げる。目的タンパク質への抗体のアフィニティーが落ちているかもしれない。 |
抗体が失活しているかもしれない。ドットブロットを行って活性を確認する。 |
抗原量が不十分 | ゲルへのタンパク質ロード量を増やす。 |
ブロッキングバッファーによって抗原がマスクされている。 | ブロッキングバッファーのタンパク質濃度を下げる。 |
別のブロッキングバッファーを検討する。目的に合ったブロッキングバッファー選択には、blocking buffer selection guide をご参照ください。 |
バッファーにアジ化ナトリウムが含まれる。 | アジ化ナトリウムは、HRP を阻害する。HRP 標識抗体との併用を避ける。 |
化学発光シグナルが弱すぎる。 | 検出試薬の反応時間を長くする。 |
フィルム露光時間を長くする。 |
検出試薬の期限が切れてないことを確認する。 |
タンパク質が微量な場合、高感度な化学発光検出試薬である Thermo Scientific SuperSignal West Atto Ultimate Sensitivity Substrateを用いて検出する。 |
ストリップ&リプローブ済みのメンブレンを使用した。 | 同じメンブレンのストリッピング回数は少なくする。 |
抗原へのダメージを抑えるために、ストリッピングバッファーの反応時間を短くする。 |
メンブレン上の抗原が分解した。 | ブロッキング剤がタンパク質分解活性を持つことがある(例:ゼラチン)。 |
ブロットを長期保管したことでタンパク質が分解した。 | 新しいブロットを準備する。 |
蛍光ウェスタンブロッティングのトラブルシューティング
考えられる原因 | 対策 |
目的のターゲットに対する抗体の特異性が不十分 | 一次抗体の濃度を上げる。 |
ウェスタンブロッティングに適合した一次抗体を使用する。 |
サンプルの完全性が不十分 | プロテアーゼ活性や過剰な加熱により目的タンパク質の一部が分解されたことで抗体との反応性が低下した。例えば、SDS サンプルバッファー中でのボイルによってタンパク質分解が疑われる場合は、熱変性処理を 70 ℃、10 分に変更する。 |
マルチプレックス検出における抗体の交差反応 | 遠縁の動物種由来の一次抗体を選択する。 |
高次吸着処理(highly cross-adsorbed)した二次抗体を使用する。 |
二次抗体量を減らす。 |
マルチプレックス検出の際に、他のチャンネルからの漏れ込みがある(予期しないバンドが検出される)。 | シグナルの強い蛍光色素を利用している場合は、他の色素はスペクトルの近いものを避ける。 |
蛍光色素が利用するイメージャー設定に適合しているか確認する。 |
イメージャーの Autoexposure 機能を利用して、各チャネルごとに最適な露光時間を設定する。 |
考えられる原因 | 対策 |
目的のターゲットに対する抗体の特異性が不十分 | 一次抗体の濃度を上げる。 |
一次抗体が目的抗原に対して十分な抗体価を持ち、抗原特異的な検出が行われるか確認する。 |
サンプル中の存在量が低いタンパク質の検出の際は、泳動量を増やして一次抗体濃度を上げる。 |
インキュベーション時間を 4 ℃で一晩、もしくは室温で 3 ~ 6 時間と長めにする。 |
抗体エンハンサー試薬を試してみる。 |
抗体の失活 | 抗体が適切に保存されていたか確認する。 |
抗体の使用期限を確認する。 |
希釈済みの抗体を使いまわすのは避ける。 |
露光時間が短すぎる。 | 露光時間を長くする。 |
iBright FL1000 system の Smart Exposure 機能を利用して最適画像を取得する。 |
不適切な装置設定 | 利用する蛍光色素に対して励起、蛍光の範囲を適切に選択しているか確認する。 |
界面活性剤の使用 | 界面活性剤が多すぎるか使用した界面活性剤の性質により、シグナルが洗い流されることがある。界面活性剤の濃度を下げるか除去する。 |
ブロッキングバッファーが抗原をブロック | 1 時間以上のブロッキングなど、ブロッキング条件によっては抗原をマスクし抗体の反応性が下がってしまう。 |
洗浄バッファーで一次抗体を希釈する。 |
別のブロッキングバッファーを検討する。 |
ゲルにロードするサンプルの量 | 高濃度のライセートを泳動した場合、目的タンパク質が過密になり、抗原量の割に抗体の反応量が落ちる。 |
ライセートの泳動量が少なすぎると検出に十分な抗原量が確保できない。 |
サンプルを段階希釈して電気泳動することで、適当なタンパク質泳動量を検討する。 |
タンパク質の転写効率が悪い、転写後にタンパク質が無くなる。 | タンパク質転写条件を確認する。 |
初めて検出するタンパク質の場合、通常、最適な条件を検討する必要がある。 |
バックグラウンドに関する問題(高い、不均一、または斑点がある)
考えられる原因 | 対策 |
メンブレンのコンタミによるバックグラウンドの上昇 | メンブレンに触れるピンセット、ハサミ、トレイや容器はきれいなものを使用する。 |
実験ごとに最適なブロッキングバッファーを選択するのが望ましい。一次抗体は、ブロッキングバッファーが変われば反応性も異なる。動物の正常血清やミルクを用いたブロッキングバッファーの場合、交差反応が生じることがある。 |
一般的に界面活性剤には自家蛍光があり蛍光検出におけるバックグラウンドの原因となるため、ブロッキングの際に出来るだけ界面活性剤を使用しない。ブロッキング後には、通常、界面活性剤は使用できる。 |
タンパク質マーカーまたはラダーの過剰ロードによるアーチファクト | 分子量マーカーのゲルへのロード量を少なくする。 |
不適切な洗浄または希釈液 | 洗浄バッファーに0.1 ~ 0.2%の Tween 20 を添加する。 |
0.05% Tween 20 面活性剤入りのバッファーで二次抗体を希釈する。 |
洗浄回数を増やすか洗浄時間を長くする。 |
過剰な量の二次抗体によるバックグラウンドの上昇 | 標識されている蛍光色素に応じて二次抗体の希釈率を検討する(メーカーの推奨濃度を参考にする)。 |
メンブレンの乾燥による、まだらで不均一なバックグランド | インキュベーションの際、メンブレン全体が浸かるようにする。 |
インキュベーションの際、一定のペースで穏やかに浸透する。 |
メンブレンの不適切な選択 | メンブレンの性質によりバックグラウンドが生じることがある。特に PVDF メンブレンは自家蛍光によりバックグラウンドが高くなるため、蛍光検出用の PVDF メンブレンを使用する。 |
メンブレン上の斑点および指紋 | きれいなピンセットを使い、メンブレンの端をつまむようにする。汚れたピンセットから微粒子などが付着するとバックグラウンドの原因となる。 |
きれいなトレイなどの容器を使用する。トレイや容器はメタノールでリンスしてから洗浄すると残存する汚れを除去しやすい。 |
特にウェット式の場合、斑点の原因となるので転写装置や消耗品の汚れを除去してきれいにする。 |
イメージを取り込む前に、イメージャー(特にサンプル台)をエタノールで拭いて、埃、糸くず、汚れを除去する。 |