鹿児島大学大学院
理工学研究科 生命化学専攻

九町 健一 先生

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「現在どのような研究を進められているのかお聞かせください。」
フランキア(Frankia)という、樹木の生長を促進する共生窒素固定バクテリアの研究を行っています (詳しくはこちらを御覧ください)。
さまざまな種類のフランキアゲノムを解析することで、共生に必要な遺伝子を予測したり、土壌中でのフランキアの多様性や動態を調べるためのマーカー遺伝子を確立したりすることを目標にしています。

「共生窒素固定細菌を利用することで、農業の生産性向上や森林の再生に応用可能であるとお伺いしました。現在までにどのような事が明らかになったのでしょうか?」
まだ始めたばかりですが、さまざまな種類のフランキアが共通して保有している遺伝子を絞り込むことができそうです。それらの遺伝子の中で、他のバクテリアが持たないものは、樹木との共生というフランキア特有の性質に関わる可能性が高いと予想しています。

「次世代シーケンサ(SOLiD システム)を研究に適用した経緯と利用にあたり苦労された点をお聞かせ頂けますか?」
当初は次世代シーケンサを研究に利用できると思っていなかったのですが、所属の学部に導入されることが決まり、そこから利用方法を考え始めました。次世代シーケンサを稼働させるために専任のスタッフを雇うことは地方大学にとってかなり難しい状況です。そのため、学生に任せるわけにもいかず、結局僕が自分で稼働させています。苦労すると言えば、必要な試薬や消耗品を買うための研究費の獲得でしょうか・・・(笑)。とはいえ、得られるデータ量を考えれば、十分リーズナブルなことは理解しています。
また、研究対象の生物のリファレンス配列がなかったため、どのように解析を進めたらよいのか分からず、当初戸惑いました。僕の場合は近縁株のゲノム配列がリファレンスとして使えそうなので解決できそうですが、新規ゲノムを解析する際には十分な計画が必要だと思います。

「次世代シーケンサ(SOLiD システム)を用いた一番の恩恵はなんでしょうか?」
やはり、莫大なデータ量ですね。バクテリアゲノムなら1回のシーケンスで優に数株分の配列を解読してしまう。これまでゲノム解析の対象を選ぶ際は、費用対効果の観点からできるだけかぶらないように、できるだけ違ったものをシーケンスするという考えでした。しかしながら、次世代シーケンサが普及した今、似た性質のバクテリアゲノムをたくさん解析することが可能になり、共通する「似た性質」に寄与している遺伝子を、より正確に予測することができると思います。比較ゲノム解析の解像度をどんどん高められるということですね。

「今後次世代シーケンサの導入を検討されているお客様にアドバイスはございますか?」
次世代シーケンサを導入してどんな結果を得るのかを明確にすることが大事だと思います。次世代シーケンサのプラットフォームによって、得意なこととそうでないことが結構はっきりと決まっているからです。運営面においては、実験と情報解析の専任スタッフを1人ずつ確保できれば完璧ですが、その環境を用意できる方はあまり多くないと思います。シーケンスのワークフローにはストッピングポイントが結構あるので、時間のある時に少しずつ進めることで対応できると思います。情報解析においては、一般的なこと(SNPsやトランスクリプトーム解析)を行うだけならUNIXのコマンドを少し覚えれば対応できますが、独自の解析をする場合は自前でプログラムをつくる必要があるでしょう。僕は少しプログラムをかじったことがあって、自分でなんとか解析を行っていますが、そうでない場合は外部と共同研究を行うとか、クラウドコンピューティングを利用するなどの解決法があると思います。

先生貴重なご意見をありがとうございました。
(インタビュアー:バイオインフォマティクスサイエンティスト 戸崎 浩和)

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