Bacterial Transformation Troubleshooting Guide

形質転換は主に分子クローニングにおいて、プラスミドに取り込まれた目的のDNA配列を細菌内で維持、増殖するために行われます。細胞の形質転換後のコロニー解析では、形質転換体がほとんど得られない、あるいは、インサートが切断されるといったような数々の問題に直面するかもしれません。本セクションでは、細菌の形質転換における一般的な問題点を取り扱い、そのような問題を解決する際の推奨事項についてご紹介します。

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考えられる 原因推奨事項
形質転換効率が最適でない

形質転換に用いるDNAの質や量が最適でない

 

  • ライゲートしたDNAによる形質転換の場合、キャリーオーバーしたリガーゼや他の反応成分が形質転換効率を下げてしまうことがあります。ヒートショックでは、50 µLのコンピテントセルに対して5 µL以上のライゲーション混合物を使用しないでください。エレクトロポレーションでは、形質転換の前に、ライゲーション反応液からDNAを精製しておいた方が良いでしょう。
  • ライゲーション反応にポリエチレングリコール(PEG)が使用される場合は、反応後のリガーゼの熱不活性化を避けてください。PEG存在下で熱不活性化したライゲートDNAを精製せずに使用した場合、化学的形質転換の効率を下げてしまうことがあります。
  • 形質転換効率を最大限に引き出すためには、過剰でない最適な量のDNAを使用してください。例えば、50~100 μLのケミカルコンピテントセルあたり1~10 ngのDNA量、20~25 μLのエレクトロコンピテントセルあたり1~50 ng (約1 μL中)のDNA量が一般的です。

クローン化したDNAやタンパク質が細胞毒性を示す

  • 最小の基礎発現と誘導による高発現を確実にするための誘導プロモーターを制限した遺伝子発現のために特別にデザインされた菌株を使用してください。
  • 低コピー数プラスミドをクローニングビークルとして用いることも検討してください。
  • 毒性を軽減するため、低い温度(30°Cまたは室温)で細胞を生育してください。

致死遺伝子を持ったセレクション用のベクターの増殖において間違った菌株を使用している

  • 致死遺伝子(ccdBなど)を持った空ベクターの維持、増殖のため、毒性のある遺伝子産物に耐性を持った菌株であることを確かめてください。
プレーティングした細胞数が不十分
  • 形質転換後、細胞を適した培地( S.O.C. 培地など)に回収し、プレーティングする前に十分な時間(例えば 1時間)をかけて細胞を増殖させてください。
  • 好ましい数のコロニー(例えば、プレートあたり30~300)が得られるように、プレーティングに必要な細胞試料の量や希釈率を調節してください。

増殖時間と温度が最適ではない

  • 細胞が増殖できるよう、回収プレーティングに十分な時間をかけてください(例えば、それぞれ1時間と16時間)。37°C以下のインキュベーションでは、適度な増殖に時間がより必要となるかもしれません。
  • 使用しているコンピテントセルの増殖に適した温度となっているか、インキュベーターを確認してください。培地やプレートを事前に温めておくと良いかもしれません。

プレート内の抗生物質の種類、またはその濃度が適切ではない

  • プレートに使用している抗生物質が、ベクターの耐性マーカーに対応しているかを確認してください。
  • 抗生物質の濃度が適切かどうかを確認してください。

セルスプレッダーが適切ではない

  • プレーティングの前に、再利用可能なセルスプレッダーやガラスビーズをエタノール、炎、あるいはオートクレーブで殺菌した場合、使用前にエタノールが残っていないこと、または十分に冷めていることを確認してください。
考えられる 原因推奨事項

不安定なDNA

  • 不安定なDNA(ダイレクトリピート配列、レトロウイルスまたはレンチウイルス配列を含むものなど)の増殖については、プラスミドによる組み換えを防ぐために特別にデザインされたコンピテントセルを使用して下さい(recA変異体など)。
DNAの突然変異
  • 突然変異は形質転換細胞内でのプラスミドの増殖中に起こることがあります。代表的なスクリーニングのために十分な数のコロニーを釣菌し、シーケンシングしてください。全てのコロニーが同様の突然変異を示す場合、それは元のテンプレートに由来するものかもしれません。
考えられる 原因推奨事項
クローン化したDNAやタンパク質が細胞毒性を示す
  • 最小の基礎発現と誘導による高発現を確実にするための誘導プロモーターを制限した遺伝子発現のために特別にデザインされた菌株を使用してください。
  • 低コピー数プラスミドをクローニングビークルとして用いることも検討してください。
  • 毒性を軽減するため、低い温度(30°Cまたは室温)で細胞を生育してください。
コロニーの選択方法が適切ではない
  • 手順が適切か、および宿主株がそのコロニー選択方法に適しているかを確認してください。以下はその一例です。
    • 青/白スクリーニング:宿主株はlacZΔM15遺伝子マーカーを持っていなければならず、ベクターはマルチプルクローニングサイト(MCS)と共にlacZ遺伝子を含んでいなければなりません。
    • ポジティブセレクション:インサートの獲得に失敗したベクターが細胞死を起こすことを確かにするため、宿主株がベクターの致死遺伝子に耐性を与える遺伝子マーカーを持っていないことを確認してください。
上流のクローニングステップにおける問題
考えられる原因推奨事項
抗生物質耐性株
ベクタープラスミドの宿主染色体への組み込み
  • ベクタープラスミドが細菌の染色体に取り込まれ、細菌に抗生物質耐性を与えることがあります。このようなことが起こると、独立して複製されたプラスミドは一般的なスクリーニング法では検出できないため(それらの方法は染色体DNAではなく、プラスミドを選択的に精製または検出するため)、形質転換したはずのコロニーが目的DNAを含んでいない、と解釈してしまうかもしれません。染色体への取り込みを防ぎ、形質転換プラスミドベクターを安定して増殖させるため、recA変異体 のコンピテントセルを使用してください。
サテライトコロニー
  • 増殖しすぎたコロニー周辺で起きる抗生物質の分解は、サテライトコロニーの形成を引き起こします。これを避けるために、プレーティング後のインキュベーション時間を<16時間以内に制限してください。
  • スクリーニングの際には、目視で確認できるサテライトコロニーが形成されていない、十分に単離されたコロニーを釣菌してください。
  • アンピシリン耐性コロニーのセレクションでは、より安定した半合成の抗生物質であるカルベニシリンの使用も検討してください。
プレーティングの際の細胞数が多い
  • 形成されるコロニーの数を減らして最適化するために、必要に応じてプレーティング時の細胞試料の量や希釈率を調節してください。細胞の過剰なプレーティングは、抗生物質の分解と、目的DNAによる形質転換が起きていない細胞の増殖をもたらします。
細胞のコンタミネーション
  • ワークフローでの必要性に応じて、滅菌したツール、実験器具、培地、および試薬類を使用してください。
  • セルスプレッダーガラスビーズが滅菌されていることを確認し、無菌条件下で細胞のプレーティングを行ってください。
考えられる 原因推奨事項

プレーティングの際の細胞数が多い

  • 形成されるコロニーの数を減らして最適化するために、必要に応じてプレーティングの際の細胞試料の量や希釈率を調節してください。

インキュベーション時間が長い

  • 過剰な増殖を避けるために、プレーティング後のインキュベーション時間を<16時間以内に制限してください。
  • 菌株によっては早く増殖するようにデザインされていますので、推奨される培養時間を確認してください。

細胞の広げ方が適切ではない

より詳細なトラブルシューティングについては、コンピテントセルサポートセンターにアクセスして分子クローニング制限酵素処理に関するトラブルシューティングを参照して頂くか、テクニカルサポートチームまでお問い合わせください。

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For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.