幹細胞研究に挑戦しよう!

夏休みも折り返し点を過ぎた8月18・19日の2日間、ライフテクノロジーズジャパン本社で高校生向け実験教室「幹細胞研究に挑戦しよう!」を開催しました。このイベントは、細胞培養の歴史とともに歩んできたGibco50周年を記念に企画。定員12名の実験教室に対して60数名の応募があり、選考に外れた高校生に結果をお知らせする担当者も胸を痛めていました。

当日は、全員参加で時間通りのスタートです。まずは自己紹介や将来の夢を話すことから始めました。参加高校生が描く将来は様々です。「医師として医学研究を究めたい」「栄養学を学び病気の人を救いたい」「再生医療で多くの方を救いたい」という真剣な夢や、「酵母の勉強をして美味しい日本酒を造りたい」といったユニークな夢も。みな個性豊かで活気溢れる高校生が集まりました。


次にスタッフの挨拶があり、講師からiPS細胞を含む幹細胞や再生医療の話と2日間の実験の流れの説明を聞いて、いざ実験です。

一日目の実験は以下の3つです。

実験1: 自分の細胞を見てみよう
実験2: 細胞数をカウントしよう
実験3: 細胞を分化させよう


実験1は、自分の頬の内側の細胞を綿棒で掻きとり、スライドガラスに塗り広げ、メチレンブルーで核を染めて顕微鏡で観察します。学校で経験した人もいたようですが、自分の細胞を自分で観察する経験は貴重です。
それから、いよいよ実験2の細胞培養です。細胞培養は、無菌状態で扱うため、操作はクリーンベンチという、机の上を壁や天井で囲い、埃や環境微生物の混入(コンタミネーション)を避ける装置の中で行います。クリーンベンチの手前は透明のガラス戸になっていますが、手を入れる約10センチくらいのスペース以外は、その戸を降ろした状態で使います。電動ピペットでチューブに細胞液を移したり、スライドガラス状の細胞(血球)計算盤の上に液を一滴垂らすなど、皆、細かな作業に緊張しつつ慎重に取り組みました。


そして実験3として、自分たちで細胞数を計算。適した数の細胞をディッシュに播きました。その後骨細胞と脂肪細胞に分化するそれぞれの分化誘導因子を含む培地に置換し、CO2インキュベーターに入れて1日待ちます。今回実験に使う細胞は、ラットの間葉系幹細胞。この細胞は生体内では、骨髄の血球以外の細胞群の一部に存在し、骨細胞や脂肪細胞、筋肉細胞などに分化することができます。この作業を指導するスタッフは、ライフテクノロジーズのテクニカルサポート。いつもは研究者からの問い合わせにお答えしています。でも今日は勝手が違う参加者に、最初は戸惑い気味でしたが、全員に丁寧に細胞培養を教えている間に打ち解けていきました。高校生には、ラットの間葉系幹細胞、間葉系幹細胞用培地(MEMα + FBS)、分化用培地(脂肪細胞用骨細胞用)など、研究者と同じくライフテクノロジーズの幹細胞用研究製品を使ってもらいました。

クリーンベンチは2台しか使えなかったので、培養作業を待つ間、半数の参加者は実験室のライフテクノロジーズの研究機器を見学、その説明を聞きました。まだ発売前の半導体シーケンサIon Proton™シーケンサについても、皆興味深く耳を傾けていました。将来、研究者になった時に、研究室で再会するかもしれませんね。








実験2日目
この日の実験も、前日続と同じく3つのパートに分かれた実験を実施しました。

実験4: 分化後の細胞を観察しよう
実験5: 細胞を染色しよう
実験6: 染色した細胞の様子を観察しよう

昨日の幹細胞は、脂肪細胞と骨形成細胞に分化中のはずです。ただし、まだ一日でははっきりと分化を観察できないため、1週間ほど前からスタッフが準備した細胞も一緒に染色して観察しました。脂肪細胞は油滴、骨細胞ではカルシウムが染まるはずです。またすべての細胞の核も、染色。カルシウムの染色以外は、すべて蛍光染色なので、脂肪細胞では、油滴と核が別々の蛍光色素で染まっているはずです。このような染色を二重染色と呼び、重ね合わせた画像を見ることもできます。

さて細胞や染色法は、各自で異なります。どの細胞を使うか、そんな色素を使うか、細胞に合わせて間違えずに試薬を加える必要があります。まず染色前に、細胞がディッシュからはがれない様に「固定」という操作をしました。今回はホルムアルデヒドを使いました。それからいよいよ染色です。みな自分の操作が間違っていないか、神経質に試薬のラベルを確認しています。段々マイクロピペットの操作にも次第に慣れてきました。マイクロピペットを握る姿は、一人前の研究者のようです。

そして自分で蛍光染色した細胞をついに観察する時が来ました!ブルーに染まった核と脂肪細胞に分化した細胞内の油滴の染色に、思わわず、ワーッと歓声が上がりました。「きれいー」という声も聞こえています。この時使用した蛍光顕微鏡は、FLoidセルイメージングステーション。明るい部屋でもモニターで観察できるので、こんな時には本当に便利です。高校生たちは、初めて自分で播いた細胞を蛍光の多重染色で観察するというとても贅沢な実験を存分に楽しんでくれたようです。


皆、この時観察した細胞を思い思いにノートに記録しました。絵より言葉で書く方が得意という参加者は、気付いたことを、いろいろとノートに書き留めていました。それぞれ個性があって、楽しいひと時でした。

実験終了後、みんなで将来どういう研究に取り組むか、思い思いのアイデアや新たな夢を発表しました。自己紹介の時に話した将来の夢を具体的な言葉で補強する高校生もいました。自分の手を動かして、実験をしたという経験が高校生の夢を広げてくれたようで、スタッフも嬉しくなりました。


最後は現役の若手研究者との懇親会です。ジュースとお菓子も準備して、少し緊張もほぐしてもらいました。今回、協力していただいた研究者はお二人です。

金田 勇人さん

理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センターRCAI 幹細胞制御研究YCIラボ Young Chief Investigator 

研究テーマ:幹細胞老化の解明と制御

塩澤 誠司さん
慶應義塾大学医学部生理学教室 特任助教

研究テーマ:小型のサル、コモンマーモセットのES細胞を使った遺伝子改変動物作成の研究

若手といっても現役の研究者の幹細胞研究です。パワーポイントの資料には、まだ論文発表前の貴重なデータも入っていたので研究の臨場感は、高校生たちにも伝わったようです。もしかすると数年後、今回の参加者とお二人が同じ研究室で、共同実験を行っている可能性もあります。楽しみですね。

高校生たちも、自己紹介で将来の夢を語ったり、金田さんや塩澤さんに質問を投げかけました。研究室の日常や、研究者としての将来設計やどういう学部に進学すると、幹細胞研究ができるかというような、具体的な質問もでてきました。

懇親会終了後、参加者は優秀賞の賞状を受け取り、全員で記念撮影しました。二日間、本当にお疲れ様でした。高校生の熱意や、研究者と高校生が幹細胞の実験・研究を通して直接語り合うことでお互いを刺激しあった様子を見て、企画や運営に関わったスタッフの疲れも吹き飛びました。この体験が、若い高校生のこれからと日本の将来に役立つことを願っています!

ライフテクノロジーズ社員一同


最後に高校生と懇親会に参加した研究者の感想を一部抜粋して記載します。

【高校生の感想から】

  • 今回、幹細胞を分化させることができたのですが、どのように分化が誘導されたのか、またそのスピードや、途中で止めることはできるのかなど、分化についてもっと知りたくなりました。更に、それを研究することで、不必要な骨化等の病気の治療に役立つ事が出来ればと思います。(3年、女子)
  • 私は幹細胞に深く興味があったので、常日頃、科学の情報にアンテナを巡らせて新しい研究に注意を配ったり、山中先生の講演等にも何回か行ったことがありましたが、今日のように実際に自分の手で幹細胞に触れ、それを培養し、更に観察するなんて、まさか一度もありませんでした。いつか大学で研究室に出入りするようになってからできたらいいなぁ・・・と夢に描いていたことでした。だから、今回の2日間、中身の濃い2日間の中で、資料集に書かれているような実験をし、そこに簡単な絵としてのみ書かれていたような機器を実際に見、そして使えたことは、とても貴重ですてきな経験でした。自分で幹細胞を分化誘導させたなんて!学校で生物好きの友達に自慢します(笑)この2日間の言葉、体験、感じたこと、考えたことは忘れません。これからも、研究者を目指し日々精進していきます。本当にありがとうございました。(3年、女子)
  • 人の塩基配列をたった1日で解析することができる機械を実際に見て、そういった機械を作ることも医療という大きなくくりに貢献することになると実感しました。ですが、現段階では機械開発というよりは、人の塩基配列をもっとくわしく調べて将来の病気へのかかりやすさ、寿命などについて分かるようにしたいと思っています。(3年、男子)
  • ますます「再生医療に携わりたい」という想いが強くなりました。特に、臨床に応用する立場になりたいと思います。臓器再生をひとつとっても、足場だけでは生体内と同じ状態で培養し得ないと考えます。なので、器官の内の、細胞どうしの相互作用はどのようなものであるか、興味を持ちました。(2年、男子)
  • 多重染色の作業が楽しかった。また、顕微鏡で見た時、青や緑に光って見えたのがきれいで印象に残った。将来、私は獣医になりたいが、同時に脳神経学について研究したい。脳の神経を調べて、しくみを理解、解明して人の”心”がどこにあるのかを調べてみたい。(3年、女子)

【懇親会に参加した研究者から】

  • 彼らを見ていると本当に将来が楽しみになります。自分ももっともっと挑戦を続けよう!という気になりました。実際ああいうプログラムを高校生ぐらいでやっておくと、本当に考える力が身につくだろうなと思いました。私が参加させてもらったのはわずかな時間でしたが、とても刺激になりました。
  • 素晴らしいプログラムに参加させて頂き、こちらこそ大変感謝いたしております。詳細な部分まで練り込まれていて、感銘を受けました。少しでもお役に立てていると嬉しいです。