Ketil W. Pedersen & Axl Neur auter

細胞外小胞(EV : Extracellular Vehicle) は、細胞から分泌される脂質に囲まれた小胞であり、急速に注目を集めている生物学の魅力的な分野です。EVの中でも小サイズ(30~100nm)のエキソソームは、血液、唾液、尿、母乳などの様々な体液中に存在し、多様な自然の生物学的プロセスに関与していることから、特に関心を持たれています。この分野の研究がますます進展するにつれ、細胞間の複雑な情報伝達などエキソソームが関与する機能が明らかとなってきています。また多くの論文で、がん細胞由来のエキソソームが、免疫反応を抑えたり、抗原抗体反応を抑制することで、がんを進行させたり、治療効果を低下させることが報告されています。このようなエキソソームには原発がん由来のがん遺伝子が含まれることから、エキソソームは非侵襲的な手法でがんを早期発見するためのターゲットとなる可能性が期待されます。がん診断の可能性に加えて、エキソソームは腫瘍免疫療法の研究開発にも重要であり、がん治療を変革する可能性を秘めています。


図1 磁性ビーズ(Dynabeads®)表面にキャプチャーされたエキソソーム
磁性ビーズを抗ヒトCD81でコート後、エキソソームを単離し、表面に結合したエキソソームをそのまま電子顕微鏡で観察しました。ビーズ表面に濃縮されたエキソソームが観察できます。

エキソソームは、その潜在的な機能の多様性から、幅広い様々なタイプが存在することが示唆されています。そのため、エキソソームのサブポピュレーションについて特性解析および比較を行うために、簡単で信頼できる方法は非常に有用です。詳細な特性解析を行うためには、エキソソームを濃縮する必要があります。ThermoFisher Scientificでは、エキソソームの単離および解析用の製品ラインナップをさらに拡大し、新製品を発売しました。現在、CD9、CD63、CD81および上皮細胞接着分子EpCAMなどのエキソソームマーカーを発現するエキソソームを特異的に回収できます。上記マーカーを発現するエキソソームの単離には、抗体ベースの磁性ビーズ(Dynabeads®)を固相結合面として使用します(図1)。エキソソームはDynabeads®と結合させることにより、フローサイトメトリー( 図2)やウェスタンブロッティング(図3)などのアプリケーションで簡単に解析できます。このアプローチは、多様な細胞から分泌されたエキソソームサブポピュレーションの詳細な特性解析に用いることができます。最近、Oksvoldらは様々なタイプのB細胞リンパ腫細胞株から分泌されたエキソソームの比較および特性解析について報告しています(Clinical Therapeutics 2014)。Dinabeads®は、フローサイトメトリー解析用のエキソソーム調製の標準的な方法としても使えるでしょう。

 

図2  磁性ビーズ(Dynabeads®)で単離したエキソソームのフローサイトメトリー解析
A: 磁性ビーズに結合したエキソソームのスキャッタープロット(前方及び側面散乱とゲイティング)。
BとC: 抗ヒトCD63 PE-A抗体(B)、もしくは抗ヒトCD9 PE-A抗体(C)で、それぞれ染めたエキソソーム。

 

図3 抗CD9抗体でコートした磁性ビーズ(Dynabeads®)を単離したエキソソームのウェスタンブロット解析 
単離したエキソソームを電気泳動後、ウェスタンブロッティングを行い、クローンTS9でCD9を標識しました。レーン1は磁性ビーズ濃縮前、レーン2は磁性ビーズで単離したエキソソームのCD9標識です。

 


図4 エキソソーム中のマーカーの確認
エキソソーム中のマーカーを評価済みの各抗体で確認しました。

また、多くの研究者は、CD9、CD63、CD81などのエキソソームマーカーをウェスタンブロッティングで検出できないという問題に直面しています。当社では、エキソソーム研究に有用なツールをさらに提供するために、CD9、CD63、CD81などのエキソソームのターゲットの検出に適したケミルミネッセンス系の検出システムについても広範な試験を行っています(図4)。

ThermoFisherは、現在、様々なレベルでエキソソームを単離および解析するための幅広いツールを提供しています。

 

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「イムノキャプチャーによるエキソソーム精製と解析-B細胞リンパ腫モデルを参考とした研究法の提案」
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Ketil Winther P edersen(Ph.D):
Thermo Fisher Scientific R&D 部門スタッフサイエンティスト。オスロ(ノルウェー)の磁性Dynabeadsの生産施設を拠点に、エキソソームのサブポピュレーションの単離および解析用の新しいツールを開発する研究リーダー。

Axl Neurauter :
Thermo Fisher Scientific R&D 部門シニアマネージャー(細胞分子研究部門のヘッド)。拠点は同上。