RNAiの導入に利用される方法は 脂質を介したトランスフェクション および ウイルスを介した導入です。どちらの手法を使用するかは、研究対象の細胞種、また一過性または安定性ノックダウンのどちらを希望するかによって決まります(表1 & 2)。もっともよく使用されているアプリケーションである未修飾siRNAまたは修飾型siRNAの一過性トランスフェクションでは、カチオン性脂質をベースとした試薬が使用されます。一般的に広く利用されている様々な細胞種へのトランスフェクションには、この脂質試薬が適しているからです。
脂質系トランスフェクション試薬では導入が困難な細胞種では、ウイルスベクターによる導入がしばしば採用されます。アデノウイルスベクターは多くの細胞の一過性発現用いられますが、非分裂細胞や安定発現株などの場合は、レンチウイルスベクターが適しています。

表1 RNAi導入法

細胞タイプ
一過的な(トランジェント)発現(<7日間)一過的な(トランジェント)発現(>7日間)安定的(ステーブル)発現
増殖が盛んな接着性細胞(A549、Hela)脂質試薬によるsiRNAの導入脂質試薬によるRNAiベクターの導入またはアデノウイルスによる導入RNAi ベクターの脂質トランスフェクションまたはレンチウイルスによる導入
増殖が盛んな浮遊細胞(THP-1)脂質試薬またはエレクトロポレーションによるsiRNAの導入RNAi ベクターの脂質トランスフェクションまたはアデノウイルスによる導入脂質試薬またはエレクトロポレーションによるRNAiベクターの導入、またはレンチウイルスによる導入
初代培養細胞

レンチウイルスによるデリバリー
非分裂細胞

レンチウイルスによるデリバリー

表2 トランスフェクション試薬およびウイルスによる導入方法

製品名主な特長
Lipofectamine™ RNAiMAX Transfection Reagent
  • siRNA導入のために最適化された試薬です
  • 少ないsiRNA量でも効率よく導入できます
  • 細胞毒性が低く、最適化が容易です
  • 幅広く様々な細胞株で使用できます
  • 多くの 一般的な細胞について、最適化済みのプロトコールをご用意しています
Lipofectamine™ 2000 Transfection Reagent
  • shRNAおよびmiR RNAi ベクターを含むプラスミドを導入する際に、最適な発現を得られるようにデザインされています
  • コトランスフェクションにも使用できます
Oligofectamine™ Transfection Reagent

  • アンチセンスオリゴのの導入に使用できます。
BLOCK-iT™ Adenoviral RNAi Expression System

  • 導入困難な細胞株における長期安定発現のためのRNAiベクターの導入に適しています
BLOCK-iT™ Pol II miR RNAi Lentiviral Expression System

 

BLOCK-iT™ Lentiviral RNAi Expression System

 

BLOCK-iT™ Inducible H1 Lentiviral RNAi System           

 

  • 導入困難な細胞株における安定発現用RNAiベクターの導入に使用できます
  • in vivoアプリケーションに対応しています
  • 誘導システムもご利用いただけます

高い導入効率を得るための手法

トランスフェクション効率は、RNAi二本鎖または発現プラスミドが導入された細胞の割合(%)を表します。通常、可能な限り高いトランスフェクション効率が得られるよう努めます。 RNAiアプリケーションでは、導入されなかった細胞がノックダウンのターゲットとなる遺伝子を発現し続け、バックグラウンドの発現レベルを押し上げるため、トランスフェクション効率を高めることが特に重要です。

多くの疾患モデルの場合、最も望ましい細胞は初代培養細胞です。 しかし多くのトランスフェクション試薬では初代培養細胞に適切なトランスフェクションを行うことができません。 カチオン性脂質を介したトランスフェクションに替わる手法の1つが、ウイルスによるRNAi配列発現ベクターの導入です。ウイルスによる導入は、誘導型RNAi発現を伴う安定細胞株の作製や組織特異的なプロモーターをもつRNAi配列の発現にも使用されます。

トランスフェクションによる細胞毒性を最小に抑えることの重要性

遺伝子抑制実験では、RNAi試薬の導入、または導入法そのものが細胞毒性を生じることがあります。細胞毒性による影響を目的遺伝子のノックダウンから得られるフェノタイプと区別することは困難なため、トランスフェクションによる毒性を最小化することは、RNAi実験結果を正しく解釈する上で大変重要です。トランスフェクションによる 細胞毒性の問題を解決する最も簡単な方法は、RNAi用に最適化されたトランスフェクション試薬を選択することです。  多くの場合、これらの試薬は、高い導入効率を得ながら(高いノックダウンレベルを得るため)、細胞毒性を最小限に抑えるよう調製されています。 製品プロトコールまたは公開されているプロトコールを参考に最適化実験を行うと、ご使用の細胞株に最適なトランスフェクション試薬濃度を決めるのに役立ちます。 最大のノックダウンレベルを得るのに必要な試薬量の中で最少量のトランスフェクション試薬をご使用になることをおすすめします。

オフターゲット効果を抑えることの重要性

導入試薬の不足または過剰は、細胞毒性の原因になるだけでなく、顕著なオフターゲット効果をもたらす可能性があります。 オフターゲット効果の原因の一つは、遺伝子導入のプロセスによって遺伝子の発現量が増加または減少することです。しかし、適切にコントロールすれば、これらの影響は特定でき、減少できます。最良の遺伝子抑制が得られる最少量のトランスフェクション試薬を使用することをお勧めします。

siRNAによるノックダウンそのものがオフターゲット効果を及ぼす可能性もあります。 最も有効なトランスフェクション条件を調べるには、siRNAの濃度をふり、トランスフェクション試薬の濃度は予め決めた一番低い濃度に固定します。 RNAi実験に求められるノックダウンレベルが得られるsiRNA濃度のうち、最も低い濃度を使用してください。 siRNAの特異性もオフターゲット効果に影響を及ぼす点に留意してください。 修飾型siRNAのように特異性の高いsiRNAを使用することで、オフターゲット効果の懸念を軽減できます。