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アフィニティー精製法および様々なアッセイ法は、固体物質に固定化された特異的な反応基または巨大分子と、液体サンプル中での標的分子との相互作用をベースとしています。後者のクラスの分子は、アフィニティーリガンドと呼ばれ、様々な手段で固体材料(固定相)へ接着(固定化)できます。ELISAやウェスタンブロッティングなどの様々なアッセイ法は、抗体やリガンドによる固体物質への強力でありながら非共有結合性の固定化をベースとしています。抗体はポリスチレンマイクロプレートへ、リガンドはニトロセルロース膜へそれぞれ固定化されます。
一方、多くのアフィニティー精製法(特に抗体やタンパク質を使用する方法)は、リガンドの固体支持体マトリックスへの共有結合をベースとしています。多種多様な用途に対応したアフィニティーリガンドが、様々なReady-to-useの固定化済み形態で販売されています。例えば一般的な抗体精製の用途にはプロテインAアガロース樹脂、またビオチン化分子の関与する精製にはストレプトアビジン磁気ビーズが利用可能です。
アフィニティークロマトグラフィーでは、二つの分子間の特異的相互作用を利用して標的分子を精製します。標的分子に親和性を有するリガンドは不溶性の支持体に結合され、混合溶液から標的を捕捉するためのベイトとして機能します。アフィニティーリガンドとは、溶液中の他分子とは結合せずに標的のみと結合する分子と定義することができます。
アフィニティー分離に用いられてきたリガンド:
生体分子の標的に固定化アフィニティーリガンドを用いるというコンセプトは、今やビーズアガロース樹脂によるクロマトグラフィーの用途(現在でも主要用途)に限定されません。最新のアフィニティーリガンドを結合させる担体としては、以下ようなものがあります:磁性粒子、ラテックスビーズ、ナノ粒子、マクロビーズ、膜、マイクロプレート、アレイ表面、尿試験紙、およびその他特異的生体分子の補足のための装置。アフィニティー標的のアプリケーションとは精製、洗浄(または混入物の除去)、触媒(または標的分子の改変)、およびサンプル溶液中の標的分子を定量化する多種多様な分析を含みます。
特定の生体分子を標的とするアフィニティー支持体を作成する場合は、不溶性マトリックスへリガンドを共有結合させる必要があります。用途は様々ですが、リガンドを結合させる化学反応は十分に解析されたもので、共通の残基を介して生体分子の結合を達成します。一般に結合に用いられるのは、第一級アミン、スルヒドリル基、アルデヒド基、およびカルボン酸といった反応性の高い残基です。一般に固相マトリックスは、最初にこれら(ひとつ以上の)官能基に反応性のある化合物で活性化されます。それから複合体を活性化させると、リガンドと支持体間に共有結合が生まれ、リガンドが固定化されます。
マトリックスと固定化リガンド間に形成される結合タイプによって、アフィニティー支持体の性能が様々な点で異なります。例えば、結合によって固定化リガンドの構造がブロックまたは悪影響を受けると、アフィニティー精製の性能が低下します。マトリックスからリガンドの溶出を許すような結合だと、精製タンパク質の混入が起こったり、アフィニティー支持体の有効寿命が短くなったりします。結合反応により支持体に荷電が付与される場合は、イオン交換作用により非特異的結合が顕著になる可能性があります。マトリックス構造を変動させる結合によって、支持体の流動特性や結合特性が変化する可能性があります。
アフィニティー精製におけるこうした問題の実例として、臭化シアン(CNBr)活性化支持体を挙げられます。この固定化法により、以下のような問題が起こり得ます:(1)リガンドがマトリックスから漏出され、精製標品が汚染される;(2)荷電を持つイソ尿素基が含まれため、非特異的結合が生じる;(3) マトリックスが広範に架橋され、大きな分子のマトリックス内部へ浸透し難くなる。
効率性の高い様々なアガロースビーズ、アクリルアミドビーズおよび磁気ビーズからなるアフィニティー支持体が活性化形態で販売されています。これらは多種多様なリガンドを結合させる用途にすぐに使用ができます。これらの活性化法およびプロトコルは最適化されており、優れた結合収率が得られます。固定化リガンドをほとんど浸出させない安定した共有結合が形成されます。以下、本ページではこれらの手法について解説いたします。
タンパク質分子の固定化の主要な官能基標的はアミノ基 (-NH 2)です:この基は、各ポリペプチド鎖のN末端 (アルファ-アミノ基)や、リジン(Lys、K)の側鎖 (イプシロン-アミノ基)に存在します 。第一級アミンは、生理的条件下で正荷電を持つため、一般にタンパク質表面の外側を向いています;そのため通常結合はタンパク質構造の変性を伴いません。
NHSエステルは、カルボキシル基のEDC活性化によって形成される反応性基です。NHSエステル活性化樹脂は、弱アルカリ性条件下 (pH 7.2~8.5)で第一級アミンと反応して、安定したアミド結合を生成します。一般に固定化反応は、pH 7.2~8.0のリン酸バッファーを用いて0.5〜4時間室温または4℃で実行します。トリス (TBS)などの第一級アミンバッファは反応に競合してしまうため、適合しません;なお、適用手順によっては、結合手順の最後に反応を終了(停止)させるためにトリスやグリシンバッファの添加が有効です。
アガロース樹脂ビーズへ抗体やタンパク質を共有結合させるための信頼性の高い標準的手法には、還元的アミノ化と呼ばれる化学反応が関与します。アルデヒド基と共に複合体を形成するタンパク質上のアミンは、アガロース多糖類マトリックスを穏やかに酸化させることにより調製されています。
還元的アミノ化による固定化反応を行うと、アルデヒドとアミン間にシッフ塩基が形成されます。次に、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaCNBH3)を添加すると、シッフ塩基が第二級アミンへ還元されます。結合処理中に用いられるシアノ水素化ホウ素還元剤は極めて穏やかな性質のため、ほとんどのタンパク質中のジスルフィド結合は切断されません。また、アルデヒド反応物は還元されず、シッフ塩基中間体のみが還元されます。水素化ホウ素ナトリウムなどの強力な還元剤の使用は推奨されません。タンパク質のジスルフィド還元や、支持体上のアルデヒドがヒドロキシルへ還元され、反応効率を下げる可能性があます。還元的アミノ化による結合反応は、リガンドのタイプや存在量に依存しますが、85%以上の固定化収率が達成できます。
AminoLink Resinへの結合は、pH 7.2条件下での一回の反応で達成できます。シアノ水素化ホウ素ナトリウムによるシッフ塩基の形成および還元が、共に高効率で起こります。一方、反応をpHの異なる2工程で実行できれば、全体の結合効率を上げる事ができます。シッフ塩基の形成効率はpH 9〜10下で高くなる一方、NaCNBH3は中性付近でのみ機能します。したがってタンパク質が高pHで可溶性である場合、結合収率を高めるには、pH 10で1時間の反応を実行後、中和させNaCNBH3を添加し、反応を行います。
また、その他アミン反応性試薬には、Thermo Scientific UltraLink Biosupportで提供されるアズラクトンリングが使用できます。これはユニークなタイプの高耐久性ポリアクリルアミド樹脂であり、アズラクトンとアクリルアミドの共重合により形成されています。
5原子スペーサー末端でアミド結合を生成する開環プロセスにおいて、第一級アミンはアズラクトン基と反応します。この基はもともとアミンと反応する性質があり、活性化のための添加剤や触媒は一切必要ありません。アズラクトン基の安定性を使用時まで保つために、UltraLink Biosupportは乾燥状態で供給されます。タンパク質含有サンプルやアミン含有分子へ十分量の支持体を添加すると、約一時間以内に固定化が起こります。大半のタンパク質において、極めて高効率な固定化を行うには、結合バッファに0.6 Mクエン酸ナトリウムなどのリオトロピック塩が含有されていることが必須です。クエン酸ナトリウムには、タンパク質分子をビーズ表面へ運搬する特性があります。これによって親水性アミンはアズラクトン環に近接して、素早く反応できます。
また、アミンを持つアフィニティーリガンドを固定化するには、カルボニルジイミダゾール (CDI)を用いる手法もあります。アガロース支持体上のヒドロキシル基を活性化させ、反応性イミダゾールカルバメートを形成させることによって、固定化を行います。この反応基は有機溶媒中の支持体上に形成され、アセトン中ででの保存により加水分解を防げます。水溶性結合バッファ中の支持体が第一級アミン含有リガンドへ結合することにより、イミダゾール基が損失され、カルバメート結合が形成されます。結合反応は塩基性pH(8.5〜10)下で起こりますが、タンパク質との反応はアズラクトン結合や還元的アミノ化より比較的緩慢です。CDI活性化樹脂は、特にペプチドや有機小分子の固定化向いています。また有機溶媒中で反応を行い、水不溶性リガンドを結合させる性能もあります。
特異的な結合相互作用を利用して固定化済み分子へリガンドを結合・配向させられる場合であれば、アミン-アミン架橋剤を用いてアミンベースの固定化が行えます。例えば、プロテインGは抗体 (IgG)に親和性結合します。また、プロテインGアガロースは容易に入手できます。精製IgGでインキュベートしたプロテインGアガロースに架橋剤 (DSSなど)を添加すると、様々な表在ポリペプチド成分上の第一級アミン間で共有結合性架橋が形成されます。これらのいくつかによって効果的にIgGがプロテインGへ架橋されます(プロテインGは既にアガロースビーズ上に共有結合固定化されています)。
この抗体固定化法は、「IgGの配向」と呼ばれています。免疫沈降用抗体を固定化する手法は、「架橋IP」と呼ばれています。
この手法は、プロテインAやプロテインGの抗体以外のアフィニティーペアタイプにも適用できます。例えばグルタチオンアガロースを用いて、GSTタグ融合タンパク質を配向架橋させることが可能です。
アフィニティーリガンドを固定化するには、一般にアミン以外の官能基を介した手段が有益です。特にチオール基を用いれば、特定タンパク質分子上の活性中心や結合部位から離れた結合反応を導くことができます。
スルヒドリル (-SH)はシステインの側鎖 (Cys、C)に存在します。一般にシステインはタンパク質の二次/三次構造の一部として、ジスルフィド結合 (-S-S-)により側鎖間を連結します。これらを固定化に使用するには、スルヒドリルへ還元させる必要があります。
アミンはタンパク質表面上の様々な位置に存在するため、結合反応が起こる位置を予測するのは通常困難です。一般にスルヒドリル基は第一級アミンよりも存在量が少ないため、タンパク質やペプチドを高選択的に固定化できます。分子の一端にシステイン残基を付加することにより、結合用スルヒドリルを合成ペプチドリガンドに付加できます。これによって、固定化後に全てのペプチド分子が必ず支持体上で同一方向へ配向されます。チオール基(スルヒドリル)は、タンパク質分子内でそれ程珍しいものではありません。またジスルフィドの還元により、あるいは様々なチオール化試薬を利用してそれらを付加できます。
マレイミド活性化試薬は、中性付近の条件 (pH 6.5〜7.5)下でスルヒドリル基 (-SH)と特異的に反応し、安定したチオエーテル結合を形成します。スルヒドリル基の結合用にデザインされた架橋剤や標識試薬の大半は、マレイミド化合物をベースとしています。しかし、この手法によってアフィニティー精製用のアガロースビーズ上のリガンドを固定化することはほとんどありません。とはいえ、マレイミド活性化ポリスチレンマイクロプレートだけは例外です;スルヒドリルペプチドを結合させるには、これ以外の手法でプレート表面上へ効率的にコーティングさせるのは不可能でしょう。
ヨードアセチル活性化支持体は、アルカリ性から生理学的な条件 (pH 9~7.2)下でスルヒドリル基と反応して、安定したチオエーテル結合を生じます。遊離ヨウ素はチロシン、ヒスチジンおよびトリプトファン残基と反応する可能性があることから、この遊離ヨウ素の生成を制限するために、通常は暗所でこれらの反応を実行します。
Thermo Scientific SulfoLink Coupling Resinは、長いスペーサーアームの末端にヨードアセチル基を有したビーズ状アガロースです。ヨウ素原子の置換を介して、スルヒドリルの固定化が行われます。UltraLink Iodoacetyl Resinは同じ化学反応を利用していますが、アクリルアミドベースのUltraLink Biosupport(上記をご参照ください)上に構築されています。
ピリジルジスルフィドは、広いpH範囲にわたりスルヒドリル基と反応してジスルフィド結合を形成します。このように、この化学反応を利用して調製された複合体は、ジチオスレイトール (DTT)などの一般的なジスルフィド還元剤で切断が可能です。
活性型ピリジルジチオ樹脂は、通常、Ready-to-useの製品として販売されていません。とはいえ、この反応系をモデルにして、一般入手が可能な試薬を用いて各研究者の手で調製できるアフィニティー樹脂が実に多様に存在することが分かるでしょう。この場合、アミン活性化樹脂 (固定化DADPA;製品番号20266)を架橋剤 (Sulfo-LC-SPDP;製品番号21650)で修飾して、スルヒドリルの可逆的固定化用の活性化樹脂を作製できます。
一般的に生体分子には、天然状態のカルボニルケトンまたはアルデヒドは含まれません。しかしながら、活性中心や結合部位から共有結合を分離させる固定化用の部位を形成させる目的で、タンパク質上にこれらの基を作製すると有用でしょう。糖タンパク質や糖脂質などの複合糖質には、一般に隣接炭素原子上にヒドロキシル基を有した糖残基が含まれています;これらのシス-ジオールを過ヨウ素酸ナトリウムで酸化させると、共有結合固定化用の部位としてアルデヒドを作製できます。
ヒドラジド活性化樹脂、化合物が、酸化された炭水化物のカルボニル(糖)とpH 5~7で結合すると、ヒドラゾン結合が形成されます。
ヒドラジドの化学反応は、グリコシル化部位での糖タンパク質の標識、固定化または結合に有用です。通常グリコシル化部位は(大半のポリクローナル抗体と同様に)、機能維持に係わる主要結合部位を含まないドメインに位置しています。このように抗体を結合させると、分子のFc部分の重鎖が特異的に標的され、Fv領域の末端に存在する抗原結合活性が最大限に保持されます。
活性化ヒドラジドアガロース支持体は、かつて当社からPierce CarboLink Coupling Gel販売されていました(Pierce CarboLink Coupling Gel)。こらの製品は、現在Thermo Scientific GlycoLink Resinとして販売されています。本製品は、ヒドラジド活性化UltraLink Biosupportです(耐久性アクリルアミド系樹脂;上記をご参照ください)。触媒としてアニリンを採用することにより、結合手順が向上しました。
カルボキシル基は、生体分子構成成分として一般的です。ペプチドやタンパク質は、各ポリペプチド鎖のC末端や、アスパラギン酸 (Asp、D)とグルタミン酸 (Glu、E)の側鎖に、カルボキシル基 (-COOH)を含んでいます。第一級アミンと同様に、通常カルボキシル基はタンパク質表面に存在します。
カルボジイミド媒介性反応を活用することによって、カルボン酸を用いて生体分子を固定化することができます。カルボキシル基と自発的に反応する反応性基を含む活性支持体は一切存在しません。とはいえ、アミン(またはヒドラジド)含有のクロマトグラフィー支持体を用いて、水溶性カルボジイミド架橋剤EDC (製品番号22980)で活性化済みのカルボン酸塩と共にアミド結合を形成させることができます。
EDCやカルボジイミド類はゼロレングス架橋剤です;この架橋剤は、標的分子間の最終架橋の一部 (アミド結合)とならずに、カルボキシレート (-COOH)を第一級アミン (-NH 2)へ直接結合させます。この反応の第一級アミンとしてジアミノジプロピルアミン(DADPA)アガロース樹脂を使用すると、リガンドの固定化が起こりを行えます。
ペプチドとタンパク質には複数のカルボニルとアミンが含まれるため、直接的にEDC媒介架橋を行うと大抵はポリペプチドのランダム重合が起こります。それにもかかわらず、この反応は固定化(例:カルボキシル化表面にタンパク質を融合させる)や、免疫原調製(例:大型キャリアタンパク質に小ペプチドを融合する)で広く利用されています。むしろある程度のペプチド重合は、抗体の産生・精製手順においてメリットがあります。つまりペプチド重合によって、全体的なペプチド結合(負荷)が増大し、ペプチドリガンドが着実に様々な配向へ提示されるようになります。
分子が反応性の高い官能基を有していない場合、上記の方法による固定化は困難あるいは不可能な場合があります。とりわけ特定の薬物、ステロイド、色素または低分子有機化合物などは、通常、固定化に有効な「ハンドル」を含む構造を有していません。その他の分子は、低反応性または立体障害的に問題のある官能基を有しています。しかしこれらの中には、活性水素(または置換可能な水素)を有するタイプの化合物もあります。活性水素はマンニッヒ反応により、ホルムアルデヒドやアミンで濃縮させることが可能です。
正式には、マンニッヒ反応とは活性水素を含有したアンモニアや化合物類とホルムアルデヒド(または他のアルデヒド)による縮合と定義されます。この反応はアンモニアを用いずに、第一級/第二級アミンまたはアミドを用いて実行できます。この反応の第一級アミンとしてジアミノジプロピルアミン(DADPA)アガロース樹脂を使用すると、リガンドの固定化を行えます。この手法用として、DADPA樹脂を含む完全版試薬セットのPierce PharmaLink Immobilization Kitが販売されていましたが、現在はお取り扱いしておりません。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.