免疫沈降–-質量分析(IP-MS)抗体検証法

免疫沈降と質量分析法の組み合わせ(IP-MS)を使用することで、抗体が目的のターゲットに特異的に結合しているかどうかを検証できます。抗体の特異性を評価する他の方法、例えば、ノックアウトマウス由来のサンプルをウェスタンブロッティングし、バンドの消失によって確認するといったようなやり方とは異なり、質量分析法ではサンプル中のタンパク質由来のペプチド配列を直接同定します。


IP-MS による抗体検証のワークフロー

IP-MS による抗体検証のワークフローの全体図を下に示しました。分析する抗体を選択した後、目的タンパク質の発現が可能かどうかといった既知情報に基づき、候補となる細胞株をモデルとして選択します。次に、最適化された免疫沈降を細胞のライセートを用いて行い、溶出した IP サンプルを質量分析により解析します。最後に、カスタム化したバイオインフォマティクス解析ソフトウェアを用いて、得られた MS データセットを処理します。簡単に説明すると、次の通りとなります:(1)ネガティブコントロールやバックグラウンドからポジティブデータを区別し、(2)ターゲットの存在量や濃縮率を非標的タンパク質と相対比較することにより、直接(IP)または間接(co-IP)法の濃縮効果を計算し、IP プロダクトを評価します(次のセクションを参照してください)。

Workflow for antibody validation by IP-MS

IP-MS による抗体検証のワークフロー。


IP-MS 抗体検証データの解析

IP-MS によるタンパク質のグルーピング

典型的な検証実験において、IP-MS では 2 つの異なる抗体を用います。つまり、目的の抗体と、別のターゲットに特異的で性状の良く知られたコントロール抗体を少なくとも 1 つ使用します。MS によって同定された各タンパク質の存在量(例えば MS シグナル強度)を、2 つの IP 抗体についてプロットします。タンパク質は以下の 3 つのグループに分類されます。

  • バックグラウンド–両方のサンプルに存在するタンパク質は、グラフ中央の対角線領域に見られます。これらは、一般的には抗体か、もしくは免疫沈降に使用した樹脂に結合するバックグラウンドタンパク質です。
  • ネガティブコントロール–ネガティブコントロールの抗体だけに結合するタンパク質は、x 軸に沿って見られます(基本的に y 値はゼロです)。これらは、目的の抗体とは相互作用しないネガティブコントロールタンパク質です。
  • ポジティブ–目的の抗体だけに結合するタンパク質は、y 軸に沿って見られます(基本的に x 値はゼロです)。これらは、目的の抗体によって特異的に免疫沈降されたポジティブなタンパク質です。
IP-MS データアウトプット

 

 

バックグラウンド、ネガティブコントロール、そして検証抗体だけに観察されるポジティブタンパク質、の3つのタンパク質グループに分類される IP-MS データアウトプットの例。


IP-MS エンリッチメント

ポジティブなタンパク質が同定されると、それらについて、使用する細胞ライセートに対する免疫沈降の濃縮効率を示すプロットを作成します。

Relative enrichment of proteins after immunoprecipitation and MS analysis

MS 解析により算出した抗 p53 抗体 (Cat.No. MA5-14516) による免疫沈降における p53 の濃縮効率。


抗体検証における IP-MS の限界

すべての抗体がライセートからタンパク質を免疫沈降できる訳ではありません。抗体はネイティブフォームの標的タンパク質を認識しない可能性があります。それでも、その抗体が他のアプリケーションでの使用に向いていないということにはなりません。しかし、そのような抗体の特異性を IP-MS の検証方法では評価できません。そういった抗体の検証には、遺伝子改変法(ノックアウトまたはノックダウン)や、生物学的活性化などを含めた別の方法が必要になります。


IP-MS による Invitrogen 抗体のターゲット特異性の検証

ターゲットに結合することが IP-MS によって検証された Invitrogen 抗体は、検索結果や製品ページにおいて「特異性検証済み」の記号で示されています。IP-MS のエンリッチメントデータのグラフが、それぞれの製品ページにて提示されています。


*「検証」という用語の使用またはあらゆるバリエーションは、表示した研究技術に使用可能であることを確認するための機能試験の対象となった研究用抗体のみに適用されます。その製品が臨床用または診断用として検証されたことを担保するものではありません。