Lipofectamine® 3000を使い、間葉系幹細胞で高効率な遺伝子導入を実現

金田 勇人 氏 (理化学研究所 統合生命医科学研究センター Young Chief Investigator)

近年、神経幹細胞や造血幹細胞において、分化能の異常や自己複製能の低下などの機能に変化が生じる「幹細胞老化」の研究が注目されています。この幹細胞老化を制御できれば、加齢疾患の予防や健康寿命の延長ができると期待されます。理化学研究所の金田勇人氏は、神経幹細胞の分化能が、特定のマイクロRNAによって制御されていることを明らかにし、幹細胞老化の制御機構の解明を目指して研究を進めています。

 

幹細胞老化の制御機構を捉える
幹細胞の性質の変化には、エピジェネティクスが重要と考えられてきましたが、金田氏らの研究によりマイクロRNA の発現量を調整することで、DNA のメチル化の程度によらず神経幹細胞の分化能を制御できることが明らかになりました。神経幹細胞でみつかったマイクロRNAは他の幹細胞でも発現しており、細胞の分化制御に関与しているという報告もあります。そこで金田氏は、接着培養で増殖させることができ、分子メカニズムの研究に適しているマウスの骨髄由来の間葉系幹細胞を使って、マイクロRNAと幹細胞老化による機能障害との関係を調べる実験を始めました。すでに網羅的発現解析を行って、老化に伴って発現が変化する遺伝子やマイクロRNAをみつけています。「まずこれらをターゲットにし、幹細胞老化による機能障害を回復させるマイクロRNAを探したい」と金田氏。そこで候補になった遺伝子のレポーターやマイクロRNAの発現ベクターを間葉系幹細胞に導入し、機能解析をしようと考えました。

Lipofectamine® 3000でトランスフェクションに成功
これまで、金田氏はレンチウィルスベクターを使い、マイクロRNAやGFP遺伝子を神経幹細胞に導入して機能解析を行ってきました。しかし、レンチウィルスベクターは、今回の実験の様に大きなサイズのDNA配列の導入には適していません。そこで、トランスフェクションを試すことに。しかし、従来の遺伝子導入試薬やエレクトロポーション法で行ってもうまく発現ベクターを導入できず、実験は中断してしまいました。ところが、昨年発売されたLipofectamine® 3000を試してみたところ簡単にトランスフェクションできたのです。 「ヒトの間葉系幹細胞には他の試薬も使えるようですが、マウスの間葉系幹細胞では使えずに困っていました。初代培養の細胞を使っているためか、実験によって導入効率にはムラがあるものの、導入効率が低いものも含めれば80-90%の細胞には遺伝子が導入され、40-50%ぐらいの細胞は発現量もかなり多いようでした」(図参照)と金田氏は導入効率について話します。

機能回復の可能性が見えてきた
あきらめかけたアッセイも「今ならできそうだ」と話す金田氏。中断していた実験も進めていく予定です。「既に特定のマイクロRNAにより幹細胞の一部の機能回復は確認しています。幹細胞に共通する老化制御メカニズムを解明し、幹細胞老化が個体レベルの老化に与える影響を明らかにするところまで発展させていきたい」と今後の展望を語ります。

[実験メモ]
細胞コンフルエンシー:
30-40%(トランスフェクション時)
60-70%(48時間後の撮影時)
細胞種: 初代マウス骨髄由来間葉系幹細胞
プロトコル: マニュアル通り
導入遺伝子: GFP遺伝子(GFP発現ベクター)
目的: 遺伝子発現解析