高効率な遺伝子導入を実現するLipofectamine® 3000が拡げる新たな可能性

武田英里 氏(大阪大学微生物病研究所 ウイルス感染制御分野)


武田氏(右)とイギリスLeeds大学のRichard Atherton氏(左)。
Richard氏は、交換留学生として研究中。

様々なアプローチで進むウイルス感染に対する予防研究。外被タンパク質に対する中和抗体や細胞障害性T細胞の誘導などのワクチン開発と並んで、近年、宿主が潜在的に持つ感染抑制因子の作用機序の解明が新しい予防法や抑制法の開発へのアプローチとして注目されています。大阪大学の武田英里氏は、HIVが細胞内に侵入する際、ウイルスゲノムとタンパク質からなる「コア」を特異的に認識して破壊するHIV感染抑制因子「TRIM5α」の研究を進めています。

HIVウイルス感染の全体像を捉える
「これまでHeLa細胞を使って研究を進めてきましたが、この細胞には出芽するウイルスを細胞表面に留める制御因子が発現しています。ウイルス感染から出芽までの全体像を捉えるためには、別の培養細胞を使う必要がでてきました」と武田氏。そこで候補に思いついたのが、以前インフルエンザウイルスの研究で使用したことがあるヒト肺胞基底上皮腺癌細胞(A549細胞)です。通常の状態ではHeLa細胞の様な制御因子を定常状態で発現していないため、研究をさらに発展できると考えました。

Lipofectamine® 3000でA549細胞への遺伝子導入効率が大幅に増加
「インフルエンザ研究の時は、遺伝子導入にエレクトロポレーション装置を使用していましたが、実験に使う細胞数が固定されていて、コスト的にも作業的にも不便な面がありました。しかも導入後の細胞のバイアビリティが下がることも問題でした」。そこで武田氏は、新しいトランスフェクション試薬Lipofectamine® 3000を試してみることに。「GFP遺伝子を使い、導入効率を比較したところ、従来のLipofectamine® LTXで5-10%、エレクトロポレーションで20-30%でしたが、Lipofectamine® 3000では50-60%という高効率で遺伝子が導入できました(図参照)。しかも遺伝子導入後も細胞は元気が良く、その後の感染実験にも問題なく使えそうです。また試薬を使った遺伝子導入なので、エレクトロポレーションとは異なり、実験スケールに合わせて細胞数も選べて便利ですね。新たな実験を始める時のファーストチョイスとして有用だと思います」と語ります。

新たな研究へも取り組みたい
「A549細胞はインフルエンザウイルスの研究で汎用される細胞ですが、試薬での遺伝子導入が難しかったので、エレクトロポレーション法やウイルスベクターを使う研究者も多いようです。しかしウイルスベクターを使うためには様々な制約を受けます。試薬を使用するほうが実験の自由度も上がり、研究促進にもつながりそうです」と武田氏。今後ゲノム編集やリンパ球など浮遊細胞での実験にも取り組み、これまではできなかった実験系で、研究の幅を広げていきたいと語ります。

[実験メモ]
細胞数: 1×106
細胞種: ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞(A549細胞)
プロトコル: マニュアル通り
導入遺伝子: GFP遺伝子(2µgGFP発現ベクター)

2種類のLipofectamine® 試薬とエレクトロポレーション装置(他社製)を使い、GFP遺伝子の導入効率を比較。24時間後の細胞を蛍光顕微鏡で観察後(上段)、トリプシン処理をして、フローサイトメトリーでGFP蛍光強度(FL-1)を測定しました(下段)。その結果、Lipofectamine® LTXや他社エレクトロポレーション製品に比べ、Lipofectamine® 3000では遺伝子導入効率が向上していました。