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「いつ行く? どうする? 海外留学 Vol.6」
上川内あづさ 氏 (名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻脳回路構造学・教授)
ショウジョウバエが音と重力を感じ分ける神経基盤を2009年にNature誌で発表し、その後、36才の若さで名古屋大学の教授となった上川内あづさ氏。「子供の保育園の迎えもあるので、18時半にはラボを出ます。一般的な研究者より早いと思われるかもしれませんが、切り替えを上手くやれれば仕事の効率は逆に上がる。これはドイツ留学で身につけたやり方です」と穏やかに語ります。
ショウジョウバエの求愛歌で脳を解明
もともと脳に興味があったという上川内氏。脳の謎に一番早く迫れるモデル生物はショウジョウバエだと考え、博士研究員として伊藤啓研究室(東京大学)に参加しました。“求愛歌”という、雄が種ごとに異なる羽音を奏でる求愛行動に注目し、カルシウムイメージングなどを駆使した独自の手法を開発しながら、研究を進めています。「神経細胞の個数が少ないシンプルなハエの脳で、脳回路構造と行動を包括的に解明したい。シンプルといっても、構造的にも、行動的にも、ハエとヒトは似たところがあります。たとえば、雄が求愛歌のダンスを踊ると、雌は蹴ったり、産卵管を突き出し攻撃したりする。拒絶された雄は、ショックでしばらく求愛できなくなることもあって。観察していて面白いですね」(上川内氏)。
出会いは学会のポスター発表
留学のきっかけは国際学会への参加です。ポスター発表で隣り合った同じショウジョウバエ研究者のMartin C.Göpfert氏( 以下マーティン)が、一緒に研究しないかと誘ってくれたのです。翌年、上川内氏は“ 遊びに行くような感じ”でマーティンのラボを2週間ほど訪れます。マーティン夫婦の自宅に泊まり、週末はドライブを一緒に楽しみました。「マーティンにポスドクを雇う予算がなかったため、日本で奨学金を得てから留学しました。ドイツにいる間に、フンボルト財団と、新たに日本の奨学金にも応募。うまく採用されたので、2005年から3年間、ドイツで研究を続けることができたのです」と振り返ります。
ドイツ流の研究スタイル
ドイツ語が分からない苦労は幾分感じたものの、セミナーは英語なのでなんとか理解できたという上川内氏。印象に残っているのは、ラボのコーヒータイムです。朝1回、午後に1回、自然にスタッフや学生が集まりコーヒー片手にお喋りする時間です。「自分の実験を優先させるよりも、そういう場でみんなとのコミュニケーションをとることにしました。仲間から得る情報やアドバイス、そしてリラックスしたひと時が、日々の研究を活き活きとするように感じました」(上川内氏)。公私の切り替えが上手く“幸せ”そうに研究生活を楽しむドイツの同僚たち。休むことに罪悪感がないのも、日本との違いかもしれないと話します。
国際学会で発表しよう!
留学に不安がある人は、国際学会に参加して海外の研究者と積極的にコミュニケーションをとってほしい。上川内氏はアドバイスします。「たとえ博士研究員を公募していないラボでも、自分で奨学金をとって行けることもあります。まずは相手を知っていれば、後は研究室を移動するだけの話。どんどん国際学会で発表して自分の研究をアピールし、行きたいと思うラボをみつけることですね」(上川内氏)。
上川内あづさ 氏
1975年東京都生まれ。1997年年東京大学薬学部卒業、2002年同大学大学院薬学系研究科機能薬学専攻博士課程修了。2002年基礎生物学研究所・発生生物学研究部門 科学技術振興機構BIRD研究員、2005年ドイツケルン大学に留学、2008年~2011年東京薬科大学生命科学部助教授、2011年より現職。2010年より、JSTさきがけ「脳情報の解読と制御」研究者を兼任。平成22年度、文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞。平成24年度、日本神経科学学会奨励賞を受賞。
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