「いつ行く? どうする? 海外留学 Vol.1」
東原和成氏 (東京大学大学院農学生命科学研究科教授)

研究者なら一度は考える海外留学。とはいえ、次のポジションは? 英語は通用する? ……悩 む人も多いはず。新連載「いつ行く? どうする? 海外留学」では、研究者への留学体験インタ ビューを通し、海外経験を活かし研究人生をサバイブするヒントをお届けします。

第一回目のゲストは東原和成氏。東原氏は1993年にニューヨーク州立大学で博士号を取得、デューク大学研究員などを経て、現ラボを立ち上げました。嗅覚受容体の解析から匂いのメカニズム・行動・進化を探り、その成果を立て続けにNatureやScienceで発表する東原氏は、海外経験をいかに現在の研究につなげたのでしょうか。連載スタートを記念し、2回にわけて特集します。

新しいハードル
海外で研究する日本人が減っているといいます。統計ではピークの2000年(約8000人)から減少に転じ、ここ数年は4000人前後を横ばいという状況です。理由として日本と欧米の研究環境の差が小さくなったこと、留学後のキャリアパスが難しいこと、経済やテロの問題等が挙げられていますが、実際はどうなのでしょうか?「確かに全体の数は減っていますが、普段私が接している学生やポスドクは、海外への興味をすごく持っている。英語も上手い。ただ彼らには、1990年代にはなかったハードルがある。それは“情報”です(東原氏)」。

留学情報が溢れ、ネット上でつぶやくと知りたい答えがすぐに返ってくる昨今、それだけで満足し、留学したような気になってしまう若者も多いといいます。「本気でサイエンスをやるなら米国!」と、20代前半で日本を飛び出した東原氏は、直感をすぐに行動に移すタイプだったとか。情報を集め、メリットとデメリットを足し引きする思考法では一歩踏み出すのは難しいと、今の若者を見ています。

次号はいよいよ海外留学で得られたスキル・研究スタイルを伺う実践編。「英語圏で磨け! 世界で勝負するためのロジック」をお届けします。

» 次号へ続く

東原和成氏
東京大学農学部農芸化学科を卒業後、1989年にニューヨーク州立大学StonyBrook校化学科博士課程入学。1993年に博士課程修了。デューク大学医学部博士研究員、東京大学医学部脳研究施設神経生化学部門助手、神戸大学バイオシグナル研究センター助手、東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻准教授を経て、2009年より現職。現在、JST ERATO東原化学感覚シグナルプロジェクト研究総括を兼ねる。原著論文はNature Chem. Biol.9,160-162 (2013)、Nature466, 118-122 (2010)、Nature 452, 1002-1006 (2008)、Science 307, 1638-1642 (2005)など多数。留学マニュアル・体験本の先駆けとなる「さあ、アメリカ留学!」(1997年、羊土社)ほか、CD付きの科学者のための英会話本2冊を執筆。


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