Ion PGM™ シーケンサの解析感度と特異性が検査法開発に貢献

宇佐美真一 氏( 信州大学医学部耳鼻咽喉科教授) 西尾信哉 氏 ( 同科助教)

「先天性難聴は、新出生児1000人に1人にみられる頻度の高い障害であり、正確な診断に基づき、適切な時期に最適な医学的介入を行うことが大切です」。信州大学の宇佐美氏(写真前列右)はこう語ります。その原因の50-60%に遺伝子が関与することが知られており、遺伝学的検査を行う事で従来原因不明であった難聴の原因を明らかにし、正確な診断に基づいた適切な医療を行う事が可能となります。宇佐美氏らは、その有用性をいち早く認識し、遺伝子解析研究を精力的に進めてきました。

 

遺伝学的検査で診断率を向上へ
2008年、宇佐美氏らはインベーダー法*を用いた遺伝子診断手法を先進医療「先天性難聴の遺伝子診断」として臨床の現場で検査を開始、2012年には有用性が認められ、保険診療として実施することが認められました。「難聴の場合、治療法がない疾患と異なり、生後なるべく早い時期に難聴の程度を正確に診断できれば、補聴器や人工内耳などで聴力を補完できる可能性があり、言語習得に重要な幼少期に適切な医療を提供できます。しかし新生児の聴力検査は難しく何度も検査を繰り返す必要がありました。遺伝子解析研究を行う中で、遺伝学的検査を行う事により難聴の原因をピンポイントで明らかにするとともに、難聴の程度を予測することが可能であることが徐々に明らかとなってきました。そこで、日本人難聴患者に多く認められる13遺伝子46か所の変異を網羅的にこの方法により検査する手法を開発し臨床応用してきました。その結果、診断率が30~40%に向上しました」と遺伝学的検査の意義を説明します。「ただし先天性難聴に関わる遺伝子は約100種類。さらに診断率を向上させるためには、多くの遺伝子変異をスピーディに解析する必要があります。ところがこの方法では、変異部位特異的プローブが必要となるため拡張性やコスト面に限界がありました」と宇佐美氏は続けます。

次世代シーケンサを活用し、網羅的解析を実現
「次世代シーケンサは処理能力が高く、解析対象となる遺伝子変異を容易に拡張することが可能です。しかもIon AmpliSeq™テクノロジーを使えば、網羅的な解析でもコストが抑えられる利点があります。最終的に診断へ応用することも考え、感度や特異性に関しては特に重点的に検討しました。その結果、このシステムは私たちの目的にぴったりだと思いました」と宇佐美氏。そして実際の研究の流れを西尾氏(写真後列中)は次のように説明します。「先天性難聴に関わると想定される63種類の遺伝子のエクソン部分に対して、2,100セットのプライマーをコミュニティパネルとして作成しました。そして2チューブでMultiplex PCRをかけてエクソン領域を一度に増幅。その後、Ion PGM™ シーケンサでIon 318™ Chipを使って6サンプルずつ解析しています。その結果、平均240カバレッジでシーケンスできました。このパネルを使って、従来のインベーダー法と比較したところ、384人の症例に対して99.98%の精度で同一の結果を得ました。現在、この技術を基に、臨床検査会社が難聴の遺伝学的検査の受託解析の準備を進めています。」また、我が国でもIonPGM™ シーケンサが医療機器化されるなど、次世代シーケンンサを使う検査が広く利用される体制が整いつつあります。

今後の研究へ向けて
「私たちの施設は、日本の難聴遺伝子解析のセンターとして共同研究先の全国の大学病院や医療施設から提供された6,000を超える先天性難聴の遺伝子サンプルが保管されています。この世界的にも類を見ないサンプルストックを基に、網羅的なシーケンスベースの研究アプローチから、新たな原因遺伝子の探索も精力的に進めています」。すでにIon Torrent™ システムを利用した先天性難聴の論文も十数報を数え、科学的な新知見も着々と報告しています。「研究の成果を確実に患者さんへフィードバックしていきたいですね。私の研究の原動力は、患者さんに喜んでいただけることですから」と宇佐美氏はにこやかに話します。基礎研究と臨床応用が融合した最先端研究がこれからも展開されていくようです。

*サード・ウェーブ・テクノロジーズ・インクが開発した遺伝子解析手法。