「いつ行く? どうする? 海外留学 Vol.12」
中西もも 氏(トロント小児病院 博士研究員)

受精卵から胎盤が形成される過程のエピジェネティクスを研究する中西もも氏。大学の講義で知った胎盤研究の面白さに惹かれ、研究に没頭してきましたが、カナダでの留学生活は「これからを考える良い機会になった」と話します。彼女が考える「これから」とは? 一時帰国中の中西氏に、カナダでのポスドク生活について伺いました。

憧れの研究者のもとへ!
胎盤に関する大学院時代の研究をまとめた論文が、カナダ・トロント小児病院のJanet Rossant教授の目に留まります。Rossant博士は、胎盤や幹細胞研究で世界のトップを走る研究者。恩師の田中智氏も留学した研究室です。ちょうどその頃JSTの国際科学技術共同研究推進事業(SICORP)でRossant氏らカナダの研究者との共同研究がスタートします。憧れの研究者とともに研究できる絶好のチャンス。中西氏は田中氏に直訴し、留学が決まりました。

ほ乳類の「最初の細胞分化」のメカニズムを明らかにしたい
留学先での研究プロジェクトを、中西氏は次のように語ります。「ほ乳類の胚発生の最初の細胞分化は、体細胞系譜である内部細胞塊と、胎盤を構成する栄養膜細胞系譜である栄養外胚葉との間で生じます。両組織からはそれぞれ、幹細胞であるTS細胞とES細胞が樹立されており、それらのDNAメチル化プロファイルや転写因子ネットワークを比較し、両細胞運命の違いを生む細胞制御機構を解析中です。再生医療等で注目される多能性の獲得は、言い換えれば、栄養膜細胞系譜への運命の遮断と見ることもでき、この研究は、不妊疾患だけでなく、幹細胞の多能性獲得メカニズムの解明につながります」。

研究室の仲間と将来を真剣に語り合う
一人で飛び込んだ海外生活。不安もある中、研究室のポスドクたちとも次第に打ち解けていきました。「ブラジル、シンガポールなど世界各国からの研究者が在籍しています。またトロント自体も移民が多い街。留学直後から、周囲はいろいろと気遣ってくれました」。特に中西氏が刺激を受けたのは、同世代のポスドクたちとの議論。「優秀で野心的な人が多く、将来にわたる研究計画を練っていました。しかもそれだけでなく、自分の人生についても、仲間たちと真正面から議論します。私も、留学して初めて生活の基盤を自分で整えたこともあり、生活を含めた人生そのものを真剣に考えるようになりました」。


ラボメンバー。上方、黒いスーツにピンクのシャツの女性がRossant博士。

カエデ林へ研究者仲間とピクニック。パンケーキにはたっぷりのメープルシロップ。

新たな道へ
自分の考えを言葉で伝え、自分自身を客観的に見るようになると、それまでとは異なる道があることに気づきます。「仲間たちと語り合う中で、自分の考えを突き詰めていくと、研究者にとどまるよりも、他の多くの優秀な研究者を支え、それを社会にどう活かすかを考えていくことに興味が湧いてきました。そして漠然と研究者の道を歩むよりも、違う道を進みたいと思う気持ちが徐々に強くなりました。両親からも『研究だけしか見ていない様で心配だったが、幅広く興味を持つようになったね』と言われました」と笑います。今後は、科学行政や異分野の研究間交流の促進、科学技術の実用化のサポートなど、広い視野でキャリアを積んでいきたいと語ります。

留学先は「人」で選んでは?
留学で次のステップへのきっかけをつかんだ中西氏。これから留学を考えている人には、「研究室は『人』で選んで」とアドバイスします。「実際にボスに会ったり、研究室を訪問することをお勧めします。私も、Rossant教授が来日した時に直接話したり、別の研究室の日本人とSkypeで話したりしました。大きな業績をあげているボスなら優秀な研究者が集まっているし、これからラボを立ち上げる若手研究者とも話してみると気が合うかもしれません」。さまざまな出会いの中で新たな道を見つけた中西氏らしいアドバイスです。

 

中西もも 氏
2013年東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。
2014年よりトロント小児病院Janet Rossant研究室で博士研究員。

 


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