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Thermo Scientific ワンステップ in vitro 翻訳製品の特徴および種類についてご紹介いたします。

Thermo Scientific ワンステップ ヒト in vitro 翻訳システムは、細胞の翻訳機構に必要な成分を含む無細胞の溶液中で、DNA または mRNA テンプレートからタンパク質を発現させる手法です。不死化ヒト細胞株から抽出された、リボソーム(翻訳の開始および延長因子)、tRNA など、タンパク質合成に必要な基本的成分を得ることができます。独自開発したシステム付属のタンパク質を添加すると、上記の抽出物、ATP およびエネルギー再生系によって、DNA テンプレートからの標的タンパク質の合成が、製品で阻害作用を取り除くことなく最大 6 時間継続的に行われます。


イントロダクションおよびプロトコル概要

ワンステップ ヒト in vitro 翻訳キット

ワンステップ ヒト IVT キットは、ヒト細胞ライセートを使用してタンパク質を合成します。細菌(E. coli)やその他(昆虫、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球などのライセート)を用いるシステムとは異なり、ヒト細胞ライセートを使用する in vitro タンパク質発現は、機能性タンパク質を数時間以内に合成することができます。発現には、DNA または mRNA テンプレートのいずれかを用います。テンプレートは、ベクターから調製するか、弊社の遺伝子オープンリーディングフレームライブラリーから入手することができます。

in vitro タンパク質発現には、mL 反応スケールとの互換性、従来の細胞ベース手法と比べて迅速(細菌の培養には一晩、バキュロウイルスタンパク質の調製には数週間を要する)などの利点があります。このスモールスケールな発現手法により、多数の突然変異体をマイクロプレートで同時に発現させること、または将来的に個々のタンパク質を大量に発現させることが容易になります。また、スモールスケールな合成は、細菌発現システムにおいて典型的な問題である封入体へのタンパク質凝集を回避するためにも有用です。さらに、in vitro でのタンパク質発現であれば、生細胞内では不可能な毒性タンパク質の発現も可能です。タンパク質発現システムは、あらゆる種のタンパク質を発現することが可能であり、原核生物および真核生物の双方からもたらされた多数の遺伝子について妥当性確認が行われています。

特長:

  • 機能的 – ヒトの翻訳機構を利用して、活性タンパク質を発現します
  • 簡便 – 転写と翻訳をワンステップで行います
  • ハイパフォーマンス – ウサギ網状赤血球 in vitro 翻訳より高収量です
  • 確実 – ウサギ網状赤血球システムでは崩壊してしまうタンパク質でも、発現させることができます

従来法よりも優秀な点:

  • HeLa 無細胞抽出液は、翻訳後修飾を受けたタンパク質を発現させることができます
  • 正確な翻訳によって、その後の用途に見合った完全なタンパク質が合成されます
  • タンパク質の翻訳は、EMCV IRES など mRNA 安定化因子で最適化されます
88881-002-Coupled-IVT-schem-361pxワンステップ ヒト 結合型 IVT キットのプロトコル概要HeLa 細胞ライセート、アクセサリータンパク質、反応ミックスを混ぜ合わせたものに適切なテンプレートを添加し、30°C で 90 分間インキュベートさせるだけで、最大 100 µg/mL のタンパク質が合成されます。より小さな反応容量であれば、マイクロプレートフォーマットでの突然変異体発現が最適です。反応容量および反応時間は、以降の用途に必要な個々のタンパク質量が多くなるほど増加する可能性があります。

販売中のヒト IVT キット 選択表

販売中の Thermo Scientific ワンステップ ヒト IVT キット

キットの種類目的
結合型 IVT90 分間の反応時間で 25 µL あたり最大 100 µg/mL の収量。mRNA テンプレート用および糖タンパク質の発現に最適な手順をご用意しております。
高収量 IVT6時間から一晩の反応時間で、0.1 mL または 2 mL あたり最大 750 µg/mL の収量。継続的にエネルギー源を供給するため、透析装置が必要です。 ハイスループット(96ウェル)に向けた手順をご用意しております。
同位体標識タンパク質 IVT同位体が 90~95% 組み込まれたタンパク質を、8 時間以内に発現させることができます。このような同位体標識タンパク質は、質量分析において、試料調製ロスのコントロールとして、分解効率を確認するため、または定量スタンダードとして使用されます。

ヒト IVT 発現されたタンパク質の用途および機能検討

酵素活性およびタンパク質相互作用に対するタンパク質機能アッセイには、障害となりうる問題がいくつかあります。例えば、好適な抗体が存在しないと、共免疫沈降およびゲルスーパーシフトアッセイによる複雑な試料のタンパク質同定、検証ができないことがあります。また、発現レベルが低いと、標的タンパク質の濃縮性能に悪い影響を与え、特定のアッセイに必要な収量を得られない場合があります。このような問題は、in vitro 発現タンパク質を使用することで解決できる可能性があります。しかしながら、多くの無細胞タンパク質発現システムは、機能性タンパク質を高レベルで合成する能力がないか、十分な確実性を有していません。こうした問題は、真核生物のタンパク質で、適切な翻訳後修飾が重大な意味を持つ場合には、より一層深刻です。

タンパク質相互作用とヒト IVT システム

あるタンパク質の機能を理解するために、他の生体分子(DNA、RNA、他のタンパク質など)とどのように相互作用しているかを分析しなければならないことがよくあります。タンパク質と核酸(DNA または RNA)の相互作用は、ゲルシフトアッセイ(EMSA)によってモニタリングすることができ、アポトーシスを再現することでその機構の制御方法を解明するために有用です。タンパク質間の相互作用は、共免疫沈降およびプルダウンアッセイで分析することができ、新たな結合パートナーを同定するために役立ちます。

in vitro 翻訳タンパク質をタンパク質相互作用アッセイに用いると、生細胞からタンパク質を抽出する必要がなくなるとともに、多様なアイソタイプまたは変異体のタンパク質を迅速かつ効率的にスクリーニングする性能を高めてくれます。以下は、ヒト IVT システムで合成された組換えタンパク質を使用したタンパク質相互作用アッセイの事例です。

A. タンパク質間相互作用:共免疫沈降アッセイ

IVT-001-Applications-350pxin vitro 発現された HA タグ付き CDK2 を用いた、CDK2 とサイクリン E1 の相互作用検出。内在性サイクリン E1 を含んだ HeLa 細胞ライセートを成分とするヒト IVT システムで、組換え CDK2 を発現させました。次に、HA タグ付き CDK2 または DNA を含まないコントロールに対して、in vitro 翻訳反応を行いました。双方の反応液をそれぞれ 200 μL ずつ使用して、抗サイクリン E1 一次抗体を用いた共免疫沈降を行い、濃縮された CDK2 とサイクリン E1 の複合体を、回収、溶出しました。溶出物(12 μL)を、in vitro 翻訳反応ミックスを添加した(9 μL)ウェスタンブロッティングによって分析し、抗 HA タグ抗体を用いて HA タグ付き CDK2 を検出しました。

B. タンパク質―DNA 相互作用アッセイ:ゲルシフトアッセイ

IVT-002-Applications-360pxin vitro 翻訳 CREB を用いた、CREB と DNA の相互作用検出。PC12 細胞ライセート中、またはヒト in vitro 翻訳反応(CREB およびベクターコントロール)における CREB の DNA 結合活性を、光シフト 化学発光 DNA EMSA キットを用いて検出しました。DNA とタンパク質の反応液は、50 mM 塩化ナトリウム 、5 mM EDTA 、25% グリセロール、0.05% NP40、8 mM スペルミジン、1 mM DTT をそれぞれ添加した 10 mM トリス塩酸バッファー(pH 8.0)で調製しました。これに、未標識のオリゴヌクレオチド(4 pmol)を添加し、室温で 5 分間反応させました。次に、ビオチン標識オリゴヌクレオチドプローブを添加し、さらに 30 分間反応させました。その後、DNA とタンパク質の複合体を、0.5 × TBE バッファー中の 5% TBE ゲル上で、100 V、4°C の条件下、 2 時間かけて単離し、さらに、45 V で 30分間のタンク式トランスファーでバイオダイン B ナイロンメンブレン(製品番号 77016)に転写しました。 最後に、Pierce 化学発光核酸検出モジュール(製品番号 89880)を用いて、架橋結合した複合体とともにビオチンを検出しました。

C. タンパク質―RNA 相互作用アッセイ:RNA ゲルシフトアッセイ

IVT-003-Applications-260pxヒト IVT システムを用いた、タンパク質―RNA 相互作用の検出。ヒト IVT キットシステムで in vitro 翻訳 Aco1 の RNA 結合能力を、RNA ゲルシフトアッセイによって分析するとともに、光シフト化学発光 RNA EMSA キット(製品番号 20158)で検出しました。Aco1 翻訳反応液のバッファーを、0.5 mL Zeba 脱塩スピンカラム(製品番号 89882)を用いて 1 × REMSA バッファーに置換し、高結合容量ストレプトアビジンアガロースビーズ(製品番号 20361)30 µL で、4°C 条件下、30分間の前処理を行いました。 前処理後のライセートを 1:20の比率で希釈し、そのうち 2 µL を、グリセロール 5% 添加 1 × REMSA バッファーに溶解した 5 nM ビオチン化 IRE-RNA(鉄応答エレメントを含む RNA)とともに培養しました。反応液は、0.5 × TBE バッファーに入った 6% ポリアクリルアミドゲルの上で自然に分解され、バイオダイン B ナイロンメンブレン(製品番号 77016)に転写されました。バンドシフトは、Pierce 化学発光核酸検出モジュール(製品番号 89880)を用いて検出しました。レーン 1:反応液に含まれているのは、ビオチン化 IRE-RNA プローブ(陰性コントロール)だけです。レーン 2: in vitro 翻訳 Aco1 の添加によって、IRE-RNA プローブが Aco1 に結合したことを示すバンドシフトが確認できます。レーン 3:200 倍モル過剰な未標識 IRE-RNA の添加によって、標識プローブの Aco1 への結合が阻害されています。レーン 4:200 倍モル過剰な未標識 RNA プローブ(非特異的)の添加にもかかわらず、標識プローブの Aco1 への結合は阻害されませんでした。

タンパク質の機能とヒト IVT システム

In vitro 翻訳反応は、ハイスループットな変異体解析または低分子スクリーニングで使用するタンパク質の合成に最適です。こういったアッセイは、マルチウェルプレートで分析するため、通常、ナノグラム量からマイクログラム量の濃縮されたタンパク質を必要とします。ヒト IVT システムの反応系は、1 mL あたりの相対収量を低下させることなく、96 ウェルプレート(反応容量は標準で 25 µL)および 384 ウェルプレート(反応容量は 10 µL)にスケールダウンすることができます。このような特徴によって、PCR を介した変異体解析を行うこと(PCR の手順を参照)、in vitro 翻訳で合成された変異体タンパク質のライブラリーを、マイクロプレートで直接、迅速にスクリーニングすることが可能です。

低分子スクリーニングでは、個々のタンパク質を複数のウェルで in vitro 翻訳によって発現させ、別々の低分子の探索に使用することができます。これについては、既知のタンパク質翻訳阻害剤を使用した事例を以下にご紹介いたします。

事例:カスパーゼ 3 の発現および機能

A14n03-Fig2ヒト IVT システムで発現させたカスパーゼ 3 は、細菌で発現させたタンパク質を精製したものより高い活性を持っています。E. coli から精製された、またはワンステップ ヒト高収量 IVT キットで発現させたヒトカスパーゼ 3 について、それぞれの同量の活性を、Caspase-glo™ アッセイ試薬(切断可能な DEVD―アミノルシフェリンおよびルシフェラーゼの基質を含むミックス)を使用して、メーカー(Promega Corp.)の手順に従って測定しました。
IVT-004-Applications-369pxヒト IVT システムを使用した低分子スクリーニング。384 ウェルのマイクロプレートで In vitro 翻訳反応を行うとともに、さまざまな化合物のタンパク質合成を妨げる能力について評価しました。このアッセイでは、in vitro 翻訳コントロールおよびルシフェラーゼ mRNA を用いて、何も化合物を含まない条件下、または 4% ジメチルスルホキシド(DMSO)、10 µg/mL シクロヘキサミド、1 mM スタウロスポリン、400 µg/mL ネオマイシン(G418)がそれぞれ存在する条件下で、ルシフェラーゼタンパク質を発現させました。発現は 30°C で 3時間行い、ルシフェラーゼタンパク質の発現をルシフェラーゼレポーターアッセイで判定するとともに、Thermo Scientific Varioskan Flash I 計測器で測定しました。

発現させるタンパク質の種類

従来の in vitro 翻訳システムは、細菌や昆虫など哺乳動物以外の無細胞抽出液に基づいているため、合成可能なタンパク質の種類に制限があり、異所的な成分の添加を必要とします。ヒト IVT システムは、タンパク質合成および適切な翻訳後修飾に必要な酵素を内在的に含む、ヒト HeLa 細胞抽出液を使用しています。そのため、ヒト IVT キットで多くの種類のタンパク質を発現させることができます。

広範な分子量のタンパク質発現

良好なタンパク質の発現には、タンパク質の安定性、折りたたみ、および溶解性が影響します。分子量が大きなタンパク質は、小さなタンパク質と比較して、翻訳中止となる可能性がより高く、三次構造がより複雑で不適切な折りたたみが起こる危険性が増えるため、in vitro で発現させるのは困難です。加えて、大きなサイズのタンパク質は大きな疎水性領域を持っており、E. coli 抽出液で発現させた場合、封入体の形成を助長する可能性があります。ワンステップ ヒト in vitro 翻訳システムは、広範なサイズのタンパク質合成に使用することができます。

IVT-protein-size-distribution-450pxヒト in vitro 翻訳システムで合成されたタンパク質のサイズ分布。8 kDa から 250 kDa 以上までの100 個のタンパク質が、ヒト in vitro 翻訳システムによって、95% の成功率でそれぞれ発現されています。

リン酸化タンパク質の発現

ワンステップ ヒト IVT システムは、HeLa 細胞ライセートを使用して無細胞タンパク質発現を行います。ヒト細胞を用いたシステムで合成されるタンパク質は、翻訳後修飾も含め自然なものの複製であり、自然のタンパク質が持つ機能および構造を示します。あるタンパク質がヒト IVT システムで発現したことは、ウェスタンブロットによるキナーゼ検出で実証できますが、すべてのタンパク質を検出しても、そのタンパク質の機能性を実証できるとは限りません。そこで、3 つのキナーゼ(オーロラ A、ERK1、Akt)について、その機能性を示すリン酸化状態を、リン酸化特異的抗体を用いたウェスタンブロットで合わせて確認しました。 in vitro 翻訳 Akt のリン酸化状態は、血小板由来成長因子(PDGF)で活性化された NIH3T3 線維芽細胞内の リン酸化状態と同一のサイズでした。このことは、ヒト IVT システムが、in vivo と同様の機能的なキナーゼを合成できることを示唆しています。

IVT-8-Kinase-Data-550pxワンステップ ヒト in vitro 翻訳システムで、リン酸化タンパク質を発現させました。ヒト IVT システムで 8 つの HA タグ付きキナーゼを発現させ、抗 HA 抗体を用いたウェスタンブロット解析で検出したところ、適切なタンパク質発現を示す、当該キナーゼの分子量に対応したバンドが検出されました。GSK3α と GSK3β の共発現には、二重のバンドが検出されました。また、DNA を含まない陰性コントロールのレーンには、何も検出されませんでした。
IVT-3-Kinase-Data-550pxワンステップ ヒト in vitro 翻訳システムは、機能性キナーゼを合成することができます。オーロラ A および ERK1 を、それぞれの in vitro 翻訳反応液から免疫沈降させ、その機能性を示すリン酸化を、抗リン酸化オーロラ A 抗体(T288)、抗リン酸化 ERK 1/2 抗体(T202/Y204)をそれぞれ用いてウェスタンブロット解析で検出しました。また、メンブレンを剥がした後、それぞれの汎特異的抗体を用いてすべてのタンパク質レベルを検出しました。免疫沈降を行っていない翻訳反応液、および DNA を含まないコントロールについても、合わせて分析しました。免疫沈降を行っていない in vitro 翻訳反応液から直接検出した Akt のリン酸化は、PDGF 誘導 NIH3T3 細胞内における Akt のリン酸化と比較しました。リン酸化 Akt 、総 Akt の SDS-PAGE およびウェスタンブロットによる検出は、オーロラ A および ERK1 に示されているのと同様に行いましたが、抗リン酸化 Akt 抗体(S473)および抗汎特異的 Akt 抗体を使用した結果については割愛しました。1:DNA を含まないコントロール、 2:免疫沈降を行っていないヒト in vitro 翻訳反応液、3:免疫沈降を行った HA タグ付きキナーゼ、4: PDGF 誘導 NIH3T3 細胞ライセート

糖タンパク質の発現

ウサギ網状赤血球ライセートを使用する方法は、最も普及しているin vitro発現手法です[3]。この方法では、5' キャップ構造に依存しない発現、および N 結合型グリコシル化のような初期のタンパク質翻訳後修飾を引き起こすことが可能です。ただし、このような翻訳後修飾のためには、イヌ由来ミクロソームメンブレン(細胞破砕後に形成される小胞体(ER)の小胞状残渣)の添加が必要になります(4)。ウサギ網状赤血球ライセートにミクロソームメンブレンを添加することで、糖タンパク質の合成が可能になりますが、この手法を用いるとタンパク質全体の収量が大幅に減少してしまいます。

ワンステップ ヒト 結合型 IVT キットの場合、標準手順を適応することで、N 結合型糖タンパク質の発現に最適化できます。

A14n02-Fig1ヒト IVT による N 結合型糖タンパク質の発現HCGβ 、ORM1、EPOHA の HA タグ付き DNA 各 0.1 μg、0.2 μg を、結合型 ヒト IVT 反応液 25 μL にそれぞれ加えて、26°C で 4 時間反応させました。この反応液の一方はそのまま、もう一方を Endo H でメーカーの指示に従って処理し、発現したタンパク質を SDS-PAGE ゲル上で分離、抗 HA 抗体を用いたウェスタンブロットでタグを検出しました。グリコシル化されたタンパク質の位置は、三角印のマーカーで示しています。一番下のバンドは、グリコシル化されていないタンパク質に相当します。Endo H によって、すべての N 結合型マンノースが完全に除去され、そのタンパク質の残渣が単一のバンドとして表れています。DNA 濃度が低いほど、グリコシル化されていないタンパク質に対するグリコシル化されたタンパク質の相対的な比率が、著しく高くなりました。

膜タンパク質の発現

膜タンパク質では、その疎水性の膜貫通領域によって、 in vitro 翻訳タンパク質の多くに凝集および沈降が起こることがあるため、精製が極めて困難です。しかし、ヒト in vitro 翻訳システムは、無数の多様な膜貫通領域を持った膜タンパク質(グリコフォリン GypB/E、ミトコンドリア外膜タンパク質 Bcl2 のファミリータンパク質 Bcl2L1、ケモカインレセプター CXCR4 など)であっても合成することができます。さらに、すべてではなくても、大部分のタンパク質が沈殿物ではなく可溶性画分にあるということは、膜タンパク質が、溶液中で凝集も沈降も起こさず合成されたことを明示しています。

アミノ酸をより緩やかな割合で添加すること、および膜成分に富んだ HeLa 抽出液をワンステップ ヒト in vitro 翻訳システムに用いることは、膜タンパク質の折りたたみおよび溶解性を強めると考えられます。加えて、マイクログラム量スケールのタンパク質発現レベルでは、凝集(細菌を用いた発現では、よく問題となります)の原因となる閾値を超えた初期タンパク質の濃縮は起こらないと考えられます。E. coli 抽出液を用いるシステムでは、通常、アミノ酸をより急激な割合で添加し、タンパク質の収量もより多くなりますが、折りたたみの効率が下がることで、膜の濃度が低くなり、タンパク質の凝集が起こる可能性は高くなります[6、7]。同じように、in vivo での発現手法では、膜タンパク質をミリグラム量スケールで合成することができますが、封入体の形成が頻繁に起こります。封入体はタンパク質の凝集物であり、これを解離させて可溶性のタンパク質にするには、極めて時間が掛かり困難を要します。

IVT-Membrane-Proteins-389pxワンステップ ヒト in vitro 翻訳システムは、可溶性の膜タンパク質を発現することができます。HA タグ付き膜タンパク質 GypB/E、Bcl2L1 および CXCR4 を、ワンステップ ヒト結合型 IVT システムで発現させました。次に、各反応ミックス全体(T)、遠心分離後の上澄み画分(S)および沈殿画分 (P)から、それぞれ 10 µL の試料を回収し、抗 HA 抗体を用いたウェスタンブロット解析で当該タンパク質を検出しました。ブロット像の上の図は、各タンパク質に多数ある膜貫通領域を代表したものです。矢印は、それぞれのタンパク質のバンドを示しています。

同一反応液内における複数のタンパク質の共発現

異なるタンパク質の共発現は、変異体解析や低分子の取り扱いにおいて、結合親和性の変化を評価するために行われており、ワンステップ ヒト IVT システムでも 1 回の翻訳反応で複数のタンパク質を共発現させることが可能です。ヒト in vitro 翻訳システムの 1 回の反応で、実際に、5 つもの HA タグ付きタンパク質を発現させることができました。

IVT-Co-Expression-Data-387pxワンステップ ヒト in vitro 翻訳システムは、複数のタンパク質の共発現が可能です。5 つの HA タグ付きタンパク質を、それぞれ別々に翻訳するか(レーン 1~5)、または 1 回の反応(30℃で 4 時間)で共発現させました。 その後、反応液を、4~12% の SDS-PAGE で分離し、抗 HA 抗体を用いたウェスタンブロットで検出しました。実験に使用したタンパク質は、サイズのばらつきが明確になるよう、分子量を基準にして選択しました。

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.