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弊社R&Dの科学者はThermo Scientificヒトin vitro翻訳システムを使用して、様々なタンパク質100種を発現させ、開発段階において95%の成功率を得ました。この概説では、DNAテンプレート(発現ベクターまたはPCR産物)またはmRNAテンプレート(in vitro転写反応)を使用するお客様独自のin vitro翻訳実験において、優れた結果、発現レベルを実現していただけるよう、重要なステップについて取り上げます。
in vitro翻訳用の遺伝子を準備するために、まずタンパク質合成に必要な適切なエレメントを把握します。研究者は遺伝子を、オープンリーディングフレームのコレクション、細胞またはプラスミドからPCR増幅することで入手できますが、こうしたコード配列は一般的にヒトin vitro発現に最適化されていません。以下の項目では、mRNAの安定的な転写と効率的な翻訳を確実に行うために、コード配列に隣接すべき重要なエレメントについて解説します。これらのエレメントは対象遺伝子を弊社推奨の発現ベクター(全てのPierceヒトin vitroタンパク質発現キットに含まれています)にクローニングするか、PCRにより必要なエレメントを付加することで導入可能です。
ヒトin vitro翻訳システムは、Thermo Scientific pT7CFE1 expression vectorにクローニングしたcDNAを用いて最適化されています。ここからはヒト無細胞システムにおいて効率的なin vitro翻訳を実現するベクターに含まれる重要なエレメント(特にIRESエレメント)についてご説明します。
バクテリオファージRNAポリメラーゼは、細菌や高等生物由来の複数サブユニットからなるRNAポリメラーゼよりも、迅速に繰り返し転写を行うのに優れています。単量体のバクテリオファージRNAポリメラーゼは効率が高く、比較的単純な構造であるためin vitroでの転写反応に理想的です。こうした理由から、T7バクテリオファージRNAポリメラーゼをヒトIVTシステムでの転写に選択しました。したがって、ヒトin vitro発現システムを使用したin vitro転写反応では、mRNAを生成するためT7 RNAポリメラーゼプロモーターをコード配列上流に挿入する必要があります。pT7CFE1-CHis Expression Vector(ヒトIVTキットに含まれています)は、転写反応ミックスに含まれているT7ポリメラーゼとともに働くT7 RNAポリメラーゼプロモーターを持っています。
注記:pT7CFE1-CHisのT7 RNAポリメラーゼプロモーター配列(ヌクレオチド1-18)は、5'-taatacgactcactatag-3'です。
転写ターミネーターを含む配列は、転写装置において遺伝子の終わりを示します。mRNAコーディング領域の末端に非常に長いノンコーディング配列が続く場合または環状プラスミドテンプレートの場合は、このエレメントが非常に重要です。ターミネーター配列は、均一な長さと安定性を持つmRNA合成を可能にするのに加え、転写反応の材料であるNTPsの枯渇を防ぐのに役立ちます。
注記:pT7CFE1-CHisのT7ターミネーター配列(ヌクレオチド700-747)は、5'-tagcataaccccttggggcctctaaacgggtcttgaggggttttttg-3'です。
すべての真核生物のmRNAはin vivoで5’キャップ構造を持っており、この構造には5’-5’三リン酸架橋を介してmRNAの最初のヌクレオチドと結合する7-メチルグアノシン(m7G)が含まれています。5’キャップはエキソヌクレアーゼによる転写産物の分解を防ぐことで、効率的な翻訳を促進しmRNAの半減期を伸ばします。
また5’キャップは、その代替として脳心筋炎ウイルス(EMCV)由来のinternal ribosome entry site(IRES)に置き換えることが可能です。IRESエレメント独自の二次構造により、mRNAへのリボソームのリクルートと翻訳の開始が非常に効率的に行われます。この特性により、IRESエレメントを持つmRNAから、5’キャップを欠いた状態でも非常に高レベルなタンパク質発現を実現することができます。pT7CFE1-CHis expression vectorを用いてT7 RNAポリメラーゼにより転写された全てのmRNAはIRESエレメントを持っており、ヒトIVTシステム使用時に最適な発現レベルを促進します。
IRESエレメントに関する重要事項:1-Step Human IVT KitはDNAテンプレートまたはRNAテンプレートと一緒にご利用いただけます。IRESエレメントを持たない代替発現ベクターから生成したmRNAをすでにお持ちの場合、タンパク質収量は大幅に減少する可能性があります。mRNAをキャッピングすることで安定性および翻訳効率を向上させることができます。in vitroでのmRNAキャッピングキットをご利用いただけますが、5’をキャップしたmRNAの発現レベルはIRESエレメントを使用する場合と比較して大幅に減少する可能性があります。IRESエレメントまたは5’キャップを欠いた状態でのin vitro翻訳では、結果をお約束できません(データ参照)。
注記:pT7CFE1-ChisはEMCV IRES配列(33 bp~535 bp)を持ちます。
真核生物のmRNAで見られるコザックコンセンサス配列[(gcc)gccRccAUGG]は翻訳開始過程で重要な役割を果たしています。pT7CFE1-CHisから転写されたmRNAでは、IRESエレメントはリボソーム結合部位として機能しています。一方でコザック配列は、翻訳を開始するための適切なATGコドンをリボソームに認識させるのに役立っています。原核生物のShine-Dalgarno配列は真核生物のin vitro翻訳システムでは機能しません。
注記:pT7CFE1-CHisのコザック配列(ヌクレオチド524-536)は、5'-gatgatAatATGG-3'です。
アフィニティタグを用いることで、組換えタンパク質精製を非常に簡便に行うことができます。よって、完全長組換えタンパク質の精製および検出を促進する目的で、pT7CFE1-CHisはC末端ヒスチジンタグ配列を持ちます。ヒスチジンタグを使わずにタンパク質発現を行う場合は、cDNAの最終アミノ酸コドンの直後に終止コドンを配置してください。
注記:pT7CFE1-CHisの6xHisのコード配列(ヌクレオチド611-628)は5'-caccaccaccaccaccac-3'です。
真核生物のmRNA 3’末端にあるポリアデノシンテイル(ポリAテイル)は、翻訳終了コドンの下流に付加される最大で200-300のポリアデノシンリボヌクレオチド配列です(例外:ヒストンmRNAの3’末端には、ポリAテイルの代わりにステムループ構造とプリンリッチ配列があります)。ポリアデニル化はRNaseからmRNAを保護し、翻訳を助けていることが知られています。mRNAの3’末端にアデノシンリボヌクレオチドの伸張が30あれば、in vitro翻訳での安定的な転写には十分です。
注記:pT7CFE1-CHisのポリAテイル配列(ヌクレオチド642-671)は5'-aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa-3'です。
pT7CFE1-CHis expression vectorは適切なエレメントすべてを有しているため、ヒトin vitro翻訳システムでの発現に最適化されています。マルチクローニングサイトには11のユニークな制限酵素切断部位があり、お客様のcDNA配列にはない部位を選択することができます。適切な翻訳を行うため、Msc1制限酵素部位の上流にある「ATG」開始コドンとクローニングしたcDNAが、フレーム内に確実に入るようにしてください。さらにpT7CFE-CHisベクターには、精製を補助するためのC末端6Xヒスチジンタグ配列を持ちます。C末端のヒスチジンタグを融合したくない場合は、適切に翻訳を終了させるため「翻訳終止コドンをcDNAのコード配列の後ろに配置してください。
注記:pT7CFE1-CHisのマルチクローニングサイト(ヌクレオチド550-610)の配列は、5'-tggccaccacccatatgggatccgaattcgatatcttaatt
aagctgcaggagctcgtcgacgcggccgcactcgag-3'です。
注記:pT7CFE1-CHisでは、6xHisコード配列後ろの終止コドン(ヌクレオチド629-631)は5'-tga-3'です。
pT7CFE-CHisまたは他の発現ベクターを上記の必須エレメントとともに使用しない場合でも、in vitroでのタンパク質発現は可能です。適切な転写および翻訳エレメントをPCRによってcDNAに付加することで代替できます(PCR tech tipへのリンクを追加)。ご紹介するツーステップPCRプロトコルを用いることで、研究者はタンパク質発現の前段階のクローニングをスキップし多量のタンパク質を得ることができます。この方法は、最初のテンプレートとして任意のプラスミドまたはオープンリーディングフレームを用いる場合に有効です。
このPCR法で遺伝子に付加する上流エレメントは、T7プロモーター、IRESエレメントおよびコザック配列です。mRNAの安定性を向上させるため、cDNAの3’末端にポリA配列(21 nt)を付加することも可能です。PCR産物は精製後、あるいは直接転写に利用することもできます。転写によりmRNAを合成した後、タンパク質を翻訳するための機構を全て含んだ翻訳反応ミックスにmRNAを添加します。
これらのステップを実行するためのサンプルプロトコルは技術ヒント(Tech Tip #72)からダウンロードすることができます。
各Human Coupled IVT Kitには、実験の成功をモニターするのに役立つポジティブコントロールベクターが添付されています。DNA発現キットにはTurbo Green Fluorescent Protein(tGFP)の発現ベクターが、RNA発現キットにはtGFP mRNAがコントロールとしてそれぞれ含まれています。どちらの発現キットの場合も、GFPの発現反応は対象のタンパク質サンプルと同時に行われます。うまく発現したGFPポジティブコントロールは、定性的(視覚的検出)または定量的(分光検出)に評価することができます。
25 µLのGFP翻訳産物を、遠心チューブ内で直接可視化することができます。ヒトin vitro翻訳システムに含まれる成分は蛍光シグナルの消光を引き起こさないため、蛍光を検出する前にクリーンナップする必要はありません。ウサギ網状赤血球ライセートを使用する場合には、蛍光シグナルの消光が起こるのでこうした検出は実施できません。GFPの蛍光は、顕微鏡またはFITCフィルター(励起/発光:482 nm/512 nm)を備えたgel imagerを使用し検出することができます。
GFPポジティブコントロールとして発現したタンパク質の収量を計算するため、組換えGFP(品番88899)を用いて標準曲線を作成します。標準曲線を作成するため、組換えGFPをPBSで0.40 µg/mLから50 µg/mLに段階的に希釈します。FITCフィルター(励起/発光:482 nm/512 nm)を備えた蛍光プレートリーダー上の96ウェルまたは384ウェルプレートで、サンプルを読み取ることができます。GFP標準(濃度既知)およびGFP翻訳反応物(濃度未知)の蛍光シグナルを測定し、発現したタンパク質収量(µg/mL)を決定します。標準曲線の結果をプロットし、未知のGFP翻訳コントロールの結果を推定します。典型的なGFPの発現レベルは、90分間の翻訳反応で約25 µg/mLです。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.