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「いつ行く? どうする? 海外留学 Vol.9」
宮川 剛 氏(藤田保健衛生大学総合医科学研究所システム医科学研究部門 教授)
遺伝子改変マウスを使い精神疾患のメカニズム解明に挑んでいる宮川剛氏。ポスドク時代を含め5年弱留学したアメリカでは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の利根川進氏のラボなど3ヶ所でPIのステータスやマネージャーも経験しました。「いかに効率よくするかに頭を使っているのがアメリカ。また議論を楽しんで、自分の意見をはっきり言えるようになります」と海外留学を勧めます。
遺伝子改変マウスの行動解析で精神疾患を研究
宮川氏は現在、これまで困難と考えられていた疾患モデルマウスを使い、特定の遺伝子がノックアウトされると脳の神経細胞の一部が未熟になり、統合失調症様の症状を示すことを突き止めました。この研究は、MIT留学時代の利根川氏らとの共同研究から継続しています。もともと、「自分は研究者になる」と考えていたという宮川氏。未知のことが多い分野として心理学を専攻。「神経科学的なアプローチで心理学を研究することに、目から鱗が落ちました」という二木宏明研究室(東京大学からのちに理化学研究所脳科学総合研究センターに移籍)に入りました。そこで遺伝子改変マウスの行動異常の解析から遺伝子の働きを調べる研究を開始します。
研究体制のデザインが効率的なアメリカのラボ
二木研究室に7年在籍し、そろそろ海外留学をしたいと、当時広まり始めていたインターネットで留学先を探し、「ウェブフォームから応募した」という宮川氏。ポスドクとして最初に在籍したのはNational Institute of Mental Health(NIMH)のJacqueline Crawley博士(以下ジャッキー)のラボ。ポスドクが2~3人の小さなラボでしたが、そこで「分業が進んでいて、効率よく実験をやってデータを出し、論文を出すことが印象的。研究体制のデザインが効率いいのです」と実感します。この時の経験は、帰国後携わっている脳科学の研究プロジェクトの運営体制にも生かされているといいます。その後、バンダービルト大学分子神経科学センターに移りマウス行動実験施設の立ち上げメンバーとしてPIを経験。のんびりとした田舎での研究には満足していましたが、そんな中、ラボにかかってきた1本の電話がその後の研究生活を変えました。
「リスクをとれ!そうじゃないと研究者は面白くない」
「利根川進ですが」と電話の主は名前を告げ、共同研究をしないかと打診。その後1年ほど共同で研究をしたのち、今度は利根川氏は宮川氏にMITの自分のラボに来ないかと誘いました。「ボストンのような研究の中心地に飛び込むのもよさそう」と移ることに。予算もスタッフも多いビッグラボで「インパクトファクター15以外は論文ではない」という厳しさの一方で、「ひとりひとりが自分のプロジェクトを持って主体的に研究をします。入ると研究計画を立案するため、最初の3~6ヶ月は何も実験をせずに議論をしたり考えたりする人も多く、一つの研究に10年かけて取り組むこともできる研究室でした」(宮川氏)という充実した環境。「利根川研はとにかく優秀な人ばかりでした。議論をしても面白い」と大きな刺激に。ただ、念入りに考えて準備をして実験に挑んでも結果が出ずに研究の世界を去っていく人もいます。「利根川先生は『リスクをとれ、そうじゃないと研究者は面白くない』とおっしゃっていました」(宮川氏)。
自分の意見をしっかり言い、主体的に選ぼう
活発に議論を交わす研究文化の中で、留学前以上に自分の意見をしっかりと述べるようになったという宮川氏。「海外留学はお勧めです。色々なラボがありますが、どこを選択するかも重要。自分に合うラボへ移る人もいます。また特に大学院から留学することを勧めます。私が行ったアメリカの大学院では、院生が極めて手厚い教育を受けていました」とアドバイスします。
宮川 剛(みやかわ つよし) 氏
1993年東京大学文学部心理学科卒業、1997年東京大学大学院人文社会系研究科にて博士(心理学,東京大学)取得後、理化学研究所研究員、米国国立精神衛生研究所ポスドク研究員、バンダービルト大学助教授、マサチューセッツ工科大学主任研究員を経て、2003年京都大学医学研究科助教授、2007年より現職。
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