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In vitro タンパク質発現(別称:in vitro 翻訳、無細胞タンパク質発現、無細胞翻訳、または無細胞タンパク質合成)技法では、研究者ご自身の手で少量の機能性タンパク質を迅速に発現・産出が行えます。In vitro法では、遺伝子トランスフェクション、細胞培養または大規模なタンパク質精製を要さないため、細菌や組織培養細胞に基づくin vivo法と比べて、非常に素早くタンパク質が発現されます。
In vitro 発現は、商業的運用における組換えタンパク質の大規模産生には実用的ではありませんが、様々な研究アプリケーションに極めて有用かつ柔軟に対応する特性があります。
In vitroタンパク質発現を達成するには、2つの基本成分が必要です:(1)標的タンパク質をコードした遺伝子テンプレート(mRNAまたはDNA);(2)所要の転写と翻訳の分子機構を含む反応液。以下のようなあらゆる反応液分子が、細胞抽出物から得られます:
細胞溶解物は、翻訳に要する適正な組成と割合の酵素およびビルディングブロックが得られます。(通常は合成を維持するために、エネルギー源とアミノ酸も添加する必要があります。)細胞質ゾルと細胞小器官の細胞成分のみ残すため、細胞膜を除去します(このため「無細胞抽出物」という用語で呼ばれます)。無細胞タンパク質発現において最初に開発された溶解物は、原核生物由来のタイプでした。さらに最近では、昆虫細胞、哺乳動物細胞およびヒト細胞由来の抽出物に基づくシステムが開発・販売されています。
無細胞タンパク質発現に用いられる抽出物は、高レベルのタンパク質合成を支持することが知られるシステムから作製されます。翻訳の維持機能がある無細胞抽出物として最初に知られたのは、E. coliから作製されたタイプでした。この分野の進歩によって、ウサギ網状赤血球溶解物(RRL)、小麦胚芽抽出物、および昆虫細胞(SF9またはSF21など)に由来した真核生物in vitro 翻訳系が開発されました。これらの真核生物系から作製された抽出物には、有効なタンパク質合成に要するリボソーム、翻訳因子およびtRNAなどの所要細胞高分子が全て含有されています(エネルギー源とアミノ酸の補充が必要)。
E. coli由来の溶解物や小麦胚芽には、内因性遺伝子メッセージが備わっていません。対照的に、ウサギ網状赤血球や昆虫細胞から作製された溶解物は、合成反応中に翻訳可能な内因性mRNAを含んでいます。外因的メッセージのみの翻訳を支援するため、これら溶解物をミクロコッカスヌクレアーゼで前処理します。内因性遺伝子と転写産物の除去後、mRNA分解を防ぐために酵素リボヌクレアーゼの阻害剤を添加します。
E. coli、RRLおよび小麦胚芽抽出物に基づいた無細胞系は、従来のin vivoタンパク質発現に比べていくつか利点があるものの、 翻訳後修飾(PTM)による完全ヒトタンパク質の生成能力が限られています。E. coliや小麦胚芽抽出物に由来する無細胞系は、タンパク質をグリコシル化させる能力がありません。ウサギ網状赤血球系において、タンパク質総収量を抑えつつグリコシル化タンパク質を産生するには、翻訳混合物へイヌのミクロソーム膜を付加する必要があります。グリコシル化タンパク質は昆虫無細胞系由来であれば、RRL系由来の場合よりも高収量が得られます。ただし、得られるグリコシル化パターンは、ヒト細胞から産生されたパターンと異なります。
弊社研究チームにより、ヒト細胞株由来の抽出物に基づいた無細胞発現系を最適化しました。(現在販売中の発現系はHeLa細胞溶解物を用いています。ただし、様々な一定成果を最適化するには、その他細胞株が使用されてきました。)本戦略で使用する溶解物では、他の哺乳動物の無細胞系よりもタンパク質収量が高く、適切な翻訳後修飾が行えます。
ヒト組換えタンパク質合成における既存の抽出物ベース系の利点と欠点使用する無細胞発現系を選ぶには、タンパク質の生物学的性質、アプリケーション、およびタンパク質発現用のテンプレートについて考察する必要があります。
系 | 利点 | 欠点 |
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大腸菌 |
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ウサギ網状赤血球(RRL) |
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小麦胚芽 |
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昆虫 |
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ヒト |
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無細胞発現系は、DNAテンプレート(転写および翻訳)やmRNAテンプレート(翻訳のみ)由来のタンパク質合成を支援できます。原則的に無細胞発現系は、二つの別個の連続反応(連結)もしくは同時発生性の単一反応(結合)として、転写と翻訳の工程を達成するようにデザインできます。
結合フォーマットを用いたThermo Scientific 1-Step Human IVT Kitsは、DNAテンプレート由来のタンパク質発現に最適化されています。しかし、mRNA(翻訳のみ)用のこれら同一試薬を用いたプロトコルが利用できます。
In vitro転写用のテンプレートDNAは、直線的、環状プラスミドまたはPCRフラグメントになり得ます。しかしDNAには、遺伝子上流に転写されるプロモーター配列が含まれている必要があります。DNA依存性RNAポリメラーゼ(RNA Pol)は、遺伝子中のプロモーター領域の同定と結合を行い、転写を開始するために、特異的なDNAシーケンスまたはDNA要素を活用します。特定のRNA Polは、サブユニットを一つしか有していません(例:T3、T7、およびミトコンドリアなどバクテリオファージ由来のサブユニット)。一方、細菌や真核生物由来のRNAポルはルチサブユニット酵素であり、効率的な転写を行うため、タンパク質因子の付加が必要です。多量体酵素は、精製サブユニットから再構成するのが困難です。対照的にバクテリオファージ由来の小単量体RNA Polは、付加的タンパク質因子による支援を必要とせずに転写(DNAテンプレート由来の転写物の終結や遊離など)を実行できます。こうした機能の備わるバクテリオファージRNA Polは、in vitro転写反応において優れたツールとなります。
In vitro転写用の各DNAシーケンス特異性を備えたファージRNAポルとして以下3種類が販売されています:
特定のバクテリオファージRNAポリメラーゼのプロモーター配列を有するクローニングベクターが販売されています。これらのクローニングベクターには、プロモーター配列下流にマルチクローニング部位が含まれています。ここでは、in vitro転写のテンプレートとして目的遺伝子を挿入して使用できます。また、上流(または前方)の遺伝子特異的プライマーの5'末端にプロモーター配列を含有する遺伝子特異的プライマーを用いて、PCRで生成されたDNAテンプレート上で転写を行うことも可能です。
翻訳において成熟mRNA転写物を生成するには、付加的な機能が必要になります。原核生物系では、適切な翻訳を促進するため、「Shine-Dalgarno」配列が必要です。真核生物系では、成熟mRNAを作製するためにmRNA前駆体の処理が必要です。以下の処理を行います:
生細胞では、こうした修飾が転写後に発生します。また、翻訳でmRNAが核から細胞質へ排出される前に、修飾を行う必要があります。真核生物mRNA前駆体の処理は複雑ですが、これらの変化によって、mRNAの安定性、翻訳効率、および精度が大幅に強化されます。
In vitro転写において、これらの配列要素を出発DNAベクターに組み込むことができ、転写の直接産物は成熟mRNAに相当します。クローニング遺伝子に適正なシーケンスを組み込ませるには、原核生物または真核生物いずれかの無細胞発現系の転写・翻訳に最適化された配列を含む市販ベクターをご利用ください。
上述の転写機構とは対照的に翻訳機構は、複雑な構成要素が多過ぎるため精製分子として個別に供給できません。全細胞抽出物により、成熟mRNAのメッセージの「読み込み」やin vitroでのポリペプチドの生成に要する翻訳装置が得られる唯一の実用的手段が可能になります。これは、翻訳後修飾の実行に要する酵素と要因にも当てはまります。
しかし、細胞抽出物の形態で所要成分の大半が供給されたとしても、選定した添加剤との翻訳反応混合物を添加する機会や価値が失われることはありません。実際タンパク質収量を向上させるには、通常抽出物へアミノ酸やエネルギー源を添加してタンパク質発現を刺激します。条件が最適化されていれば、様々な下流アプリケーションに有用量の機能性タンパク質を約1時間で合成できます。反応混合物の他に必要なのは、最適な酵素活性を維持させるインキュベーターのみです。
システムに応じて、翻訳タンパク質をさらに処理して、in vivoで観察されるタンパク質状態に類似させることが可能です。この処理とは、適切なタンパク質折り畳み、アミノ酸処理、およびタンパク質生物学を調節する翻訳後修飾などが含まれます。一般に細菌など下等生物由来のシステムでは、タンパク質の処理はほとんどあるいは一切なされません。このことは、タンパク質の溶解度や封入体形成の再発問題から明らかです。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.