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小亀浩市 氏(国立循環器病研究センター分子病態部血栓止血研究室 室長)
ADAMTS13遺伝子変異による劣性遺伝病
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は、細動脈に血小板血栓が生じることで神経障害や腎障害等を引き起こす全身性の疾患です。血小板凝集を調節するプロテアーゼADAMTS13の著しい活性低下が発症につながり、先天性TTPではADAMTS13の遺伝子異常が原因となります。国立循環器病研究センターの小亀浩市氏は、奈良県立医科大学輸血部の藤村吉博氏らの研究グループとともに、TTPの研究に携わってきました。
「TTPは劣性遺伝形式の疾患であり、治療が可能な病気です。これまでに臨床的に先天性TTPだと強く疑われた約50人の患者に対してダイレクトシーケンシング法で複合ヘテロ接合性(各アレルに別の変異)あるいはホモ接合性(両アレルに同じ変異)の原因変異を同定しました」と小亀氏。世界的には140を越える原因変異が報告されていますが、そのうちの4割を彼らのグループが報告しています。「複数の変異がどちらの対立遺伝子に由来するかを正確に判断できれば、この病気を正しく理解し適切な対処につなげられます。ただしシーケンサを使った従来の解析法では、ハプロタイプの区別には両親のサンプルが必要となります。患者本人のサンプルだけで区別できれば、迅速に結果が得られ、家族への負担も減りますよね」と新しい解析法の必要性を語ります。
デジタルPCRによるハプロタイピング解析法の開発
「そんな時に、デジタルPCRシステムの情報を耳にしました。このシステムを使えば、患者本人のサンプルだけで、クローニングせずに簡単にハプロタイピングできそうだと思いついたんです」と小亀氏。デジタルPCR法の基本原理は、DNAサンプルを希釈して、測定対象が1分子以下になるように反応ウェルに配分。各ウェルでTaqMan®アッセイを実施し、PCR反応が進んだか進まなかったかをプローブの蛍光量の増加で判定します。標的配列のありなしで定量するのでデジタルPCRと呼ばれ、微量な遺伝子の発現定量や絶対定量に威力を発揮します。小亀氏は、デジタルPCRを使うハプロタイピングを次の様に解説します(図参照)。「例えば2か所の変異を解析する場合、組み合わせから4種類のハプロタイプを区別する必要があります。そこで2つの変異に対して、異なる蛍光分子を持つTaqMan®プローブを準備し、サンプルを解析します。もし変異が同じアレルに存在すれば1つのウェルに両方の蛍光が検出され(パターンA)、2つの変異が別々のアレルに存在すれば片方ずつ検出される(パターンB)はずです」。新しい機械や技術が発表されると、常に自分の研究に活かすことを考えるという小亀氏。デジタルPCR技術を発展的に活用するアイデアを検証中です。すでにQuantStudio™ 3DデジタルリアルタイムPCRシステムの予備実験では良好な結果を得ているそうです。
血栓症全般の遺伝子解析への応用も
ADAMTS13の迅速で正確な活性測定法を確立するなど、TTPの治療や基礎研究に大きな貢献をしてきた小亀氏らの研究グループ。「今後は、デジタルPCRを活用しながら、TTPだけでなく他の血栓症も簡便に遺伝子診断できる方法を開発していきたい」と語ります。ケースに合わせて様々な遺伝子解析法を使いこなすことで、今後も様々な血栓症の治療に向けた基礎研究に邁進するようです。