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新たな時代を切り拓くテクノロジーと研究者に出会った二日間
NEXT FORUMは、最先端の研究動向と技術情報を共有し、研究のネットワークを広げるためのイベントです。第1部は、新たな時代を切り拓く「半導体シーケンサ」技術をテーマに、このテクノロジーを使いこなす3人の研究者が講演。第2部では、細胞研究を起点に、合成アプローチや地球外生命探査という異なる視点で生命を眺め、参加者との交流を深めました。
最初に、ライフテクノロジーズ米国本社のイオントレント・バイスプレジデントのManeesh Jainが、半導体シーケンサの開発ロードマップ、新製品Ion Proton™シーケンサの最新情報を講演。テンプレート調製の自動化や処理能力の向上など、発売と同時にさらなる進化への力強いロードマップを紹介しました
変異DNA分子計測による非侵襲性個別化医療の実現
血漿中には、壊れた組織から放出された微量なゲノムDNAが存在し、この中には腫瘍細胞由来のDNAも含まれます。大阪府立成人病センター研究所長の加藤菊也氏は、患者に負担がかかる生検ではなく、血液で遺伝子検査を行い肺がん診療への貢献を目指しています。「血漿中の浮遊DNAは1mlあたり5000ゲノム程度。しかも腫瘍DNAはその一部です。臨床検査には、高精度で、しかも迅速な解析システムが必要不可欠」と語ります。例えばイレッサはEGFRの変異を指標に適用患者を決める個別化医療の代表例ですが、加藤氏はIon PGM™システムを用いて肺がん患者の血漿DNAからEGFR変異を定量的に検出する検査法を開発しました。これまでに保存中の155症例のサンプルを解析し、153例で生検と矛盾しない結果を得たそうです。加藤氏は「この検査法はイレッサの適用判断はもちろん、病態進行の素早いモニターとしても有望」と続けます。薬剤投与後1カ月目にレントゲンで腫瘍縮小を確認した症例で、わずか1週間後に血中の変異DNAの著しい低下を観察できたからです。「こんなに早い段階で病態を確認できるバイオマーカーはこれまでなかった」と加藤氏自身も驚きを隠せない様子。今後、患者に負担の少ない検査法開発に半導体シーケンサーの力が試されそうです。そしてがんの「非侵襲性個人化医療」実現が期待されます。
微生物(叢)のゲノム・メタゲノム研究へのIon PGM™ システムの利用
ヒトには、消化管や皮膚などに約1,000種類、数100億以上の常在菌が生息し、健康状態や生活習慣病に影響を与えます。東京大学教授の服部正平氏は、微生物叢のゲノム・メタゲノム解析を進めています。従来では、16S rRNA 遺伝子による系統解析や単離培養によるゲノム解析が中心でしたが、機能遺伝子情報を得にくく、培養困難な菌が多いという問題がありました。メタゲノム解析は、微生物がもつすべてのDNAを抽出、収集し、塩基配列を網羅的に調べ、微生物が集合体としてもつ遺伝子群を解析します。生態系全体の物質代謝の理解や、有用な機能遺伝子の発見も期待されます。服部氏は「メタゲノム解析に次世代シーケンサは欠かせない」と考え、半年前からIon PGM™システムの性能を検証しています。そして「Ion PGM™ ユーザー世界ランキング」にも参加しました。これは1ランあたりの解析データの合計解読量を競うコンテスト。服部氏の研究室では、9月に1位から3位を独占、高品質データを生産していることを確認しました。「参加することで自分たちのデータの水準を確認でき、しかもスタッフのモチベーションが上がる点がいいですね」とコメントします。すでにIonChip™318リーグでは、1.2Gベース付近を競い合っているとか。ヒトゲノム解析プロジェクト以来、ゲノム解析を牽引してきた服部氏らの微生物叢メタゲノム解析に期待が集まります。
人工塩基対による遺伝情報の拡張技術:新規DNAアプタマーの創出
最後の講演者は、理化学研究所チームリーダーの平尾一郎氏です。地球上のすべて生物は、A、T、C、Gの4種類の塩基からなるDNAを遺伝情報として使っています。平尾氏は複数の対になる人工塩基を開発し、これらを組み込んだ遺伝子の複製、転写、翻訳システムを動かそうとしています。そして「次世代遺伝子組み換え技術と次世代シーケンサIon PGM™システムの融合」に期待しています。今回、人工塩基を組み込んだDNAアプタマーによる医薬品開発を紹介しました。「DNAアプタマーとは、抗体のように特定の標的分子と親和性を持つDNA分子。タンパク質だけでなく、金属イオン、ペプチド、がん細胞や毒性分子も標的になります。しかもDNAをベースにすることで、多様なライブラリを短時間で作成できるというメリットもあります。ただし抗体よりも親和性の高いアプタマー作成は困難でした」。平尾氏は、網膜黄斑変性症の原因となるVEGF( 血管新生因子)を標的に人工塩基を組み込んだDNAアプタマーを開発中です。現在、抗体よりも強く結合するものが見つかり、検査薬や治療への可能性を探っているところ。柔軟性の高いIon PGM™システムは、斬新な発想で研究を進める平尾氏の力強いパートナーになりそうです。
各講演者への質問も多く、アンケートでは「Ion PGM™システムをどのような研究に使用しているかがわかった」「新技術について具体的な紹介があり非常に興味深かった」というコメントをいただきました。休憩時間には、会場に設置した半導体シーケンサの周りでスタッフや参加者が輪になって話し合う姿がありました。半導体シーケンサを中心に、新たな研究と貴重な情報交換の輪が広がったようです。
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