初めてのGeneArt CRISPR Nuclease Vector Kitで簡単に遺伝子をノックアウト

塚本 蔵 氏(大阪大学大学院医学系研究科)

動脈硬化やがん細胞の転移において異常な細胞の遊走が認められます。血管の治療をおこなった後に再び血管内腔が狭まる再狭窄も、遊走した細胞が血管内腔で増殖することが原因と考えられています。大阪大学の塚本蔵氏は、これまでエネルギー代謝調節因子として知られていたAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の新規の基質Pdlim5を発見し、Pdlim5がリン酸化されることで細胞の遊走が抑制されることを明らかにしました。臨床研究にもつながる成果として期待が高まります。

 

GeneArtシリーズやLipofectamine 3000の活用でPdlim5ノックアウトも楽に
Pdlim5の発見は偶然だったと語る塚本氏。「たまたまあるマウスの細胞において、活性化AMPKでACCという基質をリン酸化させる実験を行っていました。ゲル泳動した結果を免疫染色で観察していたところ、リン酸化されたACCのバンドだけでなく、別の場所にもバンドが見られました。詳しく調べてみるとこのバンドがPdl im5でした」。さらにPdl im5の果たす役割を調べるため、塚本氏らはPdlim5をCRISPR/Casでノックアウトする実験を行いました。
「CRISPR/Casは、欠失させるターゲット選定の自由度も高く、誰でも使えるオンラインで適切な領域を選定できます。実験にはGeneArt CRISPR Nuclease Vectorwith CD4 Enrichment Kitを使いました。オールインワンベクターなので導入した細胞のセレクションも楽でしたよ」。ベクターにはCD4遺伝子が導入されているので、膜表面に発現したCD4を持つ細胞のみを特異的な抗体でコートした磁性ビーズでセレクションできます。
「トランスフェクションは、Invitrogen™ Lipofectamine™ 3000を使い、血管平滑筋細胞株(vSMC)へ導入しました。導入効率のあまりよくない骨格筋系細胞株C2C12でもこの試薬だとうまく入ると聞いていたので試してみました」と塚本氏。ノックアウトの確認には、GeneArt Genomic Cleavage Detection Kitで行い、ターゲット領域に欠失があることを示す短い2本のバンドを確認しました。このキットでは、PCR後に2本鎖を形成させますが、想定通り塩基が欠失しているとミスマッチなヘテロ二本鎖DNAが生じます。特別な酵素がこのヘテロ鎖のみを認識し切断するため、ゲル電気泳動で簡単に検出できます。「最終的には、細胞をクローン化し、ウェスタンブロッティングとDNAシークエンスでPdlim5タンパク質が発現してない細胞を選択して実験に使いました」と塚本氏は実験データを示します(図参照)。



クローン化した細胞で、Pdlim5タンパク質が発現していないことをウェスタンブロッティングで確認。
ほぼ完全にバンドが消失したB2やA17を実験に使用。



初めてでも使いやすいゲノム編集シリーズ
「ゲノム編集を行うのは全く初めてでしたが、特に不安もなく簡単で、ノックアウト細胞の作成は1か月程度で終了しました。ちょうど論文投稿の時期だったので、迅速で確実に実験でき助かりました。GeneArt CRISPR Nuclease Vector Kitでのノックアウトはとても簡単なので、今後誰もが利用する技術になると思います」。次はゲノム編集でノックインも試してみたいと語る塚本氏。循環器系細胞でタンパク質リン酸化機構の解明を目指す塚本氏の研究を、GeneArt シリーズが加速させていくようです。



参考文献: Augmented AMPK activity inhibits cell migration by phosphorylating the novel substrate Pdlim5 Yi Yan, Osamu Tsukamoto, et.al Nat Commun. 2015 Jan 30; 6: 6137.