細胞イメージアナライザーで18,000種類の遺伝子を一気にスクリーニング

村田茂穂 氏(東京大学大学院薬学系研究科蛋白質代謝学教室教授) 平山尚志郎 氏(同教室助教)

細胞内で不要になったり、構造異常を引き起こしたタンパク質に目印を付け、ピンポイントで分解するユビキチン・プロテアソームシステム。がんではこの経路が亢進する一方、神経変性疾患ではこの経路が抑制されて過剰なタンパク質の凝集が観察されます。このようなタンパク質分解システムは、多様な生命現象に関わるだけでなく、新たな創薬ターゲットとしても大きな注目を集めています。東京大学教授の村田茂穂氏らは、細胞内でのタンパク質分解制御に対する約2万種類の遺伝子の影響を細胞イメージアナライザーで測定し、新規分子や経路の発見を目指しています。

 

タンパク質分解の制御機構へのアプローチ
「細胞内で構造異常を起こしたタンパク質がどうやって処理されているかに非常に興味をもっています。この制御機構を明らかし、神経変性疾患の病態発生を理解できれば、新しい治療へつなげられるはず。そのために異常タンパク質の量的変化や凝集のしやすさを制御する分子を探索しています。例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病巣部に蓄積するTDP-43をはじめ、神経変性疾患で異常な蓄積が観察されるタンパク質等の挙動を蛍光タンパク質で可視化し、哺乳類細胞でゲノムワイドに遺伝子の影響を調べています」と現在の研究アプローチについて村田氏は説明します。

細胞の中の変化を細胞イメージアナライザーで観察
「具体的には自動化システムを使って、66枚の384ウェルプレートに細胞を撒いて育て、約18,000遺伝子に対応したsiRNAをそれぞれのウェルに加えます。その後、CellInsight CX5 High Content Screening Platformで細胞画像を取得し、ウェル毎の細胞1個あたりの蛍光量や凝集体の質的・量的変化など、様々な測定結果を1週間ほどかけて得ています」と平山氏は説明します。「カメラの性能が良く、ピント調整も自動で撮影するので、人の手によるばらつきが抑えられ、定量性が向上します。また、画像を取り込んで測定値を出すまでの解析時間が早い点も良いですね」とコメントします。以前はArrayScan™ XTI Live High Content Platformを使っていましたが、共同利用のためなかなか実験できず、昨年8月にこのシステムを研究室に導入しました。ソフトウェアが直感的で分かりやすく、研究室に入ったばかりの学生も使用できるため、常時稼働中とのこと。村田氏も「これだけの膨大な情報量を取り込めることを考えると、コストパフォーマンスも良いですね」と評価します。

スクリーニングを基盤に新しいサイエンスを切り拓く
ハイスループット型の細胞イメージアナライザは、製薬会社での薬剤スクリーニング等で汎用されますが、村田氏は基礎研究ツールとして活用しています。解析の途中ながら、すでに今回の実験にも手応えを感じ、二次スクリーニングへと進む予定とのこと。「既知のシグナル伝達系や関連分子に絞って探索するよりも、網羅的なスクリーニングで思いがけない経路や新規の制御分子を見つけたい。私の好きなサイエンスのスタイルは、既存の概念に捉われず、新たな分子や経路を発見することなので」と村田氏。「やりやすくなったゲノム編集で蛍光タンパク質をノックインし、内在性タンパク質の変化も観察しはじめています」と続けます。今後も用途を拡げるスケールの大きな研究をCellInsight CX5 Platformが支えて行くようです。