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ユーザー:中戸川仁氏 東京工業大学 フロンティア研究機構 特任准教授
■オートファジーとは?
素晴らしい結果がでそうで、寝食忘れて実験に没頭。きっとそんな方も多いと思います。そんな時、あなたの肝臓は自分を食べながら、研究活動をけなげに支えています…。この表現の詳細な検証はさておき、人では空腹時に肝細胞で、活発な自食作用が観察されます。また酵母では、外界の栄養源が枯渇したとき、自食作用によって細胞内構成成分を再利用して生命を維持するそうです。「自食作用、つまりオートファジーは、真核生物に高度に保存された大規模な分解・リサイクルシステムです。タンパク質等の細胞成分だけでなく、ミトコンドリアのような細胞内小器官も丸ごと分解するんですよ」と東工大・特任准教授の中戸川氏は研究テーマを説明します(1)。
■ユビキチン様タンパク質結合反応中間体の分離の難しさ
「最大の特徴は、分解するものを包み込み、リソソームや液胞といった分解の場に輸送するための脂質膜のふくろ、『オートファゴソーム』の形成」と中戸川氏。その形成には、複数のタンパク質が連携して働きます。中戸川氏はそれぞれのメンバーの役割や動きを解析中。特にAtg8というユビキチン様タンパク質に注目し、オートファゴソーム形成機構の全容解明を目指しています。「Atg8は、脂質分子を介して伸長中のオートファゴソーム膜に結合しますが、その過程でAtg7(E1酵素)やAtg3(E2酵素)といったタンパク質とチオエステル結合で中間体を形成します。しかしこの中間体は不安定で、結合に関わるシステイン残基をセリンに変換して確認するという手間がかかる方法が主流でした」と研究の状況を説明します。
■tRNA-タンパク質結合体の研究がヒント
「Atg中間体をもっと楽な方法で分離できないかと考えていた時、tRNAとタンパク質の不安定なエステル結合体(翻訳反応中間体)を、プレキャストゲルNuPAGEでうまく分離できたことを思い出したんです」と中戸川氏(2)。一般的なLaemmli法のSDS-PAGEでは分離ゲルが強アルカリ性(pH8.9)ですが、NuPAGEは中性。そのため泳動中のタンパク質が安定化し、高い分離能と長期保存というメリットがあります。この特性がtRNAや脂質とのタンパク質複合体の解析に力を発揮しました。「NuPAGEのおかげで、2種類の中間体を電気泳動で簡単に確認できるようになりました(3)。これにより、オートファゴゾーム形成の中心的役割を担うAtg8の膜結合反応の時間経過等を詳細に追跡し、律速段階の反応の特定など、多くの情報が得られました」と語ります。
■今後の研究へ向けて
オートファジーは飢餓状態でなくとも、一定の割合でおきています。これがうまく働かないと細胞内に異常なタンパク質が蓄積し、さまざまな神経変性疾患や老化につながる可能性もあります。栄養制御と細胞内浄化というふたつの大事な役割を持つ、オートファジー。多彩な役割を巡る今後の展開が楽しみです。
参考文献
関連リンク