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始めにライフテクノロジーズジャパン株式会社社長のJoydeep Goswamiから、50周年を迎えたGibco®がこれからも幹細胞始め細胞研究を強力にサポートすること、今回のフォーラムが地球生命の枠を越えた新たな「生命」の理解に繋がることを期待すると述べました。第2部は、生命を「細胞」の営みを通して眺め、宇宙レベルの新たな「生命」の存在へ想いを馳せます。
細胞の社会が生み出す不思議な秩序:器官の形成を例に
最初の講演者は、理化学研究所グループデイレクターの笹井芳樹氏です。笹井氏は、マウスのES細胞を培養皿の中で眼杯に分化させる方法を編み出した研究者。「眼杯を作るには、バラバラにした数千個のES細胞を小さな培養ウェルに入れて塊にし、次に培養液で眼になりやすい環境を再現します。そうすると塊は一層のボール状に膨らみ、一部が網膜となり、そこから勝手に眼杯を作り始めます。また眼杯だけを切り出し、新しい培養液に移し替えて放置すると、自己組織化の力を最大限に発揮して、生体と同じ六層の細胞構造を作り上げます」。この時、眼杯の大きさは、マウスはマウス、ヒトはヒト、それぞれのサイズで一定になります。「もともと一層の細胞でできた網膜の中に、このような複雑な構造をつくる内的な秩序が潜在的に存在し、それが順次顕現化していった」と説明します。これまで次世代再生医療として個別の機能への細胞分化が注目されてきましたが、立体的な複合組織を作る自己組織化はその先の再生医療としてさらに大きな期待を集めそうです。最後に笹井氏は、雪の結晶と細胞の自己組織化を比較して次の様に語りました。「雪の結晶は成長しても要素である水分子は変化しませんが、ES細胞やiPS細胞は自己組織化の過程で、空間的、時間的に周りと相互作用しながらどんどん変化していきます。しかもどんなに複雑に変化しても最終的にはきちんと『眼』を作ることもできる。そこに私はもっとも生命らしさを感じます」。細胞社会の秩序と複雑性は未だ不思議に満ちていますが、笹井氏は細胞社会の密議をそっと聞くことができるのかもしれません
Cruising inside cells
理化学研究所脳科学センターのチームリーダー宮脇敦史氏の講演は幻想的な動画で始まりました。暗闇を彷徨う輪状の物体。「クラゲの遊泳? でも…」と首を傾げる間もなく「こいつらは分化途中の破骨細胞です」と意外に素っ気ない説明。「私の仕事は細胞の気持ちを知ること。細胞に潜入してその心を伝えてくれる蛍光プローブを開発しています」と序章的な説明を終えました。なるほど、蛍光プローブを細胞骨格に滑り込ませると、破骨細胞もクラゲみたいに可愛く見えてきます。破骨細胞が互いに融合しあう瞬間の気持ちもつかめそうです。「今日は、タイトルのcellsをbodyと入れ替え、動物個体の発生をテーマにします。読み取った細胞の気持ちや心を元に、発生学の白黒の図譜に色をつけていきます」と、カラフル動画の登場を期待させる発言です。さっそく、「カメレオン」で可視化したゼブラフィッシュ胚の卵割時におけるカルシウム動態や細胞周期プローブ「Fucci」で可視化したマウス胎仔における細胞増殖と細胞分化の協調現象など、鮮やかなデータが次々と紹介されました。「個体全体」と「三次元」をキーワードに、話は次第に、生物試料を透明化する意義へと移っていきます。神経細胞を蛍光タンパク質で標識したマウスの脳を「Scale」試薬で透明化して光学顕微鏡で観察すると、神経回路の詳細な三次元構造が再構築できます。脳表面から大脳皮質、海馬を通り抜け視床下部の深部まで達する映像は没入感たっぷりです。宮脇氏は「Sca leとFucciの両技術を組み合わせ、個体全体の規模で細胞周期の進行の時空間パターンを可視化する」ことを考えています。講演の締めくくりは再び破骨細胞の動画。今度は細胞周期プローブFucciが潜入。一見てんやわんやの動画も、観察者へのメッセージは明確でした。「破骨細胞の多核化は核分裂ではなく細胞融合によって起こる」ことが納得できました。
「細胞を創る研究」から見えてくるありえた生命のかたち
ゲノム研究の進展から生物の構成要素が明らかとなり、その情報を元に遺伝子工学等を駆使して細胞や生物の部分的システムを創る「合成アプローチ」が注目を浴びています。東京工業大学准教授の木賀大介氏は、このアプローチとして、生きた細胞内に人工的な遺伝子ネットワークを導入し、4つの遺伝子が細胞内・細胞間で相互作用するシステムを構築、設計通りに細胞が多様化することを観察しました。「この研究は、生物の胚発生をモデル化した『ワディントン地形』を実験的に再現しています。一つの受精卵から細胞が分化していく様子は、ゆるやかに下降する地形の中を分枝しつつ深まる谷に転がり落ちるボールで表現されます。この研究では地形の傾きを時間当たりの細胞間相互作用の変化に置き換えました」と説明します。また木賀氏は「全生物に共通する性質は本当に重要か?」と問いかけました。「地球上の生物は、普遍遺伝暗号に従って4種類の塩基と20種類のアミノ酸を組み合わせてタンパク質を合成します。しかし種類が異なる改変遺伝暗号も作成でき、それを使って人工的に遺伝子を進化させ、天然とは異なる数のアミノ酸によって構成されていても活性を発揮するタンパク質も得られます。つまり共通だから必要とは限らない」と指摘します。新たに創り出した生物と現存生物の比較から、生命の普遍性を理解する鍵が見つかるかもしれません。私たちとは異なる「ありえた生命」への興味が尽きません。
「地球から地球たちへ生命を宿す惑星を探す」
ほんの20年前まで多くの天文学者は「生命を宿す地球は、宇宙の中の孤独な存在かもしれない」と考えていました。ところが1995年、太陽系の巨大惑星とはかけ離れた軌道の巨大惑星の発見を契機に、今では700個を超える太陽系外惑星が報告されています。私たちの銀河系には数百億の太陽型恒星がありますが、その大半が惑星を持ち、その数%に生命が存在可能な惑星があると予想されています。フォーラム最後の講演者、東京工業大学理学部教授の井田茂氏の研究のテーマは、「宇宙、地球科学からの生命へのアプローチ」。生命を軸に地球で起きたことを理解し、太陽系以外の惑星で生命が存在できる惑星やそこに棲む生命を探す研究に取り組んでいます。井田氏は「サンプルを直接採取できないので、バイオマーカーを頼りにリモートセンシングで生命探査を進める必要があります。地球との類似性からオゾンやメタンがマーカー候補ですが、まったく異なる生命の可能性も念頭に置く必要があります」と探査の難しさを語ります。会場から、「生命に水は必要か?」という質問に、「他に化学反応を媒介する物質があれば問題ありません。ただし水は宇宙で普遍的な物質。元素の存在比から考えると、水素や酸素は豊富な元素であり、地球以外の生物も利用する確率は高い」と答えました。宇宙レベルで探す生命。先入観にとらわれず発想を広げる想像力と、科学的視点から共通性を絞り込む洞察力が必要です。東京工業大学の「地球生命研究所」は、「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」に採択されました。分野を越えて、新たな生命を探す研究が本格化します。
この様子は、下記ページに掲載しています。
第2部の最後にレセプションを開催しました。会場にはGibco® 50周年記念のケーキや「細胞培養とわたし」エッセイコンテストの作品が並びました。乾杯の後には、講演者を囲んだり、参加者同士の交流が続きました。エッセイコンテストの授賞式には、5人の受賞者に審査委員長のビデオメッセージと賞品が贈られました。大賞の賞品はGibco®の聖地・米国旅行です。本誌19ページのアメリカ旅行記をご参照ください。
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