サンガーシーケンシング用のPCRセットアップ

PCRは、サンガーシーケンシングの前に目的のDNA領域を増幅するのに使用されます。PCR反応は、以下に示す5コンポーネントで構成されています。

PCRコンポーネント1:プライマーペア

PCRプライマーを迅速かつ簡単に入手するには、ヒトエクソームおよびヒトミトコンドリアゲノムをターゲットとする650,000種類のプライマーペアのオンラインコレクションであるInvitrogen™ Primer Designer Tool を使用して、設計済みのPCRおよびサンガーシーケンスプライマーペアを選択して注文します。

最適なPCRプライマーを設計するには、以下の推奨事項に従ってください。

  • プライマーはターゲット配列に特異的で、内部で二次構造を形成する配列を含まないようにする必要があります。
  • プライマーには、ポリ塩基配列(例:ポリ(dG))の伸長や繰り返しのモチーフが含まれてはなりません。これらはテンプレートに不適切にハイブリダイゼーションする可能性があるためです
  • プライマーペアは、適合する融解温度(5℃以内)を有し、 GC含量が約50%である必要があります。GC含量が高いと安定した不完全なハイブリッドが形成され、AT含量が高いと完全にマッチしたハイブリッドの融解温度が低下します。可能であれば、プライマーの3’末端がGCリッチ(GCクランプ)であるべきで、伸長する末端のアニーリングを増強しますが、3GsまたはCsを超えないようにします。
  • 配列を解析して、プライマー間(プライマーダイマー)の相補性を回避し、ハイブリダイゼーションを防止する必要があります(図1)。

プライマー設計ソフトウェア

OligoPerfectソフトウェアなどのプライマー設計ソフトウェアは、上に示した基準に基づいてターゲット配列を自動的に評価し、プライマーを設計します。プライマーの特異性を確認するために、BLAST®検索を公共データベースに対して実行して、プライマーが目的のターゲットのみを認識するようにすることができます。

ユニバーサルテールプライマー

ユニバーサルシーケンシングプライマーの結合部位が5‘末端に追加されたPCRプライマーを合成できます。ユニバーサルテールPCRプライマーは、以下の状況で有用です:

  • ダイターミネーターケミストリと組み合わせて使用(ユニバーサルシーケンシングプライマーは優れたアニーリング特性を有します)
  • 市販の色素標識シーケンシングプライマーと組み合わせて使用
  • シーケンシングステップを簡素化および標準化して、得られたPCR産物をシーケンスするためにするため(これはApplied Biosystems™  BigDye Direct Cycle Sequencing Kitのストラテジーです)

 

M13 tailed PCR Primerまたは他のUniversal tailed Primerを使用する理由

ほとんどの大規模プロジェクトでは、シーケンシングのセットアップを簡素化するために、スタンダード(ユニバーサル)プライマーテールをPCRプライマーに組み込むことが一般的になっています(図1)。最も一般的なテールはM13配列です。これは、一本鎖バクテリオファージM 13で構成されたクローンのシーケンシングに最初に使用されたためです。 テール付きPCRプライマーを使用することの潜在的な欠点は、テール付きプライマーの設計およびプライマーの長さ(PCRプライマー)の増加による高品質のオリゴヌクレオチドの必要性が大きな課題であることです。当社は、優れたプライマー設計ツールを提供しており、プライマーは最大45塩基の長さまでお手頃な価格で提供しています。

M13テールプライマーまたはユニバーサルテールプライマーを使用する主な利点は、シーケンシング反応セットアップの簡易性です(図2)。

 

PCRコンポーネント2:DNAポリメラーゼ

PCRの性能はDNAポリメラーゼに関連していることが多いため、酵素の選択は成功に不可欠です。PCR特異性に影響を与える主な要因の1つは、Taq DNAポリメラーゼが低温で残存活性を示すことです。プライマーはDNAに対して非特異的にアニールするため、ポリメラーゼは非特異的な産物を合成します。この事態は、ホットスタート酵素を使用することで最小限に抑えることができます。ホットスタート酵素を使用することで、反応のセットアップ中および初期DNA変性ステップ中に活性Taqが存在しないようにすることができます。

PCRコンポーネント3:MgCl2

Applied Biosystems™ AmpliTaq™ DNAポリメラーゼのMgCl2コファクターは、良好な酵素活性に不可欠です。MgCl2はdNTPによってキレートされるため、dNTP濃度の上昇にはMgCl2濃度の上昇が必要です。

PCRコンポーネント4:バッファー

最適化されたバッファーが酵素とともに提供されます。

PCRコンポーネント5:添加剤

困難なテンプレートの増幅を容易にするために、他の添加剤も添加されている場合があります(GCリッチテンプレートに対するDMSOなど)。

PCR反応の実施

PCR反応を構成するステップは主に3つあります。反応は通常、30サイクル実施されます。

  1. 変性—選択したポリメラーゼに適した温度にする必要があります(通常 95℃)。テンプレートGC含量が高い場合は、変性時間を増加させることも可能です。
  2. アニーリング—プライマーの融解温度(Tm)の計算値に基づいて適切な温度を使用します(プライマーのTMより5℃低い温度)。
  3. 伸長—70~72℃では、DNAポリメラーゼの活性が最適で、プライマーの伸長は1秒あたり最大100塩基の速度で行われます。

PCRアンプリコンは通常、アガロースゲル電気泳動を使用して評価します。良好なシーケンシング反応を得るには、 PCR産物がアガロースゲル上にシングルバンドとして現れる必要があります。複数のバンドが配列の重複を示しています(図1)。

PCRクリーンアップ

PCRクリーンアップの目的は、過剰なPCRプライマー(各シーケンシング反応で1プライマーを使用)とdNTP(効率的な Applied Biosystems™ BigDye™ Cycle Sequencing反応に必要なddNTPに対するdNTPの比率を維持する)を除去することです。PCR産物を精製する方法はいくつかあります。PCR反応からキャリーオーバーされた成分の量と、使用する予定のシーケンシングケミストリに基づいてメソッドを選択します:

  • 限外ろ過
  • エタノール沈殿
  • ゲル精製
  • 酵素精製:シーケンシング前のエビアルカリホスファターゼ(Sap)およびエキソヌクレアーゼI(exo I)処理が含まれます。 SAP/exo I法では、PCR後に残存するヌクレオチドと一本鎖DNA(プライマー)を分解します。

重要! 複数のPCR産物が存在する場合、カラム精製、エタノール沈殿、または酵素精製では目的の産物が分離されません。ゲル精製を使用して目的の産物を分離するか、PCRを再最適化して単一の産物を取得します。コンタミしたPCR産物が目的のPCR産物よりもはるかに小さい場合は、限外ろ過が機能することがあります。

 

フラグメント解析:PCR反応のセットアップ

ほとんどのApplied Biosystems™ GeneScan™サイズスタンダードフラグメント解析実験の成功または失敗は、PCR増幅ステップの成功または失敗に左右されます。

PCRコンポーネント1:プライマーペア

PCRプライマーペアは、通常、長さが15~30ヌクレオチドの2つのオリゴヌクレオチドで構成されており、DNAテンプレートの相補鎖の目的領域に隣接する配列にハイブリダイズします。ペアの1つのプライマーは蛍光色素で標識されているため、PCR産物は遺伝子解析機器のキャピラリー電気泳動(CE)中に検出できます。この2パラメータアプローチ(蛍光標識およびフラグメントサイズ)により、1回のキャピラリー注入で多くの独立した遺伝子座を分析できます。1回のCEランで収集されるデータ量を最大化するには、異なる色で表示され、同じ仮想フィルターセットで検出できる色素の組み合わせを使用します(下表を参照)。

DNAサンプルフラグメントに以下の色素を標識した場合以下の色素で標識されたサイズスタンダードを選択してくださいApplied Biosystems色素セット使用可能なアプリケーション関連する Applied Biosystems キットおよび製品
dR110 、dR6G、dTAMRA™、dROXLIZ™DS-02SnapShot™キットSNAPshot™プライマーフォーカスキットSNAPshot™マルチプレックスキット
5-FAM™、HEX™、NED™ROX™DS-30 カスタムオリゴ
6-FAM™、VIC™、NEDROXDS-31

マイクロサテライト

カスタムオリゴ
5-FAM、JOE、NEDROXDS-32マイクロサテライト(法医学)AmpFlSTR™ Profiler Plus™COfiler™SGM Plus™ KitsStockMarks™ Kits
6-FAM、VIC、NED、PET™LIZDS-33マイクロサテライト(法医学)AmpFISTR™ Identifiler™ KitsAmpFISTR™ Yfiler™ Amplification Kits、Custom StockMarks™ Kits
6-FAM、TET、HEXTAMRA™DS-34  
6-FAM、dR6GLIZDS-40SNPジェノタイピングSNPlex™ Genotyping System


プラスAアーチファクト

PCR増幅のアーチファクトの1つに「プラスA」ピークがありますが、これはテンプレートに依存しないAヌクレオチドの付加から生じます。プラスAアーチファクトはピークパターンの複雑さを増大させ、真のアレルピークを認識することをより困難にします。反応条件は、これらのローカス依存性アーチファクトに大きな影響を与える可能性があります。プラスAアーチファクトは、DNA鎖を複製するポリメラーゼにより配列の末端に追加の塩基(プラスA)が付加されることで生じます。プラスAの付加率(0~100%)は、 PCR産物の末端7塩基に依存します。結果を解析するには、プラスAピークがアレルピークよりも高い必要があります。アレルとアレルとピークの高さがほぼ等しい場合(図4)、アレルコールが曖昧になることがあります。これはマーカーの約5~10%で起こります。

Custom tailed Primer Pairの特許取得済みリバースプライマーテーリングケミストリは、テンプレートに依存しないヌクレオチド付加に関連する問題を排除することで、アレルコーリング効率を向上させます。プライマーテーリングは、二本鎖DNAの末端のポリメラーゼが結合する位置にテンプレートにないヌクレオチドを付加させて配列コンテキストを制御するため効果的です。テール付きリバースプライマーには、ほぼ100%の割合でプラスA産物を生成する7塩基配列が含まれます。

適切なPCRプライマー設計のための推奨事項は以下の通りです。

  • プライマーはターゲット配列に特異的で、内部で二次構造を形成する配列を含まないようにする必要があります。
  • プライマーには、ポリ塩基配列(例:ポリ(dG))の伸長や繰り返しのモチーフが含まれてはなりません。これらはテンプレートに不適切にハイブリダイゼーションする可能性があるためです
  • プライマーペアは、適合する融解温度(5℃以内)を有し、GC含量が約50%である必要があります。GC含量が高いと安定した不完全なハイブリッドが形成され、AT含量が高いと完全にマッチしたハイブリッドのTmが低下します。可能であれば、プライマーの3’末端がGCリッチ(GCクランプ)であるべきで、伸長する末端のアニーリングを増強しますが、3GsまたはCsを超えないようにします。
  • 配列を解析して、プライマー間(プライマーダイマー)の相補性を回避し、ハイブリダイゼーションを防止する必要があります。

プライマー設計ソフトウェア

OligoPerfectソフトウェアなどのプライマー設計ソフトウェアは、上に示した基準に基づいてターゲット配列を自動的に評価し、プライマーを設計します。プライマーの特異性を確認するために、BLAST検索を公共データベースに対して実行し、プライマーが目的のターゲットのみを認識するようにすることができます。 

 

data.par.67339.image.pcr-cleanup---plus-a
図4. リバースプライマーテーリングケミストリはアレルコーリングを向上。この例では、106番目のピークがテール付加なしの産物のアレルピークです。このアレルピークとアレルプラスAピーク(107番目)は同じような高さであるため、Applied Biosystems™ GeneMapper™ソフトウェアは正確にアレルをコールできない場合があります。この種のデータは多くの場合、リバースプライマーテーリングケミストリが採用されていない場合にアレルコールの見過ごしや不正確なアレルコールを防ぐためのマニュアルによる編集を必要とします。対照的にテール付加ありの産物では、114番目のピークがアレルピークプラスAで、これは7塩基テールとさらにAを含むため、8塩基長くなっています。テール付加なしのアレルピークは完全に消失するため、ソフトウェアアルゴリズムによる解析を容易にします。

PCRコンポーネント2:DNAポリメラーゼ

PCRの性能はDNAポリメラーゼに関連していることが多いため、酵素の選択は成功に不可欠です。PCR特異性に影響を与える主な要因の1つは、Taq DNAポリメラーゼが低温で残存活性を示すことです。プライマーはDNAに対して非特異的にアニールするため、ポリメラーゼは非特異的な産物を合成します。この事態は、ホットスタート酵素を使用することで最小限に抑えることができます。ホットスタート酵素を使用することで、反応のセットアップ中および初期DNA変性ステップ中に活性Taqが存在しないようにすることができます。AmpliTaq DNA Polymeraseは良い選択です。 

PCRコンポーネント3:MgCl2

AmpliTaqポリメラーゼのコファクターであるMgCl2は、優れた酵素活性を得るために絶対的に必要です。MgCl2はdNTPによってキレートされるため、dNTP濃度の上昇には MgCl2濃度の増加が必要です。 

PCRコンポーネント4:バッファー

最適化されたバッファーが酵素とともに提供されます。

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.