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ゲノム上の任意の位置に遺伝子改変を誘導する「ゲノム編集」。生物種を選ばず、これまで不可能だった細胞や生体における遺伝子機能研究を強力に進める技術として期待されています。さらに基礎研究のみならず、治療法開発ためのヒト疾患iPS細胞へのゲノム編集など、医療を始め幅広い領域に変革をもたらす可能性を秘めています。話題の「ゲノム編集」の基本を、人工ヌクレアーゼの系を中心に、2回に分けて解説します。
人工ヌクレアーゼを用いたゲノム編集
人工ヌクレアーゼとは、DNA配列を認識するタンパク質とFokⅠヌクレアーゼを融合させて作製した人工の制限酵素。人工ヌクレアーゼを細胞や生物に導入することで、ゲノム上の特定の遺伝子をノックアウトしたり、新たに改変した遺伝子等をノックインできます。DNA結合ドメインには、ZF(Zincfinger)や、新しいTAL(TranscriptionalActivator-Like)エフェクターを使います。TALエフェクターは、ZFに比べてターゲット配列設計の自由度や特異性が高く、オフターゲット効果が低いなどの利点があります。
人工ヌクレアーゼ、TALEN*とは
TALエフェクターは植物病原菌由来のタンパク質であり(図1)、中央のDNA結合領域では34残基の類似したアミノ酸配列が17.5回繰り返し、一つの繰り返し配列が特定の塩基を認識します(図2)。この配列を自由に組み合わせることで、希望する塩基配列に結合するタンパク質を人工的に構築でき、FokⅠヌクレアーゼと融合させて、人工ヌクレアーゼとして機能します。
*TAL effecter nucleaseの略
図1 TALエフェクタータンパク質の働き 菌は植物への感染時にTALエフェクターを先に宿主内に注入して植物ゲノムの特定領域に結合させ、細菌感染における有用な遺伝子群を強制発現させます | 図2 TALエフェクター タンパク質の構造 C末に核移行シグナルと転写活性化ドメイン、中央に繰り返し構 造のDNA結合ドメインがあります。1リピートの34アミノ酸中 12, 13番目の組み合わせで、結合する塩基の種類がきまります。 分子量約120kDa。 |
人工ヌクレアーゼを利用したゲノム編集の仕組み
人工ヌクレアーゼによるゲノム編集は、切断と修復の過程で制御されます(図3)。最初に標的のゲノム領域を挟み込むようにペアで発現させたFokⅠが2重鎖DNAをDSB (Double Strand Break)で切断します。DSBが生じると、細胞はNHEJ(Non-Homologous End Joining 非相同末端再結合)やHR (HomologousRecombination 相同組み換え)機構を働かせてゲノムを修復します。切断後に、ドナー配列がなければNHEJとなり、鋳型を用いずに修復するために高頻度で欠損・変異が生じ、フレームシフトが起きて標的遺伝子を「ノックアウト」できます。これに対してドナープラスミドを共導入しておくと、HRでも修復されるため、外来の配列をゲノムに組み込む「ノックイン」が生じます。ドナープラスミドは、修復する周辺と相同なゲノム配列及び挿入配列を含むように構築します。意図したゲノム編集を確認する方法は、次号でご紹介予定です。
図3 ゲノム編集模式図 FokⅠヌクレアーゼの二重鎖切断により数塩基から数十塩基の配列が高率で欠失し、フレームシフトで遺伝子がノックアウトされる。切断時にドナープラスミドが共導入されていれば、相同性 修復が起き遺伝子がノックインされる。 |
ライフテクノロジーズが提供するゲノム編集のための受託サービス
GeneArt® Precision TALsは、標的配列に結合するTALエフェクターと機能ドメインの融合タンパク質をコードするDNA配列を合成するサービスです。機能ドメインは、ここで説明したFokⅠヌクレアーゼに加え、ターゲット遺伝子の発現を調節する転写アクチベーター(VP16,64)や転写リプレッサー(KRAB)、さらに任意のエレメントをターゲティングできるマルチクローニングサイト(MCS)の4種類から選べます。しかもTALドメインの構造にも工夫が施されています。納品はGateway®エントリークローンで行い、オプションで発現ベクターへも載せ替えます。さらにGateway®システム対応の様々な発現ベクターや、TALEN等をmRNAで細胞に導入するためのin vitro転写キット、Ambion® mMESSAGE mMACHNE T7Ultra Kitなど、ゲノム編集をサポートする様々な製品を提供しています。
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