CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集のためのオールインワンベクター
GeneArt® CRISPR Nuclease systemは、簡単で迅速なクローニングですぐに使えるオールインワンのCRISPR/Cas9用の発現ベクターシステムです。このベクターにはCas9ヌクレアーゼ発現エレメントとgRNAクローニング部位が含まれており、標的に特異的なcrRNAのクローニングを簡単に効率よく行うことができます。このプラスミドDNAベクターを導入することによりgRNAが発現して、標的のゲノム配列の編集や操作ができます。実験の目的に応じて、より低いオフターゲットリスクを求める場合にはTAL effectorによるゲノム編集ツール、GeneArt® Precision TALss の使用を推奨します。

GeneArt® CRISPR Nuclease Vector Kits

GeneArt® CRISPR Nuclease systemは、レポーターベクターシステムで、CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集に必要な機能的因子を発現します。ベクターは、non-coding guide RNA (crRNAとtracrRNAを含む) の発現に必要なクローニング部位と、Cas9ヌクレアーゼを発現するカセットを含み、さらにレポーター遺伝子について二つのタイプがあります。

GeneArt® CRISPR Nuclease Vectors OFP reporter vectorは、Orange Fluorescent Protein (OFP) タンパク質を発現するため、Cas9とCRISPR RNAを発現する細胞をFluorescence activated cell sorting (FACS) でソーティングできます。GeneArt® CRISPR Nuclease Vectors with CD4 vector は、CD4タンパク質を発現するため、抗CD4抗体を用いてCas9とCRISPR RNAを発現する細胞をビーズで濃縮することが可能です。

GeneArt® CRISPR nuclease vectors

GeneArt® CRISPR nuclease vectors

GeneArt® CRISPR Nuclease Vectors.(A) GeneArt® CRISPR Nuclease OFP vector: OFPレポーターベクターは、6,732 bpと6,752 bp間で線状化され、各鎖の3’末端が5塩基突出した形で提供されます. (B) GeneArt® CRISPR Nuclease CD4 vector: CD4レポーターベクターは、7336 bpから7355 bp間で線状化され、各鎖の3’末端が5塩基突出した形で提供されます GeneArt® CRISPR Nuclease Vectorsはいずれも鎖状化されており、crRNA (gRNAのうち標的配列に特異的に結合する部分) をエンコードする二本鎖オリゴヌクレオチドを迅速で高効率にクローニング可能です。


CRISPR oligosのデザインのポイント

GeneArt® CRISPR Nuclease vector kit はお客様にて標的部位の選択を行い、2本のシングルストランドオリゴDNAを設計していただきます。1本は標的配列特異的なcrRNA (forward 鎖のオリゴヌクレオチド)、もう1本は相補鎖(reverse 鎖のオリゴヌクレオチド) です。この2本のオリゴヌクレオチドをアニーリングし、ベクターへライゲーションして使用します。

標的配列の設計はクローニング効率や、ゲノム編集の切断活性を左右するため、以下にガイドラインを示します。標的配列領域については、1ターゲット遺伝子につき、少なくとも2つ以上の特異的gRNA をテストすることをおすすめします。

設計のポイントと標的配列の特異性

GeneArt® CRISPR Nuclease Vector Kit を使用するためには、まず2本のシングルストランドオリゴDNA (24-25 bp) を設計していただきます。1本は標的配列特異的なcrRNA (forward 鎖のオリゴヌクレオチド)、もう1本は相補鎖(reverse 鎖のオリゴヌクレオチド) です。ゲノム上の標的配列の選択は、著しくDNAの切断効率を左右します。そのため標的配列領域については、1ターゲット遺伝子につき、少なくとも2つ以上の特異的gRNA を設計し、テストすることをおすすめします。以下に示すガイドラインは、標的配列の選択を図で例を用いながら説明します。またガイドラインは一般的なもので、例外も発生します。

CRISPRオリゴDNAの発注フォームはこちら

長さ — 標的配列の3'末端がNGG からなるproto-spacer adjacent motif(PAM) 配列に隣接した19 塩基または20 塩基の長さの標的配列を選びます。

相同性領域の確認 — オフターゲット効果を低減させるために標的配列が他の遺伝子と相同性がないことを確かめてください。

方向性 — ゲノムの標的配列は3' 末端にPAM配列があることを満たしていれば、センス鎖あるいはアンチセンス鎖をコードのどちらを選んでもかまいません。

標的となるゲノムDNAを選択: 標的配列の3'末端がNGG からなるproto-spacer adjacent motif(PAM) 配列に隣接した19 塩基または20 塩基の長さの標的配列を選びます。センス鎖あるいはアンチセンス鎖をコードのどちらを選んでもかまいません。

Top strand オリゴDNAの設計: クローニングのための5塩基付加配列を加えます。標的配列の3' 突出末端にGTTTT を加え、Top strand オリゴ配列をつくります。このときオリゴDNAの配列にはPAM配列を含めないでください。

Bottom strand オリゴDNAの設計: Top strand オリゴの標的配列と相補的な配列をつくり、3' 突出末端にCGGTG を加え、Bottom strand オリゴを作成します。

オリゴDNAのアニーリング: Top strand オリゴとBottom strand オリゴをアニーリングした後、鎖状化ベクターとライゲーションします。ライゲーション反応に必要な試薬はすべてキットに含まれています

標的となるゲノムDNAを選択: 標的配列の3'末端がNGG からなるproto-spacer adjacent motif(PAM) 配列に隣接した19 塩基または20 塩基の長さの標的配列を選びます。センス鎖あるいはアンチセンス鎖をコードのどちらを選んでもかまいません。

Top strand オリゴDNAの設計: クローニングのための5塩基付加配列を加えます。標的配列の3' 突出末端にGTTTT を加え、Top strand オリゴ配列をつくります。このときオリゴDNAの配列にはPAM配列を含めないでください。

Bottom strand オリゴDNAの設計: Top strand オリゴの標的配列と相補的な配列をつくり、3' 突出末端にCGGTG を加え、Bottom strand オリゴを作成します。

オリゴDNAのアニーリング: Top strand オリゴとBottom strand オリゴをアニーリングした後、鎖状化ベクターとライゲーションします。ライゲーション反応に必要な試薬はすべてキットに含まれています


CRISPR クローニングワークフロー

1. オリゴDNAのアニーリングとクローニング

クローニングには、標的配列特異的なcrRNAをエンコードするDNAオリゴ(TopとBottome)を設計した後、アニーリングし、鎖状化ベクターへライゲーションします。ライゲーション反応に必要な試薬はすべてキットに含まれています:

  • crRNAクローニング用の鎖状化ベクター。10×アニーリングバッファー, T4 DNA リガーゼ, 5×DNA リガーゼバッファーおよび T4 DNA ligaseを介したクローニング反応に必要なDNase/RNAse-フリーウォーター
  • クローニング効率を確認するためのコントロール二本鎖オリゴDNA (double strand oligo, ds oligo)
  • crRNAのインサートの方向性やシーケンス確認用U6フォワードプライマー

2. 形質転換

ライゲーション反応後、One Shot® TOP10 Chemically Competent E. coli に形質転換してください。One Shot® TOP10 Chemically Competent E. coli は高効率クローニングとプラスミド調製に理想的です。ハイコピー数のプラスミドを安定して増幅します。TOP10 cellsの遺伝子型はDH10B™ 株に類似しています。One Shot® TOP10 E. coli はワンチューブフォーマットで使いやすい特長があります。

3. プラスミド調製と細胞へのトランスフェクション

a. 遺伝子導入法: トランスフェクションには新たに開発されたLipofectamine® 3000 Reagentや、リポフェクション法での導入が難しい細胞には、エレクトロポレーション(Neon® Transfection System) の利用が有効です。トランスフェクションの方法は、扱う細胞のタイプによって異なります。トランスフェクションを最適な方法で行うために、オリジナルのリファレンスや細胞株の提供元の情報を調べてください。継代のタイミング、継代時の希釈率などにも注意してください。

b. DNA精製度: 真核細胞におけるトランスフェクション用プラスミドDNAはフェノールや塩化ナトリウムのコンタミのない純度の高いものを使用してください。トランスフェクションには、精度の高いプラスミド精製キットをおすすめします。またプラスミドDNAは-20℃で保存してください。 高収量、高純度なプラスミド精製キットはPureLink™ HiPure Plasmid Midiprep Kitがおすすめです。広い表面積の樹脂・長いスペーサーによる高い結合効率が高収量をもたらし、エンドトキシンレベル0.1~1.0 EU/mgのトランスフェクショングレードのプラスミドDNAを最短60分で取得できます。

c. DNA量:トランスフェクション試薬や細胞株に応じて、最良のトランスフェクション効率を得るためにはDNA量の検討が必要です。


ゲノム編集の成功の確認

CRISPR/Cas9システムによる切断効率

切断効率はGeneArt® Genomic Cleavage Detection Assayによって検出することができます。このキットは、CRISPR/Cas9によって切断された標的配列において、細胞のNHEJ修復機構の過程において生じる塩基の欠失や挿入(indels) をミスマッチ認識酵素が検出し、電気泳動で評価するアッセイ法に基づいています。

CRISPR-Cas9-mediated cleavage efficiency

CRISPR/Cas9システムによる切断効率
HPRT 遺伝子座を標的としたDNA切断効率をGeneArt® Genomic Cleavage Detection Assayを用いて電気泳動による分析を行いました。(A) GeneArt® CRISPR Nuclease OFP Vector を用いた結果を示します。 (B) GeneArt® CRISPR Nuclease CD4 Vector を用いた結果を示します。HeLa細胞へのトランスフェクション後、切断効率の評価を3度独立して行い、indel (塩基の欠失と挿入) の割合を図中に示しました。

FACSによるトランスフェクション効率の測定

Cas9ヌクレアーゼはOFPまたはCD4遺伝子と2Aペプチドを介して共発現するため、トランスフェクション効率は蛍光顕微鏡またはFACSで測定することができます。

CRISPR-Cas9 transfection efficiency

トランスフェクション効率. (A) RelA遺伝子座を標的として設計されたGeneArt® CRISPR Nuclease OFP Vector を使用し、293T細胞へトランスフェクション後効率を評価しました。トランスフェクション細胞中OFP陽性細胞の割合は90%以上であることを示しました。(B) AAVS-1遺伝子座を標的として設計されたGeneArt® CRISPR Nuclease CD4 Vectorを使用し、293T細胞へトランスフェクション後効率を評価しました。抗CD4-FITC標識抗体によって細胞染色し、フローサイトメトリ―によって解析しました。染色された細胞集団は蛍光顕微鏡での観察も行い結果を示します。

磁性ビーズによるCas9およびgRNA発現細胞の濃縮

Cas9およびgRNAを発現する細胞はCD4遺伝子の発現をレポーターとし、磁性ビーズであるDynabeads® CD4 magnetic beadsを用いて濃縮することができます。

Bead-based enrichment using the GeneArt® CRISPR Nuclease Vector with CD4

GeneArt® CRISPR Nuclease Vectorを用いて、CD4を利用した磁性ビーズによる発現細胞濃縮. サンプルは元々CD4の発現が低く、それゆえ標的部位のDNA切断効率も非常に低いものでした(1.4%)。そのためトランスフェクション後の残りの細胞を、CD4発現細胞を抗CD4抗体コート磁性ビーズにより濃縮しました。GeneArt® Genomic Cleavage Detection Assayにより濃縮前後の細胞集団における切断効率を評価しました。濃縮後の細胞集団におけるDNA切断効率は48.1%であることが示されました。

ゲノム編集の効率を改善する

Lipofectamine® 3000 を用いて遺伝子導入効率を向上させ、GeneArt® Precision TALsまたはCRISPRsのゲノム編集効率を改善することができます。

アプリケーションノートのダウンロードはこちらから


CRISPR FAQs

Q: ゲノム編集における標的配列への特異性という面でCRISPR/Cas9システムとTALENsの違いはあるでしょうか。
A: 一般的にTALENsのほうがCRISPRsより高い特異性をもって切断を行うと考えられていますが、CRISPRの標的配列の設計を注意して行うことで、低いオフターゲット効果を得ることもできます。切断効率の評価についてはCRISPRs、TALENいずれの場合でもGeneAr[t® Genomic Cleavage Detection Kitを用いることで簡便に行うことができます。

Q: どのようにしてNHEJ修復機構によって生じるオフターゲットを回避することができますか?
A: オフターゲットのリスクを最小化するには、BLAST検索によって対象生物のゲノム中にCRISPR標的配列の3’端と同じ配列が他に14 bp以上存在しないことを確認することを推奨します。Technical Product Bulletinをダウンロードし詳しいCRISPR配列設計手順をご確認ください。

Q: 同じベクターコンストラクトで一度に異なる複数の遺伝子をターゲットすることができますか?
A: ベクターは1つで1ターゲットのみに使用することができます。異なる遺伝子座を標的とした2つのベクターを共導入することはできます。

Q: 標的部位を設計するための何かツールはありますか?
A: オンライン上のツールは現在ございませんが、Technical Product Bulletinをダウンロードし詳しいCRISPR配列設計手順をご確認ください。

Q: TALsを使用する前にCRISPRをスクリーニングツールとして推奨する理由を詳しく説明してください。
A: 標的部位における切断効率の高さは、ターゲットとした場所へ正確にアクセスすること、クロマチンの状態、配列に依存するため、弊社では1遺伝子に対して2つ以上の複数の配列を設計してテストすることを推奨しております。CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集の場合、標的部位となる配列は19-20塩基です。GeneArt® CRISPR systemによって切断効率が最も高い標的として最適な配列がスクリーニングされた後は、より高い精度をもった(オフターゲットリスクの低い)GeneArt® Precision TALsを用いることをお勧めします。

Q: indel % はどのように計算しますか?
A: 計算式は以下の通りです:% Indel = 1 – ((1 – fraction cleaved) 1/2)

Q: GeneArt® CRISPR Nuclease Vectorに搭載されているレポーター遺伝子としてOFPとCD4のメリット/デメリットをそれぞれ教えてください。
A: FACSベースの細胞ソーティングには、OFP (orange fluorescent protein) を利用できます。CD4については、FACSはもちろんのこと、抗CD4抗体コートの磁性ビーズによってマニュアルで細胞濃縮することもできます。プロトコル等より詳しい情報はuser manualをご参照ください。


Ordering information

GeneArt® CRISPR Nuclease All-in-one vector
製品名サイズ製品番号
GeneArt® CRISPR Nuclease Vector with OFP Reporter Kit10 reactionsA21174
GeneArt® CRISPR Nuclease Vector with CD4 Enrichment Kit10 reactionsA21175

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For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.

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