「いつ行く? どうする? 海外留学 Vol.2」
東原和成 氏(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)

米国留学中に嗅覚受容体遺伝子の発見に感動し、レセプター研究に取り組むこととなった東原氏。Robert J. Lefkowitz博士(Gタンパク質共役型受容体の研究で2012年ノーベル化学賞を受賞)にポスドクとして師事します。渡米7年目に帰国、日本で独立のチャンスをつかむも、成果が出ない時期もありました。海外での経験は、現在の研究へどうつながっているのでしょうか。

米国で磨かれた、ロジックのつくりかた
英会話本も執筆した東原氏ですが、意外にも、大事なのは英語より国語といいます。「英語圏の人はロジックをつくるのがうまい。曖昧さが伝わる日本とは違い、きっちりとした言葉と文章が必要になる文化です。だから僕は、日本ではなく米国で、ロジカルに伝えるスキルをのばすことができた。これはサイエンスにとって大切なスキル、つまりは国語力です。」


留学時代の東原氏。 大学院博士課程(Ph.D. program)の指導教官Glenn D. Prestwich教授と学位授与式 (Graduation)で。

困難を支えたモチベーション
ポスドク時代にシビアな人間関係や競争に直面し、英語で思考することの限界を感じて帰国を決めたという東原氏。「帰国前後は不安もありました。しかし、米国の研究者に負けたくないという強いモチベーションで頑張ってきた。一方で、日本人のようにあくせくせず、効率良く頭を切り替えられる彼らのスタイルには、学ばせられました。」

研究人生を変えた、留学中のワンフレーズは?
「今までの研究をひきずるな」。帰国前、ポスドク時代のボス、Robert J. Lefkowitz博士からのワンフレーズ。日本でオリジナルの研究を立ち上げるという、東原氏のその後の方向性を決める一言となりました。

海外留学、いつ行くべき?
「今だ! 行きたい! と思った時が、自分の適齢期。大学院からでもポスドクからでもいい。海外で良い仕事をすればポジションはあるはずです。だから、自信をもってエイヤと行くしかない。異文化に身をおいた経験は必ず、自分の幅を広げ、サイエンスへのモチベーションを上げてくれます。」

東原和成 氏
東京大学農学部農芸化学科を卒業後、1989年にニューヨーク州立大学StonyBrook校化学科博士課程入学。1993年に博士課程修了。デューク大学医学部博士研究員、東京大学医学部脳研究施設神経生化学部門助手、神戸大学バイオシグナル研究センター助手、東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻准教授を経て、2009年より現職。現在、JST ERATO東原化学感覚シグナルプロジェクト研究総括を兼ねる。原著論文はNature Chem. Biol.9,160-162(2013)、Nature466, 118-122(2010)、Nature 452, 1002-1006(2008)、Science 307, 1638-1642(2005)など多数。留学マニュアル・体験本の先駆けとなる「さあ,アメリカ留学!」(1997年、羊土社)ほか、CD付きの科学者のための英会話本2冊を執筆。


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