秋吉一成 氏(京都大学大学院工学研究科高分子化学専攻 教授)、 澤田晋一 氏(助教)、 下田麻子 氏(研究員)

左から秋吉一成 氏、澤田晋一 氏

生体機能の巧妙な仕組みに啓発され、工学的な手法で新規バイオマテリアルを開発する京都大学の秋吉一成氏(写真左)。体内の狙った場所に薬を届けるDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)のキャリアとして、ナノゲル(ナノサイズのゲル微粒子)を開発し、2011年からJST戦略創造研究推進事業(ERATO)「秋吉バイオナノトランスポータープロジェクト」を開始しました。このプロジェクトでは、壊れやすく血中で存在できないRNAを運ぶ生体内キャリアである、「エキソソーム」を工学的に加工して核酸医薬の有望なキャリアとして臨床につなげることが重要な柱となっています。

生体内の核酸キャリアとして働くエキソソームに注目
細胞から分泌されるエキソソームは、miRNAやmRNA、タンパク質を内包して他の細胞へ運ぶ細胞間コミュニケーションを司る小胞であり、近年大きな注目を集めています。秋吉氏は「がんの免疫療法にもエキソソームを活用できるのでは」と考え、三重大学教授の珠玖洋氏と共同研究を推進中です。エキソソームに特別なタンパク質を組み入れるなどして、がんワクチンとしての活用を目指しています。しかしエキソソームの研究を開始した2011年当時、単離方法は確立されておらず、「最初の1年間は、いくつもの方法を試してみました」と秋吉氏。エキソソームの研究を担当している研究員の下田麻子氏は、「培養上清など量が多いときは超遠心法、血液など少量の時は試薬キットを使うなど、今は単離方法を使い分けています。キットは最初のスクリーニングなどに便利ですね」とコメントします。まだ不明な点が多いエキソソームの機能解析も、工学的な手法でアプローチしています。「遺伝子組換えでエキソソームの膜タンパク質などを改変して機能を調べても、細胞が作り出すものなので安定せずなかなかうまくいきません。そこで私達は例えば膜そのものを工学的に改変してその機能を調べようとしています」と共同研究者の澤田晋一氏(写真中央)は説明します。

研究員の下田麻子氏
エキソソームにナノゲルやリポソームをハイブリッドする
一方、がんワクチンのキャリアとしてすでに臨床試験の段階にあるのが、前述のナノゲルです。ナノゲルは20~30ナノメートルの微小なゲルですが、内部に入れたタンパク質の構造を保ったままにできる分子シャペロン機能を持つほか、表面に抗体を付加したり、これらを組み合わせて自在にシートやチューブなどにしたりすることもできます。「エキソソームの機能を人工的に改変して使いたい。ナノゲルとエキソソームをハイブリッドにすれば、さらに使いやすくなりそう」と秋吉氏。例えばエキソソームだけでは細胞内に入らない場合でも、その表面をナノゲルで覆うことで表面がカチオン性になり入りやすくなります。同様にバイオナノトランスポーターとして開発を進めるプロテオリポソームについても、「無細胞タンパク質合成系で膜タンパク質を発現させ、リポソームに直接組み込む方法を確立しています。これを利用して、さまざまな膜タンパク質を組み込んだ人工エキソソーム作製へつなげたい」と語ります。バイオ医薬の実用化を大きく後押しするキャリアの確立に向けて、研究が着々と進んでいます。