Gibco®のKSR(KnockOut™SR)で角膜分化誘導を安定化

林竜平 氏( 大阪大学医学系研究科脳神経感覚器外科学( 眼科学)講座助教)

ヒトiPS細胞から培養上皮細胞シートを作製して角膜上皮疾患モデル動物(ウサギ)へ移植、その有効性を確認した大阪大学の眼科チーム。「iPS細胞の臨床研究では網膜色素上皮細胞シートの移植が先行していますが、私たちは角膜でこれに続きたい」と語るのは、林竜平氏。iPS細胞の分化誘導は、理化学研究所の研究者らが開発したSDIA法(Stromal cell-Derived Inducing Activity)等を参考にし、Gibco®のKSR(KnockOut™SR)を用いた無血清培養で行っています。「現在では我々の誘導系に合せた工夫を加えています。以前は、サイトカインなどを何種類も添加し目的の細胞へ強制的に分化誘導する方法を実施してきましたが、今は添加する因子を最小限に絞り込み、より安定した分化誘導系にしたい」と語ります。


iPS細胞から角膜上皮をつくる

角膜上皮幹細胞疲弊症など難治性の眼疾患では、ドナー不足と移植による拒絶反応が治療の大きな障壁です。林氏が所属する研究室では、西田幸二教授を中心に、10年前から角膜上皮と同じ重層粘膜上皮である口腔粘膜上皮組織を患者から採取し、その中に含まれる重層上皮前駆細胞を増幅させて、角膜上皮とよく似た機能を有する培養口腔粘膜上皮細胞シートを作製、移植する治療法を開発してきました。この治療は大部分の患者の視力を回復させますが、長期間観察していると一部の症例では、培養口腔粘膜上皮細胞シートが血管を呼び寄せ、再び角膜が混濁するケースが確認されました。そこで、iPS細胞による角膜上皮再生の研究に着手。患者自身のiPS細胞を使えば拒絶反応がなく、生体の角膜上皮と同等の性質を有する、血管を呼び寄せない細胞シートが作製可能と考えたからです。ウサギへの短期間の移植実験において、角膜上皮特異的なマーカー遺伝子の発現と、角膜のバリア機能のはたらきを確認できています。


KSRを用いた無血清培養法を用いてヒトiPS細胞より誘導した角膜上皮コロニー
参考情報:
文部科学省再生医療の実現化ハイウェイ
「中長期で臨床研究への到達を目指す再生医療研究」①
KSRを用いた無血清の分化誘導法
血清には、幹細胞の維持に必要な成分と細胞を分化させる成分の両方が数多く含まれています。そのため、ロットによってそれらのバランスに差があると、幹細胞の維持や分化が不安定になります。「角膜への分化誘導は長い培養期間を要するので、特に最初の培養環境が異なると後の分化の方向性が大きく変わってしまう。角膜への安定した分化誘導のためには、誘導に必要な最低限の因子を含み、なるべく均一な製品をつかいたい。」と林氏。3~4年後にiPS細胞を活用した角膜再生治療法の開発を目指し、基礎研究で確実な成果を上げることに取り組んでいます。


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