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「いつ行く? どうする? 海外留学 Vol.4」
宮脇敦史 氏 (理化学研究所 脳科学総合研究センター 細胞機能探索技術開発チーム シニアチームリーダー)
色鮮やかに生命のダイナミクスを描き出す蛍光イメージング。宮脇敦史氏は、サンゴやウナギから新規の蛍光タンパク質を遺伝子クローニングしたり、カルシウム、レチノイン酸や細胞周期の動態を可視化するプローブを開発したり、また、生体組織を透明化する試薬を開発するなど、バイオイメージング技術開発分野で独創的な成果を出し続けています。宮脇氏は1995年~98年に米国カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学、後(2008年)に「GFPの開発」でノーベル化学賞を受賞するロジャー・ツェーン博士に師事しました。ユニークな留学体験から若手研究者への提言までを2回にわたってお届けします。
学部生時代は蛍光オタク
今は昔の1984年、慶應義塾大学医学部の学生だった宮脇氏は、遺伝子の転写調節機構に興味を抱いて図書館で文献を漁りながら、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)の総説に出会います。そして「自分はFRETをライフワークにするかも」と身体の震えを感じながら読み切ります。遺伝子転写調節に関わる分子間相互作用をFRETで解析してやろうと意気込みますが、頭でっかちの一学部生を受け入れてくれる研究室は見つかりませんでした。そうこうするうち時は90年代に移ろい、東京大学の御子柴克彦氏の研究室の助手としてIP3受容体とカルシウム動態の研究に明け暮れることに。折しも90年代初頭はGFPと分子生物学が融合した時代。1994年、光る線虫の写真がScience誌の表紙を飾るのを目の当たりにし、「遺伝子転写もIP3もカルシウムも何もかも、GFPとFRETを組み合わせて可視化しよう!」新しい蛍光イメージングを創るぞと志を立てます。
Can I sit here?
ツェーン博士は、1980年代に細胞内カルシウムイオンの絶対濃度を測定する蛍光指示薬fura-2などを開発、90年代初めにはGFPの色変異体の作製にも着手していました。生命科学研究を進展する革新的ツールを数多く開発し、蛍光イメージングの創始者と呼ばれるツェーン博士。「当初はまったく雲の上の人、近寄りがたい存在でした」と宮脇氏は振り返ります。しかし1994年の夏、千載一遇とも言えるチャンスが到来します。米国ニューハンプシャーでカルシウム関係の学会が終了し、ボストン・ローガン空港に向かうバスに乗り込む参加者の列で、宮脇氏はツェーン博士の背後にひょいと回りこみます。ツェーン博士を窓側席に押し遣りながらおもむろに”Can I sit here?”その後およそ3時間半にわたってツェーン博士を拘束することに成功。GFPやFRETに対する思慕をうまく打ち明けることができました。四方山話もはずみ、ツェーン博士の独創的な考え方をじっくりと味わうことができました。バスがボストン市内に入る頃には二人の議論はかなり具体的なものに発展。いつもは疎ましきあの渋滞もこの日ばかりはあはれなり、だったそうです。その翌年の9月に、宮脇氏はヒューマンフロンティアサイエンスプログラムのグラントを携えてツェーン研究室に参入します。
やると決めたら…
留学初日に研究室を一回りして唖然としたそうです。合成化学が専門の研究室には、分子生物学に必要な機器や試薬がまったく見当たらなかったから。2時間ほど呆然として、でも早早に行動を開始。キャンパス内にできるだけたくさんの友人を作り始めました。他の研究室の研究員やテクニシャンと知り合いになり、実験試薬を分けてもらい実験器具を使わせてもらう、かわりにGFP技術を指南する、ときどき日本のおいしいお菓子の差し入れも。そんな(営業)活動のおかげで、機能的な人的ネットワークが出来上がりました。夜間の清掃係のおじさんと仲良くなったことで残業実験も可能になりました。こうして、いくつもの研究室に僅かなマイスペースを確保し、フラスコやアイスボックスを抱えて廊下、階段、そして屋外を走り回る日々が続きます。「必要に迫られたら何でもやる。やると決めたらどんな環境も楽しむ、これが私のやり方です」。
宮脇敦史 氏
1987年慶應義塾大学医学部卒業、1991年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了、1993年東京大学医科学研究所助手、1995~1998年米国カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究員を経て、1999年より理化学研究所脳科学総合研究センター先端技術開発グループ細胞機能探索技術開発チームリーダー、2004年より同グループディレクター、2008年より同センター副センター長、現在に至る。2006年~2012年に科学技術振興機構ERATO生命時空間情報プロジェクト研究統括を兼任。
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