奈良先端科学技術大学院大学
バイオサイエンス研究科 植物グローバル教育プロジェクト
(前所属:独立行政法人科学技術振興機構 ERATO 長谷部分化全能性進化プロジェクトオミクスグループ)

倉田 哲也 先生

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「どのような研究をされているのですか?(また、その成果からどのようなこと(応用)が期待されるのでしょうか?)」
植物の発生研究の一環として、分化多能性とその進化過程の研究をしています。これにより、植物が持っています発生における高い柔軟性の分子メカニズムを明らかにしたいと考えています。また、これらの成果は、多くの植物種に適応できる可能性があり、将来的に、植物バイオマスや有用形質を持つ農作物の選択的増産を目指しています。

「次世代シーケンサを研究に応用した(最大の)理由はなんでしょうか?」
一番の理由は、市販のマイクロアレイが無かったからです。遺伝子発現解析をアレイで行うためには、プローブ設計のために、正確な遺伝子モデルが必要です。私たちが使っているコケ(ヒメツリガネゴケ)は、ドラフトゲノムがあっただけで、この情報ではちゃんとしたアレイできません。また、ChIP解析をゲノムワイドに行うためにタイリングアレイを利用するとしても、カスタムオーダーで作製するには、莫大なコストがかかることが分かっていました。そんな状況をすべてクリアできる次世代シーケンサに飛びつきました。それから、出発材料が少なくても対応できる点も理由に挙げられます。ただ、飛びついたものの、先は殆んどみえていませんでしたが(笑)。

「ヒメツリガネゴケを研究対象としているのはどのような理由があるのですか?」
分化多能性を研究する上で、簡便な処理で多能性幹細胞を誘導できる点ではないでしょうか。このコケは、葉を傷つけて、無機塩培地に置いて培養するだけで、傷口付近で葉細胞が幹細胞へ転換し、幹細胞に特徴的な成長、分裂を誘導されます。これは、わずか24時間程度で起きますので、ただちに解析できる利点があります。花を咲かせる植物では、培地に成長因子を添加しなければなりませんし、時間も数日かかりますのでやや扱い難いですね。

「どのような事が明らかになったのでしょうか?」
まだまだ、ほんの糸口を掴めたかなという程度ですが、動物の幹細胞化でも重要性がはっきりしている転写ネットワーク系が、コケでも鍵であることが明らかになりました。細胞の状態が変わる現象ですので、細胞内の転写環境に影響を持つ転写因子が重要なのは当然かもしれません。 また、特定のクロマチン状態の変化が、適切なタイミングで起こる必要がありそうです。これらは、動物細胞における幹細胞化との関連から、とても興味深いと思います。

「次世代シーケンサ(SOLiD)の取り扱いで苦労されたたことはありますか?」
はい。山程あります(笑)。ライブラリー作製の標準的なプロトコールなどは、最初はありませんでしたので、自分達で一から作らざるを得なく、試行錯誤の連続でした。同じことは、情報解析について同様で、これも自前でプログラムを作りました。

「次世代シーケンサ(SOLiD)を用いた一番の恩恵はなんでしょうか?」
非モデル生物種においても、参照ゲノムの情報さえあれば、ゲノムワイドな解析ができることだと思います。また、1塩基レベルの解像度で解析できることも強みだと思います。また、SOLiD™ システムでは、ネットワーク経由で迅速にトラブル解決していただけているので、大変助かっています。

「今後次世代シーケンサの導入を検討されているお客様にアドバイスはございますか?」
やはり、運用するとなると、専任のwet(実験系)/dry(情報解析系)のスタッフを確保できる環境が大切です。また、wet-dryの担当者間での密なコミュニケーションも、良いデータを産出するのには、大切なことです。また、あまりにも慎重にやっているとなかなか進まないので、「駄目で元々」の覚悟で、そこからいろいろと経験していくことも必要だと思います。もちろん、予算は考えないといけないですが。また、メーカーの担当者の方にどんなに細かなことでもお聞きする事が大切で、遠慮しない方が良いと思います(笑)。

先生貴重なご意見をありがとうございました。
(インタビュアー:アプリケーションスペシャリスト 小野崎 登喜郎)

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