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目的に応じて、ペプチドは新規設計または天然のタンパク質由来のペプチド配列に基づく設計が行えます。合成ペプチドは、その特性や立体構造の変更、精製や検出のためのタグ付け、抗体産生のため免疫原の結合;タンパク質定量化のための同位体標識などの修飾が行えます。ペプチドは、各アミノ酸組成に起因した固有の化学的/物理的性質を有する複合分子です。本ページでは、合成・純度・安定性の度合いに影響するペプチド設計に関する重要点、またペプチド修飾法について解説いたします。
ペプチドの長さは様々であり、使用する用途に応じてその長さは異なります。例えば、抗体調製の用途にはアミノ酸10~20個分の長さのペプチドが最適ですが、一方で構造/機能研究には様々な長さのペプチドが使用されます。技術革新によって現在のペプチド合成の効率性は大幅に向上していますが、合成粗ペプチドの純度はペプチド長により制限されます。ペプチドが長いほど不純物の存在量が多くなります。これらの不純物は脱保護と結合サイクルの後に、除去する必要があります。またペプチド配列が長いほど、ペプチドとアミノ酸間において、より多くの結合反応が必要とされます。各結合サイクルで適切に反応しなかったペプチドが残るため、合成されるペプチドが長くなるほど切断ペプチド(欠損)の濃度が上昇します。合成された完全長ペプチドの濃度は、ペプチド長に反比例します;ペプチドが長いほど混合物からの低濃度産物の精製は難しくなるため、収量が低下します;アミノ酸75個分の長さのペプチドを合成することも可能ですが、短いペプチドを合成した場合よりも収量は下がります。
目的に応じて、ペプチドは新規設計または天然のタンパク質由来のペプチド配列に基づく設計が行えます。合成ペプチドは、その特性や立体構造の変更、精製や検出のためのタグ付け、抗体産生のため免疫原の結合;タンパク質定量化のための同位体標識などの修飾が行えます。ペプチドは、各アミノ酸組成に起因した固有の化学的/物理的性質を有する複合分子です。本ページでは、合成・純度・安定性の度合いに影響するペプチド設計に関する重要点、またペプチド修飾法について解説いたします。
アミノ酸はハイドロパシーに応じて分類されます。また、ペプチド配列中の疎水性/親水性アミノ酸が内包あるいは露出される場合によって、ペプチドの合成能力や水溶液中での可溶化能が左右されます。
アミノ酸の分類。 | |
---|---|
疎水性(非極性) | Ala, Ile, Leu, Met, Phe, Trp, Val |
非荷電(極性) | Asn, Cys, Gly, Gln, Pro, Ser, Thr, Tyr |
酸性(極性) | Asp, Glu |
塩基性(極性) | His, Lys, Arg |
疎水性アミノ酸の割合が高いペプチドは、水溶液中での溶解度が低くなります。可溶性ペプチドを設計する際には、概ね、アミノ酸5個ごとにアミノ酸1個を荷電させます。この荷電処理ができない場合、ペプチド機能にとって重要でないペプチド配列中のアミノ酸を、荷電残基へ置換することも可能です。とはいえ置換によって、ペプチドの性質が影響を受けますので、十分に検討したうえで置換を実行してください。
ペプチド溶解度を正確に測定するには通常は実証試験が必要ですが、以下の一般指針を参考にしてペプチド溶解度を予測することも可能です:
特定のアミノ酸またはアミノ酸の組合せによって、ペプチド長だけでなく、ペプチドの合成・精製・溶解性・安定性なども影響を受ける可能性があります。これらのアミノ酸は各アミノ酸に応じて、アラニンまたはグリシンなどの保存的アミノ酸置換や除去、類似体への置換などが行えます。用途に応じてペプチドはネイティブタンパク質を元に設計できます。また一般に配列にはアッセイの機能性に必須なアミノ酸と機能性には不要でペプチドの構造にのみ作用するアミノ酸が含まれています。この種のペプチドでは、通常は非必須残基上で修飾または置換を行います。また、扱いが困難なアミノ酸や天然配列中に好ましくない組合せがある場合は、天然配列をわずかにシフトさせて目的の配列を組み直す方法や、好ましくない配列を切断する方法もあります。
下記の指針を参照して、目的の合成・精製・保存・溶解性に見合う組成のペプチドを新規またはネイティブベースで設計してください。
システインとメチオニンは急激な酸化の影響を受けやすく、合成中やペプチド精製中に、保護基の除去が妨害される可能性があります。システインをセリンに置換、またメチオニンをノルロイシン(Nle)に置換すれば、これは回避できます。ジチオスレイトール(DTT)などの還元剤をバッファーに添加するか、もしくはシステインをセリン残基に置換しない限り、ペプチド上の多数のシステインはジスルフィド結合の形成による影響を受けます。遊離システインはin vivoにおいて稀であるため、抗体産生用ペプチド中のシステイン残基によって抗体の結合活性が干渉される可能性があり、それにより天然ペプチド構造に認識されない場合があります。
N末端グルタミンは、保護基の切断中の酸性条件下で、環状ピログルタミン酸を形成するため不安定です。N末端グルタミンのアセチル化、もしくはグルタミンをピログルタミン酸や保存的アミノ酸に置換すれば、これを回避できます。
N末端アスパラギンは、切断時にアスパラギンN末端保護基の除去が困難な場合があるため、使用を避けるべきです。そのためN末端アミノ酸の除去、もしくは別のアミノ酸への置換を行ってください。
アスパラギン酸は加水分解されるため、グリシン、プロリン、セリンなどを組み合わせて使用すると酸性条件下でペプチドが切断される原因となります。置換、もしくは配列シフトにより、これらの組み合わせはできるだけ避けてください。
配列中の多数のセリンまたはプロリン残基によって、合成中に著しい欠損が発生することがあります。特にプロリン残基はシス-トランス異性化やペプチド純度の低下の原因となります。
一連のグルタミン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、トレオニン、チロシンまたはバリンによって、βシート構造が発生し、ペプチド合成中に不完全溶媒和が起こり、欠損に繋がります。保存的置換(アスパラギンをグルタミンに置換;セリンをスレオニに置換)、アミノ酸3個おきにプロリン/グリシンの添加、配列シフトなどによってβシート構造の切断が可能です。
合成ペプチドは、修飾の付加により正確な立体構造を作るペプチドや必要な特性を有するペプチドを作製できるといった強力な特性があります。一般的アミノ酸や特定アミノ酸中のペプチドは、以下の様な修飾に適した様々な部位を有しています:
修飾法には、多数の様々なタイプの方法が存在します。一般的な修飾法はin vivoで起こる翻訳後修飾ですが、天然アミノ酸を非天然アミノ酸または同位体標識の変異体に置換させる修飾法もあります。さらにタグまたはタンパク質は、架橋を介して前述の部分へ化学的に結合させることが可能です。C末端からN末端へ合成される理由から、タグや色素をN末端に結合させることが推奨されます。これにより完全長ペプチドのみが標識されます。
以下の各項では、一般的修飾法の一部について解説いたします。
リン酸化されたチロシン・セリン・スレオニンなどは、ペプチド上であればどこでも配置が可能です。複数のリン酸化アミノ酸を添加できますが、ペプチドの合成や精製に影響を与える場合があります。
ペプチドの化学的合成により、正荷電のアミノ末端や負荷電のカルボキシル末端が生じます。これらの末端はin vivoでは荷電されていません。そのためN末端のアセチル化やC末端のアミド化によりで荷電を除去し、天然ペプチドを模倣することによって細胞透過性が向上します。
ヒストンタンパク質のメチル化は、エピジェネティックな調節の一般的な手法であり、モノ、ジおよびトリメチル化リジンの残基(場合によってはアルギニン残基)をペプチドに付加することによって、この翻訳後修飾を再現することができます。また、アセトアミドメチル(Acm)基を介してシステイン上のチオール基をメチル化させると、ジスルフィド架橋を選択的に形成させることができます。
標準的なペプチド合成法ではL-アミノ酸を使用しますが、キラルL-アミノ酸(グリシン以外のあらゆる天然アミノ酸)のD-異性体(鏡像異性体または鏡像)を用いたペプチド合成法も一般的です。化学式を変更せずに、D-アミノ酸ペプチドの機能のみを変更することができます。
標準アミノ酸とは対照的に、同位体標識された「重い」アミノ酸の合成は、12C原子を13C原子に置換、および/または14N 原子を15N原子に置換することにより行います。重いアミノ酸は非放射性であり、標準アミノ酸より重い既知分子量を有しています。このように各分子量に差異があるため、質量分析法(MS)による定量的ペプチド解析や、核磁気共鳴(NMR)分光法によるタンパク質の構造やダイナミクスの測定において、重いペプチドは有用なツールとなります。
環化は、天然ペプチド構造の模倣や、高安定性ペプチド類似体の合成が可能であるため、対応する天然ペプチドよりも立体配座の安定性が高まります。環状ペプチドは、タンパク質の加水分解や分解に対する耐性があることも知られています。ペプチド環化法は、以下2つが一般的です:
スペーサーの化学構造によりペプチドがタグや色素から離されます。またタグや色素の結合したペプチドの天然ハイドロパシーを変更させて、疎水性もしくは親水性にすることができます。ペプチドと色素/タグ間のあらゆる距離に対応するように、様々な長さのスペーサーが入手できます。 疎水性スペーサーとしてはアミノヘキサン酸(Ahx)が一般的です。また親水性スペーサーとしてはポリ(エチレン)グリコール(PEG) が一般的です。
ペプチドにタグを結合させると、実験系での精製や検出がスムーズに行えます。タグの種類によって、細胞の特定領域 (例:膜、細胞質)への局在化を促進できます。一般にペプチドのタグ付けには、ビオチンまたは脂質(例:ファルネシル、ホルミル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル基など)を用います。
一般に色素を使用すると局在化やタンパク質結合の研究が行いやすくなります。色素は蛍光色素、クエンチャー(非蛍光性;近位の蛍光色素分子のクエンチに使用)、色素原などに大まかに分類できます。ペプチドに結合させる標準的色素については、以下をご覧ください。
蛍光色素 | |
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7-アミノ-4-メチルクマリン(AMC) | キュベットを用いた酵素アッセイ用、または フローサイトメトリー用のUV励起性色素 |
5-((2-アミノエチル) アミノ) ナフタレン-1-スルホン酸 (EDANS) | 蛍光共鳴エネルギー転移に用いる一般的な色素 (FRET) ペプチド(クエンチャーにはダブシルを使用) |
フルオレセイン誘導体(FITC、FAM) | 共焦点レーザー走査顕微鏡や フローサイトメトリーの用途に用いる一般的な色素 |
7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール(NBD) | アミン修飾に用いる蛍光色素 |
ローダミン誘導体(ローダミンB、TAMRA) | 様々な蛍光用途に用いる 一般的な色素群 |
蛍光クエンチャー | |
ダブシル | 特にフルオレセイン誘導体やEDANSなどの蛍光色素の クエンチャーとして使用される非蛍光色素 |
ダンシル | ダブシルとは異なるフルオロフォアクエンチャー; 特定の波長発光を有する |
2,4-ジニトロフェノール(DNP) | ダブシルに類似したクエンチャーとして使用できる 非蛍光色素 |
その他の色素 | |
p-ニトロアニリン | 様々な標準的酵素アッセイで比色酵素基質として 使用する色素原 |
ペプチド-タンパク質複合体は、特異的ペプチドを標的とする抗体産生に使用されています。一般にペプチド単独では、サイズが小さいため、抗体を生成できるレベルの免疫応答が誘発されません。そのため多数のエピトープを含有したキャリアタンパク質へ目的ペプチドを結合させて、Tヘルパー細胞を刺激します。この結果、抗体を産生するB細胞応答が誘発されます。この手法では、概して免疫系がペプチド-タンパク質複合体に反応します。リンカー領域やキャリアタンパク質を標的として産生された抗体を、ペプチド特異的抗体の精製によって除去することが重要です。
抗体生成に利用される一般的なキャリアタンパク質:
天然タンパク質を構成する20のアミノ酸とは異なり、非天然アミノ酸は普遍的遺伝子コードでコード化されていませんが、一般に天然代謝産物として特に植物や細菌中に見られます。非天然アミノ酸の例:
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.