今回は、さまざまなサンプルからのエキソソームの濃縮・回収についてご説明します。また、実際の操作で役立つTipsや回収実験への考察についても紹介いたします。

現在、エキソソームの回収法として、超遠心機を用いたサイズ分画法が汎用されています。ショ糖密度勾配やショ糖クッションを組み合わせて、比較的低密度のエキソソームを他の小胞や粒子から分離する方法がベースです。これらの方法は、操作に8~30時間となり、超遠心機が必要で、エキソソームを確実に回収する高度なテクニックが必要です。
弊社では、エキソソーム抽出操作を、短時間で簡便に行なうために、スタートのサンプルに応じて数種類のTotal Exosome Isolation 試薬を開発しました。この試薬を使えば、培養液や、血清などの体液サンプルから、単純な操作でインタクトな状態のエキソソームを回収できます。さらにスタート時のサンプル量には広いレンジで対応し、ハイスループット調製も可能です。
Total Exosome Isolation 試薬は、溶液中の水分子を奪い取ることによって、ナノ小胞体(nanovesivle)のような分子の疎水性を上げる性質を持っています。エキソソーム抽出では、サンプルに試薬を添加/混合し、4℃でインキュベート後、一般的な高速遠心(10,000xg)でペレット化させて回収します。エキソソームを含有するペレットに対してPBSもくしはその後のアプリケーションに適したbufferに懸濁するだけで使用できます。

例えば、培養上清サンプルからのエキソソーム回収は、下記の様に行います。

培養上清サンプルからのエキソソーム回収
Total Exosome Isolation(from cell culture media) 試薬を使用。製品番号:4478359

【サンプルの前処理】
培養上清を回収し、遠心(2000xg、30min)で細胞や細胞デブリスをペレット化し、
新しいチューブに上清を移す(ペレットが混入しないように注意する)。

【エキソソームの濃縮・回収】

  1. 培養上清サンプル量の0.5 倍量(1/2 量)のTotal Exosome Isolation (from cell culture media)試薬を添加し、全体が均一になるまでよくミックスする。
    例:
    • 10mL の培養上清に対して、5mL のTotal Exosome Isolation を添加する。
    • 1mL の培養上清に対して、500 μL のTotal Exosome Isolation を添加する。
  2. 1 のmixture を2 ~ 8℃でovernight インキュベートする。
  3. 遠心処理(10,000xg、1 時間、2 ~ 8℃)
  4. ピペッティングで上清をきれいに排除する。
    エキソソームはペレット化されて回収される。
    (ペレットが見えない場合があるので、注意する)
  5. ペレットを1× PBS または以後のアプリケーションに使用するbuffer で懸濁する。
    参考: 懸濁するbuffer の液量:
    • スタート量が10mL の場合、100μL~ 1mL
    • スタート量が 1mL の場合、 25 ~ 100μL
  6. エキソソームの保存
      1. 2 ~ 8℃で最大1 週間保存可能。
      2. 長期保存の場合は、-20℃以下で保存する。

これ以外にも、複数のサンプルに対応する Total Exosome Isolation試薬を提供しています。どのサンプルに対しても、超遠心機を使わずに簡単で短時間にエキソソームを回収できます。

操作Tips

  • 凍結サンプルを用いる場合は、25~37℃にセットしたウォーターバス中で完全に融解させ、融解後は氷中に置きます。
  • スタート時のサンプル量をマニュアルの指示よりもスケールアップしたい場合、回収効率を高める条件を検討する必要があります。主に遠心時間の延長で対応してください。
  • 固定式のアングルローターで遠心処理した場合、エキソソームペレットはチューブの側面の広い領域にスメアーな状態で回収されると予想されます。そのため遠心後、PBSやbufferで懸濁するときは、ペレットが形成されていると思われるチューブ間壁の広い領域を対象に懸濁してください。ペレットが見えない場合も、操作は同様に行うことが必要です。
  • スイングバケットロータ―を用いて遠心処理を行った場合、ペレットはチューブの底の部分に形成されます(図1)。


図1 2種類のローター使用時のペレット回収位置

実験の考察ポイント

  1. エキソソーム回収確認および濃度測定
    エキソソームのサイズは30~100nmと非常に小さいため、一般的な顕微鏡での確認は難しく、回収の確認は、 Nanosight® 機器および電子顕微鏡が一般的です。両機器ともに10nm程度のナノ粒子を観察できます。一般的な顕微鏡では、少なくとも数マクロメーター(μm)サイズでないと確認できません。またエキソソームの濃度測定は、電子顕微鏡では難しいので、現行ではNanosight® 機器などの特殊な機器が必要です(図2)。この機器を利用する場合も、より正確で再現性の高い濃度測定ができるように、サンプル中のエキソソーム濃度は2x108 ~ 8x108/mLになるように希釈することをお薦めします(例:一回目の測定で、回収したエキソソームの濃度が8x109/mLであった場合、10倍希釈して再度測定する)。
  2. その他のエキソソーム回収の確認方法
    最もシンプルな方法は回収された小胞体のサイズが30~150nmであるということが確認方法の1つとなります。さらに現在では小胞体の表面タンパク質(テトラスパニン類)に対してポジティブであることが確認方法となっています。CD63, CD81およびCD9などがマーカーとして最も広く利用されています。回収した小胞がエキソソームであるという確認する方法として、ウェスタンブロティングが比較的簡単な方法です。ただし現在のところ、エキソソームの定義は確定されておらず、この分野では絶対的なコンセンサスが取れていません。そのため、エキソソームを含めたすべてのnano-vesicles(微小胞)およびmicro-vesicle(小胞)について、しっかりとした特徴分けと命名がなされるのは、数年後になると予想されます。
  3. 予想回収量
    回収されるエキソソーム数はサンプルによって大きくことなります。一般的に体液からは108~1011個/ mLのエキソソームが回収されることが予想されます。特に血液(血清・血漿)中には大量のエキソソームが存在しており、血清サンプルの場合、100µLのスタートサンプルから1.5~3 x 1011個のエキソソームが回収されます。さらに培養細胞については、培養条件によって回収量が変動します。弊社テストでは、 T175フラスコで30mLの培地(エキソソーム除去済みFBSを添加)で培養した場合、約2 x 107個の細胞由来の培養上清1mLからTotal Exosome Isolation (from cell culture media) 試薬を用いて、約4~8 x 109個のエキソソームが回収できました。回収されるエキソソームの数は用いる細胞株によって若干異なります。また培養に用いた培地によっても異なります(エキソソーム除去済みFBSを使用した場合/ FBSを添加した場合/合成培地を用いた場合など)。


図2 さまざまなサンプルから回収したサンプルの小胞体サイズ
9種類のサンプルからTotal Exosome Isolation 試薬、もしくは超遠心法を使って、エキソソーム分画を回収し、小胞体のサイズと濃度をNanosightで測定した。その結果、すべてのサンプルにおいて、サイズとその分布はほぼ同じでした。PK:Proteinase K