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関根秀一 氏 ( 東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 講師)
灌流培養バイオリアクターで血管付き三次元心筋組織を作製
細胞を層状に培養し、患者の様々な組織への移植を目指す細胞シート。これまでシートを多層化していくと酸素や栄養が細胞に行き渡らなくなり、細胞が死滅してしまうという課題を抱えていました。東京女子医科大学の関根秀一氏らのグループは、昨年新たに組織に毛細血管を張り巡らせ、多層化した細胞全体に栄養や酸素を供給することでより厚い心筋組織を作ることに成功。この組織をラット生体へ移植すると、その機能を保ったまま生着することを確認しました。「まず大腿動静脈を含む筋組織を成形することで、血管新生の場となる血管床を作製しました。そして、新たに開発したバイオリアクターで血管新生因子を添加しながら血管床を灌流培養し、血管の成長を促します。さらに血管床の上に血管内皮細胞と心筋細胞を共培養させた細胞シートを積層していくと、3日後に血管内皮細胞から新生した血管と、血管床の血管とがつながることが確認できたんです」と関根氏。これまで臓器の補助的な機能を担っていた細胞シートが、この方法を用いれば12層まで積層でき、より機能的な心筋組織を作製することができました。
EVOS® FL Autoシステムで
広い視野や狭い視野も自在に観察
関根氏の研究で欠かせないのは、細胞一つひとつの観察だけでなく、組織が生成していく過程を広い視野で観察する機能。「組織全体を撮影する際、これまでは目測で何枚も撮影し、手作業で画像どうしの境界を照らし合わせながら貼り合せるなど、手間をかけていました。また1倍のレンズで広い視野を撮影することもありましたが、解像度が低下し、見にくいという問題もありました。昨年の9月に購入したEVOS® FL Autoシステムには、広い部分を自動的につないで撮影できるタイリング機能が内蔵されていて、大変助かっています」と語る関根氏。もともとクリーンベンチの中で細胞をカウントするという機能で他のEVOS® システムを検討しましたが、カタログを見ていくうちにタイリングができるEVOS® FL Autoシステムに興味が移っていきました。「タイリングだけでなく、タッチパネル操作で直感的に指で視野を移動させることができ、大変便利ですね。また明視野の撮影に便利なカラーカメラだけでなく、蛍光観察に適したモノクロカメラを搭載しているという点も魅力です」とEVOS® FL Autoシステムの使い勝手をコメントします。さらに今後は、灌流培養による組織の経時変化を解析するため、搭載されている多点タイムラプス機能も使っていきたいとのこと。EVOS® FLAutoシステムの機能をフル活用し、生体内の再現にむけた研究が順調に進められていくようです。
体内環境の再現に目標を定める
今回開発したバイオリアクターによる灌流培養装置は、心筋組織のモデルとしてより再現性の高い薬剤のスクリーニングを可能にします。すでにこの方法でiPS細胞を使った研究も進められているとのこと。腎臓や肝臓、あるいは皮膚組織へも応用を進めたい、と熱意を語る関根氏。「灌流培養の条件を最適化することでより適切な量の酸素や栄養を届けることができ、さらなる多層化も実現可能です。体内環境をいかにして再現するか試行錯誤の毎日ですが、研究を進めていく原動力は実際の人体の環境に近づけた、と感じた時の喜び」と関根氏。様々な臓器そのものの再生技術が少しずつ、着実に現実味を帯びてきているようです。