IonProton™ シーケンサとQuantStudio®3D デジタルPCRで代謝疾患関連遺伝子の網羅的解析へ

田中宏樹 氏( 旭川医科大学臨床消化器・肝臓学連携講座特任講師、写真右) 佐々木勝則 氏( 同特任教授、写真左)

慢性肝疾患や血液系の代謝疾患の原因究明を目指す旭川医科大学内科学講座の研究グループ。疾患に関わる遺伝子変異や発現変動から病因究明を目指して、次世代シーケンサとデジタルPCRを組み合わせ、エクソームやトランスクリプトームの網羅的解析を着実に進めています。

疾患関連遺伝子の網羅的解析のために開発した「第三内科パネル」
「2年ほど前からIonProton™ シーケンサを使い始めましたが、全エクソーム解析では解析できるサンプル数が少なくなってしまうため、解析対象とする遺伝子をある程度絞り込んだアンプリコンシーケンスを行うことにしました。研究対象としては遺伝的背景が不明の疾患患者の血液から採取したゲノムDNAです。関連性があると考えられる遺伝子についてIonProton™ シーケンサの1ランで解析できるキャパシティとサンプル数のバランスを考慮し、できる限り多くの遺伝子を解析したいと考えました。そこで消化器・血液腫瘍制御内科学分野(第三内科パネル)の臓器別に別れる各研究グループから各種疾患に関わりそうな候補遺伝子を挙げてもらい、それらをまとめて一つのカスタムパネルを作成したんです」と田中氏は振り返ります。このパネルには、約1000種類の遺伝子が含まれ、約12,000のプライマーペアを使ってアンプリコンシーケンスを行います。Ion Ampliseq™ テクノロジーで、ライブラリ調製前に数千のマルチプレックスでPCR増幅を行い、微量なサンプルにも対応します。またカバレッジも150~400と高く、感度良く遺伝子変異を同定します。「各研究グループ間の垣根を越えた解析ができるため、ある研究グループが想定していた遺伝子変異だけではなく、他のグループが候補として挙げた遺伝子変異が見つかるなど想定外の結果も得られております」。ほぼ休みなく稼働する2台の次世代シーケンサが、ユニークな「第三内科パネル」の網羅的な解析を支えているようです。

2倍以下の遺伝子発現の違いや微量サンプルをデジタルPCRで解析
「一方、遺伝子発現解析については、各種疾患の病態を模倣したモデルマウスを作成し、ホールトランスクリプトーム解析を行っています。マイクロアレイよりも非常に高感度なので、新たなアプローチが行えますね。例えば慢性肝疾患では、重要な疾患関連遺伝子の発現変化は確認できても、それだけでは疾患の説明がつかない場合もありました。ところがこれまでマイクロアレイでは検出できなかったハウスキーピング遺伝子と考えられているような代謝関連酵素などの発現変動も、IonProton™ シーケンサでは検出できています。新たなアプローチで肝硬変や肝がんとの関係を探っていきたいですね」と語ります。さらに特定の遺伝子を詳細に調べたいときは、Quant Studio® 3DデジタルPCRシステムを使うそうです。「2倍以下の変化や、変化は大きくても発現量が低い遺伝子は、リアルタイムPCR解析では限界があります。実際にリアルタイムPCRではキャッチできなかった変化が、デジタルPCRで検出できた例がいくつかありました」と田中氏。さらに「血清エキソソーム中のmRNAのバリアントをデジタルPCRで解析する研究も進めています。感度が高いだけでなく、絶対定量ができる点も便利ですね」と佐々木氏もコメントします。

これからの研究に向けて
「代謝関連の異常を網羅的に解析するには、産物を質量分析で解析する手法もありますが、導入コストや運用が大変な点などが気になります。ですから、使いやすい次世代シーケンサとデジタルPCRで構築した遺伝子ベースの解析系に満足しています。また、これらの手法からエキソソーム中のmRNAが疾患バイオマーカーになり得る可能性など、新たな知見も得られ始めており、今後、さらに研究を加速させていきたいですね」と田中氏と佐々木氏は語ります。