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杉山 暁 氏( 東京大学アイソトープ総合センターRI防護・環境保全部門助教)
人体でより効果的に働く低分子抗体scFvの分子設計を目指して
最先端研究開発支援プログラム(FIRST)の一つ「がんの再発・転移を治療する多機能な分子設計抗体の実用化(中心研究者・児玉龍彦)」として推進されてきた、がんに対する抗体医薬開発。進行したがんは手術しても再発しやすく、また全身に転移すると手術もできなくなりますが、抗体医薬を使えば副作用を抑え、進行がんを治療できると期待されています。東京大学先端科学技術研究センターの杉山暁氏らのグループは、FIRSTで得られた研究成果をもとに、ヒト化抗体や抗原への親和性を高めた低分子抗体scFvの作製を通して抗体医薬への貢献を目指しています。「私たちは、大腸がんの幹細胞に発現している抗原へ特異的に結合するscFvを目印として、抗がん剤をがん幹細胞に適切に届けるために、ストレプトアビジン(SA)とビオチンの強固な結合を利用する方法を検討しています。SAをscFvに付加した状態で体内に投与後、抗がん剤を付加したビオチンを投与することでがん細胞を集中的に攻撃しようというものです」。SAは放線菌由来のタンパク質であるため、体内で抗体が産生されますが、昨年杉山氏らは、低免疫原性化したSAの開発に成功しました。また体内にわずかに存在するビオチンとは反応しないSAの改変も進めています。
結晶化解析とコンピューターシミュレーションの併せ技で挑む
発現した抗体タンパク質と抗原との親和性を確認するとともに、抗体を精製し結晶解析で抗原との反応を分子レベルで確認することで、さらに新たな変異候補が出てくることもあります。「スーパーコンピューターによるシミュレーションで分子を設計するアプローチと、私のように実際に抗体タンパク質を発現させて結晶構造を解析するという両方のアプローチで、分子レベルでの抗体医薬の設計はより確実になるはずです」と杉山氏。副作用が少なく治療効果の高い抗体の分子設計に向けて、着々と研究が進められています。