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ポリメラーゼ連鎖反応、PCR は、標的となる DNA 配列を数百万コピーにまで増幅できる、分子生物学の一般的な実験テクニックです。 PCR の技術は、ターゲットを増幅するための サーマルサイクリングの繰り返しに基づくため、その工程を自動化する装置である サーマルサイクラーは、実験を成功させるうえで重要な役割を果たします。 このセクションでは、長年にわたるサーマルサイクラーの進化と発展について紹介します。
1980 年代初期、この技術が使われはじめた頃は、 PCR による DNA の増幅は時間と労力のかかる工程でした。 サーマルサイクリングの工程は、 変性、アニーリング、そして伸長のために異なる温度に設定した3つの大きな水浴を用意し、そこで DNA サンプルの移動を繰り返すという手動の方法により行われていました。 当時、熱安定性の DNA ポリメラーゼはまだ身近なものではなかったため、サイクルごとに酵素を補充する必要がありました。
そのため、技術者たちは PCR のプロセスを自動で行うことのできるオールインワン装置(サーマルサイクラー)の開発に取り掛かりました。 最初に開発された「Mr. Cycle」という自動化装置は、リキッドハンドラーと水浴を内蔵し、各サイクル後に新しい酵素を手動で加えるという工程をなくしました[1]。 1987 年に Perkin Elmer Cetus 社から初めて市販されたサーマルサイクラー、TC1 DNA サーマルサイクラーに金属ブロックを使用することで、サンプルの加熱冷却のプログラミングが可能となりました(図 1)。 1988 年に TC1 サーマルサイクラーを用いた PCR において、熱安定性酵素である Taq DNA ポリメラーゼの最初の使用が報告されました[2]。 これにより、分子生物学研究に革命を起こすサーマルサイクラーの技術革新だけでなく、幅広い科学分野における PCR アプリケーション のための道が開けたのです。
TC1 サーマルサイクラーの登場以来、PCR 実験を改善するために様々な装置の機能における著しい技術の進歩がありました。
サーマルサイクラーの開発初期、冷却システムは大きな配管コンプレッサーに依存しており、設置面積の小さな装置の開発は困難でした。 現在では、電流の向きをコントロールすることで加熱と冷却の両方を行うことのできる固体のペルチェブロック が、サーマルサイクラーに利用されています(図 2)。 最新のペルチェシステムでは、ブロックを高速に加熱冷却できるため(6 ℃/秒)、より多くの PCR を 1 日で完了できる高速 PCR が可能です。
図 2. ペルチェブロックの基本原理。 熱は、接続した2つの異なる物質(この場合は半導体)において、電流の向きに応じて産生または吸収されます。
同様に、加熱中に PCR サンプルが蒸発し濃縮されるのを防ぐための加熱蓋 も、現在のサーマルサイクラーの一般的な特徴となっています。 加熱蓋が導入される以前は、同様の目的でサンプルをミネラルオイルで覆っていました。 オイルの覆いは不便で面倒な上に、オイルのキャリーオーバーを防ぐためにサンプルの一部を残さなければならないことから、ダウンストリームアプリケーションにおいて使用できるサンプル量が制限されていました。
なお、現在のサーマルサイクラーは、サンプルのスループットを考慮して柔軟に設計されています。 交換できるブロックにより、例えばベンチトップ型のサーマルサイクラーで、1 ~ 480,000 の増幅反応 が実施できます(図 3)。 現在では、機械的なリキッドハンドリングプラットフォームによって ハンズフリー操作と統合された 自動化されたハイスループットな設計のサーマルサイクラーが販売されています。
ターゲット配列に対するプライマーのアニーリングは、成功したPCR結果を得るための重要なため、アニーリングステップの温度の最適化はしばしば必要になります。 同時に異なる温度を調べるために、1つの金属ブロック内の両端を使用し、理論上のアニーリングポイント周辺の温度を高低温の両方で設定できるように設計された、 グラジエントサーマルブロック が開発されました(図 4A)。 現在では、「better-than-gradient」技術も利用でき、断熱された別々の金属ブロックで行っていたことが、1つのブロックで可能となりました(図 4B)。 より高精度な温度制御により、高速な最適化が可能です[3]。
ブロックの技術に加え、サンプル温度を制御するアルゴリズムも長年にわたり改良されてきました。 PCR サンプルの均一な加熱および冷却を可能にする、ブロック温度のより高精度な調節のために、複雑な数学モデルが適用されています。 このような技術革新には、サーマルブロックの温度に加え、サンプル自体の温度測定も含まれます[4]。
高速 PCR とは、トータルのランタイムを劇的にスピードアップした PCR プロトコルのことであり(図 5)、ランタイムを約 2 時間から 40 分以下に短縮することで時間を節約し、スループットを向上させます。 高速 PCR が可能なサーマルサイクラー技術は以下を含みます:
図 5: 傾斜率の影響: (A)PCR サイクルの時間、(B)30 サイクルの PCR における総傾斜時間。 傾斜時間の計算には次の温度を使用しました:変性、98 ℃;アニーリング、60 ℃;伸長、72 ℃。
装置におけるこれらの改良に加えて、超薄型の小型 PCR チューブ や 高処理性能な組み換え DNA ポリメラーゼといったような PCR 消耗品および試薬類における技術革新によっても、高速 PCR は実現、改良されてきました。
現在のサーマルサイクラーは、 PCR のプロトコルが簡単にプログラミングできるように設計されています。 PCR のプロトコルは、ターゲット DNA 、プライマー配列、使用する DNA ポリメラーゼ、そして実験の目的によって異なります。 そのため、 タッチスクリーンや簡単プログラミング機能のような直観的なユーザーインターフェースを備えたサーマルサイクラーは、プロトコルのセットアップを迅速かつ効率的にしてくれます(図 6)。
近年の進歩により、モバイルやデスクトップコンピューターから、いつでもどこからでもサーマルサイクラーにアクセスできるようになりました。 クラウドへの接続 は、プロトコルの作成や共有の自由だけでなく、スケジューリング、スタート/ストップ、そして PCR ランのモニタリングなどを、指先で可能にしてくれます。
結論として、サーマルサイクラーは、導入された 1980 年代以来、技術と設計において進化し続けてきました。 PCR における改良と分子生物学研究の進歩のために、技術革新は続きます。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.