ArcturusXTTM LCM Systemを用いてマウス組織切片から微小細胞集団を回収

三枝大輔氏(東北大学東北メディカル・メガバンク機構 ゲノム解析部門医化学分野 助教)

脂質メディエーターとして注目されるリゾリン脂質。東北大学の三枝大輔氏は、リゾリン脂質の超高感度測定系を構築し、わずか数百の細胞からなる微小細胞集団中の濃度測定に成功しました。さらに高感度の測定系開発にも意欲的に取り組む三枝氏にお話しを伺いました。

リゾリン脂質の超高感度測定系を構築
リゾリン脂質は、脂肪鎖を一本しか持たないリン脂質であり、生体内で細胞間やオルガネラ間の情報伝達物質として重要な役割を果たします。その一種、「スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)」は、生体膜を構成するスフィンゴ脂質の代謝物であり、酵素により膜から切り離されて遊離し、細胞膜上のGタンパク質共役受容体に結合することで様々な生理機能を発揮すると考えられています。特に多発性硬化症やがんなどの病態発現にも関わることから、創薬のターゲットやバイオマーカーとしても注目を集めています。三枝氏は、近年開発したLC-MS/MSによるS1Pの超高感度測定系の構築のポイントについて次の様に語ります。「リゾリン脂質は分子種が多く構造的に類似しており、しかも生体内での濃度が低いため、多くの条件検討が必要でした。特に質量分析計の感度を上げるためには、HPLCでの分離も鍵となります。分離パターンを詳細に改善し、流路系から金属を除くことでピークテーリングを抑え、MS解析の感度を1万倍も向上させることができました。その結果、血漿中では10 pmol/L、組織切片中50 fmol/mgの微量なS1Pを測定できるようになりました」。

LCMシステムで微小細胞集団を採取、リゾリン脂質を測定
この測定系を活用し、三枝氏は共同研究者である東北大学薬学部の青木淳賢教授とマウスの脾臓切片を用いS1Pの組織分布局在を調べています。「当初使用した装置では、レーザーで細胞集団を切り落とし回収するタイプでしたが未固定の組織においては切断が不十分となり、数万の細胞集団を切り出すのが限界でした。ですからS1Pの組織局在を解析するためには数十枚の切片からサンプルを準備する必要がありました。そこでArcturusXTTM LCM Systemを試したところ、切り取った細胞のみを上から拾いあげるので、数百の細胞でも高い精度にて切り出せるようになりました。1枚の切片で十分に解析できるので、正確に再現性よく研究を進められますね」とコメントします。三枝氏は、この測定系を第62回質量分析総合討論会で発表し、ベストプレゼンテーション賞最優秀賞を受賞しました。

生理活性物質の更なる高感度測定へ向けて
現在、三枝氏はS1Pのより高感度な測定系開発を目指して、ArcturusXTTM LCM Systemと最新のトリプル四重極型質量分析計を組み合わせることを検討中です。それが実現すれば、一細胞分析も一気に現実味を帯びてきます。三枝氏がこれから挑戦する革新的な技術開発の展開が楽しみです。