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ビオチン(ビタミンH)とアビジン間の相互作用は、精製、検出、固定化、標識化、ウイルスベクター標的化、薬物標的システムなどの非放射性法において有用なツールとなります(1)。アビジンはビオチンに対して極めて高い親和性を有しており、タンパク質とリガンド間の既知の非共有相互作用の中では、この高親和性は非常に強力です(Ka=1015M-1)。複合混合物中の各ビオチン含有分子は、個々にアビジン複合体へ結合されます。ビオチンとアビジン間の結合は非常に素早く形成されます。一度形成された結合は、極端なpH値や温度、極性の有機溶媒や変性剤類からの干渉を受けません。
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以下をはじめとする様々なタンパク質研究アプリケーションにおいて、アビジン複合体を用いて、ビオチン標識された(ビオチン化)タンパク質の検出や精製が常習的に行われています:酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウェスタンブロット分析、免疫組織化学(IHC)、免疫沈降法(IP)、また親和性精製や細胞表面標識化やフローサイトメトリー/蛍光活性化細胞選別(FACS)などの手法類。
ビオチンの特性は、アビジンに対する高い親和性だけではありません。タンパク質や巨大分子を標識化する分子として理想的な2つの特性を示します。一つ目の特性として、ビオチンは、球状タンパク質より比較的小さいため、様々なタンパク質中において深刻な干渉が最小限に抑えられます。また、アビジンによる検出成果を最大限に高めるため、単一タンパク質へ多数のビオチン分子を結合させる特性もあります。二つ目の特性として、下図のように、ビオチンの有する吉草酸側鎖はアビジン結合機能へ干渉せずに、反応性部分および化学構造へ円滑に誘導体化・結合化されます。この特性を有効活用することにより、数多くの有益なビオチン化試薬が作製できます。
ビオシチンとは、血清や尿中に見られるビオチン誘導体であり、εアミノ酸側鎖で吉草酸側鎖へ結合した付加リジン基を有しています。下図のように、ビオシチンはビオチンよりも長いため、長鎖ビオチン化試薬の作製に有用な分子を生成します。また、遊離カルボキシレート基やαアミンの作用により、ビオシチンを用いて二官能性架橋試薬を作製できます。
また、ビオチン化(別称:ビオチン標識化)は、主に化学的手段で実行されますが、酵素法による実行も可能です。化学的手法は、求められるビオチン化タイプが酵素法よりも多種多様であり、in vitroおよびin vivoいずれでも実行できます。酵素法では、細菌ビオチンリガーゼの共発現、およびビオチン受容体ペプチドを運搬するように修飾された外因発現性の目的タンパク質が必要となります。これらが原因で、化学的手法よりもビオチン化が均一化され、細胞区画に対して特異的を持たせることができます(2)。化学的ビオチン化試薬やカスタマイズ試薬の可用性が広範であるため、とはいえ、本ページではビオチン化の化学的手法について重点的に解説いたします。
下図のように、全てのビオチン化試薬は類似特性を共有しています。また、こうした特性は多種多様であるため各ビオチン化試薬は種々の実験に最適な特徴を有しています。決定的な違いは、反応性部分または反応性基(赤色で表示)です。これらは、各アミノ酸官能基または全アミノ酸上の有効な非異ドメインいずれかへビオチン化試薬を架橋させます;所定試薬の反応性は、使用する反応基に応じて異なります。また、この反応性部分とビオチン分子(青色で表示)の間隔を調整すると、アビジンへのビオチン結合性を高め、試薬溶解度を上げ、あるいはビオチン化を可逆化させることができます。アミノ酸結合部位( 反応性部分のタイプに応じて異なる)からビオチン分子末端までの構造は、スペーサーアームと呼ばれています;こうしたスペーサーアームの長さは、各ビオチン化試薬によって異なります。
特定アプリケーションや目的タンパク質に用いるビオチン化試薬を適切に選ぶには、以下のように、入念に検討・最適化すべきポイントがいくつかあります:
ビオチン化試薬の溶解度に応じて、標的タンパク質や巨大分子類への標識化能力が大幅に変動します。タンパク質は、アミノ酸側鎖やタンパク質構造に基づき疎水性領域や親水性領域を有しています。これらの領域は、試薬溶解度に応じてビオチン化を促進または制限できます。さらに、標的タンパク質の微小環境が疎水性であることにより、試薬の溶解性に基づきビオチン化または非ビオチン化が可能になります。例えば、表面ビオチン化法(表面分子の発現やエンドソーム輸送の研究における一般的手法)では、ビオチン化試薬が疎水性細胞膜へ膜通することにより細胞表面へのビオチン標識化が制限されないように、ビオチン化試薬は親水性であることが求められます。つまり、標的アミノ酸およびタンパク質/高分子の微小環境の両要素に応じて、適切なビオチン化試薬を選択しなければなりません。
ビオチン化試薬の溶解度は、反応性部分またはスペーサーアーム(もしくは、それら両要素)の溶解度に基づいています。一部の反応性基は荷電性ゆえに水溶性ですが、非荷電基については修飾を施す必要があります(例:スルホン化;下記NHSエステルの項をご覧ください)。スペーサーアームを可溶化させる標準的手法では、溶解性と柔軟性の高い、ポリ(エチレングリコール)またはPEG(下図参照)を組み込みます。PEGからなるスペーサーアームによって、非荷電反応性基を有するビオチン化試薬を水溶性にさせたり、あるいは荷電反応性基を有するビオチン化試薬の溶解度を上げることができます。さらに、PEG含有ビオチンタグに起因した高溶解性のため、ビオチン化タンパク質は、非ビオチン化タンパク質よりも長期保存時の凝集が起こりにくくなります。
ビオチン化タンパク質上のビオチン分子に対するアビジンの結合能力は、同一タンパク質上の複数ビオチンに由来した立体障害の無いビオチンの有効性に依存しています。比較的長いスペーサーアームは、より多量のビオチン分子がレポーター共役アビジン結合に有効となるため、標的タンパク質の検出感度を高めることができます。定義上、ビオチン化環境におけるスペーサーアームは、二官能性架橋剤と共に用いられるスペーサーアームと区別しなければなりません。架橋用のスペーサーアームとは、二つの反応性部分間の距離として定義されます。ビオチン化において、スペーサーアームは共役アミノ酸端部からビオチン分子末端までの距離として定義されます。そのため、タンパク質の検出/精製が強力な(アビジン結合体へ結合するためのビオチンが有効であるため)場合、もしくは検出/精製が微弱または一切無い(アビジン結合体へ結合するためのビオチンが有効でないため)場合において、ビオチン化試薬のスペーサーアーム長はそれぞれ異なることがあります。
ビオチン化試薬の作製時において、ビオチンと反応性部分間への化学構造の追加または除去によって、スペーサーアームの長さが変動します(下図をご参照ください)。 スペーサーアームの機能的長さは、追加した化学構造の長さおよび反応性部分の性質の両要素により決定づけられます。炭化水素、PEG、またはビオチンを切断可能にするジスルフィド結合などの要素によって、スペーサーアームの長さが調節されます
アビジン固定化担体からビオチン化タンパク質を溶出させる能力や、ビオチン化サンプルからアビジン結合レポータープローブを除去する能力は、アビジン-ビオチン相互作用の強度および解離耐性度に左右されます。アビジン-ビオチン複合体を有効に解離させるには、厳しい変性条件(pH値1.5の8Mグアニジン塩酸;あるいはSDSサンプルローディングバッファ中で煮沸)が求められます。これにより、支持体が損傷を受けてタンパク質が変性するため、一切の生物学的活性を維持しなくなります。こうした制限を克服するべく、長年にわたり様々な技術革新が展開されてきました。切断可能ビオチン、イミノビオチンおよびデスチオビオチンなどの修飾ビオチンを使用する方法もあります。また、アビジン/ストレプトアビジン樹脂を修飾することにより、ビオチンに対して低親和性を提示させる手法もあります。
ビオチン化サンプルからアビジン結合タンパク質を捕獲または除去した後、切断可能なビオチン化試薬によりビオチン化タンパク質の精製が行えます。下図に示すように、切断可能なビオチン化試薬は、スペーサーアーム内にジスルフィド結合を有するデザインとなっています。還元条件下(50 mMのジチオスレイトール、100 mMの2-メルカプトエタノール、または1%の水素化ホウ素ナトリウム)において、ジスルフィド結合は切断され、遊離ビオチンタグおよび全てのアビジン複合物がそれに結合します。
HPDPビオチン(製品番号:21341)などのピリジルジスルフィドビオチン化試薬は、ジスルフィド結合形成を介してスルフヒドリル基を標識化するために活性化された状態となっています。つまり、ジスルフィド結合の還元によって、一度標識されたタンパク質がアビジンから遊離されるだけでなく、標識反応が正確に逆転されます。
精製タンパク質を遊離させるためビオチン化試薬を用いる代わりに、修飾ビオチンで精製タンパク質を標識する方法もあります。アビジンに対する結合親和性が著しく低い(Ka=108M-1またはKa=1015M-1)ため、イミノビオチンは、pH依存性(4,5)アビジンから溶出可能なビオチンの環状グアノシン類似体です。イミノビオチン標識タンパク質は、pH 9でアビジン複合体へ結合しますが、 アビジン-イミノビオチン複合体はpH 4で解離するため、捕獲タンパク質が変性せずに精製されます。精製タンパク質はさらにビオチン化されますが、この手法により、アビジン複合体から生物学的に機能的なタンパク質が遊離されます。
デスチオビオチンは、単環で硫黄非含有のビオチン類似体であり、ビオチンとほぼ同等の特異性でストレプトアビジンへ結合しますが、ビオチンよりは親和性が低くなります(Ka=1011M-1またはKa=1015M-1) [6,7]。その結果、デスチオビオチン化ベイトタンパク質とその相互作用パートナーは、遊離ビオチンとの競合置換に基づいた温和条件下で、ストレプトアビジン親和性樹脂から迅速かつ特異的に溶出されます。生物学的サンプルを用いたプルダウンアッセイ実験において、 デスチオビオチンのこうした温和な遊離特性の効果により、内因性ビオチン化分子の共精製が最小限に抑えられます。遊離ビオチンと標的タンパク質の複合体の溶出時に、これらのビオチン分子はストレプトアビジンへの結合状態を維持しますまた、修飾されたアビジン-ビオチン親和性システムでは、複合体の解離や標的タンパク質/細胞の損傷を誘発し得る過酷な溶出条件が求められません。融合タグでは発現されないネイティブタンパク質または組換えタンパク質を使用する場合や、無傷細胞または細胞表面タンパク質を標的とする等の天然条件下で捕捉タンパク質を単離する場合、デスチオビオチンベースの技法は理想的です。
上記のデスチオビオチン試薬の穏やかな遊離特性によって、実験結果を妨害し得る天然ビオチン化分子の単離が最小限に抑えられると同時に、複合体の解離や標的タンパク質/細胞の損傷を誘発し得る過酷な溶出条件が求められません。多様なアプリケーション(例:活性部位プローブ、RNA-タンパク質プルダウン)のプロトコル開発において、様々な穏やかな遊離特性が利用されてきました。
タンパク質の正常な生物学的機能を著しく妨害しない手段で目的タンパク質を標識化することが、ビオチン化を行う目的です。基質への結合といったタンパク質活動を調節するアミノ酸へビオチン化試薬が結合している場合、ビオチン化(たとえ小さなビオチンであっても)によってタンパク質の正常機能が妨害される可能性があります。多種多様な反応性部分を利用して、以下のような様々な特異的アミノ酸官能基を標的することにより干渉の発生率を低減させられます:
また、非選択的ビオチン化試薬を利用すれば、有効な第一級アミン、スルフヒドリル、カルボキシルまたはカルボニルを用いずに、タンパク質や巨大分子を標識化できます。
以下の抗体図に示すように、一般にタンパク質は複数の反応性部分に部位を含んでいます。そのため、タンパク質機能を妨害しない十分な標識化を行うには、適正な反応性部分を選択することが欠かせません。
下記の反応性基は、通例全ての架橋アプリケーションに対応します。各詳細については、タンパク質メソッドライブラリーの各架橋セクションをご覧ください。そこで以下の各項では、ビオチン化反応環境下における反応性基に重点を置きながら、各反応性部分メカニズムの概要のみをご紹介いたします。
Bioconjugate Techniques, 3rd Edition (2013) by Greg T. Hermanson is a major update to a book that is widely recognized as the definitive reference guide in the field of bioconjugation.
Bioconjugate Techniques is a complete textbook and protocols-manual for life scientists wishing to learn and master biomolecular crosslinking, labeling and immobilization techniques that form the basis of many laboratory applications. The book is also an exhaustive and robust reference for researchers looking to develop novel conjugation strategies for entirely new applications. It also contains an extensive introduction to the field of bioconjugation, which covers all the major applications of the technology used in diverse scientific disciplines, as well as tips for designing the optimal bioconjugate for any purpose.
アミンは、リシン側鎖のεアミンとN末端αアミンが豊富に存在することから、ビオチン化における主要な標的官能基です。N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルは、即座に第一級アミンと安定した結合を形成します。反応基は、種々の有用な既製ビオチン化試薬へ容易に組み込まれ安定化されます。NHSエステルは、荷電性でないことから、最初に有機溶媒中で溶解させた後、水性反応混合物中に希釈させる必要があります。これらの試薬は、疎水性の細胞膜を通過することができ、ビオチン化タンパク質へ結合する結果、ビオチン化タンパク質は細胞内区画または疎水性の微小環境内に制限されます。
NHSエステルは、N-ヒドロキシスクシンイミド環をスルホン化させてスルホNHSエステルを形成させることにより水溶性へ修飾できます(水性反応に用いる有機溶媒は必要ありません)。スルホ-NHSエステルビオチン化試薬は、電荷を運搬しないため、無傷細胞膜を通過できません;表面ビオチン化実験は、細胞外タンパク質のみをビオチン化させるこの特性に依存しています。
テトラフルオロフェニル(TFP)エステルに含まれる標準的に用いられる反応性基は、第一級アミンに類似した反応性(ただしNHSより高疎水性)を有しています。TFPビオチン化試薬は、NHSエステルより若干アルカリ性pHで機能することができ、水溶液中の加水分解に対して優れた安定性を示します。
露出システイン残基に見られるスルフヒドリル基は、第一級アミンに次いで一般的にビオチン化標的にされます。通例スルフヒドリルはタンパク質にはそれほど一般的でないため、第一級アミンがタンパク質活性部位に位置する場合にビオチン化標的となることが多いです;通常これは、第一級アミンをビオチン化する場合よりも標識化が制限されますが、タンパク質の生物学的機能を保存することが可能です。
スルフヒドリル反応性ビオチン化試薬には、遊離スルフヒドリル基を必要とします。ジスルフィドは、スルフヒドリル基が還元条件下で遊離されない限りこれらの試薬とは反応しません。また、トラウト試薬、SATP、SAT(PEG)4またはSATAなどのチオール化試薬を用いて遊離スルフヒドリル基で修飾する方法もあります。これらの試薬は遊離スルフヒドリルを標的とするため、還元剤非含有のバッファ中でビオチン化反応を実行しなければなりません。また、エチレンジアミン四酢酸をバッファ製剤中に含有させることによって、ジスルフィド結合を形成させる微量金属をキレート化できます。
疎水性NHSエステルは水溶性への改変が可能ですが、スルフヒドリル反応ビオチン化試薬を水溶性にするには、親水性スペーサーアームを添加する手段を取るしかありません。
マレイミド基は、酸性~中性pHのスルフヒドリル基に対して高反応性です。ビオチン化試薬であるBMCCビオチン(1-ビオチンアミド-4- [4' - (マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシアミド]ブタン)は、結合時の安定性に優れたマレイミド部分およびシクロヘキサン環を有し、より長いスペーサーアームを備えています。ヨードアセチル基のようなハロは、スルフヒドリル基に対しても高反応性ですが、マレイミドよりpH値が高い(pH 7.5〜8.5)性質があります。
ピリジルジスルフィドは、反応の結果としてジスルフィド結合が形成される点から、他のスルフヒドリル反応性基と区別されています(ジスルフィド結合を切断すれば、ビオチンスペーサーアームの遊離やビオチン非含有タンパク質の精製が可能です)。また架橋反応によって、ピリジン-2-チオンが遊離されます。これは反応の進行状態を監視するために検出が可能です。
カルボキシル基は、タンパク質カルボキシ末端や、アスパラギン酸側鎖、グルタミン酸側鎖に見られます。しかし第一級アミンやスルフヒドリルと直接反応するビオチン化試薬とは異なり、カルボキシル基を標的とする試薬がビオチン化試薬上の第一級アミンへ結合するためには、EDC(カルボジイミド)といったゼロ長架橋剤が必要です。そのため、カルボキシル反応性ビオチン化試薬上のアミンそれ自体は反応性ではありませんが、標的タンパク質への結合部位です。また、アミンの他に、ヒドラジド部分を有するビオチン化試薬をEDCと共に使用して、カルボキシル基と反応させることも可能です(下記をご参照ください)。
EDCを介した結合(pH 4.5〜5.5で発生)には、第一級アミン(例:トリス、グリシン)およびカルボキシル(例:酢酸塩、クエン酸塩)を含有しないバッファが必要になります。これらの基準を満たすバッファ類の一つとして、2- [モルフォリノ]エタンスルホン酸(MES)バッファが挙げられます。ビオチン化反応でEDCを使用すると、標的タンパク質がカルボキシル基および第一級アミンいずれも含む場合に重合が起こる可能性があります;そのため、EDC濃度およびビオチン化試薬の最適化が必要です。さらに、中間体生成物を安定化させるスルホ-NHSを用いると、ビオチン化収量が大幅に向上します。
カルボニルは元来タンパク質中に存在しませんが、糖タンパク質上の炭水化物残基を修飾して、アルデヒドをヒドラジドまたはアルコキシアミン誘導体ビオチン化試薬で標識化ができます。過ヨウ素酸ナトリウムを用いて炭水化物シアル酸を酸化させることによって、これらの糖タンパク質上のアルデヒドが生成されます。そしてアルデヒドは、pH 4~6でヒドラジドまたはアルコキシアミンと特異的反応して、安定結合を形成します。
また、シアル酸残基はノイラミニダーゼでの前処理によりヒドラジドまたはアルキルアミン誘導体とビオチン化させることができ、ガラクトース群が生成されます。全細胞上のガラクトースとN-アセチルグルコサミン残基は、ガラクトースオキシダーゼで追加処理を施すことによって、これらの試薬で選択的にビオチン化できます;これにより、この糖上の第一級ヒドロキシル基は対応するアルデヒドへと変換されます。
過ヨウ素酸ナトリウムを有する免疫グロブリンを穏やかに酸化させると、抗体Fc部分上の炭水化物部分から反応性アルデヒドが生成されます。その後ヒドラジドによりこれをアルキル化できます。抗体のビオチン化は免疫学的反応性を維持する手段で行われるため、この手法で抗体を用いればメリットがあります。これは高グリコシル化されているため、ポリクローナル抗体をビオチン化させる用途には最適な手法です。モノクローナル抗体はグリコシル化が不完全な場合があることから、特定抗体のグリコシル化レベルによってこの手法の達成結果が左右されます。
温度、酸化pHおよび過ヨウ素酸濃度、これら全てがビオチンヒドラジド誘導体との反応に影響します。また、タンパク質ごとにグリコシル化レベルが異なるため、各糖タンパク質にはそれぞれの最適条件を設定してください。各糖タンパク質調製物は、酸化およびヒドラジン媒介ビオチン化おける最適pH値がそれぞれ異なります。トリスまたは第一級アミンを含有したバッファは、アルデヒドと反応して、アルデヒドによるヒドラジドやアルコキシとの反応をクエンチするため、酸化あるいはビオチン化いずれの手順にも推奨されません。
有効なアミン、スルフヒドリル、カルボニルおよび炭水化物用いずに標的タンパク質を標識するには、非選択性の光活性化ビオチン化試薬をご利用ください。大半の光反応性ビオチン化試薬の基づくアリールアジドは、紫外光(>350 nm)で活性化され、付加反応を開始させてC-HおよびN-H部位へ挿入します。その後の環拡大反応により、第一級アミンなどの求核試薬への結合に対する反応が起こります。これらの試薬は多種多様なバッファ中で利用できますが、酸性pHや還元条件下ではアリールアジドが不活性化されます。
第一級アミンや官能基類が欠如している場合、あるいは結合開始時間をインキュベーション期間の特定時期に設定する(紫外光への曝露により)場合、一般に光活性化試薬が使用されています。
ビオチン化反応後にビオチン修飾レベルを測定すると、特定のアビジン-ビオチンアッセイ系の最適化が促進され、ビオチン化プロセスにおける再現性が確実に得られます。サンプルのビオチン化レベルの主要な測定法では、ビオチン非存在下でアビジンへ非共有結合する性質の4'-ヒドロキシアゾベンゼン-2-カルボン酸(HABA)色素を使用します。HABAはアビジンに結合すると、波長500 nm(A500)の吸光度を示します。吸光度はHABAの結合量に比例します。アビジン-ビオチン相互作用の結合定数はHABA-アビジン相互作用の結合定数よりはるかに高いため、ビオチン化サンプルをHABA-アビジン複合体溶液と混合させると、ビオチンがHABAに代わってアビジンへ結合します(6 x 106 M-1)。HABAの吸光度はHABAとアビジンの結合レベルに比例するため、A500シグナルの減少に基づいて溶液中のビオチン存在量を算出できます。
近年開発された高感度アッセイでは、HABAと同じ原理に基づきつつ蛍光レポーターを使用しています。蛍光ビオチンアッセイは極めて高感度であり、従来型HABAメソッドよりも少量のビオチン化サンプルしか必要としません。蛍光検出法には蛍光プレートリーダーが必要になりますが、非蛍光法は標準的な分光光度計を用いて実行ができます。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.