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逆転写には、遺伝情報の流れにおいてユニークな役割を果たす逆転写酵素と呼ばれる酵素群が関与します。その発見以来、研究者らはそれらの酵素を様々な分子生物学的アプリケーションの基本ツールとして利用してきました。
元来、分子生物学におけるセントラルドグマは、まず DNA が RNA に転写され、次にその RNA がタンパク質に翻訳される、というものでした。しかし 1970 年代、二つの研究チーム、1 つはウィスコンシン大学のハワード・テミン率いるチーム、もう 1 つはマサチューセッツ工科大学のデビッド・ボルティモア率いるチームが、それぞれ別々にレトロウイルスと呼ばれる RNA ウイルスの複製に関与する新しい酵素を同定したことでそれまでのセントラルドグマに異議が唱えられることになりました [1,2]。これらの酵素は、ウイルスの RNA ゲノムを相補的な DNA (cDNA) 分子に変換し、宿主のゲノムへと組み込ませることができます。これらは RNA 依存性DNAポリメラーゼであり、逆転写酵素と呼ばれます。なぜなら、セントラルドグマである DNA から RNA への流れとは対照的に、これらは RNA をテンプレートとして cDNA 分子へと転写するからです (図1)。1975 年、テミンとボルティモアは逆転写酵素の同定という先駆的な功績によってノーベル生理学・医学賞を受賞しました [3] (同時にレナート・ドゥルベッコも腫瘍ウイルスに関する研究で受賞しています)。
逆転写酵素は、ウイルス、細菌、動物、植物を含む多くの生命体で同定されてきました。これらの生命体における逆転写酵素の一般的な役割とは、RNA 配列を、ゲノムの別の領域に挿入できるcDNAに変換することです。逆転写反応の例を (図 2) に示しています。
図 2.生物学的システムにおける逆転写酵素の役割。(A)ウイルスの RNA は、宿主ゲノムへの組み込みを目的として逆転写されます。(B)レトロ転移においてはRNA中間体が、ゲノムの他領域に挿入するためにDNAコピーへと逆転写されます。(C) テロメラーゼ逆転写酵素 (TERT) は、真核生物の染色体末端の伸長と維持のために、RNA をテンプレートとして使用します。(D) 細菌において逆転写は、マルチコピー 1 本鎖 DNA (msDNA) 形成の中間ステップとなります。
逆転写酵素は、生物学的システムにおいて機能的な役割を担う一方で、RNAを研究するための重要なツールとしても役立ちます。逆転写酵素を利用した最初の分子生物学的実験の一つは、細胞や組織由来 mRNA の DNA コピーライブラリの構築に向けた cDNA の作製でした [9,10]。構築した cDNA ライブラリは、ある時点において活発に発現している遺伝子群を知るため、あるいはその機能を調べるために利用されます。
発現している遺伝子群を調べる上で cDNA ライブラリの作製は重要ですが、存在量の少ないRNAを調べるという点で課題が残りました。この課題はその後、少量の遺伝子断片を増幅する技術であるポリメラーゼ連鎖反応 (PCR)の発明によって解決されました。PCR と組み合わせた逆転写反応、すなわち逆転写 PCR 法 (RT-PCR) は、遺伝子発現レベルが極微量なRNAの検出を可能にすることから、circulating RNA やRNA ウイルスの検出の他分子診断における癌関連融合遺伝子の検出にも新たな道を開きました [11-13]。
また cDNA は、未知の RNA をハイスループットに解析するためのマイクロアレイや RNA シーケンシングといったアプリケーションにおいても、テンプレートとして役立ちます [14-17]。(逆転写のアプリケーションを参照してください。)
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.