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細菌の形質転換とは、細菌細胞が環境から低頻度で外来DNAを取り込む自然のプロセスです。形質転換によって細胞は獲得した遺伝情報を発現できるようになるため、この方法により遺伝的多様性を担保できる可能性があるほか、抗生物質耐性のような利益を宿主に付与する手段として利用できる可能性も秘めています。1970年代における分子クローニングの到来により、形質転換のプロセスが開拓および改良されて、組み換えプラスミドDNAが「コンピテントな」(より透過性を高めた)細菌株に導入されました。
細菌の自然なコンピテンシーまたは形質転換能は、1928年にフレデリック・グリフィスによって初めて報告されました[1]。グリフィスは、病原性株(smooth)の肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)を注入したマウスは死亡するが、非病原性株(rough)では死亡しないことに着目しました。病原性株の毒性は熱処理によって失われました。しかし、熱処理した病原性株と非病原性株を混合した場合、非病原性株は病原性株の表現型を獲得し、毒性を示したのです(図 1)。グリフィスの実験は、病原性株に由来する非生存の熱安定性物質が形質転換の原因であることを示唆しました。オズワルド・アベリー、コリン・マクラウド、マックリン・マッカーティらによって、この形質転換の原因物質がDNAであると同定されたのは1944年のことでした。
図 1.グリフィスの実験。病原性肺炎球菌の滑らかな(smooth)見た目は、宿主の免疫システムによる細菌細胞の認識を妨げる多糖類被膜の存在によるものです。
大腸菌の人工的な形質転換のための最初のプロトコルは、マンデルと比嘉によって1970年に報告されました[3]。彼らはカルシウム(Ca2+)処理と、短時間の高温処理(ヒートショック)によって、細菌細胞内へのDNAの透過性が増加することを明らかにしました。この方法は化学的形質転換の基礎となりました。1983年、ダグラス・ハナハンはコンピテントセルの作成法を改良したものを報告し、これによって、より高い形質転換効率を得るのに最適な条件や培地を細菌の増殖と形質転換の両方において見出しました[4]。
化学的形質転換に変わる別の方法としては、電場をかけることでDNAの細胞内への取り込みを増強させるエレクトロポレーションという方法が知られています( 図2)。1982年、ニューマンらは、高電圧短パルスによるマウス細胞内への外来DNAの導入を報告しました[5]。このような電場は細胞の膜電位を増加させると言われ、それによってDNAのような電荷を持った分子に一過性の膜透過が引き起こされます。1988年に、エレクトロポレーションによる大腸菌 細胞の形質転換が報告されました[6]。
図 2.化学的形質転換とエレクトロポレーションの比較
化学処理やエレクトロポレーションによる大腸菌の人工的形質転換が開発されて以来、DNAの取り込みを改善するため、形質転換の方法だけでなく、コンピテントセルの作成も考案されてきました[7–10]。1984年、Gibco BRL (現在はThermo Fisher Scientific社の一部)は、HB101株とRR1株(HB101のrecA+バージョン)の導入により、コンピテントセルを販売する最初の会社となりました。今日では、形質転換方法、形質転換効率、ジェノタイプ、パッケージングの異なる多様なコンピテントセルが、分子生物学実験におけるプラスミドクローンの増殖にすぐに使用できる形で利用可能となっています。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.