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平尾一郎 氏 (理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター 合成分子生物学チーム チームリーダー)
20世紀後半の分子生物学の急速な発展に、自分の興味がちょうど共鳴したと語る平尾氏。ジェームス・ワトソンの「二重らせん」を読み、人工の核酸やタンパク質を、さらには生物そのものをつくりたいと心に決めたのは、19才の時でした。それからおよそ30年、専門の有機化学合成の知見を巧みに生物学へ取り入れながら、核酸ひとすじに研究を続けてきました。現在、DNAに人工塩基を組み込み標的タンパク質に結合する「アプタマー」の開発で世界をリードする平尾氏。創薬・生命科学研究への人工塩基の応用、生命をデザインするサイエンスの魅力について、お聞きしました。
独立までの道のり
大学・大学院で有機化学を学び、mRNAのキャップ構造を発見した三浦謹一郎先生に弟子入りして核酸研究をはじめました。その頃、米国でPCRや進化工学の技術がでてきたのですが、1990年に米国のグループがアプタマーのin vitroセレクションに成功し、強い衝撃を受けました。アプタマーとは特定の分子と特異的に結合する核酸分子やペプチドで、進化工学の手法を使えば試験管内で短時間につくることができます。当時の研究に何か物足りなさを感じていたこともあり、40才直前で准教授の職を辞し、ポスドクとしてアプタマー開発を最初に行った研究者の一人であるアンドリュー・エーリントン(当時インディアナ大学)のラボに入り直しました。そこで実際にアプタマーをつくる経験を積み、日本での新たなプロジェクトに加わったのです。
DNAを新たにデザインするA,T,G,Cに加えた人工塩基
地球上の生物はDNAの2 種類の塩基対(A-T,G-C)を基にした複製と転写のしくみを備えています。しかし実際に自分でアプタマーをつくろうとするとAGCTだけでは良いものができないと分かってきました。そこで、天然の塩基と性質の異なる人工塩基をDNAに組み込み、よりバリエーションに富んだ質の高い核酸ライブラリをつくることに挑戦したんです。2009年には複製で第三の塩基対として機能する人工塩基対“Ds-Px”をつくり、2013年には人工塩基を加えたアプタマーで、標的タンパク質との結合能力が従来型の100倍を超えることを発表しました(Nature Biotechnology誌)。
人工生命から地球外生命体へ夢のあるサイエンスを
時として、DNAが本当に進化の過程で生まれたのかと疑問に思うことがあります。DNAやRNAという物質が、とても人為的に思えたり。これまでジグゾーパズルを完成させるように新しい塩基をデザインしてきたので、そんな風に感じるのかもしれませんね。そして次々と疑問が湧いてきます。本当に生物を人工的に合成できるのか? 生命は地球上にどうやって出現したのか? 宇宙に地球外生命はどういう形で存在するのか? このような研究テーマは、若い人たちにも刺激的ですよね。サイエンスを駆動させるのは、やっぱり純粋な好奇心ではないでしょうか。もちろんアプタマーのように世の中に役立つものをつくることは、私にとってとても重要な仕事ですが、次の世代のためにも、夢のあるサイエンスを忘れないでいたいですね。
平尾一郎(ひらお いちろう)1956年、静岡県生まれ、理学博士。東京工業大学大学院理工学研究科化学専攻博士課程修了。東京大学工学部助手、東京薬科大学薬学部助教授、米国インディアナ大学博士研究員、科学技術振興機構ERATOグループリーダーなどを経て、2006年より理研チームリーダー、2013年より現職。タグシクス・バイオ株式会社代表取締役社長。
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