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大腸菌形質転換はクローニングの重要なステップであり、その目的の一つは組み換え DNA 分子の多数のコピーを産生することです。 組み換えプラスミドを作製するための前段階については、「従来型クローニングの基礎」に記載されていますが、目的 DNA 配列をベクターに挿入する必要があります。 形質転換では、DNA(通常プラスミド)をコンピテントセルに導入しますが、目的DNAは以後の実験に必要な量まで大腸菌内で増幅されます。
大腸菌は、クローニングにおける形質転換で使用される最も一般的なバクテリアです。大腸菌の元来の DNA 取り込み能力は非常に低いため、熱処理または電気的処理により形質転換に相応しい状態にする必要があります。
コンピテントセル調製のプロトコルは、ヒートショックまたはエレクトロポーションのどちらで形質転換を行うかによって異なります。どちらの場合でも、目的の菌株の新鮮な単一コロニーを寒天プレートから採取し、前培養用の液体培地に接種します(図 2)。600 nm(OD600)の吸光度を継続的に測定し、前培養と本培養の大腸菌の増殖を注意深くモニタリングします。高い形質転換効率を得るためには、採取時に大腸菌の増殖が対数期中期にあることが極めて重要です。通常、その増殖は OD600 で 0.4 ~ 0.9 の間であり、最適値は培養容量、菌株およびプロトコルによって異なります。すべてのステップにおいて、必要に応じて滅菌済ツールや実験器具、培地および試薬の使用に注意を払わなければなりません。大腸菌回収後、細胞生存率を向上させ、形質転換効率を維持するために、すべてのサンプル、試薬および機器を 0 ~ 4℃に保つことを推奨します。
回収された細胞は、ヒートショックまたはエレクトロポレーションのどちらかの形質転換法に従って処理します(図 2)。
調製後、コンピテントセルは、形質転換効率の評価、凍結/解凍サイクルを最小限に抑えるため少量に小分け、生存率を維持するために適切な温度での保存が必要です。通常、コンピテントセルの形質転換効率は、適量のスーパーコイル状プラスミド(例:10~500 pg の pUC DNA)の取込みによって評価されます。その結果は、使用したプラスミド DNA 1 マイクログラムあたり形成されたコロニー(形質転換体)の数、またはコロニー形成単位(CFU)として表されます(CFU/μg)(細胞播種を参照)。
保存については、凍結/解凍サイクルにより形質転換効率が約半分に低下するため、調製したコンピテントセルを、スクリューキャップ付き微量遠心チューブに 1 回使い切りの容量で小分けすることを推奨します。コンピテントセルは、温度変化を最小限に抑えて –70℃で保存した場合、約 6 ~ 12 ヵ月間使用可能です。また、生存率が大幅に低下するので、コンピテントセルを液体窒素中で凍結、及び保存しないでください。
市販されている既製のコンピテントセルはすぐに使える形で入手可能で便利です。一貫性を保ち、時間を節約する事ができます。これらのコンピテントセル、形質転換効率と遺伝子型の規格を満たすように品質管理されています。既製のコンピテントセルを使用すれば、ロット間変動が最小限に抑えられ、クローン化 DNA の効率的な増殖を大幅に簡便化できます。
大腸菌の形質転換の最も一般的な二つの方法は、(1) 化学的に調製されたコンピテントセルのヒートショック(ケミカルトランスフォーメーション)と、(2) エレクトロコンピテントセルのエレクトロポレーションです。必要な形質転換効率、実験目的、および装置を持っているかどうかによってどちらかを選ぶことになります(コンピテントセルの選択を参照)。形質転換ステップの準備ができたら、コンピテントセルを氷上で解凍しますが、慎重に取り扱い生存率を維持する必要があります。大腸菌は穏やかな振とう、タッピングやピペッティングにより混合できますが、ボルテックスは行わないでください。
形質転換の基本、2 種類のコンピテントセル、ケミカルトランスフォーメーションの実施方法、およびトラブルシューティングをご覧ください。
注:実験が手順通りに行われたかを評価するために、ネガティブおよびポジティブコントロールを同意に行う必要があります。
コントロール | サンプルの構成要素 | 評価 |
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ネガティブ |
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ポジティブ |
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実験区 |
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ケミカルトランスフォーメーションでは、ケミカルコンピテントセルをプラスミド DNA と混合し、高温に短時間曝露させます。これはヒートショックとも言われるプロセスです(図 3A)。最初に、ケミカルコンピテントセルを氷上のポリプロピレン製チューブ中でDNAとともに 5 ~ 30 分間インキュベートします。ポリスチレン製チューブはDNA が表面に付着して形質転換効率が低下することがあるので使用しないでください。昔からあるプロトコルでは、最良の結果を得るために、17 x 100 mm の丸底チューブが使用されています。1.5 mL 微量遠心分離チューブを使用すると、細胞懸濁液の表面積対容積比が小さくなるため熱分布が悪くなり、形質転換効率が 60~90%まで低下することがあります。
ケミカルトランスフォーメーションを成功させるために、50 ~ 100 μL のコンピテントセルと 1 ~ 10 ng の DNA を推奨します。ライゲーション反応液を形質転換 DNA として使用する場合(多くの場合、1 ~ 5 μL で十分)、通常、形質転換前に精製する必要はありません。スーパーコイル状プラスミド DNA による形質転換と比較して、ライゲーション反応液の場合形質転換効率が 1 ~ 10%と低くなる傾向がある点に注意が必要です。
ヒートショックは、使用する大腸菌株と DNA に応じて 37 ~ 42℃で 25 ~ 45 秒間行います。小さいチューブを使用して液量が少なくなるほど、ヒートショック時間を短くする必要があります。ヒートショックの時間は、大腸菌懸濁液の表面積対容積比に依存するためです。その後、次のステップに進む前に、ヒートショックを与えた細胞を 2 分間以上氷上に戻します(図 3A)。
エレクトロポレーションでは、エレクトロポレーション装置を使用して、コンピテントセルと DNA を高電圧電場の短いパルスに曝露させます(図 3B)。この処理により、細胞膜に一過性の細孔が開き、DNA が細胞内に侵入できるようになると考えられています(図 4)。大腸菌エレクトロポレーションで最も一般的なタイプの電気パルスは、指数関数的減衰であり、設定した電圧が加えられ、時定数と呼ばれる数ミリ秒間をかけて減衰します(図 4A)。印加電圧は、電界強度(V/cm)によって決まります。V は初期ピーク電圧、cm は使用するキュベットの電極間のギャップの測定値です。通常、細菌のエレクトロポレーションでは、0.1 cm キュベット(20 ~ 80 μL 容量)を使用し、15 kV/cm 超の電界強度が必要です。
エレクトロポレーションの主な問題の一つは、細胞の生存率と形質転換効率を低下させる可能性のあるアーク放電または電気放電です。アーク放電は、MgCl2 やリン酸塩を含有する緩衝液などの導電性緩衝液中でのエレクトロポレーションによってしばしば生じます。
形質転換後、(いずれの方法のために調製された)未使用のコンピテントセルは再凍結が可能です。ただし、再凍結により形質転換効率が約 50%低下します。最良の結果を得るため、調製されたコンピテントセルを 1 回使い切りの容量で小分けすることにより、凍結融解を最小限に抑えられます。市販されている 1 回使い切りのフォーマットのコンピテントセルを使用すれば、同一チューブでの形質転換と回収が可能になり、細胞を凍結融解する必要がありません。未使用のコンピテントセルを再凍結するためには、ドライアイス/エタノール浴で 5 分間急速凍結し、–70℃で保存します。生存率が大幅に低下するので、液体窒素中でコンピテントセルを凍結または保存しないでください。
ヒートショックまたはエレクトロポレーションのあとに、形質転換体を抗生物質フリーの液体培地で短時間培養することにより、取得したプラスミドから抗生物質耐性遺伝子の発現が開始します(図 5)。このステップにより、細胞生存率とクローニング効率が向上します。エレクトロポーションされた大腸菌の場合、エレクトロポレーション緩衝液は細胞の長期生存用に作製されていないので、できるだけ早く細胞を増殖させることをお勧めします。
回収ステップでは、形質転換細胞を、予め暖めた 1 m L の S.O.C. 培地で、37℃、225 rpmで 1 時間振とう培養します。グルコースと MgCl2 を含有する S.O.C. 培地は、形質転換効率を最大にするために推奨します [3]。Lennox L 液体培地(LB 液体培地)の代わりに S.O.C. 培地を使用すると、形質転換コロニーの形成を 2~3 倍に増加させることができます [5]。このステップは、バクテリオファージ M13 ベクターを増殖させるための菌株には必要ありません。
S.O.C. 培地で培養した後、目的の形質転換体を選別するため、適切な抗生物質または他の薬剤とともに大腸菌を LB 寒天上にプレーティングします。たとえば、blue/white スクリーニングを行う場合、X-Gal と IPTG を寒天プレートに添加します。抗生物質は劣化しやすいため、作製から数週間(または場合によっては数日間)以上経過した寒天プレートは使用しないでください。プレーティングの前に、プレートを37℃程度で温め結露をなくすことにより、コンタミネーションとコロニーの混合を防止する必要があります。
プレーティングする大腸菌懸濁液の量は、スクリーニングのために十分な数の(かつ多過ぎない)はっきりした独立したコロニーを形成させる量でなければなりません。S.O.C. 培地で培養された大腸菌は、600 ~ 800 x g で 5 分間の遠心分離によりペレット化し、播種するためにより少量のS.O.C.培地で再懸濁します。100 mm プレートにプレーティングする場合、通常、細胞懸濁液を 100 ~ 200 μL にするのが適当です。コロニーが非常に少なくなることが予想される場合、細胞懸濁液をすべてプレーティングすることもあります。逆に、コロニー数が非常に多くなることが予想される場合は、プレーティングする前に細胞懸濁液を S.O.C. 培地で最大 1:100 程度に希釈することがあります。
寒天プレート上にコロニーが均等に散らばるようにする事も、解析の上で重要です。プレートを静かに回しながら大腸菌胞懸濁液を広げるために、滅菌済のホッケースティック型または L 字型のスプレッダーが一般的に使用されています(図 6、7A)大腸菌を広げる際に、寒天表面に傷をつけないでください。あるいは、大腸菌を広げるために、オートクレーブ滅菌したガラスビーズ(直径 4 mm程度)を使用する場合があります。この方法では、大腸菌懸濁液を塗布した後、10 ~ 20 個のビーズをプレート上に置き、プレートを穏やかに旋回させることにより、大腸菌懸濁液をビーズにより広げます(図 7B)懸濁液が乾燥する前に、大腸菌を速やかに広げる必要があります。広げた後、プレートを自然に乾燥させてから、上下をひっくり返し37℃で一晩インキュベートします。
翌日、培養プレートのコロニー形成を確認します。コロニー同士の融合や、大きなコロニーの周りに抗生物質の分解に起因するサテライトコロニーが出現する事があるため、長時間のインキュベーションはしないでください。
形質転換効率を計算するには、次式を用いて、形質転換体の数を、加えた DNA の量と、細胞希釈率の逆数(実施した場合)で割ります。
ライゲーションされた DNA の場合、加えた DNA の量は、次式を用いて、ライゲーション反応セットアップ、DNA 希釈(実施した場合)、および形質転換のための DNA 容量からも決定できます:
50 ng の DNA を20 μL の反応液中でライゲーションします。ライゲーション後、反応液を 2 倍に希釈し、5 μL の希釈されたライゲーション反応液を 100 μL のコンピテントセルに加えて形質転換します。
加えた DNA量 = (0.05 µg/20 µL) x 1/2 x 5 µL = 0.00625 µg
形質転換後、大腸菌懸濁液を 5 倍に希釈し、その希釈液 200 μL をプレーティングします。一晩のインキュベーション後に 300 個のコロニーが形成されました。
形質転換効率 = (300 CFU/0.00625 µg) x (100 µL/200 µL) x 5 = 1.2 x 105 CFU/µg
必要に応じてコロニーをさらにスクリーニングし、目的のプラスミドの存在と正しい配列を確認する必要があります(コロニーのスクリーニング方法を参照)。確認後、目的のコロニーをプラスミド単離、サブクローニング、トランスフェクションおよびタンパク質発現などの下流用途に使用する場合があります。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.