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Synthetic Biologyが導く新しい未来
生物の遺伝子操作を追求することで、様々なアプリケーションに応用が期待されるSynthetic Biology。創薬研究では、遺伝子操作で作製した疾患モデル細胞や動物をスクリーニングや評価に用いることで、より効率的で費用対効果の高いアプローチが可能になります。
エネルギーや製造分野では、微生物や植物の遺伝子操作によって効率的なバイオ燃料や工業用化学物質の生産が期待されます。
もちろんこれらの実現にはバイオセーフティーやバイオセキュリティを慎重に議論する必要がありますが、Synthetic Biologyは人類を新しい未来へ導く応用へつながるエキサイティングな研究分野と言えます。
注目技術「ゲノム編集」
Synthetic Biologyの1つの側面が、細胞ゲノムを特異的に操作して、ある特定のシステムの行動として改変させることです。
その1手法として注目を集めるのがゲノム編集です。
従来、遺伝子や生体システムの解析・改変には、特定遺伝子のノックアウトや外来遺伝子挿入が試みられてきましたが、それらはランダムな機構に頼り、本来の研究目的を満たすのに適した細胞集団を同定・単離するためのスクリーニングに大変な手間がかかっていました。
近年では、ゲノム編集技術の登場により、細胞ゲノム内の基本的にどの部位にでも、様々な作用を特異的に生じさせることができるようになりました(図1)。
とりわけ、植物病原菌由来タンパク質のTALエフェクター(TALE)や、細菌の免疫反応システムである CRISPR/Cas9は、ゲノム編集の最先端ツールとして幅広い応用が広がっています。
図1. 遺伝子機能解析手法の近年の変化
遺伝子導入におけるランダムな手法から、任意の遺伝子をターゲティングできるゲノム編集が登場
最先端ゲノム編集ツール TALENs, CRISPR/Cas9
TALEやCRISPR/Cas9は、ゲノム内の任意の遺伝子座にデリバリーするエレメントと、ヌクレアーゼのような機能ドメインを融合させることで、どんな遺伝子の二本鎖DNAも切断します(図2)。
切断部位が生じると、宿主細胞の修復機構が働いて再結合しますが、多くの場合、欠失や挿入という傷跡が残ってしまいます。
この傷が遺伝子のコード配列に現れると、ほとんどの場合リーディングフレームが移動し、終止コドンが生じます。
この方法により、特異的かつ効率的な遺伝子ノックアウトが容易に実施でき、特定の遺伝子機能欠失の影響を研究できます。
ライフテクノロジーズでは、TALヌクレアーゼを一対で提供しており、各々はFokIヌクレアーゼの単量体ドメインと融合しています。
TALヌクレアーゼが標的の切断部位の側面で結合すると、FokIドメインが二量体化し、二本鎖DNAを切断します。
一方CRISPR/Cas9は、各遺伝子座に対して特異的に設計された一本鎖RNA分子が標的の切断部位へCas9ヌクレアーゼを誘導します。
実験の目的が、ゲノムの任意の位置への配列置換や外来遺伝子の追加であれば、TAL-FokIやCRISPR/Cas9と共にドナープラスミドDNAを導入します。
ドナープラスミドDNAは、切断部位両端の500塩基対ほどの相同配列を、挿入したい塩基配列カセットの両端に付加した構造で作成します。
最近は、様々な生物のゲノムの配列解析が進み、情報が蓄積しているので、配列情報を基に人工遺伝子合成で相同配列や導入遺伝子を入手することも容易です。
図2. ゲノム編集のしくみ
TALEまたはCRISPR/Cas9によりゲノムの標的位置に二本鎖DNA切断が生じ、その後細胞の修復機構によってノックアウトまたはノックインが起きる。
TALEを利用した遺伝子解析への応用
もし遺伝子を完全にノックアウトすることが目的ではなく、遺伝子発現レベルを一時的に調節したい場合は、TALEを利用すれば、これまでは不可能だった次元での細胞代謝の研究が行えます。
例えばプロモーター領域を標的に、TALEと転写活性化因子あるいは転写抑制因子の融合タンパク質を細胞内で発現させます(図3)。
当社データでは、転写活性化因子の場合、ある遺伝子では一時的に内在性遺伝子発現が30倍以上増加したり、また転写抑制因子の場合ではエピジェネティックな修飾の結果として、抑制効果がRNAiよりも安定に持続することが示されています。
こうしたツールのターゲティングルールは完全には確定していませんが、内在性の細胞パスウェイにおける発現調節のための、信頼性の高いツールとすべく多くの研究が精力的に進んでいます。
図3. TALEを利用したゲノム編集応用
TALEに様々な機能ドメインを融合することで、ノックアウトやノックインだけでなく、遺伝子発現の増加や抑制、ヒストンアセチル化酵素やDNAメチル化酵素の融合など、ゲノム上での様々な遺伝子機能解析が可能になります。
ライフテクノロジーズが提供する包括的なSynthetic Biologyサポート&ツール
現在ゲノム編集ツール以外にもSynthetic Biologyを加速する一連のサポート&ツールを提供しています。
次世代シーケンシングやトランスクリプトーム・プロファイリングシステムであるIonTorrent™ システムやTaqMan® 定量PCRシステム、Gibco® やMolecular Probes® などの数々の細胞培養・解析ツールに加え、ゲノム編集ワークフローに直結する遺伝子操作と組み合わせた細胞濃縮システムも開発しています。
ライフテクノロジーズは、研究者の方々が、最適化されバリデーションされたテクノロジーや専門知識によるサポートと、これらのシステムをニーズに応じて組み合わせることで、科学的課題をより速く、より少ない労力で解決できるように開発を進めています。
Jon Chesnut(ライフテクノロジーズ Research Fellow / Synthetic Biology)
ライフテクノロジーズのR & D部門のシニアサイエンティストであり、グループリーダー。
活動拠点は、カリフォルニア州カールスバッドのライフテクノロジーズ本社。
現在、彼のチームはゲノム編集ツールを中心に、人工遺伝子合成やSynthetic Biologyアプリケーションを包括的にカバーするバイオインフォマティックスツールの研究開発も進めている。
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