Click-iT® Plus EdUで簡単便利なマルチパラメーター測定

金井 拓哉 (ライフテクノロジーズジャパン株式会社 テクニカルサポート)

[要旨]
Jurkat細胞を用い、新しい細胞増殖測定キットClick-iT® Plus EdUと従来のClick-iT® EdUを比較しました。その結果、新しいキットは従来品と同等以上に新生DNAを検出し、優れた多重染色が行えました。また操作ステップに要する時間は、従来品と変わらず、トータル1~2時間ほどで済みましたが、Attune®Acoustic Focusing Cytometerでデータを比較したところ、新しいキットは従来品よりも解像度が高いことがわかりました。Click-iT® Plusシリーズは従来よりも穏やかな条件下でクリック反応を行うので、これまでは難しかったGFPやPEなどの蛍光タンパク質とも併用できます。

[背景]
これまで細胞増殖測定(S期細胞の同定)には、核酸誘導体としてBrdUを使用するケースが一般的でしたが、DNAに取り込まれたBrdUの検出には抗体を使用するため、事前に厳しい条件下でDNAを変性ステップする必要がありました。これに対して、EdUという核酸誘導体を使うと、検出はマイルドなクリック反応を介して低分子化合物で行うので、変性ステップは不要です(下図参照)。高次構造を保持したままで検出できるので、組織染色にも適しています。

▶BrdU法とクリック反応を用いたEdU法の比較

BrdU法は抗体で検出するので、サンプルを塩酸や加熱処理する必要があり、操作が煩雑でデータ解像度も低いという問題点がありました。クリックケミストリに基づくEdU法は、DNA鎖に取り込まれたチミジンアナログのEdUに蛍光色素を特異標識するので、煩雑な処理も必要なく、高解像度のデータを取得できます。

[使用キット]

  • Click-iT® Plus EdU Alexa Fluor® 488 Flow Cytometry Assay Kit(NEW・新製品、製品番号C10632 )
  • Click-iT® EdU Alexa Fluor® 488 Flow Cytometry Assay Kit(Classic・従来品、製品番号C10425 )[細胞およびEdUの取り込み]
  • Jurkat細胞へEdUをfinal10μMで添加し、37℃5%CO2 環境下で90分インキュベーション

[実験操作]

  • 操作は全て製品プロトコルに準じて実施
  • 固定処理前にPE標識抗CD3抗体(製品番号MHCD0304)で表面抗原を検出
  • 細胞周期解析にはFxCycle™ Violet Stain(製品番号F10347)を使用
  • データはすべてAttune® Acoustic Focusing Cytometer(Violet/ Blue laser type)で測定
Click-iT Plus EdU (New) & Click-iT EdU (Classic)Time
細胞へEdUを添加1~2hour
細胞を回収5min
細胞表面抗原の検出( 必要に応じて)15~30min
Click-iT® Fixativeで細胞を固定処理15min
Click-iT® permeabilization bufferで細胞膜を透過処理15min
Click-iT® 検出反応※30min
細胞内・表面抗原の検出(必要に応じて)15~30min
細胞周期解析用蛍光試薬での染色(必要に応じて)15~30min
Total3~4.5hour
各ステップ間に洗浄操作が必要です。※Click-iT® 検出反応用カクテルの調製ステップも同じです。
(混合する試薬の種類は異なりますが、量は変わりません)

[結果と考察]
Jurkat細胞へ実験方法の通りにEdUを取り込ませて回収後、 PE標識抗CD3抗体で表面抗原を標識しました。次にClick-iT® Fixativeで細胞を固定後、ClickiT® permeabilization bufferで細胞膜を透過処理し、それぞれのEdUキットでクリック反応を行いました。さらに細胞周期解析試薬FxCycle™ Violet Stainで細胞内のすべてのDNAを染色し、Attune® AcousticFocusing Cytometer(Violet / Blue laser type)で測定しました( 図1 )。細胞周期解析用の蛍光試薬FxCycle™ Violet Stain のシグナルは、細胞のDNA含量に比例するので、細胞周期のどのステージに細胞がいるかを示します(図2参照)。図1の結果より、 ClickiT® Plus EdU(緑色)はClick-iT® EdU (紫色) に比べてシグナル分離が優れていることがわかりました。次に2 つのE d UキットのE d U – AlexaFlour®488azide由来のシグナルに対する細胞数をカウントしたところ(図3)、Click-iT® Plus EdUでは46%、Click-iT® EdUでは36%となり、新生DNA合成が行われた細胞集団(S期細胞集団)の割合は36~46%という結果が得られました。最後に、PE標識抗CD3抗体で細胞表面のCD3を検出した結果を図4に示します。ClickiT® Plus EdUではClick反応前にPE標識抗体を添加してもデータに影響せず、多重染色が行えることが示されました。これによりClick-iT® PlusはPE標識抗体とも併用できることがわかりました。

なおフローサイトメトリー用Click-iT® Plus EdU キットにはAlexa Fluor 488以外にも、レッドレーザー励起のAlexa Fluor 647やバイオレットレーザー励起のPacific Blueがあり、GFPやPEなどの蛍光色素と柔軟に組合わせて様々なアプリケーションに使えます。

図1. EdUとFxCycle Violetのマルチプレックス解析
X軸は細胞周期ステージ、Y軸は新生DNA合成量を示します。データの組み合わせから、G1/G0期、S期、G2/M期の細胞を同定できます。FxCycle™ Violet Stain のシグナルは、細胞あたりのDNA含量を反映しています(図2参照)。緑はClick-iT® Plus EdU、紫はClick-iT® EdU。
図3. EdU – Alexa Fluor® 488azide由来シグナルの比較
緑はClick-iT® Plus EdU、紫はClick-iT® EdU、黄色はClick反応を行っていないサンプル(No Azide)を示します
図2. 細胞周期と解析試薬の蛍光量の関係
細胞は、分裂前にDNA複製を行い、DNA量が2倍になります(2N→4N)。DNAと選択的に結合する蛍光色素(FxCycle™ Violet Stain)でラベルすると、細胞のDNA量から細胞周期のステージが分かります。
図4. PE標識抗CD3抗体による検出
緑はClick-iT® Plus EdU、紫はClick-iT® EdU、黄色はClick反応を行っていないサンプル(No Azide)を示します。

[まとめ]

  • Click-iT® Plus EdUキットは従来のClick-iT® EdUキットと同等以上の性能
  • 両キットは操作ステップ、所要時間も同じなので、これまでの実験系を変えずに使用可能
  • Click-iT® Plus EdUキットは、PEやPEタンデム、GFPなどと併用でき、 マルチプレックス解析により便利
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金井 拓哉
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